★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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地獄の黙示録

 ベトナム戦争を題材にしたジョセフ・コンラッドによる原作(クレジット無し)を、『ゴッドファーザー』『アメリカン・グラフィティ』のフランシス・フォード・コッポラ監督が映画化したカルト的作品。ベトナム戦争映画の中では、『フルメタル・ジャケット』と双璧を成す傑作です。

 凄惨なベトナムの戦場を脈絡なんか無視して点々と描き、観念的な終盤へなだれ込む展開は、他の戦争映画とはあまりに違う手法で驚かされます。しかし、同時に映画からは圧倒的な迫力と説得力も感じました。そもそも戦場にはストーリーも脈絡もないのだから、これこそベトナム戦争の臨場感を最も的確に伝える手法だったのかもしれません。戦争を否定も肯定もしていない、ただ美しく恐ろしいこの映画には、人が戦争に対して覚える全ての感情が詰まっているように思いました。
 主演のマーティン・シーンの気迫の演技と、それを凌駕するマーロン・ブランドの存在感はもはや伝説。ヘリ爆撃のシーンにワーグナーをかぶせたりと、音楽の使い方もいちいち凝っています。ナパームのシーンなど、本物の迫力にこだわった特殊効果も見応えがありました。

 この設定が実話を元にしているということが、戦争の恐ろしさを何よりもよく表しているのではないでしょうか。評価について賛否両論はありますが、まさにベトナム映画の集大成と言える作品です。撮影にまつわるドキュメンタリー作品である『ハート・オブ・ダークネス』や、未公開シーンを含めた完全版など、関連作品も一見の価値有り。

監督:フランシス・フォード・コッポラ
出演:マーティン・シーン、マーロン・ブランド、デニス・ホッパー、ロバート・デュヴァル、フレデリック・フォレスト、ハリソン・フォード、ローレンス・フィッシュバーン
20110604 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ザ・セル

 CFやMVで活躍するターセム監督の長編デビュー作。ジェニファー・ロペスの初主演作品でもありますが、それ以上に監督の個性が強く光る佳作になりました。

 シナリオは少しSF要素を含んだハリウッド風サスペンスですが、犯人の精神世界描写がとにかく秀逸。絵画のような計算された構図にも関わらず、カメラは重力を忘れたかのように自由に動き回り、被写体も次々と形を変えていく様に見とれるばかりでした。CGによってあらゆる表現が可能になった現在においても、ここまで作品として完成された映像は他に見たことがありません。
 美術や衣装への力の入れ方も凄い。砂漠のロケなどを挟むことでセット撮影と対比させ、映画全体のメリハリをつけるなど、とにかく映像にまつわる全ての要素にセンスを感じる作品でした。惜しむらくはプロットがありきたりのハリウッド映画的で粗雑だったこと。ここが疎かになってしまったため、精神世界の描写に必然性を感じられませんでした。

 俳優では、やはりヴィンセント・ドノフリオの鬼気迫る演技が良かった。この映画での教訓を生かしたのか、ターセム監督の次作『落下の王国』は物語と映像ががっちりと噛み合った傑作でした。未見の方はぜひ。

監督:ターセム・シン
出演:ジェニファー・ロペス、ヴィンス・ヴォーン、ヴィンセント・ドノフリオ、マリアンヌ・ジャン=バプティスト、ジェイク・ウェバー
20110531 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ザ・ロック

 マイケル・ベイ監督が男臭いドラマに重点を置いて撮り上げたアクション作品。2000年代に流行するTVドラマを先取りしたようなプロットは一見の価値有り。

 敵にも味方にもしっかり動機付けがあり、彼らの利害が物語の展開にしたがって巧みに絡み合う練りに練られた物語がこの映画最大の魅力です。主人公側の行動理念が必ずしも正義に立脚していないところも新鮮でした。敵も味方も一枚岩ではない中で、特に終盤にかけての怒濤の展開に引き込まれるので、ベイ監督お得意のアクション演出も一層生きてきます。
 エド・ハリスやデヴィッド・モースといった渋い中年俳優だらけで固めた潔さも好感度大。コネリーの役柄がかつての007を彷彿とさせるのもファンには嬉しいところ。こういった全ての要素が上手くはまった結果、ありきたりなハリウッド映画なのに奇跡的に面白い作品に仕上がりました。

 一部首をかしげる展開もありますし、そもそも科学的考証が皆無なことなど問題点はありますが、それを補ってあまりあるエンタテイメント性には脱帽。90年代のアクション映画を語る上で絶対に外せない作品です。

監督:マイケル・ベイ
出演:ニコラス・ケイジ、ショーン・コネリー、エド・ハリス、マイケル・ビーン、ウィリアム・フォーサイス、デヴィッド・モース
20110527 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

スタンド・バイ・ミー

 スティーヴン・キングの非ホラー小説を、ロブ・ライナー監督が爽やかに映画化した名作ロード・ムービー。少年時代のある夏の思い出を、切ない空気とともに描き出している希有な作品です。
 ノスタルジィを前面に押し出した映画はあまり好きではないんですが、この映画は過去を美化することなく、他愛のない出来事をそのまま描いていて共感できました。主役四人の性格設定も良いし、随所に挿入されるヤンキー達の動向も良い対比になっています。そして、それらの些細なドラマが最後にきちんと生きてくる展開には脱帽。回想シーンの入れ方を含め、時間や場所の跳躍を編集一つで自然に見せる職人芸にも好感が持てます。こういった一つ一つの要素を丁寧に作り上げているのが感じられて、とても上質な映画体験になりました。

 リヴァー・フェニックスの、年齢からは想像できないほど含蓄のある演技も見どころの一つ。最初に見たときはラストの印象が弱かったんですが、ある程度年がいってから観ると余韻があって、また違った感想を持ちました。よく言われることですが、見るたびに発見がある映画ですね。

監督:ロブ・ライナー
原作:スティーヴン・キング
出演:ウィル・ウィートン、リヴァー・フェニックス、コリー・フェルドマン、ジェリー・オコンネル、キーファー・サザーランド、ジョン・キューザック、リチャード・ドレイファス
20110525 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ゾンビ

 ジョージ・A・ロメロ監督が『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に続いて撮り上げた、ゾンビもの映画の傑作。“ゾンビ=おぼつかない足取りで人を襲う生ける屍”という概念を世界中に植え付けた、まさに記念碑的な作品です。

 ショッピングモールの中で繰り広げられる終末感たっぷりのサバイバル生活は、それだけでも十分魅力的ですが、そこに“ゾンビ”という存在を放り込むことで類い希な魅力を持った物語に昇華させています。死者と生者の対比、生き残った人間同士の精神戦など、その後のゾンビ映画に共通する要素は、この映画の時点で既に完成されていたと言っても過言ではないでしょう。
 また、容赦のないスプラッタ描写もこの映画の魅力の一つ。ハイビジョンで観るとさすがに粗が目立ちますが、内臓を引きずり出し、頭をかち割り、手足をもぎ取るといった直接的な演出は、初めて観たときはとてもショックでした。これらをショッピングモールという日常的な閉鎖空間で描いたことも、強烈なリアリズムを感じさせる一因になっています。

 この映画以降“ゾンビ”という言葉が一気に普及したという事実が、この映画の完成度を如実に表しています。この作品を越えるゾンビもの映画というものに僕はまだ出会えていません。古い映画ですが、ホラー映画が好きなら必見の作品です。

監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:デヴィッド・エムゲ、ケン・フォリー、スコット・H・ライニガー、ゲイラン・ロス
20110517 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

シャイニング

 スティーヴン・キングの原作をスタンリー・キューブリックが独自のアレンジで映画化したホラー映画の金字塔。じわじわと侵蝕してくるような恐怖演出はトラウマになること間違いなしです。

 ジャック・ニコルソンの怪演がよく話題に上りますが、それ以上にキューブリックお得意のゆっくり動くカメラワークが映画の題材にとても合っていて、閉鎖空間で狂気にとらわれていく主人公たちの心理を巧く描き出しています。観客の不意をついて驚かすようなホラーが多い中で、内側から崩壊していくような静かな演出のこの映画は、まさにキューブリックならではのホラー作品と言えるでしょう。
 血のエレベータ、双子、三輪車など印象的なモチーフが多いのもこの映画の特徴で、後に多くのオマージュを生んでいます。ただ一つ一つのモチーフの持つ意味を考えても答えは出てきません。ラストの解釈も観客にゆだねられています。このあたりが納得できない人は、観終わってから消化不良な印象を受けるのかも。個人的にはそういう雰囲気作りもホラー映画の醍醐味という考えなので、この映画との相性はバッチリでした。ただホラー映画自体が苦手なので、何度も観たくはないですが……。

 公開当初は娯楽作品という枠組みでしたが、この映像美と演技は他の芸術系映画を寄せ付けない気迫すら感じます。ホラー映画といえばまずこの映画を思い浮かべる方も多いのでは。未見の方はぜひ。

監督:スタンリー・キューブリック
原作:スティーヴン・キング
出演:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、ダニー・ロイド、スキャットマン・クローザース、バリー・ネルソン
20110513 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ショーン・オブ・ザ・デッド

 本国イギリスで大ヒットを記録し、ホラー・コメディの新たな可能性を切り開いたカルト的作品。ブラッカイマー映画のような手法でゾンビ映画をパロディしまくる内容はインパクトがあります。

 素早いカットバックやスローモーションを用いた現代風の演出で、ひたすらしょーもないパロディを繰り出す作風は確かに新鮮。ただ、あまりに同じ演出と間抜けな展開が続くので、観ているこっちが息切れしてしまいます。そのせいか後半に出てくるシリアスな展開も、なんとなく上滑りしてしまって楽しめませんでした。こういう展開ならコメディの比重を少なくして、シリアスの中にコメディが混ざってるぐらいが丁度良かったかもしれません。
 僕でも分かるパロディがちょこちょこあったので、ホラー映画に詳しい人なら、それぞれのパロディ元が分かって一層笑えるのかも。ホラー映画好きを自負する人なら、一度は観ておくべき映画かもしれません。

監督:エドガー・ライト
出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、ケイト・アシュフィールド、ディラン・モーラン、ビル・ナイ
20110507 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

jackass number two the movie

 ジョニー・ノックスヴィル率いるおバカ集団によるMTVの大人気シリーズの映画化第二弾。前作以上にノリが良い、ひたすら笑える作品でした。

 今回も、「自宅の階段でスキー」「生尻で電気椅子」「目隠しのまま闘牛と対決」「○○を蛇に噛ませる」などなど、やる前から結果の分かっている悪ふざけをあえてやってみた映像が目白押し。また、老人の特殊メイクをして街に繰り出すシリーズも過激さを増しています。なんでこんな頭の悪いことを思いつけるのかと、ただただ感心しつつも大爆笑させられた90分でした。
 この映画に関してはもう何も言うことはありません。自宅でお酒でも呑みながら大笑いして観るのには最適な最低映画です。ちなみに、今回は汚物系のネタが殆どなかったので、そういうのが苦手な方でも安心。頭が悪くなりたいときに是非。

監督:ジェフ・トレメイン
出演:ジョニー・ノックスヴィル、スティーヴォー、バム・マージェラ、クリス・ポンティアス、ライアン・ダン、デイヴ・イングランド、ウィーマン
20110501 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ゾディアック

 『セブン』『ファイト・クラブ』のデヴィッド・フィンチャー監督が、希に見る連続殺人事件の真相に迫ったクライム・サスペンス。監督の新たな可能性が伺える傑作でした。

 ひたすら犯罪の事実を追跡するような地味な内容なのに、最初から最後まで緊張感が持続する不思議な映画でした。これまでのフィンチャー作品らしくない、重厚さすら感じさせる演出で、肝心の殺人自体もそれほどエキセントリックに描かれていません。これは監督の角が取れたのではなく、あくまで原作の面白さをそのまま映画で見せようとした結果ではないかと。ゾディアックの不気味さをありのままに描くことで、当時の人々がその犯罪に取り憑かれた心理を再現し、それを観客に追体験させることこそが、この映画の目的なのでしょう。
 俳優では、ジェイク・ギレンホールとロバート・ダウニー・Jr.がとてもいい味を出しています。音楽の使い方も相変わらず上手い。ちなみに、この映画からフィンチャー監督は完全デジタル撮影に切り替えたとか。とてもそうとは信じられない、フィルム映画のような肌触りは監督のこだわりの賜物です。

 未解決事件なので終わり方もモヤモヤしますが、観終わったときの高揚感は他のフィンチャー作品に負けていません。考えさせるサスペンスを楽しみたい人にはぜひ見て欲しい映画です。

監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:ロバート・グレイスミス
出演:ジェイク・ギレンホール、マーク・ラファロ、ロバート・ダウニー・Jr.、ブライアン・コックス、アンソニー・エドワーズ、クロエ・セヴィニー
20110423 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

人狼 JIN-ROH

 押井守自身の創作による“ケルベロス・サーガ”の、初の劇場アニメ化作品。監督は高い作画力に定評のある沖浦啓之。

 架空の大戦後の日本を描いた作品ですが、実際は昭和30年代の安保闘争をかなり意識して描かれています。当時の不安定な情勢、政治的な策謀などを物語の背景として巧みに折り込みつつ、登場人物それぞれの立場ごとにドラマを用意するさりげなさは、もはや押井脚本の真骨頂と言えるでしょう。
 ただ一部のシナリオや演出がくどすぎるのが気になりました。僕が色恋沙汰に厳しいのもあるんですが、終盤でちょっと浪花節な雰囲気になるのが惜しい。また、あまりに地味で観客を置き去りにする物語は、特にこの世界観を未体験の人や、そもそも興味のない人が理解するのは難しいのでは。それでも押井監督以外の手で映画化されたことで極端な哲学性は薄まり、これまでのシリーズ作品に比べればエンタテイメント寄りの内容に思えました。

 影を描くことを極力排除した独特の画面作りは Production I.G の高い作画力があってこそ。制作中に『MEMORIES』が完成して優秀な原画家が流れてきたのも一因だとか。小倉宏昌によるドライで緻密な美術も映画の説得力を高めています。セルアニメ時代の最後を飾る、一つの到達点のような映画であることは間違いありません。

監督:沖浦啓之
原作:押井守
出演:藤木義勝、武藤寿美、木下浩之、廣田行生、吉田幸紘
20110421 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -