★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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フィフス・エレメント

 『レオン』でハリウッドでも認められたリュック・ベッソンが、16歳のころからの構想を映画化したスペース・オペラ。公開当初はリュック・ベッソンの正気を疑いましたが、改めて観るとまた別の趣のある作品です。

 エンキ・ビラル作品でお馴染みのバンド・デシネ風SF世界を、壮大なスケールで描いた映像は圧巻。ジャン=ポール・ゴルチエの衣装に身を包んだ主人公たちが宇宙を股にかけて活躍する様は、少年が夢想するヒーロー像そのものです。ただ、あまりに現実離れした世界が矢継ぎ早に展開されるため、じっくり楽しむことができません。特に終盤の展開は無理矢理すぎて、疑問符ばかり残りました。
 映画オリジナルの言語まで習得したミラ・ジョヴォヴィッチは、映画の世界観にピッタリの存在感。ゲイリー・オールドマンやクリス・タッカーといった脇役も強烈な印象を残します。一方ブルース・ウィリスの汗くさい活躍だけが浮いていて残念。ベッソン作品常連のエリック・セラによる音楽も良くできていて、サウンドトラックだけでも買う価値はあります。

 盛り込みすぎというよりは、あまりに壮大な世界観を一本の映画に押し込めるためあちこち省略してしまった結果、破綻しているように見えました。一つ一つの要素は良いので、もう少し話の流れを考えてくれたら初見から楽しめたのかもしれません。

監督:リュック・ベッソン
出演:ブルース・ウィリス、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ゲイリー・オールドマン、イアン・ホルム、クリス・タッカー
20110602 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ボーン・アイデンティティー

 ロバート・ラドラムの原作をマット・デイモン主演で映画化し、大人気を博したアクション・サスペンス作品。演出とストーリーがちぐはぐで、何をやりたいのか分からない内容でした。

 設定はいかにも冷戦後のサスペンス作品にふさわしく興味をひかれましたが、演出が今ひとつで入り込めません。ハンディカムで遠景から撮るのはテーマに合っていますし画的にも面白くなりますが、あまりにそればかりだと単調になってしまいます。カットバックも考えて使っているようには見えません。物語は、導入部こそ良かったものの、後半は90年代のハリウッド映画に逆戻りですっかり飽きてしまいました。配役でも、マット・デイモンは役柄にイマイチはまっていないし、フランカ・ポテンテは単純なヒロイン像を演じさせされていて、とにかく全てが勿体ないという印象です。
 そもそも暗殺者という設定が時代遅れなので、リアリズムを追求したことでかえって非現実さが強調されてしまったのでは。単純なアクション映画として観るなら楽しめるかもしれませんが、それならもっと頭の悪そうな作品の方が、まとまりがある分まだマシかもしれません。

監督:ダグ・リーマン
原作:ロバート・ラドラム
出演:マット・デイモン、フランカ・ポテンテ、クリス・クーパー、アドウェール・アキノエ=アグバエ、ブライアン・コックス、クライヴ・オーウェン
20110523 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ファーゴ

 コーエン兄弟が“実際にあった事件”を元に撮った犯罪映画。スローテンポな演出と美しい映像だけではない、気迫すら感じる独特の作品です。

 コーエン兄弟お得意の、淡々としたドラマが積み重なることで次第に事件がとんでもない方向に転がるという展開は本作でも変わりません。しかし今回は登場人物、舞台設定、題材など全ての要素がうまくまとまったため、上質の犯罪映画に仕上がりました。一般市民と犯罪者の境界線を曖昧にするシリアスなプロットと、ユーモラスな会話が共存するアンバランスさも、不思議と犯罪のリアリズムを盛り上げていて、映画の雰囲気作りに一役買っています。派手さこそありませんが、犯罪映画の違った楽しみ方を教えてくれた作品です。
 舞台設定が良かったのか、トリッキーなカメラが売りのコーエン作品の中でも、特に芸術的なカメラワークが多いのも見どころの一つ。俳優では、まずなんと言っても“変な顔”スティーブ・ブシェミの怪演が光ります。コンビを組むピーター・ストーメアの不気味さも印象的。また、主演のフランシス・マクドーマンドとウィリアム・H・メイシーもそれぞれ良い演技をしていて、僕はこの映画で名前を覚えました。

 犯罪映画として十分に楽しめる本作ですが、最大のトリックは最後まで明かされません。クレジットにあえて嘘を潜り込ませたり、プログラムに偽の酷評レビューを掲載するコーエン兄弟ならではの遊び心ですが、おそらく全ての観客が、指摘されなければ騙されたことにすら気付かないことでしょう。前作『未来は今』が認められなかったことに対する痛烈な皮肉なのかもしれませんが、映画を撮るのにここまで考えるコーエン兄弟監督の才能に、ただただ驚かされました。

監督:ジョエル・コーエン
出演:フランシス・マクドーマンド、ウィリアム・H・メイシー、スティーヴ・ブシェミ、ピーター・ストーメア、ハーヴ・プレスネル、ジョン・キャロル・リンチ
20110521 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1

 同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第7作。とうとう二部作になって原作の細部まできっちり映像化しているので、これまでのシリーズ作品の中では段違いに面白くなっています。

 同監督による前二作ではシナリオにアレンジを効かせていたのに対し、今回は充分な上映時間があるおかげでほぼ原作通りの物語を再現できていて、ドラマに安定感がありました。特に今作は主役三人の逃避行がメインなので、これまで本編では省略されがちだったこの三人の心情描写がきっちりできたことで、物語への没入度も高くなっています。
 脇役たちもそれぞれ活躍の場があり、映像もこれまで以上にリッチに仕上がっているので、シリーズを通して観てきた人には感慨深いものがあるのでは。後編に向けての伏線の張り方も十分で、二部作の前編として文句のない出来でしょう。

 また、今回は過去のシリーズ作品と比べても演出に余裕があるのがよく分かりました。特に空撮などで状況描写をするシーンが豊富なため、シーンとシーンの間で上手くメリハリを付けられています。一方アクションシーンでもカットバックに頼らず、長めのカットを随所に挟みつつ描いていて、リズムの付け方が様になっていると感じました。
 初登場の俳優では、まずリス・エヴァンスがさすがの怪演を見せてくれました。予告編でも大写しになるビル・ナイも、登場シーンは少ないながら印象的。レギュラー陣では、ヘレナ・ボナム=カーターが相変わらず憎まれ役を上手く演じきっています。あとはやっぱりアラン・リックマンが格好良くて、出てくるだけで嬉しくなってしまいました。

 ファンとしては、やっとハリー・ポッター本来の面白さが映画館で体験できて大満足。あの原作をそのまま映画化するだけで、ここまで面白くなるということが何より驚きでした。上下巻ある原作の、下巻の序盤まで消化して余裕はたっぷりあるので、あとはこの調子で後編をじっくり描いてもらえれば、史上最高のシリーズ作品になることはまず間違いないでしょう。

監督:デヴィッド・イェーツ
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、レイフ・ファインズ、アラン・リックマン、ブレンダン・グリーソン、ロビー・コルトレーン、マギー・スミス、デヴィッド・シューリス、ジョン・ハート、トム・フェルトン、ボニー・ライト、ティモシー・スポール、ジェイソン・アイザックス、ヘレナ・ボナム=カーター、イメルダ・スタウントン、ジョージ・ハリス、リス・エヴァンス、ビル・ナイ
20110511 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターと謎のプリンス

 同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第6作。前作から引き続きデヴィッド・イェーツ監督がメガホンを取ったおかげか、ドラマが生き生きとしていて想像以上に楽しめました。

 冒頭から原作にはない展開が連続し、台詞もかなりアレンジされていて驚きましたが、これが不思議と原作の雰囲気にマッチしています。エピソードを効果的に省略することで尺を確保しつつ、ユーモラスなシーンを適度に挿入して映画全体のリズムを取るなど、シリーズ二回目の監督ならではの慣れた演出が功奏したのではないでしょうか。最終章に向けていくつか説明しておかなければいけない伏線が抜けていたり、終盤の決戦が拍子抜けだったのが心残りですが、そのあたりは次回に期待ということなんでしょうか。
 今回、キャスト以外は次回作に向けての休養ということでスタッフの多くが入れ替わったそうですが、前作以上にクオリティの高いものが出来ていて安心しました。撮影がジュネ組のブリュノ・デルボネルなのが個人的にはポイント。俳優では、満を持して登場したジム・ブロードベントの存在感がさすがでした。

 これまでは原作に忠実であることにこだわりすぎて、映画としての面白さが置いてけぼりになりがちでしたが、今回は映画向けに分かりやすくアレンジされていると感じました。最終章はついに二部立て、さらにデヴィッド・イェーツ監督が続投ということなので、ますます楽しみになってきました。

監督:デヴィッド・イェーツ
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、マイケル・ガンボン、ジム・ブロードベント、アラン・リックマン、ロビー・コルトレーン、マギー・スミス、デヴィッド・シューリス、トム・フェルトン、ボニー・ライト、ティモシー・スポール、ヘレナ・ボナム=カーター
20110509 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ヘルボーイ

 マイク・ミニョーラによるアメコミのカルト的作品を、『ミミック』のギレルモ・デル・トロ監督が映画化。他のアメコミ映画とは一線を画した、独特の雰囲気が漂う作品に仕上がっています。

 妙なこだわりのある監督なのでどうなることかと観る前は心配しましたが、そのこだわりが今回はいい方向に発揮されていて、凡百のヒーローものに収まっていません。ただ、話の省略が唐突すぎたり、展開に時々ひっかかるところがあるのも相変わらず。最終的にただの肉弾戦で終わってしまうアクションも残念でした。
 演出や美術はさすがの一言。グロテスクな世界観はまさに監督の独壇場です。俳優では、とにかく主演のロン・パールマンがハマっています。確かにこの人以外にヘルボーイは演じられなさそう。また、ダグ・ジョーンズ演じるエイブも、主人公のサポート役にしては印象的でした。

 とにかく『ブレイド2』の二の舞にはならずに済んで一安心。続編制作も納得できる内容なので、ひと味違ったアメコミものが観たい方はぜひ。

監督:ギレルモ・デル・トロ
原作:マイク・ミニョーラ
出演:ロン・パールマン、セルマ・ブレア、ジョン・ハート、ルパート・エヴァンス、ダグ・ジョーンズ
20110505 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

パプリカ

 筒井康隆の短編を、今敏監督が長編アニメ化した意欲作。単純に良くできていたんですが、どこか空虚な印象が残ります。
 マッドハウスの作画によるイメージの氾濫ぶりは一見の価値あり。ただ、それぐらいしか見所がないので、見終わった後に何も残らないのが残念。筒井原作パワーなのか、監督の癖であるシナリオの悪さは軽減していますが、台詞の一つ一つがどこかぎこちないままでした。90分と短めで気楽に見られる作品なので、台詞は印象的なものだけにしてあまり説明させない方が良かったんじゃないかと。

 止め絵で見ると魅力的なのに動かしてみるとそうでもないというのが今敏監督作品共通の弱点である気がします。せっかくアニメ作品なんだから、アニメならではのこだわりを今後の作品に期待したいところ。

監督:今敏
原作:筒井康隆
出演:林原めぐみ、古谷徹、江守徹、堀勝之祐、大塚明夫、山寺宏一
20110417 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

バーン・アフター・リーディング

 豪華な俳優陣が話題になったコーエン兄弟お家芸の不条理ドタバタコメディ。若干軽い内容ですが、見た目の豪華さもあってなかなかの佳作に仕上がっています。

 どこにでもいそうな人々がどつぼに陥っていく様はいつものコーエン作品と変わりませんが、今回はジェリー・ブラッカイマー風の演出を徹底させることで、これまでと違った味わいを残しています。映画から得られるものも全くナシ!というところまでブラッカイマー作品そのまま。有名俳優と大仰な演出のおかげで、情けないドラマが余計ショボく見えて、なかなか笑わされました。『ビッグ・リボウスキ』『ファーゴ』のような情緒はありませんが、こういうのも悪くないかな、と。
 映画の作りについては文句なし。ここまでそつなく作ってくれる監督はなかなかいないでしょう。俳優もベテランだらけで安心して楽しめます。特に今回念願のコーエン作品初出演を遂げたブラッド・ピットの筋肉バカっぷりは見どころです。

 映画館で観たときはちょっと物足りなかったんですが、家でもう一度見たら大笑いできました。気楽なコメディとして楽しむのであれば最適な映画です。『オー・ブラザー!』『ディボース・ショウ』と並べて、クルーニー&コーエン三部作として楽しんでも良いかもしれません。

監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
出演:ジョージ・クルーニー、ジョン・マルコヴィッチ、フランシス・マクドーマンド、ブラッド・ピット、ティルダ・スウィントン、リチャード・ジェンキンス、エリザベス・マーヴェル、J・K・シモンズ
20110409 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団

 イギリスの同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第5作。今回はTVドラマ業界出身の新鋭デヴィッド・イェーツ監督を起用し、堅実ながらも楽しめる作品になりました。

 非常に長い原作をどうまとめるかがこのシリーズの悩みの種ですが、今回は敵役ドローレス・アンブリッジに関するエピソードを中心に抽出することで違和感を抑え、かえって原作よりメリハリのあるストーリーになっていると感じたほど。その影響で原作からアレンジされた点がちょっと気になるものの、まあ不可抗力でしょう。登場人物の心の機微を描き切れていないのは今回も同じですが、じっくり描写しているシーンもあり、総じてツボを心得ていたな、という印象です。
 イメルダ・スタウントンは、憎たらしいドローレスそのままの存在感で良かった。ゲイリー・オールドマンについては言わずもがな。あと、やっぱりイギリス人監督はイギリスらしい風景を撮るのが巧いですね。今回はロンドン市街も登場するので、特にイギリス人の観客は嬉しかったんじゃないでしょうか。

 “読者と一緒に成長する物語”なので、登場人物も成長するし、物語も政治性を増していくというところが、他のファンタジー作品にない魅力なのでしょう。巻を重ねるごとに重厚になる原作の雰囲気を、よく反映した映画だと思いました。相変わらず細かい説明は原作任せですが、原作を読んでるのが前提みたいなシリーズなのでそれは構わないのでは。次回もイェーツ監督の続投ということで、これも期待です。

監督:デヴィッド・イェーツ
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、イメルダ・スタウントン、マイケル・ガンボン、マギー・スミス、アラン・リックマン、ロビー・コルトレーン、デヴィッド・シューリス、ゲイリー・オールドマン、ヘレナ・ボナム=カーター、レイフ・ファインズ
20081109 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

パンズ・ラビリンス

 ギレルモ・デル・トロ監督が、スペイン内戦を背景に描くダーク・ファンタジー。印象的なシーンは多いものの、今ひとつ消化不良でした。

 主人公オフェリアが、様々なストレスから空想の世界に囚われていくのが本題かと思ったら、むしろそのストレスの一因である内戦に重点を置いてしまったため、対比としての空想世界がおざなりになってしまいました。さらにオフェリアの心情描写も全て召使いのメルセデスの過去と重ね合わす演出で、まるでメルセデスが主役のよう。空想世界の異形たちはとても魅力的で、いろいろ曰くがありそうなだけに、まずオフェリア自身の描写に力を注いでほしかった。
 カメラワークや美術は凄い。あと、複数の異形を演じたダグ・ジョーンズの“らしさ”もこの映画の魅力の一つでしょう。メルセデス役のマリベル・ベルドゥは、どこかで見たと思ったら「天国の口、終りの楽園。」の女性なんですね。情熱を内に秘めた表情が良かった。

 多少ちぐはぐな内容ではありますが、昨今の子供向けファンタジーの隆盛に異を唱えた内容は、十分意義があると思います。映像的には見る点も多いので、ファンタジー好きの方なら是非。

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:イバナ・バケロ、マリベル・ベルドゥ、セルジ・ロペス、ダグ・ジョーンズ
20081106 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -