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奇跡の海

 デンマークの奇才、ラース・フォン・トリアー監督による異色のラブ・ストーリー。物語全体に漂う宗教観や映像美はこれまでのトリアー監督の作品同様ですが、今回はテーマ性を前面に押し出した、より感情を揺さぶられる作品に仕上がっていました。

 普通の映画のようにカットごとに撮影するのではなく、まず舞台を整え、役者にそのシーンを通して演技させ、それをドキュメンタリーのようにハンディカムで撮影しています(撮影はロビー・ミューラー)。必然的に長回しのシーンが多くなりますが、それだけ生々しくなった映像は監督の意図を恐ろしいほどに反映していました。静謐という言葉が似合うような、息の詰まるようなシーンの連続は観客にとっても辛い体験で、それが主人公ベスの境遇と相まって、痛々しさがイヤというほど伝わってきます。エンタテイメントとはかけ離れているんですが、映画という表現方法にはこういう可能性もあるのだと衝撃を受けました。
 俳優では、主役を演じたエミリー・ワトソンの魅力がすさまじかった。彼女の、聡明さの中に危うさを備えた演技こそ、この映画が成立できた最大の要因だと思います。作品全体を章立てで構成し、その区切りごとに風景画のような景色とロック音楽が挿入されるなどの演出も、独創的で好感が持てました。

 最後の演出については判断の分かれるところですが、僕はこういうセンスは好きです。泣ける映画というより辛い映画ですが、そこに嫌らしさを感じさせないあたり、監督の映画表現が成熟してきたと実感できる作品でした。

監督:ラース・フォン・トリアー
出演:エミリー・ワトソン、ステラン・スカルスガルド、ジャン=マルク・バール、ウド・キアー
20051130 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -
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