★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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バスケットボール・ダイアリーズ

 ジム・キャロルの原作を元に、ニューヨーク下町に住む少年の荒んだ日々を描いた青春映画。レオナルド・ディカプリオの演技力が見所。
 原作者の実体験を反映させたという物語は、かなりショッキングで重みがあります。あまり目立ちませんが凝った演出もあり、青春ドラマとして説得力を感じました。そして、物語を一層引き立てているのがディカプリオの存在。ちょっとクサい演技なんですが、ドラッグにはまるところとか独白のシーンなど、ついつい引き込まれる熱演です。あまりの力の入れように、他の登場人物との差が開きすぎてしまったのが残念と言えば残念。それだけにディカプリオのファンにはたまらない内容でしょう。

 ドラッグの恐怖と、そこからの克服を丁寧に描いているあたりは好感が持てました。今観るとさすがに古い映画だと感じるものの、ドラッグ映画として外せない一本なのでは。

監督:スコット・カルヴァート
原作:ジム・キャロル
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブルーノ・カービイ、ロレイン・ブラッコ、マーク・ウォルバーグ、ジュリエット・ルイス
20060417 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

 僅か18歳の大学生による原作小説を映画化した、ニック・ハム監督によるサスペンス・ホラー。見終わった当初はラストに納得できずに困惑したのですが、考えるうちに侮れない物語なのだと思い直しました。

 とにかく主人公リズの屈折した思考が面白く、その微妙な心の動きを演じきるソーラ・バーチに驚かされます。シナリオはかなりブラックで、その中で最後まで現実感を持とうとしない主人公の“浮きっぷり”がやけにリアル。事件をショッキングに扱うことなく、それが起きてしまった状況を当事者の視点で綿密に描いているのも、リズが決して“異常者”ではなく、一般人である観客も何かのきっかけでリズのような行動を起こすかもしれない(もしくは、そういう行動を起こしてもリズのように平然としていられる)という主張なのでしょう。
 部分部分でおかしな演出があるので、そこまで監督が考えていたのかどうかは疑問ですが、少なくともリズを演じたソーラ・バーチからはそういう主張が汲み取れて、見終わってからゾッとしました。あのリズの笑顔が、今でも記憶の奥底にこびりついています。

 状況に応じてセットを作り替えるなど、美術もなかなかの凝りよう。映像的に格好付けすぎの印象もありますが、適度に刺激的で、映画の質には合ってるかと。特に最後の方の、闇を感じさせる「怖い」演出は絶妙。サスペンスとしてよりは、ダークな青春映画として楽しめるかと。

監督:ニック・ハム
原作:ガイ・バート
出演:ソーラ・バーチ、デズモンド・ハリントン、ダニエル・ブロックルバンク、エンベス・デイヴィッツ、キーラ・ナイトレイ
20060412 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ゴーストワールド

 ダニエル・クロウズの人気コミックを、「クラム」のテリー・ツワイゴフ監督で映画化。「ダメに生きる」というキャッチコピーからして僕のツボに響きまくりで、とても印象的な青春映画でした。

 主人公の、達観しているのかただの幼さなのか判別の付きにくい行動が、現代的でとても共感出来ます。登場人物の性格設定があまりにバラバラなのも妙にリアル。みんなどこかに実在していそうで、誰もが主役になりうるだけの重さがありました。しかし映画では、主人公イーニドの純粋で妥協しない性格に代表される”他人との距離”に絞ってエピソードが積み重ねられていて、そのさりげなさが絶妙でした。寓話的なラストも、作品のムードに合っています。
 とにかく、社会に出なきゃいけないのに、自分と社会との大きな溝を克服出来ずに悩んでしまう、その心境を痛々しいまでに描写していて、身につまされました。社会に溢れる「普通」という考え方を、子供の頃は嫌悪していたのに、どうしてそれに迎合してしまうんだろう、という問題提起があまりに切実。青いって良いなあ。

 主演のソーラ・バーチとスティーヴ・ブシェミの掛け合いが、楽しいのにもの悲しい。これぞまさにミニシアター系の醍醐味です。青春は美化されがちだけど、要するにアレはガキがはしゃいでるだけで、そのまま年だけ取るからバカな大人が増えるのよ(自分も含めて)、という映画です。そんなわけで、バカな大人必見。

監督:テリー・ツワイゴフ
原作:ダニエル・クロウズ
出演:ソーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンセン、スティーヴ・ブシェミ、ブラッド・レンフロ
20060303 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アイデン&ティティ

 みうらじゅんの同名コミックを、氏の盟友田口トモロヲが監督した青春バンド・ムービー。主演の峯田和伸の説得力ある演技のおかげで楽しめました。

 この手のジャンル映画としては非常に典型的な内容なものの、ボブ・ディラン風の”ロックの神様”がアクセントになっていて飽きさせません。反則くさいんですがディランの詞を引用したりして、ロックファンは堪らないのでは。そして主演の峯田和伸を始め、バンド経験者中心に選ばれた出演陣も良い。商業主義とポリシーとの板挟みになって悩むなんてあまりに定番な話であっても、実際にバンドやってる連中が演じるんだから説得力あるわけです。
 ストーリーがあまりに直球なのと、僕自身バンド経験者じゃないのもあってそれほど心には響かなかったんですが、バンドやってたらまた感想も違ったかも知れません。しかし宮藤官九郎の脚本は、相変わらず何か足りない感じがします。キレイに収まりすぎで。

 ちょっとずつ顔を出す(おそらく音楽関係の)有名人も見物。浅野忠信は相変わらずですが、ボカスカジャンの扱いはハラハラさせられました。とりあえず、青臭いロックに共感できる人と、ディランで無条件に泣ける人なら観て損はないかと。

監督:田口トモロヲ
原作:みうらじゅん
出演:峯田和伸、麻生久美子、中村獅童、大森南朋、マギー、コタニキンヤ、岸部四郎、大杉漣、あき竹城、塩見三省
20060223 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ピンポン

 曽利文彦監督による、松本大洋の同名コミックの映画化作品。ストレートなスポ根もので、それだけに単純で楽しめる映画に仕上がっています。

 曽利監督はCG畑出身の方だそうですが、専門分野をあえて前面に出さない題材選びが大正解。もともと原作自体、松本大洋の芸術性をスポ根の隠れ蓑に包んでいたおかげで大衆性を獲得していたので、そういう意味では漫画も映画も同じ方向性と言えるのでは。ほぼ原作通りながら、ところどころ映画独自の演出をからめた脚本も効果的でした。
 窪塚洋介のキャスティングには半信半疑でしたが、観てみればそれほど違和感はありません。ARATAも、ちょっと格好良すぎるけどそれはそれで。中村獅童と大倉孝二は原作と互角。竹中直人と夏木マリはお遊びの観はありますが、原作のイメージはきっちり引き継いでいます。原作未読者にも希求できる明快なキャラクター分けと物語が健在なので、映画単体でも楽しめる、良質なエンタテイメントに仕上がったのでしょう。

 突き抜けた面白さではないんですが、このところ誰でも楽しめる日本映画が少ないので、分かりやすい映画は大歓迎。こういう嫌味のない日本映画がもっと増えてほしいなー、と。あとは、原作に頼らないオリジナルの企画がほしいところですね。映画にすると、どうしても原作の内容が薄まってしまうので…。

監督:曽利文彦
原作:松本大洋
出演:窪塚洋介、ARATA、中村獅童、サム・リー、大倉孝二、夏木マリ、竹中直人
20060212 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ガレージ・デイズ

 アレックス・プロヤス監督が、馴染みのあるオーストラリアで制作した青春映画。あるバンドに集まった若者たちの悲喜交々を丁寧に描いていて好感が持てます。

 バンドにまつわるトラブルが女性関係メインだったり、有名音楽プロデューサーとコネを作ろうと躍起になったりするイタい内容を、さらに本人達の目線で描いているので恥ずかしいぐらいですが、こういうのも初々しくて良いかも。相変わらず映像と音楽に対する作り込みは一級品で、かつ音楽映画という題材にマッチしています。主人公達のファッションも説得力がありました。主人公のオレ語りと、青春映画らしく他愛もないことで怒鳴りすぎるのには流石に辟易しましたが、どこかトボケた感じのキャラクターで救われているのでは。
 非常に他愛のない話で、最後にまとめすぎてしまった感もありますが、ハリウッド映画にはない色彩に溢れた青春映画でした。バンド経験者なら赤面してしまうぐらいの赤裸々さなので、そっち方面で思い出したくない過去がある人が観たら効果てきめんなのでは。あと、エンドロールが楽しいことになっているので、是非そちらもお楽しみに。

監督:アレックス・プロヤス
出演:キック・ガリー、マヤ・スタンジ、ピア・ミランダ、ブレット・スティラー、ラッセル・ダイクストラ、アンディ・アンダーソン、マートン・ソーカス
20060123 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

青い春

 松本大洋の同名コミックを映画化した青春映画。原作中の「しあわせなら手をたたこう」を中心に構成しつつも、他のエピソードをちりばめた内容になっています。原作のファンなので期待していたんですが、原作の趣旨を完全にはき違えている、と感じました。

 あくまで私感ですが、原作は若者達の行動をドラマチックに描きつつも、肝心の若者自身の思考はとことん無気力で無目的で無計画に描いているところが重要であり、第三者には無為としか見えない「未熟ゆえのエキセントリックさ」を描き出しているのが最大の魅力だと思うんですが、それが映画では「若者の衝動と苦悩」という立派なテーマに置き換えられ、悩める若者を情緒豊かに描いているのです。おかげで、今の若者が「自分はちゃんと考えて生きているんだ」と疑いもなく信じているような気がして怖くなりました。
 ただし全てが駄目というわけでもなく、面白い演出が多かったのも事実。学校の冷たい空気なんかは良く出ています。主演の松田龍平を始めとして、出演している若手俳優の質も良かった。

 普通の「青春感動エンタテイメント」を期待する人なら楽しめるのでは。ただ原作ファンには微妙。原作からシチュエーションだけ貰った、全く別の映画だと思わないとダメです。うーん。

監督:豊田利晃
原作:松本大洋
出演:松田龍平、新井浩文、高岡蒼佑、大柴裕介、山崎裕太、忍成修吾、KEE
20051013 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

天国の口、終りの楽園。

 アルフォンソ・キュアロン監督によるロードムービー。モノローグを多用したごく普通のロードムービーと思わせておいて、計算されたシナリオであることが見終わって分かる構成になっています。

 全編ハンドカメラでの不安定な映像で、数多のインディーズ映画のように地味になりそうでいて、メジャーに負けない画面の強さがありました。一度メジャー作品を経験している監督の強みなのでしょうか。現代の若者像がリアリティを持って描かれているのが新鮮。言葉で言うと簡単ですが、それが出来ている映画というのは初めて観たような気がします。
 ただ、性描写がかなりきついので、そういうのが駄目な人は遠慮しましょう。その辺や、ドラッグ関係を手加減しないあたり、個人的には好感が持てましたが。特にこの主人公たちの年頃って、セックスに対して非常に貪欲な時期で、それを直接的に描いたことがこの映画の功績の一つだと思うのです。そういう時期を経て次第に大人になっていく少年二人と、それに深く関わることになった一人の女性の、とても切ない物語でした。

 ロードムービーを観たことのない人に、特に観てほしい良質の作品。見終わったあとはコロナビールが飲みたくなること請け合いです。

監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ、マリベル・ヴェルドゥ
公式サイト
20051001 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -