★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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英国王のスピーチ

 英国王ジョージ6世にまつわる感動の逸話をトム・フーパー監督が映画化し、アカデミー作品賞ほか4冠を獲得した佳作。若い監督の意欲を感じる作品でした。

 中盤まではそれなりに楽しめますが、戴冠式前後で物語のリズムが崩れてしまうのが惜しい。主役であるジョージ6世のキャラクターは面白いのに、相手役ライオネルの性格付けが弱いため肝心なところで盛り上がりに欠ける印象です。どちらかの主観に物語を偏らせることで焦点を絞れば、メリハリのきいた作品になったかもしれません。
 俳優では、なんと言ってもコリン・ファースの演技が素晴らしい。吃音が自然すぎて演技に見えません。他の俳優もそれぞれ良い演技をしているんですが、チャーチル役にティモシー・スポールというのだけはちょっと……笑ってしまいました。

 台詞回しやカメラワークはイギリス映画らしく気が利いています。俳優も地味なようでいて豪華で、演技の良さも見所。ちょっと上品な、でもしっかり面白い映画を観たい方にはオススメです。

監督:トム・フーパー
出演:コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーター、ガイ・ピアース、ティモシー・スポール、マイケル・ガンボン
20110323 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ゴッホ

 画家ゴッホの死の瞬間までを描き出した、ロバート・アルトマン監督による評伝映画。誇張はあるものの、生の人間としてのゴッホを感じられる作品です。

 ゴッホの弟ヴィンセントの視点を交えて描かれる物語からは、”狂気の画家ゴッホ”をあくまで理性的に捉えようという信念が感じられます。ゴッホ芸術の基礎となったオランダの自然がひたすら美しく、また当時の絵画界をかいま見られる数々のエピソードも説得力がありました。
 そして、ゴッホを演じたティム・ロスの演技がとにかく凄い。クセモノ俳優としての本領発揮で、カーク・ダグラス版よりよほどゴッホらしい風格があります。ただ、かえって狂気を強調しすぎた観も。現代の芸術家像である「芸術家=尋常でない人」という図式の走りでもあるんでしょうが、この作品では多少やり過ぎだったような。

 何はともあれ、ゴッホ映画の決定版と言える内容だと思います。ちなみに、ビデオタイトルは「ゴッホ/謎の生涯」。どこが謎なのかは不明。しかも原題は「ヴィンセント&テオ」。どうせサブタイトルを付けるなら、そっち方面で考えて欲しかった…。

監督:ロバート・アルトマン
出演:ティム・ロス、ポール・リス、アドリアン・ブリン、ハンス・ケスティング、ジャン=ピエール・カッセル
20060316 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

サバイビング・ピカソ

 ジェームズ・アイヴォリー監督による、パブロ・ピカソの評伝映画。非常に良い内容に仕上がっているんですが、ピカソだったかというと疑問。
 現代における芸術家のステレオタイプそのもの(女好き、天才的、気まぐれ、高いカリスマ性などなど)であるピカソを映画化するにあたって、アイヴォリー監督は物語を上品にまとめました。それも良いんですが、やはりピカソという題材を考えると物足りなさが残ります。何よりアンソニー・ホプキンスのピカソが落ち着きすぎで、ただの色男にしか見えません。逆にピカソを取り巻く女性たちの方が生き生きしていると思えるほどです。ピカソの芸術観が本筋ではないものの、彼にとっては女性遍歴がそのまま芸術性と結びついている側面もあるので、女性観のみに絞って描かれるとどうしても片手落ちという印象が拭えません。

 フランソワーズを演じたナターシャ・マケルホーンが、飛び抜けて魅力的。役柄もありますが、凛とした女性という言葉が似合います。ピカソをかじったことがある人なら思わず喜びそうな再現シーンもいくつかあるので、興味がある人は是非。

監督:ジェームズ・アイヴォリー
出演:アンソニー・ホプキンス、ナターシャ・マケルホーン、ジュリアン・ムーア
20060315 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

キャリントン

 女流画家ドーラ・キャリントンの半生を描いた評伝映画。男勝りの芸術家に扮したエマ・トンプソンの演技力が光る秀作です。
 同性愛者の男性を好きになってしまった女性の、行動とは裏腹に純粋でひたむきな想いが伝わってきて、恋愛以上に人生そのものについて、深く考えさせられました。気品や哲学性という精神的なテーマを前面に押し出した造りで、ラブシーンが多いのもそれほど気になりません。イギリスの自然や庭園を本当に美しく描き出しているのも効果的で、ついつい画面に見入ってしまいます。20世紀初頭の重苦しい時代背景なども手伝って、なかなか見応えのある評伝映画に仕上がっている、と感じました。

 主演のエマ・トンプソンがとにかく魅力的。気むずかしい人間が主人公なのに楽しく観られたのは、やはりこの人の演技が素晴らしいからでしょう。ジョナサン・プライス演じる作家リットンの、素朴ながら自信に満ちた佇まいも好きです。この二人に興味がある方は是非。

監督:クリストファー・ハンプトン
原作:マイケル・ホルロイド
出演:エマ・トンプソン、ジョナサン・プライス、スティーヴン・ウォデントン、サミュエル・ウェスト、ジェレミー・ノーサム、ルーファス・シーウェル
20060314 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

マイケル・コリンズ

 「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」のニール・ジョーダン監督が、アイルランド独立に奔走した実在の人物の物語を映画化。監督念願の企画ということもあって、かなりの力作に仕上がっています。

 寂寥感のあるアイルランドの風景の中、泥臭い革命運動に邁進する人々のエネルギーが画面から溢れんばかりに伝わってきて、最後まで緊張感が途切れません。登場人物ごとの思惑の違いを丁寧に描き分けているので、地味なドラマにも感情移入させられます。これからと言うときの幕切れは、事実とはいえ唐突すぎる気はしますが、民族を背負って戦うという重さ、歴史を動かしているという感慨などなど、色々と感じ取ることの出来る作品でした。
 主演のリーアム・ニーソンは、なんだかんだで指導者役がとても似合います。もう一人のリーダーであり、後にアイルランド初代大統領となるデ・ヴァレラにアラン・リックマンを配したのも絶妙。他にも印象的な配役が多く見られて、俳優的にはとても贅沢な印象でした。

 この映画を観てからは、すっかりアイルランドに肩入れしてしまいました。テロや民族紛争に関して当事者の視点から描かれていると共に、非常に示唆に富んだ内容なので、興味のある方にはぜひ観てもらいたい作品です。

監督:ニール・ジョーダン
出演:リーアム・ニーソン、アラン・リックマン、エイダン・クイン、ジュリア・ロバーツ、イアン・ハート、スティーヴン・レイ、ジョナサン・リス=マイヤーズ
20060313 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アマデウス

 モーツァルトの死を同時代の音楽家サリエリの視点から描いた舞台劇を、豪華に映画化した傑作。俳優も映像も文句なしのコスチュームプレイです。

 トム・ハルスの変則的なモーツァルトに初めは驚かされましたが、そのキャラクターと悲劇との対比が絶妙。”天才”モーツァルトに嫉妬しつつ憧れる”凡人”サリエリの葛藤は、分かり易いだけに観る者の心に強く響きます。当然ながら使われている楽曲もほとんどモーツァルトのもので、映画の評価と相まって、すっかりモーツァルトに傾倒してしまいました。
 トム・ハルスのエキセントリックな演技を正攻法で受け止めたF・マーレイ・エイブラハムは見事。プラハでオールロケしたという映像や、程よく生活感のある衣装なども美しい。ヨーゼフII世など貴族のいい加減さも物語に幅を持たせています。とにかく全てが豪華、かつリアリティを感じさせる納得の出来でした。

 2002年にはディレクターズ・カット版も公開されています。20分の追加映像は正直どこまで必要だったのか疑問ですが、この映画をドルビーの大スクリーンで観ることが出来たのは嬉しかった。定期的に上映して欲しい作品です。

監督:ミロス・フォアマン
原作:ピーター・シェイファー
出演:F・マーレイ・エイブラハム、トム・ハルス、エリザベス・ベリッジ、ロイ・ドートリス、サイモン・キャロウ、ジェフリー・ジョーンズ
20060312 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

永遠のマリア・カラス

 不世出の天才オペラ歌手マリア・カラスを、かつて彼女の友人であったフランコ・ゼフィレッリ監督が敢えて架空のストーリーで綴った作品。ゴシップを排し、歌手としての葛藤に絞った着眼点は良いものの、演技以上に心に響くテーマが無いのが残念でした。
 とにかくこの映画は、主演のファニー・アルダンの魅力に尽きます。「8人の女たち」でも異彩を放っていたものの、この映画での彼女の存在感はそれを上回るもので、伝説のオペラ歌手を余すところなく体現しています。カラスの葛藤などに関するドラマ的な掘り下げがあくまで通り一遍なのもあって、ただただアルダンの演技に見とれるばかりでした。カラスに思い入れがある人ならそれで十分楽しめるでしょうが、知らない人が観たら辛いところです。惜しい。

 劇中で流れる「カルメン」の出来が素晴らしく、もしそれだけで一つの映像作品になっているのなら発表してほしいぐらいでした。DVDには収録されていないみたいですが…。

監督:フランコ・ゼフィレッリ
出演:ファニー・アルダン、ジェレミー・アイアンズ、ジョーン・プロウライト
20060311 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ラスベガスをやっつけろ

 原作者ハンター・S・トンプソンの実体験を元にした小説を、鬼才テリー・ギリアム監督が映画化。他のドラッグ系映画の追随を許さない、とことん下品で不条理で滅茶苦茶な作品でした。

 「トレインスポッティング」がドラッグ文化をあくまでスタイリッシュに描写していたのに対して、こちらは主観的に描写しているのが最大の特徴。つまりは麻薬でラリってる主人公2人の「見えているもの」を中心に物語が進むので、カメラは斜めに漂いっぱなし、何が現実に起こっているのかも判らない状態で、最後まで真実は明かされません。そういった主人公の、現実からの取り残され具合をテーマにした作品なので、それは必然でしょう。ヒッピーが70年代に入って終わりを告げ、ただの社会不適合者になった主人公たちがどういう価値観を持って生きているのか、それがこの映画の語りたいことであり、それは上手く表現できていると思いました。
 しかしそういう理論をぶつ以前に、映像としてこの映画は楽しめます。何よりナンセンスな演出にかけては当代一のギリアムですから、次から次へと繰り出される意表をついた映像に驚かされているだけで2時間が過ぎてしまいました。主演のジョニー・デップは、今までの出演作では決して見せなかったようなオヤジっぷり全開でキめてくれますし、この撮影のために(つまり無駄に)20kg増量したベニチオ・デル・トロも迫真の演技でした。T・マグワイヤ、C・ディアス、C・リッチは本当にチョイ役ですが、特にC・リッチの存在感は抜群。こういう勢いだけで良い映画って、そうそうありません。

 観終わって得られるものはゼロ、物語は何処にもない、ただただバッド・トリップの連続で焦燥感ばかりが募る映画です。でも、それこそ最重要テーマじゃないか、という吹っ切り方こそギリアム映画の最大の魅力ではないでしょうか。

監督:テリー・ギリアム
原作:ハンター・S・トンプソン
出演:ジョニー・デップ、ベニチオ・デル・トロ、トビー・マグワイア、キャメロン・ディアス、クリスティナ・リッチ
20051012 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

モーターサイクル・ダイアリーズ

 革命家チェ・ゲバラの、その活動とは全く趣の異なる青年時代の旅を描いたロードムービー。ゲバラ本人の著作と、一緒に旅をした友人アルベルト・グラナードの著作を下敷きに、実際に南米を旅しながら撮影された映像は、説得力があって色々と考えさせられます。

 主演のガエル・ガルシア・ベルナルが、一層大人になった演技で主人公を熱演しています。何かを見つめるときの視線が凄い。その他の登場人物にも存在感があり、市民一人一人の言葉には演技と思えない重さがありました。感情豊かな南米の景色も魅力の一つ。この国々は、50年の間になにも変わっていないのかもしれません…。
 それにしても最後のカットはずるい。ああいうことをされると、さすがにジーンときてしまいます。でも純粋にロードムービーとしても良くできていたのでは。観る前にゲバラの映画であるということは一回忘れて、観終わってから思い出すと映画の価値が一段と上がると思います。

監督:ウォルター・サレス
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ロドリゴ・デ・ラ・セルナ
公式サイト
20050916 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ネバーランド

 「ピーター・パン」の原作者ジェームズ・バリと、物語のモデルになった少年一家の交流を描いた、半分実話、半分創作の映画。監督は「チョコレート」のマーク・フォスター。
 ハリウッドでも顔の知られた俳優が何人も出演しているので、ジョニー・デップが良ければいいやと割り切って観たんですが、これがなかなか良い話で、ついつい泣かされてしまいました。創作にまつわるテーマにそもそも弱いというのもあるんですが、無理に感動させようとしない落ち着いた描写で、逆に感情移入させるあたりは嫌みが無くて好感が持てます。思わず見とれてしまう美しい映像も見物。

 主演3人(ジョニー・デップ、フレディ・ハイモア、ケイト・ウィンスレット)の演技が抜群に良くて、この映画の見どころの一つになっています。中でもフレディ・ハイモアは、台詞も動きも多いのにとても演技とは思えないぐらい。デップが「チャーリーとチョコレート工場」に推薦したというのも頷けます。
 それにしてもイアン・ハートがコナン・ドイル役で出演していたのは全く気付きませんでした。あと舞台でピーターを演じているのが、「トレインスポッティング」のケリー・マクドナルドというのも驚き。もう一度観るときは気をつけよう……。

監督:マーク・フォースター
出演:ジョニー・デップ、フレディ・ハイモア、ケイト・ウィンスレット
公式サイト
20050915 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -