★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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宇宙戦争

 スティーヴン・スピルバーグがH・G・ウェルズの名作SF小説を現代風に映画化したスペクタクル作品。ドンパチやるだけの映画ならともかく、家族ドラマを前面に押し出したせいで妙なことになってしまいました。

 スピルバーグのドラマが苦手なのでいやな予感はしていましたが、やはり無駄に家族愛を強調されてしまったので、映画の内容とテーマが最後まで結びつきませんでした。原作に無いテーマなんだから原作のエピソードも無視してしまえばいいのに、それもしないため特に後半は不自然な展開になり、映画の軸がどこにあるのか最後まで分からずじまいでした。あとは原作でもオチが唐突すぎるので、いっそそこを上手く処理して本格SFにしてしまえば良かったのかも。
 この原作をこのキャストで撮りたい理由も分かりませんでした。そもそもトム・クルーズが主役というのが疑問。彼なら宇宙人でも何とかしてしまいそうなので、ただ逃げるばかりの展開に違和感を覚えました。ひたすら叫ぶだけのダコタ・ファニングも残念。スピルバーグ監督はリアリズムとエンタテイメントの融合ではなく、現実をほどよく無視した冒険ものの方が似合いそうです。

監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作:H・G・ウェルズ
出演:トム・クルーズ、ダコタ・ファニング、ティム・ロビンス、ジャスティン・チャットウィン、ミランダ・オットー
20110503 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

イリュージョニスト

 ジャック・タチの遺した脚本を、『ベルヴィル・ランデブー』のシルヴァン・ショメ監督が映画化。良質なフランス映画のような、静かな感動がある秀作でした。

 前作の賑やかな雰囲気とは正反対の、静かで心にしみる物語に合わせて、映画のテンポもひたすらスロー。ほとんど台詞のない主人公二人をじっくりと描き、その一挙手一投足で感情を表現させています。大きなドラマがあるわけではないシンプルな物語なのに、何故か印象的なのはその演出が功を奏しているのでしょう。
 登場人物の可愛らしさや魅力的な街並みも見どころの一つ。細かい人物の動きや街の看板一つにもこだわりが感じられて、それらを眺めているだけでいい気持ちになれました。また、手書きのアニメーション作品にはあまり見られない、奥行きを強調した表現が多用されていたのに驚かされました。音楽も相変わらずノスタルジックで魅力的です。

 映画全体を通して、制作者自身がこの作品を大好きなんだという気持ちがひしひしと伝わってきました。少しもの悲しい物語も相まって、大人向けのアニメーションとしての新境地を拓いた作品と言えそうです。

監督:シルヴァン・ショメ
オリジナル脚本:ジャック・タチ
出演:ジャン=クロード・ドンダ、エイリー・ランキン
20110413 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アリス・イン・ワンダーランド

 あのティム・バートン監督が、ルイス・キャロルの名作児童文学を念願の映画化。しかし、監督の意気込みが妙な方向に先走ってしまった印象です。

 成長したアリスが再び不思議の国を訪れるというアプローチは良いんですが、「今度は戦争だ!」のような展開は僕のイメージするアリス像とかけ離れていて入り込めませんでした。アリスの成長物語も取って付けたような浮き具合だし、赤と白の勢力の対立も無理矢理な印象。赤の女王の動機付けがしっかりしていればまだ我慢できたかも知れませんがそれもなく。最後のまとめ方も大雑把だし、人物の描写以前の問題です。
 俳優の演技もCGのおかげであまり楽しめず。しかしヘレナ・ボナム=カーターの女王様ぶりはさすが。クリスピン・グローヴァーも微妙な役柄をしっかり表現していて感心しました。

 話題性だけは高いものの、脚本・音楽・美術・カメラワークなど映画の基礎部分にまとまりがなく、あまりの完成度の低さに観終わったときは唖然としました。バートンのアリスへの愛が大きすぎて、一本の映画には収まりきらなかったと思うことにします。

監督:ティム・バートン
原作:ルイス・キャロル
出演:ミア・ワシコウスカ、ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アン・ハサウェイ、クリスピン・グローヴァー、アラン・リックマン
20110325 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

英国王のスピーチ

 英国王ジョージ6世にまつわる感動の逸話をトム・フーパー監督が映画化し、アカデミー作品賞ほか4冠を獲得した佳作。若い監督の意欲を感じる作品でした。

 中盤まではそれなりに楽しめますが、戴冠式前後で物語のリズムが崩れてしまうのが惜しい。主役であるジョージ6世のキャラクターは面白いのに、相手役ライオネルの性格付けが弱いため肝心なところで盛り上がりに欠ける印象です。どちらかの主観に物語を偏らせることで焦点を絞れば、メリハリのきいた作品になったかもしれません。
 俳優では、なんと言ってもコリン・ファースの演技が素晴らしい。吃音が自然すぎて演技に見えません。他の俳優もそれぞれ良い演技をしているんですが、チャーチル役にティモシー・スポールというのだけはちょっと……笑ってしまいました。

 台詞回しやカメラワークはイギリス映画らしく気が利いています。俳優も地味なようでいて豪華で、演技の良さも見所。ちょっと上品な、でもしっかり面白い映画を観たい方にはオススメです。

監督:トム・フーパー
出演:コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーター、ガイ・ピアース、ティモシー・スポール、マイケル・ガンボン
20110323 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

オーシャンズ13

 スティーヴン・ソダーバーグ監督による、大ヒットシリーズ第三弾。今回は、エンタテイメントに徹した一作目と、アイドル映画を目指した二作目のいいとこ取りを狙った内容でした。

 ご都合主義ながらも精巧に練られた脚本や、豪華キャストはそのまま。今回新たにアル・パチーノとエレン・バーキンを加えて賑やかさを増していますが、物語自体が中盤でもたついてしまいました。大オチに向けて伏線を張りまくった反面、その間に大きな事件がないのが一因。それをごまかすためのジョークも笑えるのですが、かえって物語を見失うことに。結局どっちつかずに終わってしまった印象です。
 でも、俳優が嬉々として演じているのは相変わらず良かった。特にエレン・バーキンのはっちゃけ方は凄いです。マット・デイモンは今回もやらかしてくれますし、アンディ・ガルシアもどんどん可愛くなるし、クルーニー&ピットはもう恋人みたいな仲の良さ。肝心のアル・パチーノがいつも通りで終わっちゃったのだけが残念です。

 余談ですが、相撲や日本酒といった日本文化がそこここで登場して、こそばゆい気分になりました。一作目でもアンディ・ガルシアが日本語で挨拶してたなー。ともあれ、売り上げ至上主義のハリウッドにあって、こういういかにも豪華な企画が成立するというのは映画ファンとしては素直に嬉しいところです。あとは映画の出来が良ければ最高なんですが…。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、アンディ・ガルシア、アル・パチーノ、エレン・バーキン、ドン・チードル
20081019 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

インディ・ジョーンズ/クリスタルスカルの王国

 大人気シリーズの、実に19年振りとなる続編。まるで時代を逆行するかのような古き良き映画作りと、最新のVSFXが融合したジェットコースター・ムービーとして、なかなか楽しめる内容でした。
 なにしろ、冒頭からたたみ掛けるアクションが凄い。銃撃戦にカーチェイスに秘境トラップと、ありとあらゆる要素を満載しつつ他の映画には出来ない安定感で楽しませてくれます。2時間の上映時間中、退屈する瞬間は皆無でした。映像がやたらきれいだと思ったら、やはり撮影はヤヌス・カミンスキー。ハリソン・フォードの老いてなお元気なアクションや、カレン・アレンの再登場などシリーズのファンにも嬉しい部分も多かった。あのオチはさすがにどうかと思いますが、これはもうルーカスの病気ぐらいに思って諦めるしかないですね。

 見終わった次の瞬間には全てのストーリーをものの見事に忘れていましたが、それこそまさに80年代のハリウッド映画! 些事に頓着せずやりたいことをやったルーカス&スピルバーグに感謝、です。

監督:スティーヴン・スピルバーグ
原案:ジョージ・ルーカス、ジェフ・ナサンソン
出演:ハリソン・フォード、シャイア・ラブーフ、ケイト・ブランシェット、レイ・ウィンストン、カレン・アレン、ジョン・ハート、ジム・ブロードベント
20081002 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

M:i:III

 主演のトム・クルーズが製作も務める人気シリーズ第三弾。毎回違ったコンセプトで楽しませてくれますが、今回は一言でまとめれば「TVシリーズ総集編のような濃さ」が最大の見所でした。

 もともとJ・J・エイブラムス監督自身、数々のヒットTVシリーズを手がけていることもあり、今作からは近年のアメリカTVシリーズものの雰囲気が色濃く漂います。分かり易さ重視のカメラワーク、二転三転して更に最後でひっくり返すプロット、細かいところで自己主張する脇役たちなど、TVシリーズで培われた新しい技法を、いち早く作品に反映させるあたりがトム・クルーズの手腕なのでしょう。芸術的なカメラワークや、深みのある物語を期待すると落胆しそうですが、アクション映画としては正しい割り切り方だと思いました。
 俳優陣は、シリーズでも最高の豪華さ。特に名バイ・プレイヤーのフィリップ・シーモア・ホフマンが、大きいお腹を揺すっての大活躍で笑わせてくれました。逆にジョナサン・リス=マイヤーズなんかは、けっこう活躍するのに最後まで彼だと気付きませんでしたが…。

 相変わらずどこが「スパイ大作戦」なのか不明なのはご愛敬。もともとアクションだけ見に行っているようなものですし、このぐらいの薄さがベストなのかなあと思いつつ、その計算尽くの作りにいまいち納得できないのも事実。まあ、このあたりで大団円でしょう。

監督:J・J・エイブラムス
原作:ブルース・ゲラー
出演:トム・クルーズ、ヴィング・レイムス、マギー・Q、ジョナサン・リス=マイヤーズ、ミシェル・モナハン、ビリー・クラダップ、フィリップ・シーモア・ホフマン、ローレンス・フィッシュバーン
20061012 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

エターナル・サンシャイン

 「ヒューマンネイチュア」のミシェル・ゴンドリー監督が原案から関わった、ちょっとSF風味の恋愛ドラマ。相変わらず達者なチャーリー・カウフマンの脚本が鼻につきますが、心に響くドラマは必見。

 もともとゴンドリー監督が長編デビューにと温めていた企画で、監督のファンタジックな側面が存分に発揮された物語には唸らされました。SFという題材をとりつつも、人間性を鋭く掘り下げた考察には色々と考えさせられます。それだけに、中盤から入り込んでくる余計なドラマが作品の力強さを損なっていて残念でした。
 ホワイト・ストライプスのMVなどでお馴染みのローテク合成がこの映画でも随所に使われていて、前作では見られなかったゴンドリー監督の映像世界が堪能できるのはファンとして嬉しいところ。あと俳優も良い! 久々に素朴な演技のジム・キャリーはなかなか色男に見えますし、キルステン・ダンストやイライジャ・ウッドなど大作映画で特定のイメージができてしまった俳優の珍しい役柄も楽しめました。もちろん、ケイト・ウィンスレットは今回も余裕の演技で魅せてくれます。

 細かいエピソードはいちいち頷けますし、主人公の話をクローズ・アップしていれば集中できたんでしょうが、どこかに“逃げ”の感じられる微妙な完成度が残念。単純な恋愛映画では終わらない題材だけに、正々堂々と撮り上げてほしかったなあ、と。

監督:ミシェル・ゴンドリー
出演:ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット、キルステン・ダンスト、マーク・ラファロ、イライジャ・ウッド、トム・ウィルキンソン
20060513 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

王立宇宙軍 オネアミスの翼

 GAINAX設立第一弾の劇場用SFアニメ。80年代のSFアニメらしい特殊な世界観は、良く作り込んだなと感心はしますが共感はできません。
 なんというか、この世界観が無ければそのまま「ライトスタッフ」なヒネリのない物語が辛い。技術革新と、それに対する軋轢にドラマを感じるのは理解しますが、現実にいくらでもある題材をわざわざSFにしてしまう意図が分かりません。わざわざ架空の文化を創り上げた努力や、優秀なアニメータを多数起用しての緻密な作画にはさすがに圧倒されましたが、それも物語が平凡なら意味がないわけで。なんでそこで宗教かなあ、とか、共感できないことだらけでした。

 色々感想はあるんですが、結論としては主人公の声に森本レオをあてるのはおかしいだろう、と。坂本龍一によるメインテーマは良いですね。努力は認めますが、非常に居心地の悪い作品でした。

監督:山賀博之
出演:森本レオ、曽我部和恭、平野正人、鈴置洋孝、伊沢弘、大塚周夫、弥生みつき、内田稔
20060506 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

AKIRA

 大友克洋が、自らの漫画を長編映画化し、その名を世界に知らしめた大作SFアニメ。日本製アニメーションといえば、まずこれを想起する人も多いのでは。
 何よりその高い作画レベルに、まずは圧倒されます。ジブリともディズニーとも違うリアルな動作や、遠景まで書き込まれた背景は一見の価値あり。残像を伴って走るバイク、吹っ飛ぶ人物のスローモーション、それに芸能山城組による音楽など、あまりアニメらしくない表現も秀逸。物語も、当時まだ完結していなかった原作を大胆にカットして、映画用に分かりやすく作り替えられています。原作を知っている人には物足りなくもありますが、もともと原作の後半だってアクションとスペクタクルがメインなので、ストーリーの点では原作とそれほど相違ありません。特に、かなりの時間を費やして描かれる大破壊のシーンは、アニメ映画史上最高のカタルシスといっても過言ではないでしょう。

 小学生の頃に劇場で観て、かなり驚いた記憶があります。アニメでここまで表現できるんだ、ということに何より驚愕。ここまで先鋭的で、かつ娯楽性の高い作品というのは、これ以降も殆ど作られていないのではないでしょうか。

監督・原作:大友克洋
出演:岩田光央、佐々木望、小山茉美、玄田哲章
20060428 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -