★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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突破口!

 「ダーティーハリー」のドン・シーゲル監督が、「おかしな二人」のウォルター・マッソーを主演に迎えて放つ傑作犯罪アクション。顔に似合わずシリアスな活躍を見せたマッソーに惚れ惚れします。
 いきなり銀行強盗で登場し、その後もハードボイルド全開で活躍するウォルター・マッソーにただただ驚かされる二時間でした。典型的な逃避行タイプの物語ではありますが、女性との絡みや殺し屋の存在が絶妙。特にジョー・ドン・ベイカーの不敵な殺し屋モーリーの不気味さが、手に汗握る展開に拍車をかけています。70年代の映画なので映像自体は地味なんですが、それが全く気にならない、良くできたアクション映画だと感じました。

 ラストのひねり方はなるほどと頷いてしまう頭の良さで、そのためだけでもいいので観て欲しいと思えるほど。アクション映画に、派手さよりもシナリオの妙を期待するなら一押しの作品です。DVDもビデオも出てないのが残念な限り。

監督:ドン・シーゲル
出演:ウォルター・マッソー、ジョン・ヴァーノン、アンディ・ロビンソン、シェリー・ノース、フェリシア・ファー、ジョー・ドン・ベイカー
20060317 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アニマル・ファクトリー

 エドワード・バンカーによる自伝的小説を、クセもの俳優スティーヴ・ブシェミが監督もこなして映画化。豪華な俳優陣が圧巻な、身に染みるドラマでした。
 シナリオは刑務所の日常を淡々と描くだけで、映像や音楽も非常に素っ気ないので普通なら忘れ去られる作品なんでしょうが、逆にその淡々とした雰囲気が俳優の魅力を真正面から描き出していて惹きつけられました。無理矢理盛り上げようとしないだけ、刑務所内の人々の意見がダイレクトに伝わってきます。刑務所の中で力強く生きる彼らの日常は、人間社会を見つめ直すきっかけにもなりました。更に、エドワード・ファーロングとウィレム・デフォーの友情物語も印象的。ある意味こちらだけでも、観る価値はあります。

 まあ友情物語は措くとして、全体にひたすら渋い映画でした。分かりやすい感動ものではなく、見終わって少し考え込むような内容です。出演者に興味がある人にはオススメ。

監督:スティーヴ・ブシェミ
原作:エドワード・バンカー
出演:エドワード・ファーロング、ウィレム・デフォー、ダニー・トレホ、シーモア・カッセル、スティーヴ・ブシェミ、ミッキー・ローク
20060317 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ゴッホ

 画家ゴッホの死の瞬間までを描き出した、ロバート・アルトマン監督による評伝映画。誇張はあるものの、生の人間としてのゴッホを感じられる作品です。

 ゴッホの弟ヴィンセントの視点を交えて描かれる物語からは、”狂気の画家ゴッホ”をあくまで理性的に捉えようという信念が感じられます。ゴッホ芸術の基礎となったオランダの自然がひたすら美しく、また当時の絵画界をかいま見られる数々のエピソードも説得力がありました。
 そして、ゴッホを演じたティム・ロスの演技がとにかく凄い。クセモノ俳優としての本領発揮で、カーク・ダグラス版よりよほどゴッホらしい風格があります。ただ、かえって狂気を強調しすぎた観も。現代の芸術家像である「芸術家=尋常でない人」という図式の走りでもあるんでしょうが、この作品では多少やり過ぎだったような。

 何はともあれ、ゴッホ映画の決定版と言える内容だと思います。ちなみに、ビデオタイトルは「ゴッホ/謎の生涯」。どこが謎なのかは不明。しかも原題は「ヴィンセント&テオ」。どうせサブタイトルを付けるなら、そっち方面で考えて欲しかった…。

監督:ロバート・アルトマン
出演:ティム・ロス、ポール・リス、アドリアン・ブリン、ハンス・ケスティング、ジャン=ピエール・カッセル
20060316 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

サバイビング・ピカソ

 ジェームズ・アイヴォリー監督による、パブロ・ピカソの評伝映画。非常に良い内容に仕上がっているんですが、ピカソだったかというと疑問。
 現代における芸術家のステレオタイプそのもの(女好き、天才的、気まぐれ、高いカリスマ性などなど)であるピカソを映画化するにあたって、アイヴォリー監督は物語を上品にまとめました。それも良いんですが、やはりピカソという題材を考えると物足りなさが残ります。何よりアンソニー・ホプキンスのピカソが落ち着きすぎで、ただの色男にしか見えません。逆にピカソを取り巻く女性たちの方が生き生きしていると思えるほどです。ピカソの芸術観が本筋ではないものの、彼にとっては女性遍歴がそのまま芸術性と結びついている側面もあるので、女性観のみに絞って描かれるとどうしても片手落ちという印象が拭えません。

 フランソワーズを演じたナターシャ・マケルホーンが、飛び抜けて魅力的。役柄もありますが、凛とした女性という言葉が似合います。ピカソをかじったことがある人なら思わず喜びそうな再現シーンもいくつかあるので、興味がある人は是非。

監督:ジェームズ・アイヴォリー
出演:アンソニー・ホプキンス、ナターシャ・マケルホーン、ジュリアン・ムーア
20060315 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

キャリントン

 女流画家ドーラ・キャリントンの半生を描いた評伝映画。男勝りの芸術家に扮したエマ・トンプソンの演技力が光る秀作です。
 同性愛者の男性を好きになってしまった女性の、行動とは裏腹に純粋でひたむきな想いが伝わってきて、恋愛以上に人生そのものについて、深く考えさせられました。気品や哲学性という精神的なテーマを前面に押し出した造りで、ラブシーンが多いのもそれほど気になりません。イギリスの自然や庭園を本当に美しく描き出しているのも効果的で、ついつい画面に見入ってしまいます。20世紀初頭の重苦しい時代背景なども手伝って、なかなか見応えのある評伝映画に仕上がっている、と感じました。

 主演のエマ・トンプソンがとにかく魅力的。気むずかしい人間が主人公なのに楽しく観られたのは、やはりこの人の演技が素晴らしいからでしょう。ジョナサン・プライス演じる作家リットンの、素朴ながら自信に満ちた佇まいも好きです。この二人に興味がある方は是非。

監督:クリストファー・ハンプトン
原作:マイケル・ホルロイド
出演:エマ・トンプソン、ジョナサン・プライス、スティーヴン・ウォデントン、サミュエル・ウェスト、ジェレミー・ノーサム、ルーファス・シーウェル
20060314 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

マイケル・コリンズ

 「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」のニール・ジョーダン監督が、アイルランド独立に奔走した実在の人物の物語を映画化。監督念願の企画ということもあって、かなりの力作に仕上がっています。

 寂寥感のあるアイルランドの風景の中、泥臭い革命運動に邁進する人々のエネルギーが画面から溢れんばかりに伝わってきて、最後まで緊張感が途切れません。登場人物ごとの思惑の違いを丁寧に描き分けているので、地味なドラマにも感情移入させられます。これからと言うときの幕切れは、事実とはいえ唐突すぎる気はしますが、民族を背負って戦うという重さ、歴史を動かしているという感慨などなど、色々と感じ取ることの出来る作品でした。
 主演のリーアム・ニーソンは、なんだかんだで指導者役がとても似合います。もう一人のリーダーであり、後にアイルランド初代大統領となるデ・ヴァレラにアラン・リックマンを配したのも絶妙。他にも印象的な配役が多く見られて、俳優的にはとても贅沢な印象でした。

 この映画を観てからは、すっかりアイルランドに肩入れしてしまいました。テロや民族紛争に関して当事者の視点から描かれていると共に、非常に示唆に富んだ内容なので、興味のある方にはぜひ観てもらいたい作品です。

監督:ニール・ジョーダン
出演:リーアム・ニーソン、アラン・リックマン、エイダン・クイン、ジュリア・ロバーツ、イアン・ハート、スティーヴン・レイ、ジョナサン・リス=マイヤーズ
20060313 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アマデウス

 モーツァルトの死を同時代の音楽家サリエリの視点から描いた舞台劇を、豪華に映画化した傑作。俳優も映像も文句なしのコスチュームプレイです。

 トム・ハルスの変則的なモーツァルトに初めは驚かされましたが、そのキャラクターと悲劇との対比が絶妙。”天才”モーツァルトに嫉妬しつつ憧れる”凡人”サリエリの葛藤は、分かり易いだけに観る者の心に強く響きます。当然ながら使われている楽曲もほとんどモーツァルトのもので、映画の評価と相まって、すっかりモーツァルトに傾倒してしまいました。
 トム・ハルスのエキセントリックな演技を正攻法で受け止めたF・マーレイ・エイブラハムは見事。プラハでオールロケしたという映像や、程よく生活感のある衣装なども美しい。ヨーゼフII世など貴族のいい加減さも物語に幅を持たせています。とにかく全てが豪華、かつリアリティを感じさせる納得の出来でした。

 2002年にはディレクターズ・カット版も公開されています。20分の追加映像は正直どこまで必要だったのか疑問ですが、この映画をドルビーの大スクリーンで観ることが出来たのは嬉しかった。定期的に上映して欲しい作品です。

監督:ミロス・フォアマン
原作:ピーター・シェイファー
出演:F・マーレイ・エイブラハム、トム・ハルス、エリザベス・ベリッジ、ロイ・ドートリス、サイモン・キャロウ、ジェフリー・ジョーンズ
20060312 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

永遠のマリア・カラス

 不世出の天才オペラ歌手マリア・カラスを、かつて彼女の友人であったフランコ・ゼフィレッリ監督が敢えて架空のストーリーで綴った作品。ゴシップを排し、歌手としての葛藤に絞った着眼点は良いものの、演技以上に心に響くテーマが無いのが残念でした。
 とにかくこの映画は、主演のファニー・アルダンの魅力に尽きます。「8人の女たち」でも異彩を放っていたものの、この映画での彼女の存在感はそれを上回るもので、伝説のオペラ歌手を余すところなく体現しています。カラスの葛藤などに関するドラマ的な掘り下げがあくまで通り一遍なのもあって、ただただアルダンの演技に見とれるばかりでした。カラスに思い入れがある人ならそれで十分楽しめるでしょうが、知らない人が観たら辛いところです。惜しい。

 劇中で流れる「カルメン」の出来が素晴らしく、もしそれだけで一つの映像作品になっているのなら発表してほしいぐらいでした。DVDには収録されていないみたいですが…。

監督:フランコ・ゼフィレッリ
出演:ファニー・アルダン、ジェレミー・アイアンズ、ジョーン・プロウライト
20060311 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

8人の女たち

 フランス映画界の俊英、フランソワ・オゾン監督によるミュージカル。女性同士の憎しみや企みなどを巧みに盛り込んだシナリオを、様々なジャンルの音楽で飾った内容は豪奢そのものでした。
 女優一人ごとにメインになる曲があり、それを順番に歌っているうちに話も進むというトリッキーな展開。女性のしたたかさが存分に描かれた脚本もなかなか見物です。しかし何と言っても、この映画の一番の見所は出演している女優の豪華さでしょう。映画ファンなら唸ってしまう名優ばかりで、一つの画面に収まっているだけでも圧巻なのに、そんな彼女達が歌って踊っていがみ合うというこの企画自体に絶対的な魅力があります。犯人探しなどそっちのけで、女性たちの駆け引きを楽しんでしまいました。”女性の醜さ”を描くのに美女ばかりを配し、取っ組み合いまでさせたあげくコメディに仕立ててしまうオゾン監督のセンスは凄いなあ、と。

 ドヌーヴとアルダンの演技合戦は必見。エマニュエル・ベアールも久々に良かった。とにかく分かりやすくて楽しい映画でした。フランス映画をあまり知らない方でも、ぜひ。

監督:フランソワ・オゾン
原作:ロベール・トーマ
出演:ヴィルジニー・ルドワイヤン、リュディヴィーヌ・サニエ、カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベアール、ダニエル・ダリュー、イザベル・ユペール、ファニー・アルダン、フィルミーヌ・リシャール
20060310 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

テルミン

 デジタル音源の黎明期に発明され、ホラーやSFといった映画に使われた楽器「テルミン」と、その製作者レフ・セルゲイヴィッチ・テルミン博士を巡るドキュメンタリー。歴史の彼方に忘れ去られようとしていたテルミンを再発見した、貴重な作品です。
 テルミンの音楽性や技術的な話題に終始すると思っていたら、発明者であるテルミン博士の人生の足跡をたどるような内容でした。しかもその博士のたどった人生というのが実に奇妙。ハリウッドで人気を博したと思ったら、スターリンの粛正に巻き込まれ……といった事実を、資料と調査であぶりだしていく丁寧な手法は、ドキュメンタリーとして良くできています。何より半世紀以上の時を経て、再び見いだされた人々と楽器の”再開”には感動させられました。

 世界初の電子楽器テルミンについて、少しでも興味のある方は必見。自らが作り出した楽器と同様、非常に数奇な運命をたどったテルミン博士の人生は、それ自体がファンタジーで驚かされました。なお博士自身は、まるでこの映画が作られるのを待っていたかのように、映画の完成直後に亡くなられています。合掌。

監督:スティーヴン・M・マーティン
出演:レオン・テルミン、ブライアン・ウィルソン、トッド・ラングレン
公式サイト
20060309 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -