★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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愛のエチュード

 ウラジミール・ナボコフによる原作小説を「ダロウェイ夫人」のマルレーン・ゴリス監督で映画化。主演のジョン・タトゥーロとエミリー・ワトソンが、どちらも強い個性を発揮していて見応えがありますが、何か物足りない印象でした。
 おそらくは、演技力のある主演二人の演技が映像にいまいち反映されていないからでしょう。「いいお話」で終わってしまって、心に深く響くという感じではありません。映像は綺麗。ただ、同じようなシーンが続く割にカメラワークが一辺倒だったので、ストーリーに応じてメリハリがあればなあ、と思ってしまいました。

 ジョン・タトゥーロは、こういう役をやらせると栄えますね。饒舌な彼も好きですが、今回は天才と狂気の狭間を揺れ動く人物の危うさを巧みに演じていました。

監督:マルレーン・ゴリス
出演:ジョン・タトゥーロ、エミリー・ワトソン
20051005 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

バッドデイズ

 ジャン=ピエール・メルヴィル監督の55年作品「賭博師ボブ」のリメイク。大御所ハーヴェイ・カイテルと、若手のスティーヴン・ドーフの共演ですが、それほど話題にはなりませんでした。確かに今ひとつ華に欠ける内容ではあるものの、アクション映画としての完成度は非常に高くて驚かされます。

 犯罪の手口や、暴力シーンなどの描き方に迫力があり、作品全体の説得力を高めています。最初誰が主人公か分からないので悩むところですが、一度ストーリーが回り始めればあとは手に汗握る展開の連続で飽きさせません。絵に描いたような復讐物語で、役者も良いし、編集も良いし、ラブシーンも殆どないし、とりあえずアクション映画を見たいというときには十分すぎるぐらいの一本でした。
 個人的にはスティーヴン・ドーフが格好良くてついつい見てしまいましたが、映画的にはむしろハーヴェイ・カイテルが見所でしょう。バイオレンス描写は比較的控えめですが、一部演出で濃いところがあるので、苦手な人は敬遠した方が良いかもしれません。

 監督は渋い映画が得意なジョン・アーヴィン。オリジナルもちょっと気になりました。機会があったら観てみたいです。

監督:ジョン・アーヴィン
出演:ハーヴェイ・カイテル、スティーヴン・ドーフ、ティモシー・ハットン、ファムケ・ヤンセン
20051004 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

プライベート・ソルジャー

 ジョン・アーヴィン監督による、渋い雰囲気の戦争映画。油断していましたが、よく出来たドラマに感動してしまいました。思い入れが強すぎて本質を見失ったり、プロパガンダと化している大作映画より現実的で、何より映画として楽しめます。

 戦争をただのシチュエーションに留め、その中でもがく普通の人々を描きながら嫌みがないのに好感が持てました。戦場描写や兵器描写は割と少ないんですが、確実にツボをついてきます。肝心の戦闘シーンも地味で、全体に物寂しい展開と、ビジュアル的に全く売りどころがありません。そもそも選んだ題材が二次大戦終了間際、ヒュルトゲンの森での第28歩兵師団の激戦、という時点でマニア向け。
 でもそういった知識がない人でも、充分楽しめるのではないかと。伏線の張り方と人物描写のさりげなさで、かなり感情移入してしまいました。確実な脚本と演出があれば、ここまで映画の質が上がるという良い見本。もちろん、知識がある人にはもっと楽しめる映画です。

 邦題は「プライベート・ライアン」にあやかったものでしょうが、これは全く性格の違う作品でした。こういう戦争映画もアリだなあ、と。他人に勧めたい佳作。

監督:ジョン・アーヴィン
出演:ロン・エルダード、ザック・オース、ティモシー・オリファント、フランク・ホエーリー
20051003 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ありふれた事件

 メインスタッフ3人が原案・監督・製作・脚本・撮影・主演・編集を兼ねるという超インディペンデントな、バイオレンス映画の問題作。「蝿を殺すように人間を殺す男」をカメラがひたすら追い続けるドキュメンタリー、という設定のフィクション。でも真に迫りすぎていて、本物のドキュメンタリーではないかと怖くなる瞬間すらありました。

 観ているものまで犯罪を犯したような気分にさせる、突拍子もない演出は見事。実験映画をたて続けに観ていた時期に観たので、かなりはまってしまいました。出演者が「本人」として登場していて、そのあたりも錯覚させる材料の一つになっています。特にブノワ・ポールヴールドの残虐性は凄い、というか酷い……。オチは上手くまとまりすぎでしたが、そうでもしないと救われない話なのでそれはそれで良いのかも。
 エンタテイメント重視の映画ではないので退屈なシーンもあるものの、実験的精神は抜群。見た目以上に精神的な残虐性が堪えるので、苦手な人にはお勧めできませんが、ハリウッド系の上品なバイオレンスが嫌いな人は是非。

監督・出演:レミー・ベルヴォー、アンドレ・ボンゼル、ブノワ・ポールヴールド
20051002 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ザ・ロイヤル・テネンバウムズ

 ウェス・アンダーソン監督による、おかしな家族の寓話的作品。うーん、微妙。確かに独自の世界を構築していて興味深いし、演出力もあるし俳優の演技もいいし、シックで良くできた映画だと思うんですが、描かれる世界が何一つ心に響いてきませんでした。
 一つ思い当たるのは、すごくデフォルメされたキャラを配しておきながら、物語は一般性の範囲内で動いてしまうこと。おかげで、観ていても一歩引いた視点になってしまいます。かといってそこに深い考察や示唆があるわけでもなく、結果として淡々と映画が進行するだけ。監督はそれを狙った感じがありますが、じゃあどうしてそういう演出にしたのか、は不明。要するに世間の人々は幸せだったり不幸せだったりするけど、本質はこんなところじゃないの、という問題提起なんでしょうか。それともこういう絵本的な演出が好きなだけで、ストーリーとの関連性はないのか…。

 これまでのホームドラマから大きくかけ離れたキャラクタを主要人物にしたという点では目を引きます。ただ、その凝ったキャラクタに感情移入できないので、映画を楽しめなかったのかな、と。消化不良。

監督:ウェス・アンダーソン
出演:ジーン・ハックマン、アンジェリカ・ヒューストン、ベン・スティラー、グウィネス・パルトロー、ルーク・ウィルソン、オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ
公式サイト
20051002 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

SURVIVE STYLE 5+

 広告業界で活躍する多田琢が、満を持して映画業界に殴り込みをかけたブラックな長編映画。特徴のあるキャラクターは笑えますし、映像のセンスは今までの日本映画界にない素晴らしいモノでしたが、微妙に不満点が…。

 俳優の使い方は良い。浅野と橋本の不条理な闘争は映画のテンポを良くしているし、良々クンとヴィニー・ジョーンズのコンビは出てくるだけで笑えて、岸辺一徳でオチをつけるやり方も上手い。他の登場人物もなかなか存在感があります。でも、それらが上手くかみ合っているかというと微妙。どれも一発ネタであって、物語としては魅力を感じません。
 美術や衣装や撮影といった、見てくれを構成する要素は最高でした。ここまで映像に力のある日本映画は少ないでしょう。カメラワークも優秀で、撮り方一つで真面目なシーンと笑えるシーンを明確に分けているあたりにプロの技を感じます。

 こういう映画がもっと沢山作られるようになって、画作りの方から日本映画を改革していって欲しいところ。その点では非常に意味のある作品だと思います。あと、★一つじゃないのは、多分ピエール瀧とか三浦友和のおかげだと思います。

監督:関口現
企画・原案・脚本:多田琢
出演:浅野忠信、橋本麗香、小泉今日子、阿部寛、岸部一徳、神木隆之介、荒川良々、ヴィニー・ジョーンズ、三浦友和、千葉真一
公式サイト

20051002 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

天国の口、終りの楽園。

 アルフォンソ・キュアロン監督によるロードムービー。モノローグを多用したごく普通のロードムービーと思わせておいて、計算されたシナリオであることが見終わって分かる構成になっています。

 全編ハンドカメラでの不安定な映像で、数多のインディーズ映画のように地味になりそうでいて、メジャーに負けない画面の強さがありました。一度メジャー作品を経験している監督の強みなのでしょうか。現代の若者像がリアリティを持って描かれているのが新鮮。言葉で言うと簡単ですが、それが出来ている映画というのは初めて観たような気がします。
 ただ、性描写がかなりきついので、そういうのが駄目な人は遠慮しましょう。その辺や、ドラッグ関係を手加減しないあたり、個人的には好感が持てましたが。特にこの主人公たちの年頃って、セックスに対して非常に貪欲な時期で、それを直接的に描いたことがこの映画の功績の一つだと思うのです。そういう時期を経て次第に大人になっていく少年二人と、それに深く関わることになった一人の女性の、とても切ない物語でした。

 ロードムービーを観たことのない人に、特に観てほしい良質の作品。見終わったあとはコロナビールが飲みたくなること請け合いです。

監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ、マリベル・ヴェルドゥ
公式サイト
20051001 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ヒューマンネイチュア

 「マルコヴィッチの穴」で一躍有名になった脚本家チャーリー・カウフマンと、ビョークのPVやGAPのCFなどで独特の映像を創り続けているミシェル・ゴンドリーが組んだ話題作。あのゴンドリーが初監督ということで期待したんですが、内容がちぐはぐで楽しめませんでした。

 設定の奇抜さ、そこから展開される物語の意外性とテーマの堅牢さは今回の脚本でも健在。しかし前半の分かりやすいコメディ的内容に対して、後半の雰囲気は空回り気味に見えます。ミシェル・ゴンドリーらしい映像も部分的で、映画全体となるとまとまりがありません。リス・エヴァンスやティム・ロビンスの演技も良いのですが、いまいち感情移入出来ない……と、どこをとっても「もうひと息」な感じ。
 最大の原因は、おそらく物語も映像も単調なこと。展開に緩急がないので映画にイマイチ入り込めず、カウフマン脚本の非現実性が強調されてしまって違和感を覚えたのだと思います。俳優の演技とカメラワークが微妙にずれているなあ、と感じることもしばしば。発想や、物語の提示しているテーマは興味深いので残念でした。

 コメディ部分と意味深長なオチは良かったと思います。特にリス・エヴァンスのなりきりぶりは一見の価値あり。

監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:チャーリー・カウフマン
出演:リス・エヴァンス、パトリシア・アークエット、ティム・ロビンス
20050930 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

シャロウ・グレイブ

 アンドリュー・マクドナルド制作、ダニー・ボイル監督、ユアン・マクレガー主演というトリオの記念すべき第一作。監督にとってはこれがデビュー作ですが、非常によく作り込まれたサスペンス映画でした。
 とにかく、イギリス映画ならではのナンセンスさが最高! 最低限の登場人物(メインはたった3人!)で進む密室劇は、確かに強引な部分も多々ありますが、その後の展開が面白いので気になりません。「金の行方」という物理的な牽引力で映画を引っ張りつつ、そこに「人間の狂気」というエッセンスをサイケデリックな演出とともに加味しているあたりにセンスを感じます。何よりオチの気持ちの良さと、思い切ったカメラワークには驚かされました。

 本国イギリスでは記録的なヒットを飛ばしたというのに、日本公開は「トレインスポッティング」の直前だったとか。とてもそうは思えないほどスタイリッシュな映像センスも一見の価値ありですが、そんなことより「映画の楽しさ」を堪能できるのがこの映画最大の魅力でしょう。必見。

監督:ダニー・ボイル
出演:ユアン・マクレガー、ケリー・フォックス、キース・アレン、クリストファー・エクルストン
20050929 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

メルシィ!人生

 「奇人たちの晩餐会」のフランシス・ヴェベール監督による、軽妙なコメディ作品。コンドーム会社に勤める男が、ゲイだと偽ってリストラを回避しようとしたために起こる珍騒動を、あの手この手で笑い倒しています。一つ間違うと差別的にもなりかねないゲイという題材を、気持ちよく笑える映画に仕上げています。

 実際、映画館でこんなに笑わされたのは初めて。息ができなくなって、思わずスクリーンから目を逸らしたほどです。しかも力ずくの笑いではなく、俳優が黙っている瞬間が一番笑えるという、コメディとしても正当派的な内容。計算し尽くされたネタは、一つ一つは爆発的ではないんですが、小さな波をテンポよく続けることで高い効果をあげています。逆に、そのシーンだけ切り出しただけでは笑えないだろう、というネタも多くて、監督のセンスの良さに感動してしまいました。
 後半ちょっと失速気味ですが、それを怪優ドパルデューが何とか埋めて、無理矢理のラストもまあ良いか、という気持ちにさせるのは、物語の芯にしっかりとしたテーマがあるからでしょう。主人公のや周囲の人に感情移入できたので、短い上映時間がもったいないぐらいでした。

 ハマれば思い出すだけでいつまでも笑えるので、下ネタ・ホモネタに抵抗がない方は、ぜひ。

監督:フランシス・ヴェベール
出演:ダニエル・オートゥイユ、ジェラール・ドパルデュー、ティエリー・レルミット、ミシェル・ラロック、ジャン・ロシュフォール
20050928 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -