★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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トランスフォーマー

 マイケル・ベイがスピルバーグを製作総指揮に迎え、人気アニメを実写映画化したブロックバスター作品。CGを使えばここまでできる、という大迫力のアクション大作ですが、観終わってから何も残らないのは相変わらずです。

 マイケル・ベイ作品の中では珍しく、設定を生かしながらも続編への目配せも忘れていないのは、トランスフォーマーという素材自体が既に料理され尽くしてアイデアも豊富にあるからなのでしょうか。ド派手なアクションと物語的なカタルシスは他に類を見ない完成度です。ただ、ロボットが変形する必然性があまりないのが残念。物語でも映像でも、変形することの面白さをもっとアピールしてほしかったところです。
 演出的には、CGIキャラクターがスローモーションで画面いっぱいに描かれても不自然でないというのが地味に驚きでした。SFXに興味のある人なら、この要素だけでも一見の価値があるのでは。俳優では、僕のお気に入りであるジョン・タトゥーロが情けない軍人役で存在感を出していたのが良かった。シャイア・ラブーフについては、ここまでスピルバーグが推す理由が分からないんですが、善良な若者っぽさが良いんでしょうか。

 ベイ監督が前作『アイランド』の際のインタビューで「色々違ったジャンルに挑戦したい」と語っていたにも関わらず、今作はかつてないほど単純明快なポップコーン・ムービーでした。確かに彼にしか撮れない映画ですが、個人的には、もっと 男臭い映画を撮ってもらいたいところです。

監督:マイケル・ベイ
出演:シャイア・ラブーフ、ミーガン・フォックス、ジョシュ・デュアメル、ジョン・ヴォイト、ジョン・タトゥーロ
20110519 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

トゥモロー・ワールド

 P・D・ジェイムズによるSF小説「人類の子供たち」を、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のアルフォンソ・キュアロン監督が映画化。盛り上がりに欠ける内容ではありますが、映像的にはとても興味深い仕上がりになっています。

 世紀末SFらしい、ロードムービーと人類の存亡を組み合わせた展開ですが、テーマにもう一つ共感を覚えませんでした。もしくは、提示されるテーマが映画として楽しむには重すぎたのかも。主人公の感情描写が希薄なので、観客としてどう反応すればいいのか迷う点もその一因です。
 一方で映像表現は目を見張るものがあります。特に幾度かある長回しのカットは、CGを使ったとしてもどうやって撮影されたのか分からないほどの完成度。終末感の色濃い荒廃した街並みも手を抜いていない、なんともリッチな映像だったので、その魅力だけで最後まで楽しめました。

 キュアロン作品は映像と物語が乖離している印象がありますが、特にこの映画はその傾向が顕著に出てしまいました。ハードSF自体の取っつきにくさもあります。ただ、それを前提に観るのであれば、最後まで楽しめる作品かもしれません。

監督:アルフォンソ・キュアロン
原作:P・D・ジェイムズ
出演:クライヴ・オーウェン、ジュリアン・ムーア、マイケル・ケイン、クレア=ホープ・アシティ、キウェテル・イジョフォー、チャーリー・ハナム
20110425 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

時をかける少女

 筒井康隆によるジュブナイルの名作を、「デジモンアドベンチャー」の細田監督が長編アニメ化し、アニメファンの間で高く評価された秀作。細田監督初見の人には新鮮かもですが、個人的には普通な印象。

 テンポが良く、青春時代のほろ苦い感傷を巧みに再現した脚本の着眼点は秀逸。しかし映画としての面白さはまた別です。主人公があまりに普通すぎて面白みがないので物語にもう一歩入り込めず。SFとしての軸はしっかりしていますが、ドラマとしての軸がブレてしまいました。
 マッドハウスによる作画は文句なしです。演出は良くも悪くもいつもの細田演出で、これをあざとすぎると感じるか否かは人それぞれでしょう。あと、背景の山本二三があまり好みじゃないのも辛かったな……。

 ジュブナイルやSFとして重要な点は押さえているので、中学時代に見ていたら感動したかも。個人的には、「ハウルの動く城」を巡るすったもんだがあったので、細田監督が無事に長編アニメを完成させられたことには一安心でした。ただ作風が一辺倒なので、そろそろ新しい何かを見つけてほしいところです。

監督:細田守
原作:筒井康隆
出演:仲里依紗、石田卓也、板倉光隆、原沙知絵
20110419 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

鉄男 THE BULLET MAN

 あのカルト映画『鉄男』『鉄男 II BODY HAMMER』の、実に17年振りとなる続編。ひたすらパワフルな内容は、ただもう圧巻の一言です。

 今作でも感情ではなく肉体に直接訴えかける、ほとんど暴力のような映像が全編にわたって展開されます。上映時間は71分と短いのですが、観終わったときは3時間以上の大作を見させられたような満足感がありました。一番心配だった主演のエリック・ボシックも上手くはまっていて、初代にも引けを取らない作品に仕上がっています。
 塚本監督は、今回も監督・脚本・撮影・編集・美術・出演と映画全体に関わっています。だからなのか、破綻しそうな一歩手前でなんとか持ちこたえているようなギリギリのバランス感覚が映画からも感じられました。難を言うなら、オリジナルを体験した人には再体験にしかならないこと。しかし、初体験ならばこれほど衝撃的な映画は他にないでしょう。

 ちなみにシネマシティで観賞したんですが、特別にセッティングされた音響のおかげで映画の迫力はかなり増していたように思います。しかも、ただ音響が良いというだけの理由で、人の入りに関係なく大きなスクリーンで上映してくれたので迫力満点。一部のマニアにしか受けない映画であっても、こういう環境で上映してくれる映画館は有難いですね。

監督:塚本晋也
出演:エリック・ボシック、桃生亜希子、中村優子、ステファン・サラザン、塚本晋也
20110412 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

第9地区

 独創的なアイデアでニール・ブロンカンプ監督の名を一躍有名にしたSF映画のカルト的作品。ところどころ破綻しているシナリオはともかく、新世代を感じさせる映像作法には驚かされました。

 ドキュメンタリー風映像で政治的主張を語る映画と思わせておいて、物語と一緒に中盤からガラッと表情を変える演出が面白い。しかもその変化がスムーズで違和感を感じさせず、気がつくと大スペクタクルの渦中にいるという感動は今までどの映画でも感じたことのないものでした。いかにもSF的なエンディングも良い。だからこそ、いくつかの展開に感じた違和感が惜しかった。特に主人公の性格付けが不安定なところが最後まで気になってしまいました。
 俳優はほとんどが素人ですが、違和感はありません。低予算ながらCGもそこそこ臨場感のある出来。あと、地味なところでロボットの挙動がしっかり作り込んであったのも良かった。ここは他の映画にも見習って欲しいところです。

 映画的な新鮮さ、SF的な発想の面白さなどを盛り込みつつ、きちんと大作映画になっている不思議な作品でした。低予算映画ならではの自由な発想で、ハリウッド的エンタテイメントの常識を大きく覆して見せたニール・ブロンカンプ監督の今後が楽しみです。

監督:ニール・ブロンカンプ
出演:シャールト・コプリー、ジェイソン・コープ、デヴィッド・ジェームズ、ヴァネッサ・ハイウッド
20110405 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

Dr.パルナサスの鏡

 奇才テリー・ギリアム監督が、『バロン』『未来世紀ブラジル』の脚本家チャールズ・マッケオンと三度組んで作り上げた作品。主演のヒース・レジャーが撮影期間中に死亡するというアクシデントに見舞われながらも、なんとか完成にこぎ着けました。

 ギリアム監督といえば万華鏡のように展開する映像世界が魅力ですが、今作でもそのイマジネーションは健在。今回はモンティ・パイソン含め過去のギリアム作品の総集編とも言えそうなほど、ありとあらゆる方向性から空想の世界を描いています。現実世界は必要以上に暗く描かれていて、いいアクセントになっています。ストーリーは説明不足の感が否めませんが、勢いで押し切りつつもきちんと最後をまとめているところが、ギリアムも大人になったのかなと思ってしまいました。
 ヒース・レジャーの演技はとにかく素晴らしい。うさんくさい男をしっかり演じています。助っ人で演じた三人も良いんですが、やはりここは最後までヒースに全て演じてほしかった。あと、リリー・コールとアンドリュー・ガーフィールドの若手二人がそれぞれとても魅力的で印象に残りました。

 老いてもなお新たな世界へ観衆を誘うパルナサス博士の姿に、ギリアム自身が投影されていてまるで自画像のような映画でした。盛りだくさんの映像なので、そこが気になるのであれば観ても損はない作品です。

監督:テリー・ギリアム
出演:ヒース・レジャー、クリストファー・プラマー、リリー・コール、アンドリュー・ガーフィールド、ヴァーン・トロイヤー、トム・ウェイツ、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレル
20110401 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

トゥルー・グリット

 ジョン・ウェイン主演「勇気ある追跡」として一度は映画化された同名小説を、『ノーカントリー』でアカデミー賞を獲得したコーエン兄弟監督の手で再映画化。シンプルながら力強い内容でしたが、どこか物足りなさも。

 見慣れた西部劇の世界観も、リアリズムに徹しながらどこか非現実を感じさせるコーエン兄弟らしい演出で描かれると圧巻で、冒頭から引き込まれました。保安官とテキサスレンジャーの人物描写も魅力的。しかし主役であるマティの感情の振れ幅が狭いため、どこか感情移入できずに終わってしまいました。少女の弱さを感じさせる演技がもう少しあったら良かったかも。そうしてみると、同行する二人の男もボケ役でしかなく、しっかり者のマティの前ではあまり役割が変わらないのも残念でした。
 全編をドライな映像でまとめたロジャー・ディーキンスの撮影は見事。また、コーエン映画にしては珍しくアクションシーンが多く、映画としての盛り上がりも充分でした。俳優ではジョシュ・ブローリンのキレた演技が良かった。地味なので今まで気付きませんでしたが、実はこれからもっと伸びる俳優さんではないでしょうか。

 掴みが良かっただけに、もうちょっとこの世界を深く長く堪能できたら評価は変わっていたかも。監督がもう一度西部劇を撮ってくれたら、また観に行きたいです。

監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
原作:チャールズ・ポーティス
出演:ヘイリー・スタインフェルド、ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、バリー・ペッパー
20110322 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

鉄コン筋クリート

 原作の大ファンだというマイケル・アリアス監督が、スタジオ4℃の協力を得て制作した劇場用アニメ作品。松本大洋の映像化作品の中では文句なしのトップですし、近年の劇場用アニメの中でも出色の作品です。

 舞台となる“宝町”をカラスの視点で俯瞰する冒頭のシーンだけでも、もう感動で涙してしまうほど「鉄コン筋クリート」そのものの映像。原作通りというより、原作のイマジネーションをそのまま映画にしたらこうなった、という感じ。主人公たちの感情の揺れ動きに共感できるかどうかが肝の作品ですが、あえて妥協せず各キャラクターに言いたいことを言わせているのも良かった。よく練られた脚本と映像の上に、松本大洋作品の持つたくましさや奔放さがしたたかに乗っかっていて、奇跡のような2時間でした。
 くるくるよく動くキャラクターたちや、極彩色で独特の美術など絵の出来はもちろん最高。特に、もう一つの主役である“宝町”を、CGと手描きの両方を駆使して描いた技量には驚かされます。声優も、俳優の中でも舞台経験者を中心に選んでいるのでとても自然でした。

 原作モノは原作ファンに受け入れられないのがセオリーですが、この映画は自信を持ってお薦めできます。行き詰まりを感じさせることが多かった近年の日本アニメですが、この映画のセンスには可能性を感じました。

監督:マイケル・アリアス
原作:松本大洋
出演:二宮和也、蒼井優、伊勢谷友介、宮藤官九郎、大森南朋、納谷六朗、岡田義徳、本木雅弘
20081122 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

デス・プルーフinグラインドハウス

 タランティーノ&ロドリゲスが、かつての“グラインドハウス”映画にオマージュを捧げた二本立て作品のうち、タランティーノの監督したカーチェイス・ホラーを再編集した完全版。余裕すら感じるタランティーノの映画センスに脱帽です。
 完全にフレーミングを間違えているカメラ、露出過多の照明、尺を長くするだけの不必要な会話シーン、無駄に本格的なカーアクション、そしてあのラストなどなど、低予算映画にありがちな要素をふんだんに盛り込みつつ、本当にグダグダなB級映画に仕上げています。しかも悪役にかのカート・ラッセルを選び、スネーク・プリスキンばりの黒ずくめをさせる懲りよう。B級映画はあくまでB級映画なんだという、開き直りにも似た誇りを感じました。三池監督がタランティーノのうるさい解説付きで観たように、何人かでワイワイ観るのが楽しそうですね。

 女の子の会話がリアルなのは驚きでした。女体のエロさと音楽の良さも相変わらずで、やっぱりタランティーノは最高の映画オタクだと再確認。B級かぶれをウザいと思わない方にはオススメです。

監督:クエンティン・タランティーノ
出演:カート・ラッセル、ロザリオ・ドーソン、ゾーイ・ベル、、シドニー・タミーア・ポワチエ、ローズ・マッゴーワン、クエンティン・タランティーノ
20081028 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ダークナイト

 旧シリーズとは一線を画した、クリストファー・ノーラン監督による人気ダーク・ヒーロー映画の第二弾。映画史上に残る大ヒットを飛ばしたものの、作品としては空疎そのものでした。

 なんと言っても今回の目玉であるべきジョーカーについての掘り下げがお粗末すぎます。彼が何故ジョーカーのメイクをし、狂人のような行動をするのかについて殆ど語られないばかりか、数少ない解説も冗談めかして話すだけという演出では、ジョーカーがただの頭の弱いチンピラにしか見えません。見せ場であるべき犯罪行為の数々も、単に理不尽なテロ行為というだけで、狂気やウィットを感じさせる「ジョーカーらしい犯罪」になっていないという点も耐え難いところです。
 脇を固めるトゥーフェイスの方が、動機も葛藤もきちんと描けていて悪役として魅力的なだけに、ただ出てきては話をかき混ぜるだけのジョーカーを中心に話を構成したのは失敗でしょう。同じくバットマン=ブルース・ウェインが、現実に立ち向かえずに逃げてるだけの弱虫にしか見えないというのも脚本のミス。その他にも個々のエピソードに決着をつけないまますぐ次の話題へと移る展開など、脚本のセンスを疑う箇所が多々ありました。

 一応アクションに多くの時間を割いている映画なのに、演出が10年前からまったく進歩せず、かつ分かりにくいというのも致命的。音楽とカット割りで誤魔化していますが、見れば見るほど白けてしまいます。俳優では、ゲイリー・オールドマンの彼らしからぬ落ち着いた演技や、アーロン・エッカートのいかにもアメリカン・ヒーローといった佇まいが目を引きました。ジョーカー役のヒース・レジャーも頑張っている印象ですが、演じる役自体に魅力がないのが残念。

 趣味の問題と言われればそれまでなんですが、ここまで欠点だらけの映画を他の人がどう楽しんでいるのか、僕には想像できません。ノーラン監督は、初期作品の頃からの「セリフだけで説明した気になってる」という弱点をそろそろ直さないと、どこかで大コケしそうです。

監督:クリストファー・ノーラン
出演:クリスチャン・ベール、ヒース・レジャー、アーロン・エッカート、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマン、モーガン・フリーマン、マギー・ギレンホール
20080918 | レビュー(評価別) > ★ | - | -