★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ユニバーサル・ソルジャー

 “ドイツのスピルバーグ”と評されたローランド・エメリッヒ監督の、ハリウッド・デビュー作。ヴァン・ダムとラングレンという二人のアクション・スターの共演が話題でしたが、エメリッヒの地味な作り込みとの食い合わせは悪いような。
 冒頭の超遠距離狙撃というあまりに地味な作戦や、SFアクション作品らしからぬ妙に凝った設定など、とにかくエメリッヒ監督独特のセンスが炸裂しています。ただB級止まりのセンスを大まじめに展開するという欠点は既に露呈していて、前半こそ盛り上がるものの後半は失速気味。確かに脚本は凝っているんですが、こういう単純アクション映画で脚本に凝られてもなぁ、と観ていて困ってしまいました。

 ラングレンの悪役ぶりは見物です。ヴァン・ダムは相変わらず時代遅れのヒーローそのもの。B級アクション好きなら楽しめるとは思いますが、エメリッヒのセンスが鼻につく点は否めません。

監督:ローランド・エメリッヒ
出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ドルフ・ラングレン、アリー・ウォーカー、エド・オロス、ジェリー・オーバック
20060328 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

メン・イン・ブラック2

 ブラックな笑いでヒットしたSFアクションの、同一監督による続編。前作から余分なものを削って勢いを増したおかげか、ノリの良い単純アクション・コメディとして好感の持てる内容でした。
 モンスターのデザインが控えめになり、荒唐無稽なアクションシーンが増えたのが何より良かった。ストーリーもあってないようなもので、ヒロインの扱いもぞんざいならボスのやられ方まであっけなく、何から何までテキトーB級映画のお手本のような作品。ボリューム不足は残念ですが、くだらないジョークを笑い飛ばすだけという開き直りが感じられて、最後まで楽しめました。

 前作で嫌々やっていた節のあるT・L・ジョーンズが、喜々として出演しているのに何より驚きました。ウィル・スミスは相変わらずというか、むしろ板に付いてきた感じ。あと今作のカメオ出演者にはビックリ…! ソネンフェルド監督には、このままジョン・カーペンターへの道を着実に歩んでいって欲しいところです。

監督:バリー・ソネンフェルド
原作:ローウェル・J・カニンガム
出演:ウィル・スミス、トミー・リー・ジョーンズ、 ララ・フリン・ボイル、ロザリオ・ドーソン、リップ・トーン
20060328 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ワイルド・ワイルド・ウエスト

 シュールな映像センスに定評のあるバリー・ソネンフェルド監督による、60年代アメリカの人気テレビシリーズの映画化作品。ありがちなハリウッド製アクションと思わせて、実はあなどれない内容でした。

 007シリーズをそのまんまパクったオープニングに始まって、相変わらずのブラックな内容はソネンフェルド監督らしい世界。分かり易いストーリーもケレンがありますし、ウィル・スミスの喋りだって今回はハマっていて、黒人の保安官というナンセンスさも素直に笑えます。脇を固めるケヴィン・クラインやケネス・ブラナーといった渋い男どもも、それぞれに芸達者で楽しめました。
 でも、この映画の主役はメカ! 蒸気機関で煙を吹き出しながら走る自転車や巨大蜘蛛を観るだけで料金分は回収できるというものです。何といっても拡声器とか、明らかに蒸気機関では不可能な仕掛けまでゴリ押しで通す、良い意味での常識の無さがスチームパンク好きにはたまりません。特撮的なレベルは低くても奇抜なビジュアルは期待以上だったので、その点では大満足でした。

 CG全盛で、ただ規模を大きくすればいいだろうという映画が多い中で、この映画はむしろCGで何を見せたいかがはっきりしていて好感が持てます。より効果的な演出ができればもっといいんですけど、大味な娯楽作品と、スチームパンクが好きな方はぜひ。

監督:バリー・ソネンフェルド
出演:ウィル・スミス、ケヴィン・クライン、ケネス・ブラナー、サルマ・ハエック、M・エメット・ウォルシュ
20060328 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

メン・イン・ブラック

 「アダムス・ファミリー」のバリー・ソネンフェルド監督によるSFアクション・コメディ。かなり広告で煽っていた割に、映画はお粗末な出来でした。
 主演二人の迷コンビぶりや、既存のSFを巧みに皮肉るセリフの数々は、なかなか良いセンスです。でも肝心のストーリーがとりとめもないので宝の持ち腐れという印象。クリーチャーデザインも狙い過ぎなうえに、日本人にはちょっとアクが強すぎます。全体としては、何も考えずに観て、終わったらキレイさっぱり忘れるという典型的な大量生産主義の映画になってしまいました。細かいアイデアは光っているので、もっと世界観を広げてもらえるとよかったのに、とつくづく残念。

 トミー・リー・ジョーンズがかなり嫌々演じているように感じたのは気のせいでしょうか。ソネンフェルド監督は個人的に思い入れがあっただけに、これで消えるのは惜しいなあ……と思っていたら次の大作「ワイルド・ワイルド・ウェスト」や「メン・イン・ブラック2」で悪ノリしてくれたので、ちょっと見直しました。その過渡期の映画ということで。

監督:バリー・ソネンフェルド
原作:ローウェル・J・カニンガム
出演:ウィル・スミス、トミー・リー・ジョーンズ、リンダ・フィオレンティーノ、ヴィンセント・ドノフリオ
20060328 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

病院坂の首縊りの家

 市川崑監督による、石坂金田一シリーズ第五弾。もはやありきたりな怪奇ミステリになってしまった観があるものの、きっちり面白くする市川監督の手腕は流石です。
 冒頭からジャズバンドが登場してどうなることかと思いましたが、物語の進行に合わせて雰囲気も次第に重厚になり、美しくも悲しいラストでは思わずため息をついてしまうほどでした。前作とは打って変わって落ち着いたトーンの映像が、鬱々とした空気をさらに強烈にしています。桜田淳子の演技、佐久間良子の美しさなど、恒例ともいえる女優の見せ方も手慣れたもの。複雑なドラマは最初分かりにくいんですが、収束が見え始めてからの盛り上がり方はなかなかで、シリーズの最後にふさわしい納得の出来かと。

 当時はこれが最終章、ということで横溝夫妻も登場しての大団円がシリーズのファンには嬉しいところでした。石坂浩二を始め、レギュラー陣も相変わらずの活躍ぶりで楽しませてくれます。何はともあれ、時代を風靡した怪奇ミステリ・シリーズとして、必見の一本といえるでしょう。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、佐久間良子、桜田淳子、入江たか子、三条美紀、萩尾みどり、あおい輝彦、ピーター、草刈正雄、小沢栄太郎、清水紘治、加藤武、草笛光子、大滝秀治、三木のり平、小林昭二、中井貴恵、横溝正史
20060324 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

女王蜂

 市川崑監督による、石坂金田一シリーズ第四弾。さすがにマンネリですが、それでも見どころが残されているのがこのシリーズの凄いところです。
 三部作の予定が、あまりの人気ぶりに無理矢理続けたような企画を、逆にシリーズのオールスター的に仕上げるという開き直りぶりが良い。紅葉や茶の湯、土塀など日本らしい美を巧みにとらえた映像も、シリーズ中最高の色彩感で魅せてくれます。ただ、そのせいか前作までのおどろおどろしさが消えて、エンタテイメント色が強くなってしまったのが残念。犯人の止むに止まれぬ事情など、人間の暗さを暴き出すのが金田一シリーズの肝だと思うんですが、そういう切実さまで薄れてしまったような印象です。

 俳優では、とにかく仲代達矢が良いですね。こういう演技がきちんと生きる映画である、というのが嬉しいところです。あとは岸恵子がやっぱりキレイ。犯人当ての場面は無理矢理だなあと思いつつも、この出演陣に助けられました。シリーズのファンなら、ぜひ。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、中井貴恵、高峰三枝子、司葉子、岸恵子、仲代達矢、萩尾みどり、沖雅也、加藤武、草笛光子、大滝秀治、坂口良子、三木のり平、小林昭二、常田富士男
20060323 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

獄門島

 市川崑監督による、石坂金田一シリーズ第三弾。安心してみられる定番の構成ですが、返って新鮮さが薄れてしまったのがちょっと残念かも。
 前二作の良いところを合わせたような構成で、お家騒動も人情もきちんとこなしつつ、“呪われた島”での惨劇をショッキングに描写しています。市川監督のツボを心得た映像といい、相変わらずの石坂金田一といい、とても安定感のある内容でした。ただ、各要素に突出していた前二作に比べると精彩を欠く印象もあります。犯人が原作と違うというのも、とってつけたような感じで微妙。それでも十分インパクトのある内容なのは、やはり市川監督のセンスがそうさせているんでしょうか。

 加藤武、大滝秀治、坂口良子、三木のり平といった常連俳優の顔を拝むだけでも観る価値のある映画でした。池田秀一が出演していたというのも驚き。あと、犠牲者の殺され方がシリーズ中でも屈指の懲りようなので、そのあたりも注目です。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、司葉子、大原麗子、ピーター、東野英治郎、浅野ゆう子、上條恒彦、草笛光子、佐分利信、内藤武敏、池田秀一、加藤武、大滝秀治、坂口良子、三木のり平、小林昭二
20060322 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

悪魔の手毬唄

 市川崑監督による、石坂金田一シリーズ第二弾。前作と好対照を成す落ち着いた構成と、岡山の土俗的な空気が非常にマッチして、なんともいえない味のある暗さを作り出した、シリーズ中でも出色の作品です。

 エキセントリックさの目立つ前作に対して、今回はあくまでミステリの基本に忠実。犯人当てらしいギミックを盛り込みつつ、最後は横溝小説らしくお涙頂戴に持っていく定番の構成が効いています。手毬唄の不気味さや、犠牲者の陰惨な殺され方はトラウマものの怖さ。それでも落ち着いたトーンを保ち続ける映像と音楽が、映画全編を一つのカラーで貫く完成度の高い内容でした。
 俳優では、ひたすら岸恵子がキレイ! この人が出てくると画面が一気に華やかになります。ラストの展開などは説明的で辛いところもあるんですが、その華やかさのおかげで苦になりませんでした。相変わらずの石坂浩二や加藤武は安心して観られますし、大滝秀治、三木のり平、小林昭二といった常連組の出演も嬉しくなります。

 個人的には、僕の父親の地元である岡山の地名や言葉が多々出てくるので、こればかりはひいき目に見てしまいました。それでなくても、金田一ミステリの代名詞とも言えるもの悲しい空気が映画全編から感じられる、非常にオススメの一本です。ミステリファンならずとも、ぜひ。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、岸恵子、若山富三郎、仁科明子、北公次、渡辺美佐子、辰巳柳太郎、草笛光子、原ひさ子、川口節子、中村伸郎、加藤武、常田富士男、大滝秀治、三木のり平、小林昭二
20060321 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

犬神家の一族

 角川書店の映画進出第一作目。市川監督の独特のタッチが見事であり、探偵金田一耕助のキャラクタも人気を博すなどしてヒットを記録したミステリの秀作。

 横溝正史原作の金田一耕助シリーズは、日本ならではの因習とドロドロとした人間関係が魅力で、犯人当てよりドラマとしての面白さが強いのですが、市川監督はそこに可能な限りエキセントリックな演出を施し、キャラクターも分かり易く造形することで映画向きに仕立て上げています。76年の映画とは思えないほどキレのある編集や、後に数々の模倣を生み出す極太明朝体によるタイポグラフィなど、映画らしい手応えのある映像がとにかく見事。大野雄二の伸びのある音楽も手伝って、大衆性と作家性を兼ね備えた希有な作品になりました。
 金田一を演じた石坂浩二を始め、出演陣もかなり豪華。高峰三枝子の熱演は、一度この映画を見た人なら忘れ難いものです。後にシリーズ常連となる加藤武、地井武男、大滝秀治、草笛光子、三木のり平などの演技も、それぞれにツボを心得ていて平坦なシーンも飽きさせません。あと個人的に好きな岸田今日子の演じたお琴の先生が、やはり抜群の存在感で凄いと思いました。

 最初に観たときは、ここまでエネルギッシュな作品が日本にも作れることに驚かされました。傍観者としての探偵に歯がゆさを覚える人には向きませんが、ともかく記憶に残る作品なのは確かでしょう。日本映画史に残るミステリとして、未見の方はぜひ。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、高峰三枝子、三条美紀、草笛光子、あおい輝彦、島田陽子、地井武男、加藤武、大滝秀治、三木のり平、坂口良子、岸田今日子、角川春樹、横溝正史、三国連太郎
20060320 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハーフ・ア・チャンス

 パトリス・ルコント監督が、アラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドというフランスの二大スターを主演に撮りあげた痛快アクション。ダンディな魅力満載で、笑いもアクションも楽しめる良作です。
 ドロンがクラシックカーで爆走すれば、ベルモンドは鍵開けに手腕を発揮し、二人揃って銃撃戦だってこなしちゃう、この60過ぎの大俳優たちがとにかく魅力的。間を取り持つヴァネッサ・パラディも、オヤジ二人を振り回すしたたかさで存在感がありました。この三人の掛け合いがとにかく楽しく、ハラハラさせるシーンもある意味安心して楽しめます。マフィアの抗争や警察の介入などシリアスなドラマが裏で進行しているのに、どこ吹く風の三人組がことごとく事態をブチ壊すヌルい展開には、ある意味カタルシスまで感じました。

 全編通して、フレンチB級アクションを彷彿とさせつつ、色気と笑いできっちり楽しませてくれる上質のエンタテイメントでした。回顧主義だといわれようが面白いものは面白いのです。ぜひ。

監督:パトリス・ルコント
出演:アラン・ドロン、ジャン=ポール・ベルモンド、ヴァネッサ・パラディ、エリック・デュフォス、ミシェル・オーモン
20060317 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -