★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ボーン・アイデンティティー

 ロバート・ラドラムの原作をマット・デイモン主演で映画化し、大人気を博したアクション・サスペンス作品。演出とストーリーがちぐはぐで、何をやりたいのか分からない内容でした。

 設定はいかにも冷戦後のサスペンス作品にふさわしく興味をひかれましたが、演出が今ひとつで入り込めません。ハンディカムで遠景から撮るのはテーマに合っていますし画的にも面白くなりますが、あまりにそればかりだと単調になってしまいます。カットバックも考えて使っているようには見えません。物語は、導入部こそ良かったものの、後半は90年代のハリウッド映画に逆戻りですっかり飽きてしまいました。配役でも、マット・デイモンは役柄にイマイチはまっていないし、フランカ・ポテンテは単純なヒロイン像を演じさせされていて、とにかく全てが勿体ないという印象です。
 そもそも暗殺者という設定が時代遅れなので、リアリズムを追求したことでかえって非現実さが強調されてしまったのでは。単純なアクション映画として観るなら楽しめるかもしれませんが、それならもっと頭の悪そうな作品の方が、まとまりがある分まだマシかもしれません。

監督:ダグ・リーマン
原作:ロバート・ラドラム
出演:マット・デイモン、フランカ・ポテンテ、クリス・クーパー、アドウェール・アキノエ=アグバエ、ブライアン・コックス、クライヴ・オーウェン
20110523 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ショーン・オブ・ザ・デッド

 本国イギリスで大ヒットを記録し、ホラー・コメディの新たな可能性を切り開いたカルト的作品。ブラッカイマー映画のような手法でゾンビ映画をパロディしまくる内容はインパクトがあります。

 素早いカットバックやスローモーションを用いた現代風の演出で、ひたすらしょーもないパロディを繰り出す作風は確かに新鮮。ただ、あまりに同じ演出と間抜けな展開が続くので、観ているこっちが息切れしてしまいます。そのせいか後半に出てくるシリアスな展開も、なんとなく上滑りしてしまって楽しめませんでした。こういう展開ならコメディの比重を少なくして、シリアスの中にコメディが混ざってるぐらいが丁度良かったかもしれません。
 僕でも分かるパロディがちょこちょこあったので、ホラー映画に詳しい人なら、それぞれのパロディ元が分かって一層笑えるのかも。ホラー映画好きを自負する人なら、一度は観ておくべき映画かもしれません。

監督:エドガー・ライト
出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、ケイト・アシュフィールド、ディラン・モーラン、ビル・ナイ
20110507 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

宇宙戦争

 スティーヴン・スピルバーグがH・G・ウェルズの名作SF小説を現代風に映画化したスペクタクル作品。ドンパチやるだけの映画ならともかく、家族ドラマを前面に押し出したせいで妙なことになってしまいました。

 スピルバーグのドラマが苦手なのでいやな予感はしていましたが、やはり無駄に家族愛を強調されてしまったので、映画の内容とテーマが最後まで結びつきませんでした。原作に無いテーマなんだから原作のエピソードも無視してしまえばいいのに、それもしないため特に後半は不自然な展開になり、映画の軸がどこにあるのか最後まで分からずじまいでした。あとは原作でもオチが唐突すぎるので、いっそそこを上手く処理して本格SFにしてしまえば良かったのかも。
 この原作をこのキャストで撮りたい理由も分かりませんでした。そもそもトム・クルーズが主役というのが疑問。彼なら宇宙人でも何とかしてしまいそうなので、ただ逃げるばかりの展開に違和感を覚えました。ひたすら叫ぶだけのダコタ・ファニングも残念。スピルバーグ監督はリアリズムとエンタテイメントの融合ではなく、現実をほどよく無視した冒険ものの方が似合いそうです。

監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作:H・G・ウェルズ
出演:トム・クルーズ、ダコタ・ファニング、ティム・ロビンス、ジャスティン・チャットウィン、ミランダ・オットー
20110503 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師

 トニー賞を受賞したミュージカルをティム・バートン&ジョニー・デップのコンビで映画化。『スリーピー・ホロウ』とはまた違った雰囲気のホラーですが、どこか消化不良に終わってしまいました。

 設定自体は良いのですが、肝心の物語に入り込めませんでした。全編を通して主人公の目標が不明瞭なままで、復讐と言いつつかなり回りくどいことをやっているようにしか見えないので、物語がぼやけたまま。ミュージカルシーンも唐突で、かえって雰囲気を壊しています。話の収束のさせ方も、脇役達の扱いがあまりに中途半端。ただ中盤の容赦ないグロテスク演出は思い切っていて良かった。
 ジョニー・デップは今回もコミック・アクターとしての才能を見せつけていますが、オッサンぽさが見えてしまってもう一つ魅力を感じません。一方で、バートン作品初登場のアラン・リックマンの存在感はさすが。サシャ・バロン・コーエンのコミカルな演技も印象に残りました。

 リアルとコミカルのどちらかに焦点を絞れれば、もっと説得力のある映画になっていたのかも。人がどんどん殺されていく場面をミュージカル形式で、という発想自体は素晴らしかっただけに、悔いの残る作品です。

監督:ティム・バートン
原作:スティーヴン・ソンドハイム、ヒュー・ウィーラー
出演:ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アラン・リックマン、ティモシー・スポール、サシャ・バロン・コーエン、エド・サンダース
20110429 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

カラフル

 森絵都による原作小説を、映画クレヨンしんちゃんシリーズで名を馳せた原恵一監督が再映画化。やりたいことは分からなくもないんですが、その手法を疑問視したくなる内容でした。

 観終わっての第一印象としては、とにかく全てがダサかった。特に主人公の家庭が抱える問題が物語の重要な要素なのに、その描き方が中途半端なものなので、登場人物の苦悩も他人事にしか思えませんでした。細かい描写を積み重ねて事実の大きさを実感させるのではなく、言葉で全て説明しようとしたのが一つの要因でしょう。
 同様に、アニメーションとしての気持ちよさも作品からは見られませんでした。映画全体を落ち着いたものにしようとしたのか、人々の動きやカット割りなどがとてもスローですが、登場人物がアニメーション的に描き分けられていないので、ただ退屈なだけになっています。唐突に入る音楽も場違いだし、玉電のくだりもテーマとの関係は薄い。全体に、センスに疑問を感じる作品でした。

 リアルさ重視のアニメほど「アニメでやる理由」が問われると思いますが、この映画はそれに対する回答が皆無でした。今時の中学生の感情を通して普遍的なテーマを描きたいのなら、やはり実写でやって欲しかった。
 あと、余談ですがTVCMでオチのネタバレをされたのも悪印象に一つ買っています。核心を言わなくても、その直前の台詞を言われたら普通わかりそうなものなのに。結果それ以上の何かがある、と期待してしまったので、最後の10分は白けてしまいました。そういうマーケティングも含めて、とても残念な作品です。

監督:原恵一
原作:森絵都
出演:冨澤風斗、宮崎あおい、南明奈、まいける、麻生久美子、高橋克実
20110415 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

アリス・イン・ワンダーランド

 あのティム・バートン監督が、ルイス・キャロルの名作児童文学を念願の映画化。しかし、監督の意気込みが妙な方向に先走ってしまった印象です。

 成長したアリスが再び不思議の国を訪れるというアプローチは良いんですが、「今度は戦争だ!」のような展開は僕のイメージするアリス像とかけ離れていて入り込めませんでした。アリスの成長物語も取って付けたような浮き具合だし、赤と白の勢力の対立も無理矢理な印象。赤の女王の動機付けがしっかりしていればまだ我慢できたかも知れませんがそれもなく。最後のまとめ方も大雑把だし、人物の描写以前の問題です。
 俳優の演技もCGのおかげであまり楽しめず。しかしヘレナ・ボナム=カーターの女王様ぶりはさすが。クリスピン・グローヴァーも微妙な役柄をしっかり表現していて感心しました。

 話題性だけは高いものの、脚本・音楽・美術・カメラワークなど映画の基礎部分にまとまりがなく、あまりの完成度の低さに観終わったときは唖然としました。バートンのアリスへの愛が大きすぎて、一本の映画には収まりきらなかったと思うことにします。

監督:ティム・バートン
原作:ルイス・キャロル
出演:ミア・ワシコウスカ、ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アン・ハサウェイ、クリスピン・グローヴァー、アラン・リックマン
20110325 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

魍魎の匣

 京極夏彦による人気ミステリ小説シリーズの映画化第二弾。前作完成後に逝去した実相寺昭雄に代わり、実力派の原田眞人が監督になったものの、作品自体はどこかちぐはぐになってしまいました。

 前作のような膨大な台詞を廃止して原作の要所要所を抽出したシナリオは、なかなか練り込まれていて特に前半は期待させられます。しかし後半になるにつれてスケール感が落ち、最終的にはドラマがどこに落ち着きたいのか分からないまま映画が終わってしまいました。黒木瞳をヒロイン扱いしたかったんでしょうが、久保竣公の存在意義より美馬坂幸四郎の美学をテーマに持ってきたら、この話をここまで長々とやる意味がありません。
 昭和初期の東京を再現するための上海ロケは、水路など東京らしくない風景も多く、一長一短だったようです。急病で降板した永瀬正敏の代役の椎名桔平も、貫禄がありすぎて関口クンらしく見えないのが残念。ただ堤真一の京極堂は相変わらずハマリ役。あと田中麗奈の中禅寺敦子も前回より似合ってました。

 原作モノの映画化という場合、原作のテーマを再現するのか、もっと別のテーマの元に物語を再構築するのかという二者択一があると思いますが、今回はそのどちらにも焦点を絞り込めなかった印象です。前作からの脱却という課題もあったんでしょうが、それで映画自体を見失っては本末転倒のような。

監督:原田眞人
原作:京極夏彦
出演:堤真一、椎名桔平、阿部寛、宮迫博之、田中麗奈、黒木瞳、マギー、荒川良々、篠原涼子、宮藤官九郎、柄本明
20081103 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

接吻

 現代日本の焦燥感を描ける数少ない監督として一部に人気の万田邦敏による、異色の恋愛映画。やりたいことは分かるんですが、脚本が分裂気味。

 細かい矛盾は映画の本筋とは関係ないので目を瞑るとしても、肝心の“接吻”の意味が分からない。解説やインタビューでは“理屈ではなく感情的なもの”と解説されていたので、感情で理解できなかった僕には評価しかねます。本編中には他にも良いシーンはあるものの、どこか型にはめようとして、映画自体の流れがおかしくなっている印象を覚えました。
 しばらく考えて出た結論は、この映画は仲村トオル視点で成り立っている話なんだということ。彼の主観であればある程度納得のいく話なんですが、カメラワークで小池栄子の主観を演出してしまったため、映画が空回りしているのではないかと。ここで食い違ってしまったので、理屈と感情がちぐはぐになってしまったのだと思います。

 冒頭の、殺人に至るまでのシーンは凄い。ここだけ巧いなーと思ったら、ここだけ監督自身の脚本なんですね。いっそ全部監督が脚本してくれれば良かったのに、と思ってしまいました。

監督:万田邦敏
出演:小池栄子、豊川悦司、仲村トオル、篠田三郎
20081015 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

サンシャイン2057

 すっかりハリウッド色が強くなったダニー・ボイル監督によるSFサスペンス。ストーリーより映像に力が入っちゃうあたりも相変わらずでした。

 SFというのは科学的かつ哲学的な骨子が重要である点でファンタジーやホラーとは一線を画していると思うのですが、この映画は極限状態のみに焦点を絞っていて、科学的な意味でのカタルシスが脇役になっています。それを良しとするかどうかで評価が分かれそうですが、僕は不満でした。ラスト付近のアプローチは面白いものの、その背後に哲学性が感じられないのは、過去の名作をなぞることにに力を注ぎすぎたからかもしれません。
 俳優では、「28日後…」から続いて出演のキリアン・マーフィーが期待に違わずフェロモンをふりまいていましたが、映画としてはかみ合っていないような。唯一良かったのは映像。宇宙空間の広大さと崇高さをここまでリアルに描いた作品は、近年珍しいのではないでしょうか。

 7年前に消息を絶った宇宙船という設定から「クライシス2050」を連想する方も多いのでは。図らずもこの映画は、それと似た印象ばかり覚えました。

監督:ダニー・ボイル
出演:キリアン・マーフィ、ミシェル・ヨー、クリス・エヴァンス、真田広之
20081007 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ダークナイト

 旧シリーズとは一線を画した、クリストファー・ノーラン監督による人気ダーク・ヒーロー映画の第二弾。映画史上に残る大ヒットを飛ばしたものの、作品としては空疎そのものでした。

 なんと言っても今回の目玉であるべきジョーカーについての掘り下げがお粗末すぎます。彼が何故ジョーカーのメイクをし、狂人のような行動をするのかについて殆ど語られないばかりか、数少ない解説も冗談めかして話すだけという演出では、ジョーカーがただの頭の弱いチンピラにしか見えません。見せ場であるべき犯罪行為の数々も、単に理不尽なテロ行為というだけで、狂気やウィットを感じさせる「ジョーカーらしい犯罪」になっていないという点も耐え難いところです。
 脇を固めるトゥーフェイスの方が、動機も葛藤もきちんと描けていて悪役として魅力的なだけに、ただ出てきては話をかき混ぜるだけのジョーカーを中心に話を構成したのは失敗でしょう。同じくバットマン=ブルース・ウェインが、現実に立ち向かえずに逃げてるだけの弱虫にしか見えないというのも脚本のミス。その他にも個々のエピソードに決着をつけないまますぐ次の話題へと移る展開など、脚本のセンスを疑う箇所が多々ありました。

 一応アクションに多くの時間を割いている映画なのに、演出が10年前からまったく進歩せず、かつ分かりにくいというのも致命的。音楽とカット割りで誤魔化していますが、見れば見るほど白けてしまいます。俳優では、ゲイリー・オールドマンの彼らしからぬ落ち着いた演技や、アーロン・エッカートのいかにもアメリカン・ヒーローといった佇まいが目を引きました。ジョーカー役のヒース・レジャーも頑張っている印象ですが、演じる役自体に魅力がないのが残念。

 趣味の問題と言われればそれまでなんですが、ここまで欠点だらけの映画を他の人がどう楽しんでいるのか、僕には想像できません。ノーラン監督は、初期作品の頃からの「セリフだけで説明した気になってる」という弱点をそろそろ直さないと、どこかで大コケしそうです。

監督:クリストファー・ノーラン
出演:クリスチャン・ベール、ヒース・レジャー、アーロン・エッカート、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマン、モーガン・フリーマン、マギー・ギレンホール
20080918 | レビュー(評価別) > ★ | - | -