★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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テルミン

 デジタル音源の黎明期に発明され、ホラーやSFといった映画に使われた楽器「テルミン」と、その製作者レフ・セルゲイヴィッチ・テルミン博士を巡るドキュメンタリー。歴史の彼方に忘れ去られようとしていたテルミンを再発見した、貴重な作品です。
 テルミンの音楽性や技術的な話題に終始すると思っていたら、発明者であるテルミン博士の人生の足跡をたどるような内容でした。しかもその博士のたどった人生というのが実に奇妙。ハリウッドで人気を博したと思ったら、スターリンの粛正に巻き込まれ……といった事実を、資料と調査であぶりだしていく丁寧な手法は、ドキュメンタリーとして良くできています。何より半世紀以上の時を経て、再び見いだされた人々と楽器の”再開”には感動させられました。

 世界初の電子楽器テルミンについて、少しでも興味のある方は必見。自らが作り出した楽器と同様、非常に数奇な運命をたどったテルミン博士の人生は、それ自体がファンタジーで驚かされました。なお博士自身は、まるでこの映画が作られるのを待っていたかのように、映画の完成直後に亡くなられています。合掌。

監督:スティーヴン・M・マーティン
出演:レオン・テルミン、ブライアン・ウィルソン、トッド・ラングレン
公式サイト
20060309 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

 ギタリストのライ・クーダーが、キューバ音楽に魅せられて製作した同名のアルバムをめぐるドキュメンタリー。キューバ音楽の、時を経ても色褪せない魅力がたっぷりと詰まった佳作です。
 僕はキューバ音楽に詳しいわけではないので、細かい解説は余所に譲ります。ただ、コンパイ・セグンドやエリアデス・オチョアといったキューバの老ミュージシャンたちの演奏は想像以上にパワフルで、しかも中には90を過ぎた人もいるのになおセクシーなのには驚かされました。音楽で人生を語れる彼らは純粋に魅力的ですし、その言葉の裏にはキューバの過酷な歴史が明確に存在しています。そういった厚みを観客に意識させた上で見せる、ラストのカーネギーでのコンサートは、これはもう反則。全てが美しくて、ただ惚れ惚れするばかりでした。

 もちろんアルバムも購入しました。どの曲も名曲ですね。もう随分聴き込んでいるので、今観ると多分映画の評価も上がってしまうだろうなあと思いつつ、一応初見の時の評価のままで。だって素材の良さが映像を上回ってるんだもの。

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ルベーン・ゴンザレス、イブライム・フェレール、ライ・クーダー、オマーラ・ポルトゥオンド、エリアデス・オチョア、コンパイ・セグンド、ヨアキム・クーダー
20060308 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ロスト・イン・ラ・マンチャ

 鬼才テリー・ギリアム監督による映画"The Man Who Killed Don Quixote"がいかにして制作中止に陥ったかを、「12モンキーズ」でもドキュメンタリーを手がけたキース・フルトンとルイス・ペペのコンビが撮影したドキュメンタリー。まさにドン・キホーテそのものを思わせるギリアム監督の勇姿は必見。

 ギリアム監督が最高のヒーローだと語るドン・キホーテを題材にしたブラックコメディ映画は、ファンならずとも見たいと思わせるような夢にあふれた企画で、これは所々で挿入される”撮影済みのシーン”からもひしひしと伝わってきます。しかし様々なアクシデントが襲い掛かり、映画は製作中止。これが絵に描いたようにひどい話で、ひどすぎるあまり笑ってしまうほど。奇しくもこのギリアム監督の無謀とも思える行動自体がドン・キホーテという英雄の姿と重なって見えるところが、最高に悲しいところです。
 映画の評価とは全く関係ないんですが、ジョニー・デップの普段着が格好良かった! 映画の完成を願っていますが、キャストは集め直すことになるのかなあ……。でも監督自身も諦めたわけではないようなので、辛抱強く待ちましょう。

監督:キース・フルトン、ルイス・ペペ
出演:テリー・ギリアム、ジョニー・デップ、ジャン・ロシュフォール
20051218 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スーパーサイズ・ミー

 CFやTV番組制作などで活躍し、その着想のセンスで人気のモーガン・スパーロック監督によるドキュメンタリー作品。「3食×30日間全てマクドナルドだけで食事したらどうなるか」という人体実験を監督本人が実践し、ジャンクフードが蔓延するアメリカの食品産業に鋭く問題提起しています。

 とにかく着眼点が秀逸。マイケル・ムーアのような強烈なユーモアはないものの、実験自体のインパクトと、ところどころに挿入される「食文化を巡るアメリカ資本主義社会の状況」がカルチャーショックでした。劇場を出る頃には以前より健康的な食生活をしようという気分になりますね。もともとファーストフードは年に数回しか利用しませんが…。
 ドキュメンタリー映画が社会に与える影響が強くなっている昨今、この映画に限らず、これらが必ずしも事実とは限らないという前提だけはしっかり意識するべきでしょう。でも、問題提起と、それにまつわる議論は重要。出来ればテレビ等で大々的に流してほしいんですが、やはり難しいんでしょうか。

監督:モーガン・スパーロック
出演:モーガン・スパーロック
公式サイト
20050919 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

皇帝ペンギン

 南極大陸に棲息する皇帝ペンギンの、子育てのシーズンを追ったドキュメンタリー。内容自体はBBCなどが放送するような、ありきたりなモノなんですが、とにかくペンギンたちが微笑ましく、ついつい見とれてしまいました。特に生まれたばかりの雛が犯罪級に可愛いので……。

 残酷なシーンより、ロマンチックな求愛行動や雛の成長に時間を割き、ドラマのようにモノローグを当てる手法はフランス人らしいのですが、正直クドいと感じるところも。映像も特筆するようなものはなく、ドキュメンタリーとしては普通の出来でした。
 それでもペンギンが観たい! という人なら、観て損はないと思います。

監督:リュック・ジャケ
公式サイト
20050912 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -