★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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レッドクリフ Part II ―未来への最終決戦―

 「赤壁の戦い」を映画化した二部作の完結編。前作に引き続き、ジョン・ウー節が炸裂する痛快アクション大作でした。
 数万の軍勢がぶつかり合う合戦を再現しつつ、各武将に活躍の場を作るためには、やはりこの紋切り型で予定調和なジョン・ウーの作風がとても似合っています。一方で前回スパイスと思われたサッカーの演出が前面に出てきたり、最後はちょっと盛り上げすぎたりと映画独自の展開も多く、風格にこだわる人には楽しめないかも。一つ一つのアクションシーンが長いのも構わないんですが、北米版のように一本の映画として公開した方が良かったような。しかしお祭り映画だと割り切って見れば、なかなか楽しめる映画です。

 今回もトニー・レオンがひたすら格好良かった。ジョン・ウーは俳優の魅力を引き出すのが上手いですね。何よりアジアでもこういう大作映画が撮れるのだという良い証明になったので、今後もこういう作品がアジアから出ることを願いたいです。

監督:ジョン・ウー
出演:トニー・レオン、金城武、リン・チーリン、チャン・フォンイー、チャン・チェン、ヴィッキー・チャオ、フー・ジュン、中村獅童
20110427 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

レッドクリフ Part I

 ジョン・ウー監督が、製作費100億円をかけて三国志の有名なエピソード「赤壁の戦い」を描いた2部作の前半。大作なのに中国映画ならではの大雑把さもあったりして、とても魅力的な映画でした。

 壮大な合戦シーンを迫力の映像で描いているのがこの映画最大の見所。映像的にはリアルさを追求しつつ、関羽や張飛といった名将たちの人間離れした活躍ぶりもあったりと、良い意味でのいい加減さが映画全体の牽引力になっています。ストーリーは「三国志演義」をベースにかなりアレンジしてあり、むしろ三国志の名場面詰合せみたいなところもあるので、それを認められるかどうかで評価は大きく分かれそうです。
 俳優では、何といってもトニー・レオン目当てだったので、彼の困った顔が見られただけでも大満足。金城武の孔明は格好良すぎるぐらい。あと、孫権を演じたチャン・チェンも、視線に力があって良かった。

 個人的には、後半の陣形で戦うところは大爆笑でした。そういう楽しみ方で良いという方にはオススメ。ハリウッドではあまり活躍できなかったジョン・ウー監督ですが、故郷へ戻ってやりたい放題やっているな、という印象です。うるさい批評家の意見なんかに耳を貸さずに、このまま自分の理想に向かって驀進してほしいところ。後編も楽しみです。

監督:ジョン・ウー
出演:トニー・レオン、金城武、チャン・チェン、チャン・フォンイー、リン・チーリン、フー・ジュン、中村獅童、ヴィッキー・チャオ
20081115 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

落下の王国

 「ザ・セル」の鬼才・ターセム監督が、6年振りに撮り上げた意欲作。病人が少女に空想の話を物語るという設定と、ターセム監督の映像美にピンと来て劇場に足を運びましたが、これが想像以上の相性の良さでした。

 とにかく物語が良い。スタントマン・ロイと少女の、友情とも愛情とも取れる不思議な関係というとても繊細な物語を、壮大な空想物語を隠喩として丁寧に描き出すというのは、映像世代の監督ならではの発想で引き込まれました。少女やロイがそれぞれ抱える葛藤などもきちんと描き切ることによって、小さなドラマを大きなカタルシスに変えています。

 撮影当時5歳というカティンカ・ウンタルーの自然な演技も凄い。一つ一つの仕草がとても生き生きとしていて、何でもないシーンでも思わず微笑んでしまいました。また、彼女のアドリブを物語に反映させたためなのか、空想の物語がいかにも“子供に話したときのお話”の広がり方になっているのも興味深いところです。
 映像も、様々な世界遺産を巡る豪華な内容だけでも凄いのに、相変わらずの壮大な発想とセンスで、思わず見とれてしまいました。そのくせ、情緒のあるカメラワークで坦々としたドラマをさりげなく盛り上げるあたり、監督の確実な演出力が感じられます。

 小さな弟に絵本を読むときに「なんで?」を繰り返され、1ページ読むのに何十分もかけた身としてはとても共感したのとともに、物語というものが持つ可能性を再確認させられたました。まさに物語賛歌、映画賛歌という言葉が似合う作品です。

監督:ターセム
出演:リー・ペイス、カティンカ・ウンタルー、ジャスティン・ワデル、ダニエル・カルタジローン、レオ・ビル
20080921 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ローズ・イン・タイドランド

 ギリアムの大ファンというミッチ・カリンによる原作を、そのままギリアム本人が気に入って映画化したホラー風味のファンタジー作品。「ブラザーズ・グリム」の製作中断中に撮影しただけあって、いつもより更にやりたい放題な内容に、ついて行くのがやっとでした。
 ギリアム版「不思議の国のアリス」とも言うべき内容で、主人公ローズの妄想世界はまさに絶好の題材。ただ、それを第三者視点で描いているので、ローズが現実から逃避しているのが客観的に見えてしまって、痛ましいというかなんというか。まともな人間がいないのはいつものことですが、今回は主人公まで一緒になって観客を置いてけぼりにしてくれます。そんなこんなでひたすら疲れたものの、ギリアムの健在ぶりを文字通り体感できたのは収穫でした。この調子で最期まで暴走し続けて欲しいところです。

 実は冒頭とラストだけが現実で、途中の話はラストのアレを見たローズがさかのぼって“捏造”したものなんじゃないかとか、いろいろと考察できると楽しいかも。あとローズ役のジョデル・フェルランドがかなり可愛いうえに演技も抜群だったので、今後が気になります。

監督:テリー・ギリアム
原作:ミッチ・カリン
出演:ジョデル・フェルランド、ジェフ・ブリッジス、ジャネット・マクティア、ブレンダン・フレッチャージェニファー・ティリー
20061006 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

老人Z

 大友克洋原作、江口寿史キャラクター原案による、不条理な笑いと怒濤のアクションが魅力のアニメ。監督は、キレの良いアクションを得意とする北久保弘之。
 介護用ロボットの試作品に搭載されたコンピュータが暴走し、寝たきりのおじいちゃんを乗せたまま大暴走、といういかにも日本的なSFコメディぶりが最高。鎌倉を舞台に、モノレールやショッピングモールという見慣れた風景で繰り広げられるアクションは、緊迫感と爆笑の両極を備えていて、息つく暇もありません。最後はホロリとさせつつ、高齢化社会への提言も忘れなかったりして、コメディとはいえなかなか侮れない作品です。

 キャラクターでは、謎のハッカーお爺さんがツボでした。誰でも楽しめるドタバタコメディーアニメとして、非常にお薦めの作品。ぜひ。

監督:北久保弘之
原作:大友克洋
出演:松村彦次郎、横山智佐、小川真司、近石真介、辻谷耕史
20060430 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ルパン三世 カリオストロの城

 宮崎駿監督の長編アニメデビュー作。ルパンの服の色を変えたり、カリオストロ公国が妙にリアルだったりと、いつものルパン映画らしくない作り込みで、今でもファンの心を捉えて離さない名作です。
 キャラクタ造形にいまいち華が足りない宮崎監督が、原作モノという題材を得て印象の強い映画作りに成功した好例。とにかく登場人物全てが魅力的。ルパンはいつもより二枚目だし、次元や五右ヱ門も深みがあって、オリジナルの「ルパン三世」のハードボイルド風味も良いんですが、この作品でのルパンたちの方が好きだったりします。初期の宮崎アニメらしい畳み掛けるようなアクションといい、最後まで笑っちゃうぐらい印象的な台詞といい、間違いなく日本製アニメの代表作の一つに数えられる作品かと。

 バイオレンスもお色気もない世界観は、本来のルパン三世のファンには不満なようですが、単体のアニメ作品として観るとやはり秀逸。一度は観ておいて損のない作品です。

監督:宮崎駿
原作:モンキー・パンチ
出演:山田康雄、小林清志、井上真樹夫、増山江威子、納谷悟朗、島本須美、石田太郎
20060404 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク

 スティーヴン・スピルバーグ監督による、大ヒット恐竜映画の続編。前作とは打って変わって、暗いムードのサバイバル・ホラーでした。
 前作で重いテーマを盛り込めなかった反動なのか、今回は人間と恐竜の関係を掘り下げたドラマに時間を割いています。特にピート・ポスルスウェイト演じるローランドの存在が象徴的。ただ前作の夢と冒険に満ちた作風が記憶にあったせいか、今作は重すぎて興ざめ。恐竜の“怖さ”を強調する演出や、ヤヌス・カミンスキーによるハイ・コントラストな映像も、観ている内に疲れてしまいました。

 前作とは比にならないほどリアルな恐竜たちはさすがに見所。あと評判悪い“本土上陸”は、実は好きだったりします。そちらにもっと力を入れて欲しかったぐらい。まあ、スピルバーグの思い入れが炸裂した映画、ということで…。

監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作:マイケル・クライトン
出演:ジェフ・ゴールドブラム、ジュリアン・ムーア、ピート・ポスルスウェイト、ヴィンス・ヴォーン、ピーター・ストーメア、リチャード・アッテンボロー
20060402 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語

 世界中でベストセラーとなった同名児童文学を、「キャスパー」のブラッド・シルバーリング監督で映画化。ビジュアルはなかなかの出来でしたが、物語はお粗末な印象を受けました。

 三人姉弟妹の落ち着いた演技や、ジム・キャリー扮するオラフ伯爵のコミカルさは良い。物語を彩る様々なセットや人物の衣装など、美術面もゴシックで非常に僕の好みでした。ただ、子供達が”不幸”から如何にして脱出するかが物語のキモなのに、そこのギミックがなおざりでセンスを感じられない出来なので、物語中盤からはダレてしまいました。その上、とってつけたような謎の存在も微妙(これは続編への布石でしょうが)。ジム・キャリーの変装も、もっとバリエーションがあると思っていただけに物足りない印象です。
 全体に、メルヘンというより単純な”子供だまし”に終始しているのが残念でした。雰囲気に浸りたいだけなら構いませんが、生粋の児童文学ファンにはお薦め出来ません。

監督:ブラッド・シルバーリング
原作:レモニー・スニケット
出演:ジム・キャリー、エミリー・ブラウニング、リーアム・エイケン、カラ・ホフマン、シェルビー・ホフマン、ティモシー・スポール、メリル・ストリープ
20060130 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ラブ・アクチュアリー

 「ノッティングヒルの恋人」や「ブリジット・ジョーンズの日記」の脚本家リチャード・カーティスがメガホンを取った恋愛群像劇。豪華なキャストが見物の軽いドラマで、いかにもクリスマス・ムービーといった内容でした。
 人物一人あたりのドラマは殆どなく、だいたいは”起転結”で終わってしまうので、135分とかなり長い映画ですが飽きずに観ることが出来ます。ただ、そのせいか物語には深みがなく、どこかで観たような話を再構成しただけという印象も。それでも全体のまとめ方が巧みで、映像的にも華があるので、ちょっと恋愛映画でもという時には最適な映画ではないでしょうか。

 もっとも、嫌みなぐらい清廉潔白な物語が楽しめなくても、豪華な出演陣を鑑賞するだけでお腹いっぱいになれるのがこの映画の良いところです。ヒュー・グラントとアラン・リックマンに始まり、イギリスを代表する役者がこれでもかと集まっての大盤振る舞いは豪華の極みで、中でもローワン・アトキンソンのお邪魔虫っぷりは最高。イギリスらしいシニカルなジョークが楽しめないのが最大の心残りですが、映画をよく観る人からあまり観ない人まで楽しめる、良質の恋愛映画でした。

監督:リチャード・カーティス
出演:ヒュー・グラント、リーアム・ニーソン、エマ・トンプソン、コリン・ファース、アラン・リックマン、ローラ・リニー、キーラ・ナイトレイ、ビリー・ボブ・ソーントン、ローワン・アトキンソン
20060122 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ロード・オブ・ウォー

 「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督が戦争映画を撮ったらどうなるか、という期待に見事に答えた作品。強烈な衝撃こそ無いものの、その嫌みのなさにかえって考えさせられる内容でした。

 月並みな表現ですが、ボディーブローのようにジワジワと効いてくるテーマが見事。武器商人を扱った映画自体、おそらくこの作品が初めてなんでしょうが、そのショッキングな題材をあくまでウィットで包んで否定も肯定もせずに提示しているバランス感覚が凄い。押しつけがましい主張はせずに、普通の人なら誰もが抱くような感情に自然に訴えかけているので、非常に説得力があります。あまりにシンプルな物語で、結論も新鮮さはなく物足りないぐらいですが、それを物足りないと感じてしまうことが恥ずかしいと思えるほどでした。
 ニコラス・ケイジの演技は流石。ジャレッド・レトがその弟というのはビジュアル的に無理がありそうでしたが、イノセントな感じが良く出ていて好感が持てました。イーサン・ホークやイアン・ホルムといった演技派の活躍も必見。ちなみに、某大佐の声はドナルド・サザーランドだそうです。

 ケイジの最後の台詞は、静かな主張ながら印象的。過去の悲劇を利用して感傷に訴えかけようという態度がミエミエの戦争映画が多い中で、これは現在進行形の問題をとらえつつ前向きなメッセージを提示している希有な作品でした。多くの人に観て欲しい映画ですが、地味なせいか全く売れないまま上映終了してしまったのが残念な限りです。

監督:アンドリュー・ニコル
出演:ニコラス・ケイジ、ジャレッド・レト、イーサン・ホーク、イアン・ホルム、ブリジット・モイナハン
20060119 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -