★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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アタメ

 特殊な愛の形を描いた、ペドロ・アルモドバルらしいラブストーリー。アントニオ・バンデラスの一途な変態ぶりが楽しめる異色作です。
 ストーカーに監禁された女性が、いつしかそのストーカーに心を寄せてしまう……という筋書きはありがちですが、それを細やかな心理描写で綴るのではなく、突飛な登場人物とユーモラスな映像感覚でねじ伏せていて、不思議と説得力がありました。まだ20代後半のバンデラスも、暴力的に描かれているものの、どこか子供っぽくて愛嬌すら感じるほど。エンニオ・モリコーネによる音楽もムーディーなんですが、逆に上品すぎたかもしれません。

 もっと刺激的な内容を想像していましたが、比較的落ち着いて観られるもので安心しました。強烈なインセンスの香りのような、まったりとした高揚感があります。ただのエロスではなく、突き抜けたエロスという感じ。このアクの強さがアルモドバル監督作品の魅力なのでしょう。

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ヴィクトリア・アブリル、アントニオ・バンデラス、ロレス・レオン
20051214 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

キカ

 変態映画を撮らせたら右に出るものはいないペドロ・アルモドバル監督による、何でも有りの恋愛群像劇。サスペンスの要素もありますが、そんな物語の細部なんか吹っ飛ばすセンスの良さが最大の魅力です。

 とにかく平凡な人間が一人も登場せず、人間関係も最悪に複雑になる一方なので、物語中盤まではぐちゃぐちゃぶりを楽しむ映画かと思いましたが、それを終盤で見事に収束させたうえ、とんでもないところに着地させる構成に唸らされます。悲壮なシーンで笑わせながら、きちんと緊張させる場面もあるし、粗いながらもメリハリがしっかりしている映画という印象でした。
 主役のキカにあえてオバサン俳優を配していて、これがいやに色っぽかった。スペイン映画らしい極彩色の内装や、J=P・ゴルチエによる衣装も見どころの一つ。特にヴィクトリア・アブリルの着る過激なファッションは一見の価値有りです。

 ともあれ、理屈でどうこう言うより感じて楽しむ映画かと。それほどネチネチした描写もありませんし、後味も明るい、健全な変態博覧会という感じ。深夜にワインを飲みながら観ましたが、そのノリにぴったりの映画でした。

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ヴェロニカ・フォルケ、ピーター・コヨーテ、アレックス・カサノヴァス、ヴィクトリア・アブリル
20051211 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

乱歩地獄

 江戸川乱歩の怪奇小説4編を、4人の監督でオムニバス映画化。大満足とはいきませんでしたが、意欲的な実験作の空気を味わえたことと、実相寺乱歩の新作を楽しめたのは良かった。

 「火星の運河」音を消したのは面白いけど、その分スマートになりすぎた印象。お尻お尻ー。
 「鏡地獄」相変わらず実相寺の映像は乱歩に良く合います。特に今回は鏡で画面をコラージュしてやりたい放題。テロップのセンスも良い。あと成宮寛貴はエロいですね。監督が喜んで撮っているのが分かりました。
 「芋虫」普通のグロ映画。芋虫の特殊メイクはイマイチ、エロスもストレートで倒錯感は薄い。松田龍平は相変わらず良かった。
 「蟲」浅野忠信が生き生きしていました。ブリーフ最高! 緒川たまきも、妖艶という言葉が似合います。物語構成は凝ってますが、どうせならもっとハジけてほしかった。サイコだったけど乱歩らしさは薄いというか。ビジュアルは納得。

 構成が起承転結になっているせいか、135分という長い上映時間が全く気になりません。ただし全体にエネルギー不足で、実験映画としてもツッコミが足りず、乱歩という素材の偉大さばかりが意識されてしまいました。そういうところで思考の渦にはまってしまうところは「乱歩地獄」のタイトル通りなのかも。エログロナンセンスの乱歩世界を追体験するぐらいのつもりで観れば、充分楽しめます。

監督:竹内スグル、実相寺昭雄、佐藤寿保、カネコアツシ
出演:浅野忠信、成宮寛貴、小川はるみ、市川実日子、寺島進、松田龍平、岡元夕紀子、大森南朋、韓英恵、緒川たまき、田口浩正
公式サイト
20051126 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

バーバレラ

 ジャン=クロード・フォレストによるコミックを元に、1967に制作された不条理SFの傑作。映画としては破綻しまくっているんですが、ここまで凄いとかえって全てが許せてしまいます。

 他人から勧められて観たんですが、最初は勧めた理由が全く分かりませんでした。チープなのか芸術なのか判断の付きかねる美術、無駄なエロス描写、そもそもこれはSFなのかと疑いたくなる展開など、全てが過剰で意味不明。わけが分からず頭の中をシェイクされたような気分になりました。テンポもダルダルで欠伸が出ること必至ですが、そのサイケデリックな世界観は60年代という時代を如実に表しています。しかしバカだなあ…。
 セックス・マシーンの拷問シーンは必見。真面目に観るより、ちょっと下品な内装のカフェとかで流したらハマりそうな映画です。

監督:ロジェ・ヴァディム
出演:ジェーン・フォンダ、ジョン・フィリップ・ロー、マルセル・マルソー、ミロ・オーシャ、デヴィッド・ヘミングス
20051103 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

バッド・エデュケーション

 ペドロ・アルモドバル監督による自伝的ドラマ。相変わらずの欲望と倒錯の世界が、この映画でも展開されています。ガエルを観に行ったつもりが、フェレ・マルティネスの色気にすっかりやられてしまいました。

 物語自体はサスペンスとして良くできているんですが、肝心の主人公二人の境遇に切実さが感じられず、観ていてイマイチ入り込めませんでした。構成もあまり効果的じゃなかったような。サスペンス部分をわざと盛り上げようとして、肩すかしを食った感じです。せめてイグナシオの動機付けが、もう少し早い段階で説明されていたら納得できたかも知れないんですが……過去の神学校でのエピソードとか、惹きつけられる部分も多いだけに残念。
 監督の、やりたいことをやった! という勢いは感じられました。レトロでポップなアヴァン・タイトルや、これでもかというぐらい濃いセックスシーンも好きです。

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、フェレ・マルティネス
公式サイト
20050918 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -