★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ファーゴ

 コーエン兄弟が“実際にあった事件”を元に撮った犯罪映画。スローテンポな演出と美しい映像だけではない、気迫すら感じる独特の作品です。

 コーエン兄弟お得意の、淡々としたドラマが積み重なることで次第に事件がとんでもない方向に転がるという展開は本作でも変わりません。しかし今回は登場人物、舞台設定、題材など全ての要素がうまくまとまったため、上質の犯罪映画に仕上がりました。一般市民と犯罪者の境界線を曖昧にするシリアスなプロットと、ユーモラスな会話が共存するアンバランスさも、不思議と犯罪のリアリズムを盛り上げていて、映画の雰囲気作りに一役買っています。派手さこそありませんが、犯罪映画の違った楽しみ方を教えてくれた作品です。
 舞台設定が良かったのか、トリッキーなカメラが売りのコーエン作品の中でも、特に芸術的なカメラワークが多いのも見どころの一つ。俳優では、まずなんと言っても“変な顔”スティーブ・ブシェミの怪演が光ります。コンビを組むピーター・ストーメアの不気味さも印象的。また、主演のフランシス・マクドーマンドとウィリアム・H・メイシーもそれぞれ良い演技をしていて、僕はこの映画で名前を覚えました。

 犯罪映画として十分に楽しめる本作ですが、最大のトリックは最後まで明かされません。クレジットにあえて嘘を潜り込ませたり、プログラムに偽の酷評レビューを掲載するコーエン兄弟ならではの遊び心ですが、おそらく全ての観客が、指摘されなければ騙されたことにすら気付かないことでしょう。前作『未来は今』が認められなかったことに対する痛烈な皮肉なのかもしれませんが、映画を撮るのにここまで考えるコーエン兄弟監督の才能に、ただただ驚かされました。

監督:ジョエル・コーエン
出演:フランシス・マクドーマンド、ウィリアム・H・メイシー、スティーヴ・ブシェミ、ピーター・ストーメア、ハーヴ・プレスネル、ジョン・キャロル・リンチ
20110521 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -
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