★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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カラフル

 森絵都による原作小説を、映画クレヨンしんちゃんシリーズで名を馳せた原恵一監督が再映画化。やりたいことは分からなくもないんですが、その手法を疑問視したくなる内容でした。

 観終わっての第一印象としては、とにかく全てがダサかった。特に主人公の家庭が抱える問題が物語の重要な要素なのに、その描き方が中途半端なものなので、登場人物の苦悩も他人事にしか思えませんでした。細かい描写を積み重ねて事実の大きさを実感させるのではなく、言葉で全て説明しようとしたのが一つの要因でしょう。
 同様に、アニメーションとしての気持ちよさも作品からは見られませんでした。映画全体を落ち着いたものにしようとしたのか、人々の動きやカット割りなどがとてもスローですが、登場人物がアニメーション的に描き分けられていないので、ただ退屈なだけになっています。唐突に入る音楽も場違いだし、玉電のくだりもテーマとの関係は薄い。全体に、センスに疑問を感じる作品でした。

 リアルさ重視のアニメほど「アニメでやる理由」が問われると思いますが、この映画はそれに対する回答が皆無でした。今時の中学生の感情を通して普遍的なテーマを描きたいのなら、やはり実写でやって欲しかった。
 あと、余談ですがTVCMでオチのネタバレをされたのも悪印象に一つ買っています。核心を言わなくても、その直前の台詞を言われたら普通わかりそうなものなのに。結果それ以上の何かがある、と期待してしまったので、最後の10分は白けてしまいました。そういうマーケティングも含めて、とても残念な作品です。

監督:原恵一
原作:森絵都
出演:冨澤風斗、宮崎あおい、南明奈、まいける、麻生久美子、高橋克実
20110415 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

コララインとボタンの魔女

 ニール・ゲイマンによる人気児童文学を、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』でお馴染みのヘンリー・セリック監督が映画化。同作に負けず劣らず素晴らしい作品に仕上がりました。

 カラフルでキッチュな世界観は予告編のときから楽しみでしたが、映画館で観るとまた格別です。登場人物も児童文学らしくとても分かりやすく、エピソードも平板ながらそれほど飽きさせずに進んでいきます。何より女の子の成長物語と異世界ものという定番に、ボタンの魔女という捻りを効かせたことで、久々に子供時代のワクワク感を思い出せました。
 原作がダークでも映画化となると急に健全になってしまうものが多い中で、この映画はカラフルながら毒々しくどこか倒錯性すら感じさせます。終盤にかけての盛り上がりもしっかりしていたので、中盤やや紋切り型になるのが残念です。

 上映している映画館は吹き替えばかりで、字幕版が楽しめなかったことが最大の心残り。しかし、『ナイトメア〜』のときはバートンの功績と感じられた作品性が、セリック監督の実力だったことがこれで証明されたのでは。次回作がとても楽しみです。

監督:ヘンリー・セリック
原作:ニール・ゲイマン
出演:ダコタ・ファニング、テリー・ハッチャー、ジョン・ホッジマン、イアン・マクシェーン、ドーン・フレンチ、ジェニファー・ソーンダース、キース・デヴィッド、ロバート・ベイリー・Jr
20110326 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

クロウ/飛翔伝説

 ジェームズ・オバーによるカルト・コミックを、エジプト出身・オーストラリア育ちというアレックス・プロヤス監督で映画化したダーク・ヒーローもの。主演のブランドン・リーが撮影中に死亡するという事故があったものの、未撮影分が数カットだったこともあって映画化にこぎ着けられたといういわくつきの作品です。
 カラスの目を通して描かれたかのような不安定な視点のカメラワーク、全編に流れるオルタナティヴ・ロックなどが、原作通りのダークな世界観とマッチしています。主演のブランドン・リーの狂気に満ちた演技もいい。ただ、元々のストーリーがロマンチシズムに沈みすぎて救いがないのが辛い。主人公の悲劇を描くには話が軽すぎ、そのわりに人だけがバタバタ死んでいくのはあまり情緒があるとは言えません。

 ブランドン・リーは、今後が期待できる俳優だっただけに非常に残念でした。たまたま原作を読む機会があったんですが、こちらもなかなか面白いので、映画を気に入った方は原作も是非。

監督:アレックス・プロヤス
原作:ジェームズ・オバー
出演:ブランドン・リー、アーニー・ハドソン、マイケル・ウィンコット
20081004 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

銀河ヒッチハイク・ガイド

 イギリスのカルトSFコメディ小説の映画化作品。いかにもイギリス的な皮肉が楽しめるものの、映画としては若干まとまりにかける印象でした。

 壮大なのにどこか生活臭の漂う設定や不条理ギャグは、イギリスのコメディ好きにはたまらない内容ですが、全体に駆け足のストーリー展開のせいでメリハリが効いていない印象。オチが用意されている脚本なのでそこまで辿り着きたかったんでしょうが、ドタバタ珍道中だけでも充分楽しめるので、いっそオチは次回作に持ち越しても良かったのでは。
 声だけ出演のアラン・リックマンをはじめ、モス・デフやビル・ナイなど良い演技をする俳優を集めたのは良かった。画面の作り方も巧みで、CGもそこそこ馴染んでいただけに、109分で終わらせるのは勿体ない感じでした。1981年にテレビシリーズ化されているそうですが、そちらも気になります。

 ともあれ、冒頭のイルカの歌などブリティッシュ・コメディならではのブラックな笑いはふんだんに用意されているので、そちらを期待している方は楽しめるのでは。個人的にはアラン・リックマンの声だけでノックアウトでした。この人、意外とSF似合いますよね…… 。

監督:ガース・ジェニングス
原作:ダグラス・アダムス
出演:マーティン・フリーマン、モス・デフ、サム・ロックウェル、ズーイー・デシャネル、ケリー・マクドナルド、ビル・ナイ、ジョン・マルコヴィッチ、アラン・リックマン
20080930 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ゲド戦記

 あまりにも偉大な父を持ってしまった宮崎吾朗監督の、これがアニメーション初監督となる長編作品。原作は「指輪物語」「ナルニア国物語」と並んで世界三大ファンタジーの一つに数えられる傑作小説。初監督にしては意欲的な内容に、まずは安心させられました。

 何しろ素人らしい演出が見ていて辛い。あまりの拙さに観賞中はハラハラしましたが、そのせいか監督の主張がストレートに伝わっててきて、後半なんかはかえって楽しめました。近年のジブリ映画と完全に決別した作画も凄い。クオリティにこだわりすぎて硬直化してしまったスタジオに対する、強烈なアンチテーゼでしょう。子供だましなら誰にでも出来る、それより大の大人が楽しめるエンタテイメントを、という監督の主張が感じられます。経験不足がつくづく悔やまれますが、次回作以降でのさらなる発展が期待できる良作だと感じました。
 技術的な面では、クロード・ロランそのままの背景美術が最高。描き込みすぎでクドくなりがちだった近年のジブリ作品の中では出色です。アニメーション部分が粗雑なのは惜しいところですが、部分部分で引き込まれるような演出が見られるあたりは、さすがジブリ。声の演技も相変わらず渋くまとまっていて、媚び媚びのアニメ声でないのは何よりでした。

 原作既読者としては、あの世界観を説明しきれていないのは悔しいところ。ただ、そもそもこの深遠な世界を、二時間という制限の中でエンタテイメント的に消化することの方が不可能なわけで。原作の良さを仄めかしつつ、分かり易い内容に徹するというのは正解でしょう。テーマを重視しすぎるあまりエンタテイメント性を失いつつあった近年のジブリ作品に対して、内部告発とも言える論陣を張ったことだけでも評価できると思います。

 ここまで堂々とラブコールされれば、お父さんも悪い気はしないのでは。父にしろ息子にしろ、次に期待、です。

監督:宮崎吾朗
原作:アーシュラ・K・ル=グウィン
声の出演:岡田准一、手嶌葵、菅原文太、田中裕子、小林薫、香川照之、風吹ジュン
公式サイト
20061003 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

学校の怪談3

 子供向け人気夏休みホラー映画の第三弾。今回は新「ガメラ」シリーズの金子修介監督にバトンタッチしたため、ガラリと変わった雰囲気が新鮮でした。
 まず叙情性を増した映像が見事。子供向け映画でも手を抜かない人物の造形や、情景描写を巧みに織り込むメリハリのあるカメラワークは金子監督らしいこだわりでした。また、あえて近代的な校舎を舞台にしたのも英断。木造校舎も趣があって良いんですが、見慣れた鉄筋コンクリートの校舎を妖怪達が闊歩するのはリアルな怖さがあります。後半のまとめ方も納得。ただ、盛りだくさんにしようとしたせいか、物語のツナギが無理矢理で、そのため映画全体の印象が安っぽくなってしまったのが残念でした。

 子供が楽しめるかというと実は微妙なのも辛いところ。ただ、SFXは当時の日本映画としては最高級。金子監督の作品は映像ばかり突出してしまう印象があるので、あとはストーリーで今の気負いが消えれば良いなあ、と。

監督:金子修介
原作:常光徹、日本民話の会
出演:西田尚美、吉澤拓真、前田亜季、ヒガタケル、山田一統、黒木瞳、野田秀樹、蛍雪次郎、野村宏伸、津川雅彦、渡辺真知子
20060510 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

学校の怪談2

 平山秀幸監督による夏休み怪談映画シリーズ第二弾。俳優はかなり豪華になって楽しいんですが、映画自体はパワーダウンの観が否めません。
 前作に引き続き出演の野村宏伸がまず嬉しい。さらに西田尚美、岸田今日子、神戸浩など実力派の俳優が活躍してくれます。特に岸田今日子は、こういう映画に出るといやらしいほど映えますね。惜しむらくは子役の演技が前作から変わっていないこと。前作では閉鎖空間で否応なく盛り上がったホラー要素も、今回はなんでもアリになってしまってイマイチでした。出てくる妖怪も前作に比べると華がなく、二作目にして早々にネタ切れの印象。

 全体的に、ギリギリの線で子供だましに終始してしまったという感じです。子供向けだと割り切って観ればそれなりに怖いんでしょうが、売れると分かってるんだから、もっと実験的なことをして欲しかったなあ、と。

監督:平山秀幸
原作:常光徹、日本民話の会
出演:野村宏伸、西田尚美、岸田今日子、米倉斉加年、細山田隆人、前田亜季、竹中夏海、神戸浩、きたろう
20060509 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

学校の怪談

 小・中学生を中心にヒットした、タイトル通り“学校の怪談”モノ映画。全国各地の怪談を多数映像化しつつ、ドラマもなかなか楽しめる秀作です。
 後半で怪獣映画のノリになってしまうのは辛いところですが、それまでの恐怖演出は秀逸。カメラワークもなかなか凝っています。あとは子役の演技が良ければというところなんですが、まあ日本映画のレベルを考えれば仕方のないところでしょう。それに真の主役である“お化け”の再現具合が絶妙で、次は何が登場するのかとワクワクしながら観ることができました。主演の野村宏伸のトボけた先生ぶりも良い。あと冒頭の笹野高史も印象的。

 大人が本気で観るような映画ではありませんが、夏休みの子供向け映画としては良くできた方なのでは。世代を問わず楽しめる点が多数なので、家族揃って観るにはお薦めの作品です。

監督:平山秀幸
原作:常光徹、日本民話の会
出演:野村宏伸、遠山真澄、米澤史織、杉山亜矢子、笹野高史、熱田一、塚田純一郎、町田昇平、岡本綾、佐藤正宏
20060508 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲

 爆発的な人気を誇るアニメシリーズの劇場版第9作。「大人も泣ける子供向けアニメ」であった同シリーズの決定版的な内容で、映画秘宝誌での年間ベスト1に輝くなど話題をさらった作品です。
 “20世紀博”という懐古主義丸出しの奇抜なアイデアもさることながら、それによって洗脳されてしまう大人達と、健気に立ち向かう子供達の対比が秀逸。一目見て性格の分かる敵役や、「クレしん」というベースがあるために人物の紹介が割愛でることもあってか、物語もテンポ良く展開されて飽きさせません。そして、懐古主義を笑いつつ一定の理解を示したシナリオは、「大人が号泣」の評判通り。子供アニメの体裁を取りつつ、完璧な大人向けエンタテイメント作品に仕上がっています。

 次作「嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」も良いものの、この作品に比べてしまうと見劣りします。何よりアニメとか家族向けという枠を逸脱した暴走ぶりが最高! これをオリジナル脚本でできない日本映画界には辟易しますが、それでも面白い映画を観られるのなら我慢しようという気にもなりました。一度は観ておいて欲しい作品です。

監督:原恵一
原作:臼井儀人
出演:矢島晶子、ならはしみき、藤原啓治、津嘉山正種、小林愛
20060507 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

カスケーダー

 スタントマン出身のハーディ・マーティンスが製作、監督、原案、主演そしてもちろんスタントもやったというバカアクション映画、だと思って観たんですが、実際はアクションもドラマも中途半端な内容でした。

 ドラマにかける時間が思ったより長くて、しかもありがちな話なので全体に冗長になってしまいました。主人公と敵役が不自然なほど不死身なのに、真面目に財宝探しをやられると引いてしまいます。これがやりたかったんだろうなーと思えるような無茶なアクションは幾つかあるものの、それだけで100分以上ある映画が面白くなるわけでもなく。いっそこの映画のドキュメンタリーがあったら、そちらの方が面白いんじゃないかと思えるほどでした。
 本国ドイツでは受けたかもしれませんが、世界的なレベルかというと微妙。方向性は悪くないだけに、惜しい。

監督:ハーディ・マーティンス
出演:ハーディ・マーティンス、レグラ・グラウヴィラー、ハイナー・ラウターバッハ、アンドレアス・ホッペ
20060426 | レビュー(評価別) > ★ | - | -