★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

 ギタリストのライ・クーダーが、キューバ音楽に魅せられて製作した同名のアルバムをめぐるドキュメンタリー。キューバ音楽の、時を経ても色褪せない魅力がたっぷりと詰まった佳作です。
 僕はキューバ音楽に詳しいわけではないので、細かい解説は余所に譲ります。ただ、コンパイ・セグンドやエリアデス・オチョアといったキューバの老ミュージシャンたちの演奏は想像以上にパワフルで、しかも中には90を過ぎた人もいるのになおセクシーなのには驚かされました。音楽で人生を語れる彼らは純粋に魅力的ですし、その言葉の裏にはキューバの過酷な歴史が明確に存在しています。そういった厚みを観客に意識させた上で見せる、ラストのカーネギーでのコンサートは、これはもう反則。全てが美しくて、ただ惚れ惚れするばかりでした。

 もちろんアルバムも購入しました。どの曲も名曲ですね。もう随分聴き込んでいるので、今観ると多分映画の評価も上がってしまうだろうなあと思いつつ、一応初見の時の評価のままで。だって素材の良さが映像を上回ってるんだもの。

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ルベーン・ゴンザレス、イブライム・フェレール、ライ・クーダー、オマーラ・ポルトゥオンド、エリアデス・オチョア、コンパイ・セグンド、ヨアキム・クーダー
20060308 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スクール・オブ・ロック

 常にひと癖ある映画を撮り続けるリチャード・リンクレイター監督による、コテコテスポ根風味のロック映画。ファミリー向け映画のふりをして、実はロック好きの精神が詰まった佳作です。

 ジャック・ブラック演じるニセ教師のキャラクター自体はスポ根にありがちなものの、教えるのが”ロック”というのが斬新でした。ロックの歴史を知らなくてもそれなりに笑えますが、知っている人には堪らない濃さの授業は一見の価値あり。観れば誰もが「ロックの杯を掲げ」たくなります。演奏される音楽や使っているギターなんかもいちいち気が利いていて、その上ジャック・ブラックの大げさすぎる演技に爆笑させられてしまいました。
 とにかくこのジャック・ブラックの破天荒な教師ぶりは必見です。もともと、脚本家で映画に出演もしたマイク・ホワイトが、無名時代からの盟友であるジャック・ブラックのために書いた脚本だそうで、ハマらないはずがありません。子供たちの配役も絶妙で、中には既にプロとして活躍している人もいるという懲りよう。非常に大ざっぱな脚本ですが、彼らの勢いに感情移入してしまって、最後は涙してしまいました。

 そういえば、僕も小学校の頃こういう先生に教わったことがありました。校内放送で校長から怒られても雪合戦を止めなかった山田先生は最高の恩師ですが、今ではそういう先生は少ないのかも。そんな現代に対する”反抗”という意味でも、”ロック”は分かりやすいヒーローなのでしょう。ご都合主義大歓迎な方はぜひ!

監督:リチャード・リンクレイター
出演:ジャック・ブラック、マイク・ホワイト、ミランダ・コスグローヴ、ジョーイ・ゲイドス・Jr、サラ・シルヴァーマン 、ジョーン・キューザック
公式サイト
20060307 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ

 本国アメリカでは記録的な大ヒットとなった舞台劇を、舞台と同様ジョン・キャメロン・ミッチェルの監督・脚本・主演で映画化し、2001年度のインディペンデント映画界において最も話題をさらった作品。予告編のビジュアルからはトリッキーな印象を受けたんですが、実際観ると非常に普遍的な物語で驚かされました。
 アウトサイダーに対する偏見や差別を切り口にしつつ、描かれているテーマは非常にスタンダードで、観れば誰にでも判る明快な主張というのが面白い。主人公ヘドウィグは、外見こそ一般性から外れていますが、その感性はむしろ繊細で、赤裸々に綴られる彼の人生観はダイレクトに観客自身の理性を突き刺します。見方によっては陳腐にも思えるのでしょうが、それをロックに乗せて堂々と語りきっているところが潔く、その真摯な歌詞に思わず涙することもしばしば。映画の構成としては、巷間に溢れる”プロモーションビデオ映画”と何ら変わらないんですが、そこに強烈なテーマを介在させることで一気に映画的にするという手法も斬新でした。

 ジョン・キャメロン・ミッチェルのヘドウィグは、それだけで映画史に残せそうなぐらいのカリスマ性で魅せてくれます。彼の生き様がひたすら美しく、辿り着いた観念的なラストも良い。「自分の片割れ探し」という題材で、この結論に行き着くのは僕の理想。文句なしの傑作です。

監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:ジョン・キャメロン・ミッチェル、マイケル・ピット、ミリアム・ショア、スティーヴン・トラスク、アルバータ・ワトソン
20060306 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ムーラン・ルージュ

 バズ・ラーマン監督の"レッド・カーテン三部作"の完結編となるミュージカル映画。期待をはるかに上回る内容に驚かされました。正統派ミュージカルのベクトルを現代的に発展させつつ、とことんまで極めたような印象です。
 まず何と言っても音楽が凄い。有名な曲ばかりなものの、それを映画の雰囲気に合わせてアレンジしてあって聴き応えがありました。そして、セットも衣装も豪華絢爛。そこにバズ・ラーマン監督の縦横無尽の演出が加わって、あまりの情報過多にクラクラしますが、それが観ているうちに不思議にトリップ感へと変わります。音楽シーンにこだわったためなのかシンプルすぎるほどの脚本も、それだけ純粋で分かり易く、かえって映画に骨太な印象を与えていました。

 俳優では、ユアン・マクレガーとニコール・キッドマンのカップルが、何より非常に画になっています。あとジョン・レグイザモがロートレックを演じているというのもツボ。現代ハリウッドらしい、映像も音楽も盛り沢山のミュージカル大作として、大満足の出来でした。DVDはもちろん、写真集もサウンドトラックも”買い”です。

監督:バズ・ラーマン
出演:ユアン・マクレガー、ニコール・キッドマン、ジョン・レグイザモ、ジム・ブロードベント、リチャード・ロクスバーグ
20060305 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ベルベット・ゴールドマイン

 70年代のイギリス・グラムロックシーンを題材にした実話風ドラマ。俳優や映像は良いんですが、当時の事情を知らない人間にはピンと来ない内容でした。
 明らかにデヴィッド・ボウイをモチーフにしたブライアン・スレイドというキャラクターを中心に、当時の噂話を詰め込んだような物語、のようです。70年代当時の世相と、そこに生きた若者たちをあくまで本人たちの視点で描きつつ、ひたすら耽美な世界としてスクリーンに映し出したのは当時を知る人には感動モノなんでしょうが、何しろ僕はグラムロックなんて知らないし、「トレインスポッティング」で初めてイギー・ポップを意識したという完璧な門外漢なので、映画はそこそこ楽しめたという程度でした。ドラマのキモがどこにあるのか分からないので、スタイリッシュな映像がただ空回りしているという印象です。ただしユアンのイギー・ポップぶりは必見、特にお尻。

 ミュージッククリップもどきやライブシーンは充実していました。回顧主義的な排他性は否めませんが、当時を再現したファッションは純粋に格好良いし、映画自体、その耽美な世界観に浸らせるのが目的なので、思い入れがある人には楽しめるのでは。

監督:トッド・ヘインズ
出演:ユアン・マクレガー、ジョナサン・リス=マイヤーズ、クリスチャン・ベール、トニ・コレット
20060304 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ゴーストワールド

 ダニエル・クロウズの人気コミックを、「クラム」のテリー・ツワイゴフ監督で映画化。「ダメに生きる」というキャッチコピーからして僕のツボに響きまくりで、とても印象的な青春映画でした。

 主人公の、達観しているのかただの幼さなのか判別の付きにくい行動が、現代的でとても共感出来ます。登場人物の性格設定があまりにバラバラなのも妙にリアル。みんなどこかに実在していそうで、誰もが主役になりうるだけの重さがありました。しかし映画では、主人公イーニドの純粋で妥協しない性格に代表される”他人との距離”に絞ってエピソードが積み重ねられていて、そのさりげなさが絶妙でした。寓話的なラストも、作品のムードに合っています。
 とにかく、社会に出なきゃいけないのに、自分と社会との大きな溝を克服出来ずに悩んでしまう、その心境を痛々しいまでに描写していて、身につまされました。社会に溢れる「普通」という考え方を、子供の頃は嫌悪していたのに、どうしてそれに迎合してしまうんだろう、という問題提起があまりに切実。青いって良いなあ。

 主演のソーラ・バーチとスティーヴ・ブシェミの掛け合いが、楽しいのにもの悲しい。これぞまさにミニシアター系の醍醐味です。青春は美化されがちだけど、要するにアレはガキがはしゃいでるだけで、そのまま年だけ取るからバカな大人が増えるのよ(自分も含めて)、という映画です。そんなわけで、バカな大人必見。

監督:テリー・ツワイゴフ
原作:ダニエル・クロウズ
出演:ソーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンセン、スティーヴ・ブシェミ、ブラッド・レンフロ
20060303 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

奇人たちの晩餐会

 フランシス・ヴェベール監督による軽妙なコメディ。舞台劇のように一つの部屋で繰り広げられるドタバタ劇で、練り込まれたシナリオが秀逸な佳作です。
 「メルシィ!人生」のときにも感じたことですが、大きな波はないもののひたすら笑えるシナリオが凄い。バカを笑いものにする晩餐会というアイデアも皮肉タップリなうえ、その晩餐会に否応なく参加させたくなるほどのバカをきちんと表現出来ています。さるげなくホロリとさせるシーンや、気持ちの良い大オチまであるのには感服しました。コメディの基本が出来ています。スケールの大きい話ではないので劇場向けかというと疑問ですが、これだけのシナリオを見せられると文句は言えないですね。

 俳優ではジャック・ヴィルレ(ピニョン役)とダニエル・プレヴォー(査察官役)の二人が見事なコメディアンぶりを発揮していて、セザール賞の受賞も納得。それにティエリー・レルミットがまた格好いいんですが、今回は翻弄されっぱなしでオイシイ役回りでした。この人見たさに観た映画でもあったので、大満足です。

監督:フランシス・ヴェベール
出演:ジャック・ヴィルレ、ティエリー・レルミット、アレクサンドラ・ヴァンダヌート、カトリーヌ・フロ、ダニエル・プレヴォー、フランシス・ユステール
20060302 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

散歩する惑星

 カンヌ広告祭等で多くの賞を受賞しているロイ・アンダーソン監督による不条理芸術映画。ペルーの詩人セサル・バジェホの詩に影響されたという物語は、とにかく不条理で何が何だか、でした。
 壮大なるローテクで撮影された映像には独特の荒涼とした味わいがあり、頑張って生きている人々の姿は時に喜劇にすら見えてきます。そういう”普通の人々”に向けた”人生賛歌”のような映画、という点については理解出来るんですが、いかんせん僕のセンスには合いませんでした。きっちり決まった構図とか、漠々として虚無感だけが漂う風景とか、白塗りで計算された動きしかしない人々とか、表現的に惹かれる点は多いだけに残念。

 これを観て思ったのは、「最近人生を嘆かなくなったなあ」ということ。そのときの精神状態を映す鏡のような作品なのかもしれません。励まされたい人とか悩みたい人には打って付けの映画。

監督:ロイ・アンダーソン
出演:ラース・ノルド、シュテファン・ラーソン、ルチオ・ヴチーナ、ハッセ・ソーデルホルム、トルビョーン・ファルトロム
20060301 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

12人の優しい日本人

 シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」をモチーフにした東京サンシャインボーイズの舞台劇を、中原俊監督で映画化。登場人物の日本人らしい葛藤に、腹がよじれるほど笑える傑作コメディです。
 ”もしも日本に陪審員制度制度があったら”というアイデア自体が秀逸ですが、それをここまで論理的に組み上げた三谷幸喜の脚本センスは凄い。役者の演技も際立っていて、116分という上映時間の中に無駄な間が全く無いことに驚かされます。しかも、繰り広げられる議論がことごとく日本人的で、自分の意見がなかったり結論を先延ばしにしたりと、法廷劇の常識をことごとく覆すトリッキーさは爆笑もの。落語のようにきっちり落とすラストといい、非の打ち所のない内容です。

 俳優では、誰を差し置いても相島一之のしつこい演技が印象的でした。当時まだ無名だった豊川悦司の飄々とした佇まいも必見。でも、それ以外の役者も全員が個性的で、”日本人”の博覧会のような趣の映画でした。地味な映画ですが、コメディ好きにはお薦めの一本。

監督:中原俊
出演:相島一之、塩見三省、上田耕一、二瓶鮫一、中村まり子、大河内浩、梶原善、山下容莉枝、村松克己、林美智子、加藤善博、豊川悦司
20060228 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

Shall We ダンス?

 周防正行監督による HOW TO もの映画第三弾にして、日本国内に社交ダンスブームを起こしたほどの大ヒット作品。相変わらずゆったりとしたテンポでそこはかとなく笑える映画のムードは最高なんですが、ちょっと豪華になりすぎてしまった感じでした。
 ”ズブの素人が慣れない環境で奮闘しつつ、地道な努力で着実に上達する”というスポ根の基本を丁寧に描写しつつ、その端々でほのぼのとした笑いを誘うところは相変わらず見事。ロマンチックな演出や深みを増したドラマのおかげで、前二作から一気に30分以上も延びた上映時間が気にならないほどでした。ただ、”感動”に比重が置かれてしまった物語は、ちょっと重くていまいち乗り切れません。いくら映画とはいえ、ラストダンスの展開もちょっと辛い。もしかしたら、それまで映画ひと筋だった周防監督が、草刈民代というダンサーに”浮気”した顛末を描いた作品なのかなあ、と邪推をしてしまいました。

 それでも純粋に笑えて感情移入できる立派なコメディなのは確か。何より役所広司の名演と、草刈民代の才能が見事に結実した、大人向けのラブコメに仕上がっているのは万人の認めるところでしょう。竹中直人、渡辺えり子、徳井優といった脇のキャラクターも秀逸。周防監督は、この作品以降沈黙を続けているんですが、ハリウッド版も無事に公開されたことだし、そろそろ新作の話題を聞きたいところです。

監督:周防正行
出演:役所広司、草刈民代、竹中直人、渡辺えり子、徳井優、田口浩正、草村礼子、宮坂ひろし、原日出子、柄本明、本木雅弘
20060227 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -