★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ニルヴァーナ

 ガブリエレ・サルヴァトレス監督による近未来SF。「マトリックス」のような仮想空間SFですが、ゲームを起点にしていたり主人公の立場が逆だったりと、脚本の凝り方が面白いと感じました。

 こういう活劇系のSF映画は、どうしても派手なアクションや場面転換で作品のテーマをぼやかしてしまうことが多いんですが、この作品は派手な演出に偏重しすぎていないところで好感が持てました。登場人物も異様な設定であるものの魅力的。ゲーム画面と現実世界の描き分け方も、色の使い方や特殊効果にセンスを感じました。
 ただ、やはりテーマがテーマなだけに語り尽くされている感は否めません。何故ゲームのキャラクターが意志を持つのか、という原因付けが唐突。映像も凝っている割に粒子が粗すぎて、何をやっているのか分からないところがあって残念でした。ともあれ、ヨーロッパ映画らしい考察を含んだ、サイバーパンク作品としては注目すべき点のある映画なのは確かです。

 主演のクリストファー・ランバートは例によって例のごとく。ヨーロッパ系映画には欠くことの出来ないアクションスターという感じ。日本文化の品々が色々に出てくるのも、日本人としては楽しいところでした。

監督:ガブリエレ・サルヴァトレス
出演:クリストファー・ランバート、ディエゴ・アバタントゥオーノ、セルジオ・ルビーニ、ステファニア・ロッカ
20060127 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

狼たちの午後

 1972年に起きた銀行強盗事件を下敷きに、シドニー・ルメット監督が制作したサスペンス映画。うだるような夏の暑さが、70年代の持つ熱狂した空気を感じさせる傑作です。

 単純な銀行強盗事件に留まらず、民衆を扇動しFBIすら登場させる犯人達のカリスマ性が良い。どこまで実話に基づいているのかは不明ですが、この映画によって描かれた当時のアメリカ社会に内在する問題には戦慄すら覚えました。回想シーンやモノローグを一切使用しない演出も、物語の重厚さを引き立てています。あくまで銀行強盗の顛末を時系列に沿って描くことで、混乱した現場の空気がひしひしと伝わってきました。
 まだ若々しいアル・パチーノが、銀行強盗役を鬼気迫る見事な演技でこなしています。相棒役のジョン・カザールや、出番は少ないんですがクリス・サランドンなど、出演陣も見物。

 劇中で何度も叫ばれる「アティカ!」は、事件直前の'71年に起き、多数の犠牲者を出したアティカ刑務所の暴動事件を指しているそうです。この言葉に野次馬が増長する場面など、忘れがたいシーンが多々ありました。70年代を代表する作品の一つでしょう。

監督:シドニー・ルメット
原作:P・F・クルージ、トマス・ムーア
出演:アル・パチーノ、ジョン・カザール、チャールズ・ダーニング、ジェームズ・ブロデリック、クリス・サランドン
20060126 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

シモーヌ

 「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督によるSF作品。ヴァーチャルアイドルに対する真摯な考察かと思いきや、実際はハリウッド楽屋オチ的な皮肉に満ちたコメディ作品でした。

 前作で見せたSF的イマジネーションそのままに、実在する”夢の都”ハリウッドを描き出す着眼点は流石。倉庫が建ち並ぶ撮影所の風景すらメリハリをつけて描ける映像センスもあって、最後まできっちり惹きつけられる物語に仕上がっています。ただ、どこか物足りなさが残るのはイマイチ暴走できていない脚本のせいでしょうか。パチーノがPCを操って”微調整”するシーンなんか最高なんですが、誰かを傷つけてまで笑おうという思い切りが無いために、”お上品”から一歩踏み出せていない印象でした。
 SF的なツッッコミどころは多々ありますが、それを犠牲にしても一般人に分かりやすい展開にしているのには好感が持てます。SFが苦手な方のほうが楽しめるかもしれません。何より、パチーノが冒頭でぶちあげる”映画論”が最高なので、日頃からハリウッド映画に不満を募らせている方は是非。

監督:アンドリュー・ニコル
出演:アル・パチーノ、レイチェル・ロバーツ、ウィノナ・ライダー、キャサリン・キーナー
20060125 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

移転してきました

 FC2のブログから、本日移転してきました。ブログプログラムには「Serene Bach」を使用させていただいてます。サーバーは以前から借りている「さくらインターネット」で。独自ドメイン万歳! 複数カテゴリ万歳! という感じ。
 まだちょっと不具合が残っている状態での見切り発車ですが、一両日中にはなんとかしますので、暫くお待ち下さい。

(1/25追記)
 調整終了。ひとまずこれで本公開にします〜。
20060124 | ルール・その他 | - | -

シンプル・プラン

 B級ホラーのヒットメイカーであるサム・ライミ監督が、ベストセラー小説の映画化に挑んだ意欲作。これまでの作風からはとても想像出来ない落ち着いたトーンに驚かされる、サスペンス映画の佳作です。

 大金を手にした人々の動揺と、そのために引き起こされるトラブルが非常に自然に描かれていて、思わず引き込まれました。日常に潜在している不満が、現金を前にしたときに顕在化する様はゾクゾクします。定番とは言え、落とし方も心に迫るものがありました。それだけに途中でチープなミステリのような展開になってしまったのが残念。あと、折角の雪景色を映像的に活用し切れていないところも物足りないところです。
 それにしても、ビル・パクストンは”冴えないアメリカの小市民”を演じると説得力がありますね。共演のビリー・ボブ・ソーントンが、珍しく色気ゼロの冴えない中年をきっちり演じているのも凄い。最初本人かと疑うようなビジュアルなんですが、彼がいなければここまでの映画にはならなかっただろう、というほどの名演でした。

監督:サム・ライミ
原作:スコット・B・スミス
出演:ビル・パクストン、ブリジット・フォンダ、ビリー・ボブ・ソーントン
20060124 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ガレージ・デイズ

 アレックス・プロヤス監督が、馴染みのあるオーストラリアで制作した青春映画。あるバンドに集まった若者たちの悲喜交々を丁寧に描いていて好感が持てます。

 バンドにまつわるトラブルが女性関係メインだったり、有名音楽プロデューサーとコネを作ろうと躍起になったりするイタい内容を、さらに本人達の目線で描いているので恥ずかしいぐらいですが、こういうのも初々しくて良いかも。相変わらず映像と音楽に対する作り込みは一級品で、かつ音楽映画という題材にマッチしています。主人公達のファッションも説得力がありました。主人公のオレ語りと、青春映画らしく他愛もないことで怒鳴りすぎるのには流石に辟易しましたが、どこかトボケた感じのキャラクターで救われているのでは。
 非常に他愛のない話で、最後にまとめすぎてしまった感もありますが、ハリウッド映画にはない色彩に溢れた青春映画でした。バンド経験者なら赤面してしまうぐらいの赤裸々さなので、そっち方面で思い出したくない過去がある人が観たら効果てきめんなのでは。あと、エンドロールが楽しいことになっているので、是非そちらもお楽しみに。

監督:アレックス・プロヤス
出演:キック・ガリー、マヤ・スタンジ、ピア・ミランダ、ブレット・スティラー、ラッセル・ダイクストラ、アンディ・アンダーソン、マートン・ソーカス
20060123 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ラブ・アクチュアリー

 「ノッティングヒルの恋人」や「ブリジット・ジョーンズの日記」の脚本家リチャード・カーティスがメガホンを取った恋愛群像劇。豪華なキャストが見物の軽いドラマで、いかにもクリスマス・ムービーといった内容でした。
 人物一人あたりのドラマは殆どなく、だいたいは”起転結”で終わってしまうので、135分とかなり長い映画ですが飽きずに観ることが出来ます。ただ、そのせいか物語には深みがなく、どこかで観たような話を再構成しただけという印象も。それでも全体のまとめ方が巧みで、映像的にも華があるので、ちょっと恋愛映画でもという時には最適な映画ではないでしょうか。

 もっとも、嫌みなぐらい清廉潔白な物語が楽しめなくても、豪華な出演陣を鑑賞するだけでお腹いっぱいになれるのがこの映画の良いところです。ヒュー・グラントとアラン・リックマンに始まり、イギリスを代表する役者がこれでもかと集まっての大盤振る舞いは豪華の極みで、中でもローワン・アトキンソンのお邪魔虫っぷりは最高。イギリスらしいシニカルなジョークが楽しめないのが最大の心残りですが、映画をよく観る人からあまり観ない人まで楽しめる、良質の恋愛映画でした。

監督:リチャード・カーティス
出演:ヒュー・グラント、リーアム・ニーソン、エマ・トンプソン、コリン・ファース、アラン・リックマン、ローラ・リニー、キーラ・ナイトレイ、ビリー・ボブ・ソーントン、ローワン・アトキンソン
20060122 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ドグマ

 ハリウッドの問題児ケヴィン・スミス監督による、宗教を題材にしたブラック・コメディ。本国ではキリスト教徒による上映禁止運動が起こり、日本でも限定公開になった曰く付きの映画。完成度はそこそこですが、独特のまったりとしたテンポには中毒性がありました。

 ベン・アフレックとマット・デイモンの共演作とだけ聞いて観るとあまりに方向性が違うので驚かされますが、突飛な世界観はアメリカン・コメディのノリに忠実なのですんなり入り込むことが出来ました。ポンポン登場するキャラクターもいちいち特徴があって飽きさせません。多少説明的なきらいはありますが、いわゆる”免罪符騒動”をモチーフにしたような物語には、薄っぺらいシナリオとは一線を画す深みがありました。そして破壊的と言うほどではないですが、ジワジワと効いてくる独特のブラックでシュールな笑いは確かに凄い。カルトなファンがいるというのも納得です。
 同監督作の常連というジェイ&サイレント・ボブの浮きっぷりには笑わされました。アラン・リックマンがメタトロンというのも宗教マニア的にはツボでしょう。”神”役のキャスティングも洒落が効いていて良い。この監督の作品は初めてですが、他の作品も観てみたいと思いました。

監督:ケヴィン・スミス
出演:ベン・アフレック、マット・デイモン、リンダ・フィオレンティーノ、アラン・リックマン、ジェイソン・ミューズ、ケヴィン・スミス、サルマ・ハエック、ジェイソン・リー
20060121 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ブラッドシンプル ザ・スリラー

 ジョエル&イーサン・コーエン兄弟の監督デビュー作を、本人達が再編集したもの。初監督作品とは思えないほど練り込まれたシナリオに思わず唸らされる、サスペンス映画の傑作です。

 コーエン兄弟の作品といえば”勘違いで運命が狂っていく人々の滑稽なほどの悲劇”を常にテーマにしていますが、第一作目にあたるこの作品の時点で、その特徴は遺憾なく発揮されているのに驚かされました。シナリオ自体はシンプルなハードボイルド・ミステリなのに、”すれ違い”によって次々と事態が悪化する様はかつてないほど絶妙。画面の端々まで張り巡らされたドラマが、ラストに近づくにつれて収束していく様には思わず息を呑みました。何となく観るとただの三文小説のような物語なんですが、それをここまで面白く出来るのは、この兄弟監督にしか出来ない芸当でしょう。
 オリジナル版は未見ですが、冒頭の解説以外はそれほど変わっていない様子。しかしその解説が妙な味を出しています。この本気だか冗談だか分からないあたりも、コーエン作品らしくて興味をそそられました。

 M・エメット・ウォルシュが、探偵役を不気味に演じていて印象的。撮影監督バリー・ソネンフェルドによる映像も秀逸で、”何かが潜んでいそうな闇”を巧みに描き出していました。ハードボイルド小説に少しでも魅力を感じるなら、ぜひ一度観て欲しい映画です。

監督:ジョエル・コーエン
出演:フランシス・マクドーマンド、ジョン・ゲッツ、ダン・ヘダヤ、M・エメット・ウォルシュ
20060120 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ロード・オブ・ウォー

 「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督が戦争映画を撮ったらどうなるか、という期待に見事に答えた作品。強烈な衝撃こそ無いものの、その嫌みのなさにかえって考えさせられる内容でした。

 月並みな表現ですが、ボディーブローのようにジワジワと効いてくるテーマが見事。武器商人を扱った映画自体、おそらくこの作品が初めてなんでしょうが、そのショッキングな題材をあくまでウィットで包んで否定も肯定もせずに提示しているバランス感覚が凄い。押しつけがましい主張はせずに、普通の人なら誰もが抱くような感情に自然に訴えかけているので、非常に説得力があります。あまりにシンプルな物語で、結論も新鮮さはなく物足りないぐらいですが、それを物足りないと感じてしまうことが恥ずかしいと思えるほどでした。
 ニコラス・ケイジの演技は流石。ジャレッド・レトがその弟というのはビジュアル的に無理がありそうでしたが、イノセントな感じが良く出ていて好感が持てました。イーサン・ホークやイアン・ホルムといった演技派の活躍も必見。ちなみに、某大佐の声はドナルド・サザーランドだそうです。

 ケイジの最後の台詞は、静かな主張ながら印象的。過去の悲劇を利用して感傷に訴えかけようという態度がミエミエの戦争映画が多い中で、これは現在進行形の問題をとらえつつ前向きなメッセージを提示している希有な作品でした。多くの人に観て欲しい映画ですが、地味なせいか全く売れないまま上映終了してしまったのが残念な限りです。

監督:アンドリュー・ニコル
出演:ニコラス・ケイジ、ジャレッド・レト、イーサン・ホーク、イアン・ホルム、ブリジット・モイナハン
20060119 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -