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ラスベガスをやっつけろ

 原作者ハンター・S・トンプソンの実体験を元にした小説を、鬼才テリー・ギリアム監督が映画化。他のドラッグ系映画の追随を許さない、とことん下品で不条理で滅茶苦茶な作品でした。

 「トレインスポッティング」がドラッグ文化をあくまでスタイリッシュに描写していたのに対して、こちらは主観的に描写しているのが最大の特徴。つまりは麻薬でラリってる主人公2人の「見えているもの」を中心に物語が進むので、カメラは斜めに漂いっぱなし、何が現実に起こっているのかも判らない状態で、最後まで真実は明かされません。そういった主人公の、現実からの取り残され具合をテーマにした作品なので、それは必然でしょう。ヒッピーが70年代に入って終わりを告げ、ただの社会不適合者になった主人公たちがどういう価値観を持って生きているのか、それがこの映画の語りたいことであり、それは上手く表現できていると思いました。
 しかしそういう理論をぶつ以前に、映像としてこの映画は楽しめます。何よりナンセンスな演出にかけては当代一のギリアムですから、次から次へと繰り出される意表をついた映像に驚かされているだけで2時間が過ぎてしまいました。主演のジョニー・デップは、今までの出演作では決して見せなかったようなオヤジっぷり全開でキめてくれますし、この撮影のために(つまり無駄に)20kg増量したベニチオ・デル・トロも迫真の演技でした。T・マグワイヤ、C・ディアス、C・リッチは本当にチョイ役ですが、特にC・リッチの存在感は抜群。こういう勢いだけで良い映画って、そうそうありません。

 観終わって得られるものはゼロ、物語は何処にもない、ただただバッド・トリップの連続で焦燥感ばかりが募る映画です。でも、それこそ最重要テーマじゃないか、という吹っ切り方こそギリアム映画の最大の魅力ではないでしょうか。

監督:テリー・ギリアム
原作:ハンター・S・トンプソン
出演:ジョニー・デップ、ベニチオ・デル・トロ、トビー・マグワイア、キャメロン・ディアス、クリスティナ・リッチ
20051012 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -
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