★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ノーカントリー

 コーマック・マッカーシによる犯罪小説「血と暴力の国」を、コーエン兄弟監督が映画化した重厚な犯罪映画。サスペンスがメインと思わせておいて、もっと深いところにテーマのある傑作です。

 今回のコーエン兄弟は、これまでのような精緻なプロットをあえて捨てて、アントン・シガーの圧倒的な暴力と、それに直面してしまった人々の反応に焦点を絞っています。そこには人々の生と死に対する価値観が見えるだけで、犯罪映画に期待されるようなサスペンスはありません。しかし、ひたすら静かに進んでいくストーリーの中で、様々な人生を目の当たりにするというのは、これまでのコーエン作品で最も重要な要素であり、そこだけを抽出した結晶のような純粋さこそ、この映画の本質なのでしょう。
 カメラや編集については、あまりに的確で言うことはありません。この安定感もコーエン兄弟作品の魅力です。俳優で印象的なのは、やはりなんといってもシガー役のハビエル・バルデム。また、原作者の友人だというトミー・リー・ジョーンズの老保安官ぶりも様になっています。

 観る前は「ファーゴ」のような話かと思いましたが、観た後の印象はむしろ「ビッグ・リボウスキ」に近い感じでした。これまでのコーエン作品の集大成と言えるのでは。

監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
原作:コーマック・マッカーシー
出演:トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン、ウディ・ハレルソン、ケリー・マクドナルド
20081031 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女

 「シュレック」二作で一気に売れっ子になったアンドリュー・アダムソン監督による、超有名児童文学の映画化。ファンタジー映画の真打ちともいうべき完成度で、万人にお勧めできる大作に仕上がりました。

 児童文学の映画化作品が大流行の昨今において、単体の映画としても観賞に堪える作品は、実は初めてなのでは。台詞より映像で理解させる巧みな語り口で、原作未読者でも自然に物語に入っていけます。冒頭のロンドン爆撃など、原作にないシーンを挿入することで人物と世界に対する理解を深める手法は、映画というメディアを知り尽くした職人ならではの技でしょう。
 そして、ファンタジーの魅力が詰まった原作の世界観を、丸ごと再現した映像世界は圧巻。あくまで子供に語ることを念頭に置き、教訓的ながら押しつけがましくない示唆に富む物語は、キレイ事と言われればそれまでなんですが、子供にも大人にも想像力を磨くことの大切さをさりげなく説いています。トールキンに批判されたという“ファーザー・クリスマス”が堂々と登場するあたりは、子供のための物語を大人が占有することに対する強烈な反感を投げかけているようにすら感じました。

 カメラワークひとつとっても演出意図が明確で、基本的なことすらできていない昨今の大作系映画の中では出色。俳優陣も、地味ながらイギリス出身の実力派俳優を多数起用して厚みがあります。部分的に駆け足になるのが残念ながら、子供も大人も納得の作品といえるでしょう。何より、明るい色調のなかで魅力的な“物言う動物たち”が活躍する様は、映画ならではの喜びに満ちています。児童文学ファンなら、ぜひ。

監督:アンドリュー・アダムソン
原作:C・S・ルイス
出演:ウィリアム・モーズリー、アナ・ポップルウェル、スキャンダー・ケインズ、ジョージー・ヘンリー、ティルダ・スウィントン、ジェームズ・マカヴォイ、ジム・ブロードベント、リーアム・ニーソン、ルパート・エヴェレット
20060515 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ニルヴァーナ

 ガブリエレ・サルヴァトレス監督による近未来SF。「マトリックス」のような仮想空間SFですが、ゲームを起点にしていたり主人公の立場が逆だったりと、脚本の凝り方が面白いと感じました。

 こういう活劇系のSF映画は、どうしても派手なアクションや場面転換で作品のテーマをぼやかしてしまうことが多いんですが、この作品は派手な演出に偏重しすぎていないところで好感が持てました。登場人物も異様な設定であるものの魅力的。ゲーム画面と現実世界の描き分け方も、色の使い方や特殊効果にセンスを感じました。
 ただ、やはりテーマがテーマなだけに語り尽くされている感は否めません。何故ゲームのキャラクターが意志を持つのか、という原因付けが唐突。映像も凝っている割に粒子が粗すぎて、何をやっているのか分からないところがあって残念でした。ともあれ、ヨーロッパ映画らしい考察を含んだ、サイバーパンク作品としては注目すべき点のある映画なのは確かです。

 主演のクリストファー・ランバートは例によって例のごとく。ヨーロッパ系映画には欠くことの出来ないアクションスターという感じ。日本文化の品々が色々に出てくるのも、日本人としては楽しいところでした。

監督:ガブリエレ・サルヴァトレス
出演:クリストファー・ランバート、ディエゴ・アバタントゥオーノ、セルジオ・ルビーニ、ステファニア・ロッカ
20060127 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

28日後...

 ダニー・ボイル監督ならではのスタイリッシュな映像で描かれたゾンビ映画(厳密にはゾンビとは違いますが)。この手の映画としては定番のストーリーですが、しっかり楽しめる現代風のホラーになっています。

 ダニー・ボイル監督の強みは、ワンカットごとの説得力が尋常じゃないことでしょう。映像の強みを良く理解している人で、無人のロンドンや封鎖されたハイウェイを少ないカットで臨場感たっぷりに描き出し、チープになりそうな物語を巧く引き締めています。ロメロ版のゾンビを観た人なら既視感が伴う要素ばかりで、テーマらしいテーマもありませんが、その映像のおかげで最後まできっちり楽しめました。
 しかし主演のキリアン・マーフィーが格好良かった。弱々しい演技も狂気に満ちた暴走ぶりも様になっています。久々にダニー・ボイルらしい映像も楽しめましたし、収穫の多い映画でした。

監督:ダニー・ボイル
出演:キリアン・マーフィ、ナオミ・ハリス、クリストファー・エクルストン、ミーガン・バーンズ、ブレンダン・グリーソン
20051212 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ノッティングヒルの恋人

 ロジャー・ミッチェル監督による、「ローマの休日」そのままなラブ・ストーリー。隅から隅までどこかで見たような感じのする内容ですが、きちんと笑えて後味も悪くない、良くできた作品でした。

 ヒュー・グラントが好きでもジュリア・ロバーツは苦手なので敬遠していましたが、何かの拍子で観て「悪くない」と感じました。リス・エヴァンスやジーナ・マッキーなどの脇役がきちんと立っていて、物語のテンポも悪くないし、何よりJ・ロバーツを全然魅力的じゃなく描いていたのが良かった。展開自体もコテコテで感情移入させようとしていない、どちらかというと昔の恋愛映画を想起させます。のめり込んで観るというより、ホームドラマのように軽い気持ちで楽しむ映画なのでしょう。
 ワンカットで四季折々を表現する映像が印象的。あとはリス・エヴァンスのブリーフですね。もちろん、ヒュー・グラントは良かったですよ。何しろ主人公なので出演時間は長いし、例によってウジウジ悩んでいる姿が様になります。設定を聞いただけで拒否反応を起こす人は別ですが、万人向けの恋愛映画としては充分な出来ではないでしょうか。

監督:ロジャー・ミッチェル
出演:ヒュー・グラント、ジュリア・ロバーツ、リス・エヴァンス、ジーナ・マッキー
20051206 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ノー・マンズ・ランド

 ボスニア紛争時にボスニア軍でドキュメンタリーを撮影していたダニス・タノヴィッチの長編デビュー作。やはりボスニア紛争を題材とし、軍やマスコミを巻き込んんだドタバタ劇を確実なタッチで描いている。リアリティに裏打ちされた演出と、その中で見せるブラックな、ときに笑うことのはばかられるセンスは凄い。

 明快なシナリオの中に、現地の勢力図を縮図として組み込むしたたかさがあり、各国語を話すキャストにきちんと演じさせているおかげで嫌味がありません。今までにない戦争映画、特に国連PKO関連の映画の中では決定打と言える作品かも。政治問題に興味がない人には辛いかもしれませんが、ちょっと興味がある人なら勉強のために見ても十分意味のある映画だと思います。
 凄いのは、これだけの現状をきちんと一つのシナリオにまとめ上げて、ところどころ笑いすら取ろうとすることです。ただE・クストリッツァのような狂気と情熱ではなく、ドキュメンタリー経験者らしく冷静に事態を描写していくスタンスが特徴的でした。

 後味の悪い映画で、この結末を作り出したのは他でもない西側諸国だ、という監督の叫びが痛いほど伝わってきます。ラストに至るころには情けなさで押しつぶされそうになりましたが、それだけ考えさせられる映画です。

監督:ダニス・タノヴィッチ
出演:ブランコ・ジュリッチ、レネ・ビトラヤツ
20051017 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ナイトメアー・ビフォア・クリスマス

 ティム・バートン制作・原案による人形アニメーション。微笑ましくも毒のある世界観やストーリーで、未だに根強い人気のある作品。子供が絵本を読み聞かせてもらって、終わったら「ねえ、それでどうなったの?」と聞くような、そんな気分になれる映画でした。

 過去のメルヘンの傑作にも匹敵する物語性は見事。ホリデータウンという設定から始まって、その特殊な世界で繰り広げられる物語にはただただ息をのむばかりで、何度観ても76分という上映時間は短かすぎると嘆かされます。本来なら怖いはずの怪物たちも、ハロウィンということもあってどこか愛らしく、かつ少し倒錯気味。フィンケルシュタイン博士の脳みそや、メイヤー町長の切り替わる顔など、おもちゃみたいなギミックも良い。その他画面に殆ど登場しないキャラクターにまで、クセのあるデザインが施されています。
 更に人形アニメとして見ても、過去にないほど高い完成度でした。特にその動きのなめらかさは、本当に人形たちが生きて演技しているかのよう。ミュージカルとしても魅力的なナンバーが揃っていますし、ここまで非の打ち所のない映画も珍しいのではないでしょうか。

 評価とはあまり関係ありませんが、先日TOHOシネマズの企画で上映されていたので慌てて観てきました。やはりスクリーンで観られるというのは良いですね。むしろ、この映画は毎年恒例で上映してほしいぐらいです。

制作・原案:ティム・バートン
監督:ヘンリー・セリック
声の出演:ダニー・エルフマン、クリス・サランドン、キャサリン・オハラ、ウィリアム・ヒッキー、ポール・ルーベンス
20051016 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ニューヨーク1997

 ジョン・カーペンター監督、カート・ラッセル主演の知る人ぞ知るB級SFアクション映画の傑作。いや、つまらないのですが、でもこれほど楽しめる映画は少ないでしょう。
 たしかにストーリーは読めないのですが、こんな破天荒なストーリーを思いつく方が神業というもの。とにかくカート・ラッセルの格好悪さから始まる一連のどうしようもないB級ぶりを見てほしいところです。安っぽいオプチカル合成とか、どう見ても模型にしか見えないセットを走り回るミニカーみたいな車とか、普通は色々文句を言いたくなるようなシーンが連続するのに、あまりに堂々としているので全く気になりません。しかも最後はきちんと盛り上がったうえにシメもしっかりしているという、エンタテイメントを心得た作品でした。

 こういう映画は、開き直って大笑いしながら見ると最高ですね。チープな外見をバカにしないで、というかそれも味だと思えれば確実に楽しめます。B級映画は敬遠しがち、という人にぜひ観て貰いたい一本。

監督:ジョン・カーペンター
出演:カート・ラッセル、リー・ヴァン・クリーフ、アイザック・ヘイズ、ドナルド・プレザンス、アーネスト・ボーグナイン
20051014 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ニック・オブ・タイム

 ジョン・バダム監督、ジョニー・デップ主演によるサスペンス・アクションの小品。小気味良い展開と、ほぼ現実の時間通りに進行する駆け引きが巧妙で楽しめました。

 全体に地味なのが好みです。要所要所での都合のいい展開とか、最後の終わり方はイマイチ納得がいかないものの、良くできた娯楽作だと思いました。何より主人公がどんどん追いつめられていく様が克明に描かれるので、感情移入できればかなりの緊張感が楽しめます。
 眼鏡をかけたジョニー・デップがやけに「お父さん」らしくて妙。クリストファー・ウォーケンも、いつもの迫力に欠けるような。でも他の映画では見せない表情なので、ファンなら要チェックです。気楽に見ることが出来れば、充分面白い映画なのでは。

監督:ジョン・バダム
出演:ジョニー・デップ、クリストファー・ウォーケン
20051011 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ネバーランド

 「ピーター・パン」の原作者ジェームズ・バリと、物語のモデルになった少年一家の交流を描いた、半分実話、半分創作の映画。監督は「チョコレート」のマーク・フォスター。
 ハリウッドでも顔の知られた俳優が何人も出演しているので、ジョニー・デップが良ければいいやと割り切って観たんですが、これがなかなか良い話で、ついつい泣かされてしまいました。創作にまつわるテーマにそもそも弱いというのもあるんですが、無理に感動させようとしない落ち着いた描写で、逆に感情移入させるあたりは嫌みが無くて好感が持てます。思わず見とれてしまう美しい映像も見物。

 主演3人(ジョニー・デップ、フレディ・ハイモア、ケイト・ウィンスレット)の演技が抜群に良くて、この映画の見どころの一つになっています。中でもフレディ・ハイモアは、台詞も動きも多いのにとても演技とは思えないぐらい。デップが「チャーリーとチョコレート工場」に推薦したというのも頷けます。
 それにしてもイアン・ハートがコナン・ドイル役で出演していたのは全く気付きませんでした。あと舞台でピーターを演じているのが、「トレインスポッティング」のケリー・マクドナルドというのも驚き。もう一度観るときは気をつけよう……。

監督:マーク・フォースター
出演:ジョニー・デップ、フレディ・ハイモア、ケイト・ウィンスレット
公式サイト
20050915 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -