★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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第9地区

 独創的なアイデアでニール・ブロンカンプ監督の名を一躍有名にしたSF映画のカルト的作品。ところどころ破綻しているシナリオはともかく、新世代を感じさせる映像作法には驚かされました。

 ドキュメンタリー風映像で政治的主張を語る映画と思わせておいて、物語と一緒に中盤からガラッと表情を変える演出が面白い。しかもその変化がスムーズで違和感を感じさせず、気がつくと大スペクタクルの渦中にいるという感動は今までどの映画でも感じたことのないものでした。いかにもSF的なエンディングも良い。だからこそ、いくつかの展開に感じた違和感が惜しかった。特に主人公の性格付けが不安定なところが最後まで気になってしまいました。
 俳優はほとんどが素人ですが、違和感はありません。低予算ながらCGもそこそこ臨場感のある出来。あと、地味なところでロボットの挙動がしっかり作り込んであったのも良かった。ここは他の映画にも見習って欲しいところです。

 映画的な新鮮さ、SF的な発想の面白さなどを盛り込みつつ、きちんと大作映画になっている不思議な作品でした。低予算映画ならではの自由な発想で、ハリウッド的エンタテイメントの常識を大きく覆して見せたニール・ブロンカンプ監督の今後が楽しみです。

監督:ニール・ブロンカンプ
出演:シャールト・コプリー、ジェイソン・コープ、デヴィッド・ジェームズ、ヴァネッサ・ハイウッド
20110405 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

処刑人II

 カルト的人気を博したアクション映画『処刑人』の続編が、度重なる延期の末にとうとう完成。前作ほどの勢いは感じられないものの、あのノリを再び映画で楽しむことができました。
 今回は前作のウィレム・デフォーに代わって、ジュリー・ベンツ演じる女捜査官が登場。彼女に追われつつも真の敵を探すという三つ巴の構図は前作と変わらず。妙なテンションのドラマや、捜査官がセイント達の犯行をプロファイリングする見せ場もそのまま。これだけ代わり映えしないと本来は不満なんですが、この映画に関してだけは不思議と嬉しくなるばかりでした。しかしデフォーの変態演技がないせいか、どことなく物足りなさを感じてしまった点だけは残念です。

 適度に軽い、しかしたっぷりのアクションで観終わったあとは満足という、こういったガンアクション映画には珍しい映画で、何より前作の雰囲気がもう一度楽しめたのが良かった。一作目と併せて観ておきたい作品です。

監督:トロイ・ダフィー
出演:ショーン・パトリック・フラナリー、ノーマン・リーダス、ビリー・コノリー、ジュリー・ベンツ、ジャド・ネルソン、クリフトン・コリンズ・Jr.、ピーター・フォンダ
20110403 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

Dr.パルナサスの鏡

 奇才テリー・ギリアム監督が、『バロン』『未来世紀ブラジル』の脚本家チャールズ・マッケオンと三度組んで作り上げた作品。主演のヒース・レジャーが撮影期間中に死亡するというアクシデントに見舞われながらも、なんとか完成にこぎ着けました。

 ギリアム監督といえば万華鏡のように展開する映像世界が魅力ですが、今作でもそのイマジネーションは健在。今回はモンティ・パイソン含め過去のギリアム作品の総集編とも言えそうなほど、ありとあらゆる方向性から空想の世界を描いています。現実世界は必要以上に暗く描かれていて、いいアクセントになっています。ストーリーは説明不足の感が否めませんが、勢いで押し切りつつもきちんと最後をまとめているところが、ギリアムも大人になったのかなと思ってしまいました。
 ヒース・レジャーの演技はとにかく素晴らしい。うさんくさい男をしっかり演じています。助っ人で演じた三人も良いんですが、やはりここは最後までヒースに全て演じてほしかった。あと、リリー・コールとアンドリュー・ガーフィールドの若手二人がそれぞれとても魅力的で印象に残りました。

 老いてもなお新たな世界へ観衆を誘うパルナサス博士の姿に、ギリアム自身が投影されていてまるで自画像のような映画でした。盛りだくさんの映像なので、そこが気になるのであれば観ても損はない作品です。

監督:テリー・ギリアム
出演:ヒース・レジャー、クリストファー・プラマー、リリー・コール、アンドリュー・ガーフィールド、ヴァーン・トロイヤー、トム・ウェイツ、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレル
20110401 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ヒックとドラゴン

 クレシッダ・コーウェルの同名児童文学を、『リロ&スティッチ』の監督コンビが映画化。無難なテーマではあるんですが、手抜きをせずしっかり作られた内容は素直に感動できます。

 少年と異種族の友情というファンタジーとしてはありきたりな題材ですが、原作からのアレンジが効いています。ヒックがドラゴン語を話すという設定をなくしたり、ドラゴンとヴァイキングを完全な敵対関係にしたうえで、ヒックとトゥースの親しくなる過程をていねいに描いているので、物語のテーマがより明確に伝わってきました。
 3Dを最大限に生かしたドラゴンの飛翔シーンなど見所も充分。3Dであることがこれほど意義のある映画は珍しいのでは。また、コーエン兄弟監督の作品でお馴染みのロジャー・ディーキンスが撮影アドバイザーを務めているため、映像も独特のトーンを帯びています。

 子供向けの内容でも、それをしっかり描こうとするスタッフの意気込みが伝わってくる佳作でした。驚きはあまりありませんが、良質なアニメーションを期待するならば十分な作品です。

監督:クリス・サンダース、ディーン・デュボア
原作:クレシッダ・コーウェル
出演:ジェイ・バルシェル、ジェラルド・バトラー、アメリカ・フェレーラ、クレイグ・ファーガソン、ジョナ・ヒル、
20110330 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ミックマック

 『アメリ』『ロスト・チルドレン』のジャン=ピエール・ジュネ監督がダニー・ブーンを主演に迎えて撮った久々のコメディ作品。いかにもジュネ映画という既視感でいっぱいでした。

 今回も奇妙な主人公、奇妙なエピソード、奇妙な仕掛けが集まって、とにかく奇妙な物語が展開するジュネのファンにはお馴染みの内容。しかしどこか空回りしているように感じたのは、ダニー・ブーンに貫禄がありすぎたからかも。彼なら仲間の力に頼らずとも、一人で全て解決できそうなので、説得力に乏しくなってしまいました。あと、ヒロインがそっちなの!?というのも個人的には不満。うーん。
 イタズラは相変わらずの完成度。特に今回はテーマにもなっているので、思わず拍手したくなる仕掛けもいくつか。音楽もおもちゃ箱から飛び出したようで映画の雰囲気に合っています。撮影監督は『ハリー・ポッターと謎のプリンス』の撮影で急遽抜けたブリュノ・デルボネルに代わり永田鉄男が担当。色彩表現は素晴らしいものの、立体的なカメラワークが必要な場面で首をかしげるところがいくつかあったのが残念。

 細かいところでは、オープニング・クレジットがひねってあって最初から笑わされました。ジュネ映画には珍しく爽快な内容なので、気軽に楽しみたいという方もぜひ。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:ダニー・ブーン、ドミニク・ピノン、ジャン=ピエール・マリエール、ジュリー・フェリエ、マリー=ジュリー・ボー、アンドレ・デュソリエ、ニコラ・マリエ
20110328 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ソーシャル・ネットワーク

 Facebookの創設者マーク・ザッカーバーグの半生を、奇才デヴィッド・フィンチャー監督が映画化。ハリウッド映画としては地味すぎる、難しい題材ですが緊迫感溢れる見事な映画に仕上げています。

 主人公であるマーク・ザッカーバーグは一見「嫌なヤツ」ですが、ネット社会においては彼の性格は欠点ではなく、むしろ本質をストレートに表現できることがメリットにすらなりうることを映画は冷静に描いています。彼が中心となって巻き起こる数々の騒動は、IT業界に近い人であれば既視感すら覚えるはずです。
 物語は「孤独」をテーマとしているように見えますが、実はそれは脚本的な部分だけであり、そんなザッカーバーグの感じている「リアル」が、ネット時代に生まれた現代の若者にも少なからず共通するものだ、ということが映画全体のテーマになっているように感じました。このザッカーバーグという才能と彼の成功する経緯を描写することで、「いまネット社会で何が起きているのか」をフィルムに定着させることが、監督の目的だったのではないでしょうか。

 映像は、『ゾディアック』であえて古いフィルム撮影を再現したのとは対照的に、あくまで最近のハリウッド映画風にクリアにまとめてあります。キャストも、80年代生まれの若い俳優を採用して同時代性を強調。しかも多くのテイクを重ねることで、膨大な台詞にも関わらずベテランに負けない良い演技を引き出しています。
 音楽の合わせ方も上手い。全編に渡って過剰な演出も、若者中心である今作の内容と合っていました。こういった演出意図の明確さが、フィンチャー作品の魅力ですね。

 観終わってしばらくは、不思議な感動に胸の高鳴りがなかなか止みませんでした。『ファイト・クラブ』がX世代の自己発見映画だったように、この作品はその後のネット世代の自己発見映画として素晴らしい出来だと思います。その二作が同じ監督によって撮られたということは、偶然ではないはず。必見です。

監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:ベン・メズリック
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ジャスティン・ティンバーレイク、アーミー・ハマー、マックス・ミンゲラ、ルーニー・マーラ
20110327 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

コララインとボタンの魔女

 ニール・ゲイマンによる人気児童文学を、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』でお馴染みのヘンリー・セリック監督が映画化。同作に負けず劣らず素晴らしい作品に仕上がりました。

 カラフルでキッチュな世界観は予告編のときから楽しみでしたが、映画館で観るとまた格別です。登場人物も児童文学らしくとても分かりやすく、エピソードも平板ながらそれほど飽きさせずに進んでいきます。何より女の子の成長物語と異世界ものという定番に、ボタンの魔女という捻りを効かせたことで、久々に子供時代のワクワク感を思い出せました。
 原作がダークでも映画化となると急に健全になってしまうものが多い中で、この映画はカラフルながら毒々しくどこか倒錯性すら感じさせます。終盤にかけての盛り上がりもしっかりしていたので、中盤やや紋切り型になるのが残念です。

 上映している映画館は吹き替えばかりで、字幕版が楽しめなかったことが最大の心残り。しかし、『ナイトメア〜』のときはバートンの功績と感じられた作品性が、セリック監督の実力だったことがこれで証明されたのでは。次回作がとても楽しみです。

監督:ヘンリー・セリック
原作:ニール・ゲイマン
出演:ダコタ・ファニング、テリー・ハッチャー、ジョン・ホッジマン、イアン・マクシェーン、ドーン・フレンチ、ジェニファー・ソーンダース、キース・デヴィッド、ロバート・ベイリー・Jr
20110326 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アリス・イン・ワンダーランド

 あのティム・バートン監督が、ルイス・キャロルの名作児童文学を念願の映画化。しかし、監督の意気込みが妙な方向に先走ってしまった印象です。

 成長したアリスが再び不思議の国を訪れるというアプローチは良いんですが、「今度は戦争だ!」のような展開は僕のイメージするアリス像とかけ離れていて入り込めませんでした。アリスの成長物語も取って付けたような浮き具合だし、赤と白の勢力の対立も無理矢理な印象。赤の女王の動機付けがしっかりしていればまだ我慢できたかも知れませんがそれもなく。最後のまとめ方も大雑把だし、人物の描写以前の問題です。
 俳優の演技もCGのおかげであまり楽しめず。しかしヘレナ・ボナム=カーターの女王様ぶりはさすが。クリスピン・グローヴァーも微妙な役柄をしっかり表現していて感心しました。

 話題性だけは高いものの、脚本・音楽・美術・カメラワークなど映画の基礎部分にまとまりがなく、あまりの完成度の低さに観終わったときは唖然としました。バートンのアリスへの愛が大きすぎて、一本の映画には収まりきらなかったと思うことにします。

監督:ティム・バートン
原作:ルイス・キャロル
出演:ミア・ワシコウスカ、ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アン・ハサウェイ、クリスピン・グローヴァー、アラン・リックマン
20110325 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

英国王のスピーチ

 英国王ジョージ6世にまつわる感動の逸話をトム・フーパー監督が映画化し、アカデミー作品賞ほか4冠を獲得した佳作。若い監督の意欲を感じる作品でした。

 中盤まではそれなりに楽しめますが、戴冠式前後で物語のリズムが崩れてしまうのが惜しい。主役であるジョージ6世のキャラクターは面白いのに、相手役ライオネルの性格付けが弱いため肝心なところで盛り上がりに欠ける印象です。どちらかの主観に物語を偏らせることで焦点を絞れば、メリハリのきいた作品になったかもしれません。
 俳優では、なんと言ってもコリン・ファースの演技が素晴らしい。吃音が自然すぎて演技に見えません。他の俳優もそれぞれ良い演技をしているんですが、チャーチル役にティモシー・スポールというのだけはちょっと……笑ってしまいました。

 台詞回しやカメラワークはイギリス映画らしく気が利いています。俳優も地味なようでいて豪華で、演技の良さも見所。ちょっと上品な、でもしっかり面白い映画を観たい方にはオススメです。

監督:トム・フーパー
出演:コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーター、ガイ・ピアース、ティモシー・スポール、マイケル・ガンボン
20110323 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

トゥルー・グリット

 ジョン・ウェイン主演「勇気ある追跡」として一度は映画化された同名小説を、『ノーカントリー』でアカデミー賞を獲得したコーエン兄弟監督の手で再映画化。シンプルながら力強い内容でしたが、どこか物足りなさも。

 見慣れた西部劇の世界観も、リアリズムに徹しながらどこか非現実を感じさせるコーエン兄弟らしい演出で描かれると圧巻で、冒頭から引き込まれました。保安官とテキサスレンジャーの人物描写も魅力的。しかし主役であるマティの感情の振れ幅が狭いため、どこか感情移入できずに終わってしまいました。少女の弱さを感じさせる演技がもう少しあったら良かったかも。そうしてみると、同行する二人の男もボケ役でしかなく、しっかり者のマティの前ではあまり役割が変わらないのも残念でした。
 全編をドライな映像でまとめたロジャー・ディーキンスの撮影は見事。また、コーエン映画にしては珍しくアクションシーンが多く、映画としての盛り上がりも充分でした。俳優ではジョシュ・ブローリンのキレた演技が良かった。地味なので今まで気付きませんでしたが、実はこれからもっと伸びる俳優さんではないでしょうか。

 掴みが良かっただけに、もうちょっとこの世界を深く長く堪能できたら評価は変わっていたかも。監督がもう一度西部劇を撮ってくれたら、また観に行きたいです。

監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
原作:チャールズ・ポーティス
出演:ヘイリー・スタインフェルド、ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、バリー・ペッパー
20110322 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -