★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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デジモンアドベンチャー/ぼくらのウォーゲーム!

 細田守監督による同アニメシリーズの劇場版第2弾。主人公とデジモンたちの活躍を前面に出していますが、そのぶん大人には物足りない内容でした。

 超広角の固定カメラや長回しなど、普通のアニメで見られない実写的で凝った演出は健在。また2000年当時としては珍しかったネットワークの概念とデジモンを結びつけつつ、あくまで子供にも分かりやすいストーリーになっているのも良い。TVシリーズの内容を反映したため、登場人物(デジモン含む)が多すぎたりして40分という時間では設定を生かし切れていない点だけが残念です。
 結局、映画単体としては一長一短。しかし、同時上映された他の作品目当ての人も取り込んでしまうだけ、子供向けアニメの中では突出した作品なのは確か。前作「デジモンアドベンチャー」と併せて一度は見ておきたいアニメ作品です。

監督:細田守
出演:藤田淑子、坂本千夏、風間勇刀、山口眞弓
20081126 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

鉄コン筋クリート

 原作の大ファンだというマイケル・アリアス監督が、スタジオ4℃の協力を得て制作した劇場用アニメ作品。松本大洋の映像化作品の中では文句なしのトップですし、近年の劇場用アニメの中でも出色の作品です。

 舞台となる“宝町”をカラスの視点で俯瞰する冒頭のシーンだけでも、もう感動で涙してしまうほど「鉄コン筋クリート」そのものの映像。原作通りというより、原作のイマジネーションをそのまま映画にしたらこうなった、という感じ。主人公たちの感情の揺れ動きに共感できるかどうかが肝の作品ですが、あえて妥協せず各キャラクターに言いたいことを言わせているのも良かった。よく練られた脚本と映像の上に、松本大洋作品の持つたくましさや奔放さがしたたかに乗っかっていて、奇跡のような2時間でした。
 くるくるよく動くキャラクターたちや、極彩色で独特の美術など絵の出来はもちろん最高。特に、もう一つの主役である“宝町”を、CGと手描きの両方を駆使して描いた技量には驚かされます。声優も、俳優の中でも舞台経験者を中心に選んでいるのでとても自然でした。

 原作モノは原作ファンに受け入れられないのがセオリーですが、この映画は自信を持ってお薦めできます。行き詰まりを感じさせることが多かった近年の日本アニメですが、この映画のセンスには可能性を感じました。

監督:マイケル・アリアス
原作:松本大洋
出演:二宮和也、蒼井優、伊勢谷友介、宮藤官九郎、大森南朋、納谷六朗、岡田義徳、本木雅弘
20081122 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

スカイ・クロラ

 ベストセラー作家森博嗣による異色のSF空戦小説を、押井守監督で映画化。原作のファンなので押井守監督なのは嬉しい反面、不安もありましたが、それなりに面白く仕上がっていると感じました。

 原作の持つ独特の浮遊感やもどかしい空気を、あえて感情を廃し淡々と描くことで表現した演出はさすが。空戦での自由自在なカメラワークも、実写顔負けの迫力です。この空中と地上との対比や、台詞を減らして画面で語るあたりから、作品のテーマがにじみ出てくるところが良かった。実はラストは原作と全く違うんですが、テーマが一貫しているので不思議と違和感はありませんでした。むしろ原作のテーマをうまく補っていると感じたほどです。
 美術やアニメーションは、正直手を抜いているなという感じ。反面、空戦の演出やCGは、それがやりたかっただけなんじゃないか、というほど見応えがあります。声では、草薙水素を演じた菊地凛子が浮いていたのが気になったものの、あとは概ね合ってました。細かい所ながら、通信など英語でやりとりするところがとても自然な発音で、ちょっと感心。主題歌は思わず吹き出すほど下手な発音でしたが……。

 もともと掴み所のないテーマですしカタルシスもない物語なので、見終わって考え込むような映画なんですが、逆に言えば原作のそういうところを上手く映像化していたと思います。攻殻機動隊みたいに、OVAで残りの原作も映像化してくれたら文句なしなんだけどなあ。

監督:押井守
原作:森博嗣
出演:加瀬亮、菊地凛子、谷原章介、栗山千明、大塚芳忠、平川大輔、竹若拓磨、麦人、山口愛
20081118 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

レッドクリフ Part I

 ジョン・ウー監督が、製作費100億円をかけて三国志の有名なエピソード「赤壁の戦い」を描いた2部作の前半。大作なのに中国映画ならではの大雑把さもあったりして、とても魅力的な映画でした。

 壮大な合戦シーンを迫力の映像で描いているのがこの映画最大の見所。映像的にはリアルさを追求しつつ、関羽や張飛といった名将たちの人間離れした活躍ぶりもあったりと、良い意味でのいい加減さが映画全体の牽引力になっています。ストーリーは「三国志演義」をベースにかなりアレンジしてあり、むしろ三国志の名場面詰合せみたいなところもあるので、それを認められるかどうかで評価は大きく分かれそうです。
 俳優では、何といってもトニー・レオン目当てだったので、彼の困った顔が見られただけでも大満足。金城武の孔明は格好良すぎるぐらい。あと、孫権を演じたチャン・チェンも、視線に力があって良かった。

 個人的には、後半の陣形で戦うところは大爆笑でした。そういう楽しみ方で良いという方にはオススメ。ハリウッドではあまり活躍できなかったジョン・ウー監督ですが、故郷へ戻ってやりたい放題やっているな、という印象です。うるさい批評家の意見なんかに耳を貸さずに、このまま自分の理想に向かって驀進してほしいところ。後編も楽しみです。

監督:ジョン・ウー
出演:トニー・レオン、金城武、チャン・チェン、チャン・フォンイー、リン・チーリン、フー・ジュン、中村獅童、ヴィッキー・チャオ
20081115 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

めいとこねこバス

 三鷹の森 ジブリ美術館でのみ上映される、宮崎駿監督による14分の短編アニメ。「となりのトトロ」の後日談的な内容で、映像自体は生き生きとしているのに、心の底から楽しめる内容ではありませんでした。
 前半の“こねこバス”との邂逅までは良い。こねこバスのいかにも小動物な動きや、ふさふさした毛並みなどはさすがジブリと唸らされる作画もあって楽しめます。しかしそこから先、話が無駄に大きくなってしまい、暗示的になっていくところで興ざめ。これはトトロの世界観とも違うような気がするんですが、どうなんでしょう。

 近年の宮崎アニメは話を大きくしすぎて、小さな感動を忘れているような気がします。新しいことにチャレンジするのも良いんですが、もう昔のような宮崎アニメは作られないのかも、と思うと残念しきり。

監督:宮崎駿
出演:坂本千夏、宮崎駿
20081112 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団

 イギリスの同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第5作。今回はTVドラマ業界出身の新鋭デヴィッド・イェーツ監督を起用し、堅実ながらも楽しめる作品になりました。

 非常に長い原作をどうまとめるかがこのシリーズの悩みの種ですが、今回は敵役ドローレス・アンブリッジに関するエピソードを中心に抽出することで違和感を抑え、かえって原作よりメリハリのあるストーリーになっていると感じたほど。その影響で原作からアレンジされた点がちょっと気になるものの、まあ不可抗力でしょう。登場人物の心の機微を描き切れていないのは今回も同じですが、じっくり描写しているシーンもあり、総じてツボを心得ていたな、という印象です。
 イメルダ・スタウントンは、憎たらしいドローレスそのままの存在感で良かった。ゲイリー・オールドマンについては言わずもがな。あと、やっぱりイギリス人監督はイギリスらしい風景を撮るのが巧いですね。今回はロンドン市街も登場するので、特にイギリス人の観客は嬉しかったんじゃないでしょうか。

 “読者と一緒に成長する物語”なので、登場人物も成長するし、物語も政治性を増していくというところが、他のファンタジー作品にない魅力なのでしょう。巻を重ねるごとに重厚になる原作の雰囲気を、よく反映した映画だと思いました。相変わらず細かい説明は原作任せですが、原作を読んでるのが前提みたいなシリーズなのでそれは構わないのでは。次回もイェーツ監督の続投ということで、これも期待です。

監督:デヴィッド・イェーツ
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、イメルダ・スタウントン、マイケル・ガンボン、マギー・スミス、アラン・リックマン、ロビー・コルトレーン、デヴィッド・シューリス、ゲイリー・オールドマン、ヘレナ・ボナム=カーター、レイフ・ファインズ
20081109 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

パンズ・ラビリンス

 ギレルモ・デル・トロ監督が、スペイン内戦を背景に描くダーク・ファンタジー。印象的なシーンは多いものの、今ひとつ消化不良でした。

 主人公オフェリアが、様々なストレスから空想の世界に囚われていくのが本題かと思ったら、むしろそのストレスの一因である内戦に重点を置いてしまったため、対比としての空想世界がおざなりになってしまいました。さらにオフェリアの心情描写も全て召使いのメルセデスの過去と重ね合わす演出で、まるでメルセデスが主役のよう。空想世界の異形たちはとても魅力的で、いろいろ曰くがありそうなだけに、まずオフェリア自身の描写に力を注いでほしかった。
 カメラワークや美術は凄い。あと、複数の異形を演じたダグ・ジョーンズの“らしさ”もこの映画の魅力の一つでしょう。メルセデス役のマリベル・ベルドゥは、どこかで見たと思ったら「天国の口、終りの楽園。」の女性なんですね。情熱を内に秘めた表情が良かった。

 多少ちぐはぐな内容ではありますが、昨今の子供向けファンタジーの隆盛に異を唱えた内容は、十分意義があると思います。映像的には見る点も多いので、ファンタジー好きの方なら是非。

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:イバナ・バケロ、マリベル・ベルドゥ、セルジ・ロペス、ダグ・ジョーンズ
20081106 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

魍魎の匣

 京極夏彦による人気ミステリ小説シリーズの映画化第二弾。前作完成後に逝去した実相寺昭雄に代わり、実力派の原田眞人が監督になったものの、作品自体はどこかちぐはぐになってしまいました。

 前作のような膨大な台詞を廃止して原作の要所要所を抽出したシナリオは、なかなか練り込まれていて特に前半は期待させられます。しかし後半になるにつれてスケール感が落ち、最終的にはドラマがどこに落ち着きたいのか分からないまま映画が終わってしまいました。黒木瞳をヒロイン扱いしたかったんでしょうが、久保竣公の存在意義より美馬坂幸四郎の美学をテーマに持ってきたら、この話をここまで長々とやる意味がありません。
 昭和初期の東京を再現するための上海ロケは、水路など東京らしくない風景も多く、一長一短だったようです。急病で降板した永瀬正敏の代役の椎名桔平も、貫禄がありすぎて関口クンらしく見えないのが残念。ただ堤真一の京極堂は相変わらずハマリ役。あと田中麗奈の中禅寺敦子も前回より似合ってました。

 原作モノの映画化という場合、原作のテーマを再現するのか、もっと別のテーマの元に物語を再構築するのかという二者択一があると思いますが、今回はそのどちらにも焦点を絞り込めなかった印象です。前作からの脱却という課題もあったんでしょうが、それで映画自体を見失っては本末転倒のような。

監督:原田眞人
原作:京極夏彦
出演:堤真一、椎名桔平、阿部寛、宮迫博之、田中麗奈、黒木瞳、マギー、荒川良々、篠原涼子、宮藤官九郎、柄本明
20081103 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ノーカントリー

 コーマック・マッカーシによる犯罪小説「血と暴力の国」を、コーエン兄弟監督が映画化した重厚な犯罪映画。サスペンスがメインと思わせておいて、もっと深いところにテーマのある傑作です。

 今回のコーエン兄弟は、これまでのような精緻なプロットをあえて捨てて、アントン・シガーの圧倒的な暴力と、それに直面してしまった人々の反応に焦点を絞っています。そこには人々の生と死に対する価値観が見えるだけで、犯罪映画に期待されるようなサスペンスはありません。しかし、ひたすら静かに進んでいくストーリーの中で、様々な人生を目の当たりにするというのは、これまでのコーエン作品で最も重要な要素であり、そこだけを抽出した結晶のような純粋さこそ、この映画の本質なのでしょう。
 カメラや編集については、あまりに的確で言うことはありません。この安定感もコーエン兄弟作品の魅力です。俳優で印象的なのは、やはりなんといってもシガー役のハビエル・バルデム。また、原作者の友人だというトミー・リー・ジョーンズの老保安官ぶりも様になっています。

 観る前は「ファーゴ」のような話かと思いましたが、観た後の印象はむしろ「ビッグ・リボウスキ」に近い感じでした。これまでのコーエン作品の集大成と言えるのでは。

監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
原作:コーマック・マッカーシー
出演:トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン、ウディ・ハレルソン、ケリー・マクドナルド
20081031 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

デス・プルーフinグラインドハウス

 タランティーノ&ロドリゲスが、かつての“グラインドハウス”映画にオマージュを捧げた二本立て作品のうち、タランティーノの監督したカーチェイス・ホラーを再編集した完全版。余裕すら感じるタランティーノの映画センスに脱帽です。
 完全にフレーミングを間違えているカメラ、露出過多の照明、尺を長くするだけの不必要な会話シーン、無駄に本格的なカーアクション、そしてあのラストなどなど、低予算映画にありがちな要素をふんだんに盛り込みつつ、本当にグダグダなB級映画に仕上げています。しかも悪役にかのカート・ラッセルを選び、スネーク・プリスキンばりの黒ずくめをさせる懲りよう。B級映画はあくまでB級映画なんだという、開き直りにも似た誇りを感じました。三池監督がタランティーノのうるさい解説付きで観たように、何人かでワイワイ観るのが楽しそうですね。

 女の子の会話がリアルなのは驚きでした。女体のエロさと音楽の良さも相変わらずで、やっぱりタランティーノは最高の映画オタクだと再確認。B級かぶれをウザいと思わない方にはオススメです。

監督:クエンティン・タランティーノ
出演:カート・ラッセル、ロザリオ・ドーソン、ゾーイ・ベル、、シドニー・タミーア・ポワチエ、ローズ・マッゴーワン、クエンティン・タランティーノ
20081028 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -