★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1

 同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第7作。とうとう二部作になって原作の細部まできっちり映像化しているので、これまでのシリーズ作品の中では段違いに面白くなっています。

 同監督による前二作ではシナリオにアレンジを効かせていたのに対し、今回は充分な上映時間があるおかげでほぼ原作通りの物語を再現できていて、ドラマに安定感がありました。特に今作は主役三人の逃避行がメインなので、これまで本編では省略されがちだったこの三人の心情描写がきっちりできたことで、物語への没入度も高くなっています。
 脇役たちもそれぞれ活躍の場があり、映像もこれまで以上にリッチに仕上がっているので、シリーズを通して観てきた人には感慨深いものがあるのでは。後編に向けての伏線の張り方も十分で、二部作の前編として文句のない出来でしょう。

 また、今回は過去のシリーズ作品と比べても演出に余裕があるのがよく分かりました。特に空撮などで状況描写をするシーンが豊富なため、シーンとシーンの間で上手くメリハリを付けられています。一方アクションシーンでもカットバックに頼らず、長めのカットを随所に挟みつつ描いていて、リズムの付け方が様になっていると感じました。
 初登場の俳優では、まずリス・エヴァンスがさすがの怪演を見せてくれました。予告編でも大写しになるビル・ナイも、登場シーンは少ないながら印象的。レギュラー陣では、ヘレナ・ボナム=カーターが相変わらず憎まれ役を上手く演じきっています。あとはやっぱりアラン・リックマンが格好良くて、出てくるだけで嬉しくなってしまいました。

 ファンとしては、やっとハリー・ポッター本来の面白さが映画館で体験できて大満足。あの原作をそのまま映画化するだけで、ここまで面白くなるということが何より驚きでした。上下巻ある原作の、下巻の序盤まで消化して余裕はたっぷりあるので、あとはこの調子で後編をじっくり描いてもらえれば、史上最高のシリーズ作品になることはまず間違いないでしょう。

監督:デヴィッド・イェーツ
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、レイフ・ファインズ、アラン・リックマン、ブレンダン・グリーソン、ロビー・コルトレーン、マギー・スミス、デヴィッド・シューリス、ジョン・ハート、トム・フェルトン、ボニー・ライト、ティモシー・スポール、ジェイソン・アイザックス、ヘレナ・ボナム=カーター、イメルダ・スタウントン、ジョージ・ハリス、リス・エヴァンス、ビル・ナイ
20110511 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターと謎のプリンス

 同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第6作。前作から引き続きデヴィッド・イェーツ監督がメガホンを取ったおかげか、ドラマが生き生きとしていて想像以上に楽しめました。

 冒頭から原作にはない展開が連続し、台詞もかなりアレンジされていて驚きましたが、これが不思議と原作の雰囲気にマッチしています。エピソードを効果的に省略することで尺を確保しつつ、ユーモラスなシーンを適度に挿入して映画全体のリズムを取るなど、シリーズ二回目の監督ならではの慣れた演出が功奏したのではないでしょうか。最終章に向けていくつか説明しておかなければいけない伏線が抜けていたり、終盤の決戦が拍子抜けだったのが心残りですが、そのあたりは次回に期待ということなんでしょうか。
 今回、キャスト以外は次回作に向けての休養ということでスタッフの多くが入れ替わったそうですが、前作以上にクオリティの高いものが出来ていて安心しました。撮影がジュネ組のブリュノ・デルボネルなのが個人的にはポイント。俳優では、満を持して登場したジム・ブロードベントの存在感がさすがでした。

 これまでは原作に忠実であることにこだわりすぎて、映画としての面白さが置いてけぼりになりがちでしたが、今回は映画向けに分かりやすくアレンジされていると感じました。最終章はついに二部立て、さらにデヴィッド・イェーツ監督が続投ということなので、ますます楽しみになってきました。

監督:デヴィッド・イェーツ
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、マイケル・ガンボン、ジム・ブロードベント、アラン・リックマン、ロビー・コルトレーン、マギー・スミス、デヴィッド・シューリス、トム・フェルトン、ボニー・ライト、ティモシー・スポール、ヘレナ・ボナム=カーター
20110509 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

Dr.パルナサスの鏡

 奇才テリー・ギリアム監督が、『バロン』『未来世紀ブラジル』の脚本家チャールズ・マッケオンと三度組んで作り上げた作品。主演のヒース・レジャーが撮影期間中に死亡するというアクシデントに見舞われながらも、なんとか完成にこぎ着けました。

 ギリアム監督といえば万華鏡のように展開する映像世界が魅力ですが、今作でもそのイマジネーションは健在。今回はモンティ・パイソン含め過去のギリアム作品の総集編とも言えそうなほど、ありとあらゆる方向性から空想の世界を描いています。現実世界は必要以上に暗く描かれていて、いいアクセントになっています。ストーリーは説明不足の感が否めませんが、勢いで押し切りつつもきちんと最後をまとめているところが、ギリアムも大人になったのかなと思ってしまいました。
 ヒース・レジャーの演技はとにかく素晴らしい。うさんくさい男をしっかり演じています。助っ人で演じた三人も良いんですが、やはりここは最後までヒースに全て演じてほしかった。あと、リリー・コールとアンドリュー・ガーフィールドの若手二人がそれぞれとても魅力的で印象に残りました。

 老いてもなお新たな世界へ観衆を誘うパルナサス博士の姿に、ギリアム自身が投影されていてまるで自画像のような映画でした。盛りだくさんの映像なので、そこが気になるのであれば観ても損はない作品です。

監督:テリー・ギリアム
出演:ヒース・レジャー、クリストファー・プラマー、リリー・コール、アンドリュー・ガーフィールド、ヴァーン・トロイヤー、トム・ウェイツ、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレル
20110401 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

コララインとボタンの魔女

 ニール・ゲイマンによる人気児童文学を、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』でお馴染みのヘンリー・セリック監督が映画化。同作に負けず劣らず素晴らしい作品に仕上がりました。

 カラフルでキッチュな世界観は予告編のときから楽しみでしたが、映画館で観るとまた格別です。登場人物も児童文学らしくとても分かりやすく、エピソードも平板ながらそれほど飽きさせずに進んでいきます。何より女の子の成長物語と異世界ものという定番に、ボタンの魔女という捻りを効かせたことで、久々に子供時代のワクワク感を思い出せました。
 原作がダークでも映画化となると急に健全になってしまうものが多い中で、この映画はカラフルながら毒々しくどこか倒錯性すら感じさせます。終盤にかけての盛り上がりもしっかりしていたので、中盤やや紋切り型になるのが残念です。

 上映している映画館は吹き替えばかりで、字幕版が楽しめなかったことが最大の心残り。しかし、『ナイトメア〜』のときはバートンの功績と感じられた作品性が、セリック監督の実力だったことがこれで証明されたのでは。次回作がとても楽しみです。

監督:ヘンリー・セリック
原作:ニール・ゲイマン
出演:ダコタ・ファニング、テリー・ハッチャー、ジョン・ホッジマン、イアン・マクシェーン、ドーン・フレンチ、ジェニファー・ソーンダース、キース・デヴィッド、ロバート・ベイリー・Jr
20110326 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アリス・イン・ワンダーランド

 あのティム・バートン監督が、ルイス・キャロルの名作児童文学を念願の映画化。しかし、監督の意気込みが妙な方向に先走ってしまった印象です。

 成長したアリスが再び不思議の国を訪れるというアプローチは良いんですが、「今度は戦争だ!」のような展開は僕のイメージするアリス像とかけ離れていて入り込めませんでした。アリスの成長物語も取って付けたような浮き具合だし、赤と白の勢力の対立も無理矢理な印象。赤の女王の動機付けがしっかりしていればまだ我慢できたかも知れませんがそれもなく。最後のまとめ方も大雑把だし、人物の描写以前の問題です。
 俳優の演技もCGのおかげであまり楽しめず。しかしヘレナ・ボナム=カーターの女王様ぶりはさすが。クリスピン・グローヴァーも微妙な役柄をしっかり表現していて感心しました。

 話題性だけは高いものの、脚本・音楽・美術・カメラワークなど映画の基礎部分にまとまりがなく、あまりの完成度の低さに観終わったときは唖然としました。バートンのアリスへの愛が大きすぎて、一本の映画には収まりきらなかったと思うことにします。

監督:ティム・バートン
原作:ルイス・キャロル
出演:ミア・ワシコウスカ、ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アン・ハサウェイ、クリスピン・グローヴァー、アラン・リックマン
20110325 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

鉄コン筋クリート

 原作の大ファンだというマイケル・アリアス監督が、スタジオ4℃の協力を得て制作した劇場用アニメ作品。松本大洋の映像化作品の中では文句なしのトップですし、近年の劇場用アニメの中でも出色の作品です。

 舞台となる“宝町”をカラスの視点で俯瞰する冒頭のシーンだけでも、もう感動で涙してしまうほど「鉄コン筋クリート」そのものの映像。原作通りというより、原作のイマジネーションをそのまま映画にしたらこうなった、という感じ。主人公たちの感情の揺れ動きに共感できるかどうかが肝の作品ですが、あえて妥協せず各キャラクターに言いたいことを言わせているのも良かった。よく練られた脚本と映像の上に、松本大洋作品の持つたくましさや奔放さがしたたかに乗っかっていて、奇跡のような2時間でした。
 くるくるよく動くキャラクターたちや、極彩色で独特の美術など絵の出来はもちろん最高。特に、もう一つの主役である“宝町”を、CGと手描きの両方を駆使して描いた技量には驚かされます。声優も、俳優の中でも舞台経験者を中心に選んでいるのでとても自然でした。

 原作モノは原作ファンに受け入れられないのがセオリーですが、この映画は自信を持ってお薦めできます。行き詰まりを感じさせることが多かった近年の日本アニメですが、この映画のセンスには可能性を感じました。

監督:マイケル・アリアス
原作:松本大洋
出演:二宮和也、蒼井優、伊勢谷友介、宮藤官九郎、大森南朋、納谷六朗、岡田義徳、本木雅弘
20081122 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

めいとこねこバス

 三鷹の森 ジブリ美術館でのみ上映される、宮崎駿監督による14分の短編アニメ。「となりのトトロ」の後日談的な内容で、映像自体は生き生きとしているのに、心の底から楽しめる内容ではありませんでした。
 前半の“こねこバス”との邂逅までは良い。こねこバスのいかにも小動物な動きや、ふさふさした毛並みなどはさすがジブリと唸らされる作画もあって楽しめます。しかしそこから先、話が無駄に大きくなってしまい、暗示的になっていくところで興ざめ。これはトトロの世界観とも違うような気がするんですが、どうなんでしょう。

 近年の宮崎アニメは話を大きくしすぎて、小さな感動を忘れているような気がします。新しいことにチャレンジするのも良いんですが、もう昔のような宮崎アニメは作られないのかも、と思うと残念しきり。

監督:宮崎駿
出演:坂本千夏、宮崎駿
20081112 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団

 イギリスの同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第5作。今回はTVドラマ業界出身の新鋭デヴィッド・イェーツ監督を起用し、堅実ながらも楽しめる作品になりました。

 非常に長い原作をどうまとめるかがこのシリーズの悩みの種ですが、今回は敵役ドローレス・アンブリッジに関するエピソードを中心に抽出することで違和感を抑え、かえって原作よりメリハリのあるストーリーになっていると感じたほど。その影響で原作からアレンジされた点がちょっと気になるものの、まあ不可抗力でしょう。登場人物の心の機微を描き切れていないのは今回も同じですが、じっくり描写しているシーンもあり、総じてツボを心得ていたな、という印象です。
 イメルダ・スタウントンは、憎たらしいドローレスそのままの存在感で良かった。ゲイリー・オールドマンについては言わずもがな。あと、やっぱりイギリス人監督はイギリスらしい風景を撮るのが巧いですね。今回はロンドン市街も登場するので、特にイギリス人の観客は嬉しかったんじゃないでしょうか。

 “読者と一緒に成長する物語”なので、登場人物も成長するし、物語も政治性を増していくというところが、他のファンタジー作品にない魅力なのでしょう。巻を重ねるごとに重厚になる原作の雰囲気を、よく反映した映画だと思いました。相変わらず細かい説明は原作任せですが、原作を読んでるのが前提みたいなシリーズなのでそれは構わないのでは。次回もイェーツ監督の続投ということで、これも期待です。

監督:デヴィッド・イェーツ
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、イメルダ・スタウントン、マイケル・ガンボン、マギー・スミス、アラン・リックマン、ロビー・コルトレーン、デヴィッド・シューリス、ゲイリー・オールドマン、ヘレナ・ボナム=カーター、レイフ・ファインズ
20081109 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

パンズ・ラビリンス

 ギレルモ・デル・トロ監督が、スペイン内戦を背景に描くダーク・ファンタジー。印象的なシーンは多いものの、今ひとつ消化不良でした。

 主人公オフェリアが、様々なストレスから空想の世界に囚われていくのが本題かと思ったら、むしろそのストレスの一因である内戦に重点を置いてしまったため、対比としての空想世界がおざなりになってしまいました。さらにオフェリアの心情描写も全て召使いのメルセデスの過去と重ね合わす演出で、まるでメルセデスが主役のよう。空想世界の異形たちはとても魅力的で、いろいろ曰くがありそうなだけに、まずオフェリア自身の描写に力を注いでほしかった。
 カメラワークや美術は凄い。あと、複数の異形を演じたダグ・ジョーンズの“らしさ”もこの映画の魅力の一つでしょう。メルセデス役のマリベル・ベルドゥは、どこかで見たと思ったら「天国の口、終りの楽園。」の女性なんですね。情熱を内に秘めた表情が良かった。

 多少ちぐはぐな内容ではありますが、昨今の子供向けファンタジーの隆盛に異を唱えた内容は、十分意義があると思います。映像的には見る点も多いので、ファンタジー好きの方なら是非。

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:イバナ・バケロ、マリベル・ベルドゥ、セルジ・ロペス、ダグ・ジョーンズ
20081106 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

モモ

 ドイツを代表する児童文学作家ミヒャエル・エンデによる原作を西ドイツ/イタリアの共同制作で映画化したファンタジー作品。原作の持つ雰囲気を丁寧に再現した映画になりました。

 子供時代に観たときは、とにかく「時間泥棒」たちの雰囲気が怖く、またモモとその周辺の人間関係の暖かさと独特のファンタジー表現にひたすら目を丸くして見入っていました。
 大人になって改めて観てみると、セット撮影の限界や原作のエピソードの省略など、小さくまとまってしまった点が気になりましたが、それでもファンタジー作品としては充分及第点の印象です。特に原作の哲学的な台詞回しを適度に抽出し、ストーリーに深みを持たせた脚本はいかにもドイツ映画らしく、今でも考えさせられる内容でした。

 何よりモモを演じたラドスト・ボーケルが非常にハマっていて、自分もモモの前に座って心を開いているような気持ちになれます。原作ファンならずとも心温まるファンタジーで、特に子供時代にこれを観られた自分は幸せだと思いました。

監督:ヨハネス・シャーフ
原作:ミヒャエル・エンデ
出演:ラドスト・ボーケル、ジョン・ヒューストン、ブルーノ・ストリ、レオポルド・トリエステ、マリオ・アドルフ
20081010 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -