★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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記憶の扉

 イタリアの人気監督ジュゼッペ・トルナトーレによる、珍しく暗いムードのサスペンス・ドラマ。ポランスキーとドパルデューという配役の妙を楽しめます。
 暗い警察署の中でドパルデュー扮する謎の男が延々と尋問を受け続けるんですが、そのシチュエーション自体が事件の本質を上手く隠しています。最初はドパルデューとポランスキーの演技合戦にただ見とれていただけなのに、終わってみたら非常にトルナトーレ的な作品だったことに感動。小道具の使い方や、細かい台詞で伏線を張るいつもの方法論が、特にこの作品では効果的だったように思います。

 決して派手じゃないし、芸術的でもないんですが、大衆向けの「分かりやすい面白さ」がこの監督の魅力でしょう。ジャンルや先入観は頭から追いやってから観るのが正解です。

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェラール・ドパルデュー、ロマン・ポランスキー
20050927 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

CUBE

 カナダの新鋭、ヴィンチェンゾ・ナタリ監督によるSF話題作。センスも良いし、映像感覚も良いし、何より低予算であることを逆手に取ったこの設定には驚きました。ただ、後半の展開には不満です。

 役者の演技が全体的にくさいのと、状況説明に終始するだけの台詞が辛いのでは。台詞中心で追いつめていくような心理戦は、余程自然に見せない限りぼくは嫌悪感を抱いてしまうのです。設定が飲み込めてしまうと予想できてしまう割に、細部にこだわって理屈っぽい謎解きもダメでした。そして何より嫌なのは終わり方。ああいうのは物語として大嫌いです。不条理は好きだけど、人間の辛いところを意地悪にナイフでえぐるような展開は嫌だなあ。
 聞いた感じ好きなタイプだったので、いつも厳しい評価がさらに厳しくなってしまいました。奇抜なアイデアを得意とする監督のようなので、他の作品をチェックしてみたいところではあります。

監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ
出演:モーリス・ディーン・ウィン、デヴィッド・ヒューレット、ニコール・デボア
20050927 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

遊びの時間は終らない

 「12人の優しい日本人」のプロデューサによる、なんとも日本映画らしいサスペンス・コメディの秀作。あまりに実直すぎる警官が銀行強盗役になったせいで、予行演習が一転して大事件に発展する様を巧みに描いています。

 冒頭からラストまで素早い展開で畳みかけつつ、細かい笑い一つ一つに必然性を持ってくるシナリオがとても魅力的。主人公対警察という構図が、次第にスケールを広げつつ周囲を巻き込んでいくあたりは、コメディ映画なのに感動的ですらありました。ここまでシナリオが秀逸な犯罪ドラマは、90年代の日本映画には少ないのでは。さりげなく豪華なキャストも見所。
 しかし何と言っても、この映画は主演の本木雅弘のための映画です。おそらく彼の魅力が最も良く引き出された映画ではないでしょうか。未見の方は、騙されたと思って是非。

監督:萩庭貞明
原作:都井邦彦
出演:本木雅弘、石橋蓮司、萩原流行、原田大二郎
20050926 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

デュエリスト/決闘者

 コンラッドの小説「決闘」を原作にした、風変わりな騎士道映画。リドリー・スコット監督はこれがデビュー作ですが、既に映像に対するだわりが見て取れます。70年代の映画の中でも間違いなくトップクラスの映像は必見。モノトーンに沈みがちなイングランドの風景を、朝焼けなどの微妙な光を利用して色彩豊かに描き出しています。
 ストーリーは二人の騎士の人生を追い続け、しかもそのほとんどが決闘シーンというのが妙ですが不思議と飽きさせません。決闘でしか通じ合えない頑なな主人公達の関係が、ナポレオン戦争前後という激動の時代と対比されて、とても印象的でした。

 77年作品で、しかも低予算なので大作映画のような派手なアクションはありませんが、落ち着いた味わいのある”決闘映画”でした。最近のリドリー・スコット作品しか知らない人は、ぜひ。

監督:リドリー・スコット
出演:キース・キャラダイン、ハーヴェイ・カイテル
20050925 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ビッグ・フィッシュ

 ダニエル・ウォレスによるファンタジー小説を、メルヘンの名手ティム・バートン監督が映画化。独特の悪趣味な世界こそ出てこないものの、おかげで非常に真っ当な感動作になりました。

 ティム・バートンの映画は、その童話的な語り口を良しとするかどうかで評価が分かれると思いますが、この作品は特にそう。とにかく冒頭から現実離れしたお伽噺の連続でメルヘン好きには堪りませんが、辛い人には辛いかも。でも、おそらくバートンの目にも(程度の差はあると思いますが)世界はこう見えているに違いないと思わせるほど「現実感のある非現実」が画面に溢れるのは圧巻で……しかし、それだけかと思っていたら、ラストのドラマでやられました。いい話です。
 ユアン・マクレガーの、絵本の世界を体現したような演技が素晴らしい。この人あっての、この作品でしょう。アルバート・フィニーのふてぶてしい演技も物語に説得力を持たせています。あとは例によってブシェミのかわいそうな役どころと、”サーミアン”ミッシー・パイルが登場していたことに笑わされました。映像もバートン映画の中では最高級。でも、全てがあまりに綺麗すぎて、ファンには少し物足りないかもしれません。

 今でも最後のカットを思い出すと泣けてきます。でも悲しい涙ではなくて、嬉しい涙なのが良い。夢物語は現実から逃げる手段かもしれないけど、それを全力で肯定する人生は、なんて素敵なんだろう、と実感できる作品でした。

監督:ティム・バートン
出演:ユアン・マクレガー、アルバート・フィニー、ビリー・クラダップ、ジェシカ・ラング、ヘレナ・ボナム=カーター、スティーヴ・ブシェミ、ダニー・デヴィート
公式サイト
20050924 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ソウ

 オーストラリア出身の監督は、どこかアメリカ映画とは毛色の違う映画を撮るのでけっこう好きなのですが、そのオーストラリアから新たな若手監督&脚本コンビが登場。ショッキングな映像が目を引くサイコスリラーですが、見所のミステリ部分がお約束すぎました。

 このオチは、推理小説を読む人なら予告編を見た時点で最初に想定するものだと思います。息の詰まるような密室劇を楽しめるかと思ったらそれも最初だけで、あとは別の方向に話が…。でも、それ以降をB級ホラー映画として観ると、なかなか楽しめるのかも。適度にスプラッタですし、犯人が演出過剰なところとか、ビジュアル重視で中身のないカメラワークとかも良く出来ています。落ち着きがないので観ていて疲れますが、僕がホラー映画が苦手なせいもあるかと。
 というわけで★一つ足そうかと思ったんですが、そもそもこの映画のやりたいことはB級ホラーじゃないと思うので、やっぱり足さないでおきます。純粋ミステリ系の映画は期待しない方が良いですね…。

監督:ジェームズ・ワン
脚本:リー・ワネル
出演:ケイリー・エルウィズ、リー・ワネル、ダニー・グローヴァー、モニカ・ポッター
公式サイト
20050923 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ミラーズ・クロッシング

 ジョエル&イーサン・コーエン兄弟による3作目の長編映画。過去のギャング映画を強く意識しながら、あくまでオリジナリティ溢れる作品にまとめ上げています。

 ギャング映画とハードボイルドのエッセンスを凝縮したかのような密度の濃いストーリーが、美しい映像美の中で展開される様は圧巻。ドライで印象的なキャラクターや、さまざまな出来事が折り重なって事態がどんどん悪化していく様など、後のコーエン作品に顕著な魅力が、既にこの映画で完成されているあたりは凄いと思いました。
 ガブリエル・バーンのダメ男っぷりが最高に格好いい。あとはアルバート・フィニーとかジョン・タトゥーロとかスティーヴ・ブシェミとか……俳優だけでも見どころは満載です。映像も、フィルム・ノワールのように思わせて、重要な見せ場を昼や朝に持ってきて美しくキメてしまうあたりは流石。ちなみに、撮影監督はあのバリー・ソネンフェルド。

 最初に観たときはこの映画の魅力が全く分からなかったんですが、その他のコーエン作品などを観た後にもう一度観たらハマりました。ギャング映画というお約束の中ですら滲み出てしまう、この兄弟監督の強烈な個性というのが最大の見どころ、ということでしょう。

監督:ジョエル・コーエン
脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
出演:ガブリエル・バーン、アルバート・フィニー、ジョン・タトゥーロ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、スティーヴ・ブシェミ
20050922 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

バッドサンタ

 テリー・ツワイゴフ監督によるブラック・コメディ映画。冒頭からサンタらしからぬ言動でトばしまくるビリー・ボブ・ソーントンを楽しんでいれば90分はあっという間に過ぎますが、終わってみると案外いい話だったなあと振り返ることの出来る気持ち良い映画でした。子供に見せるわけにはいかないと思いますが…。

 映画自体の構造は普通のファミリー映画と同じなのに、出てくる人々が全員ズレているだけでここまで印象が変わるというのが驚きでした。ツワイゴフ監督の持ち味である「リアルなのにどこか異世界感のある風景」がそれを引き立てていて、異色なクリスマス映画として見事に成立しています。でもやっぱり見所はソーントンのバッドサンタっぷり。酒に溺れてグデングデンになっているのが妙に可愛らしいあたりはこの人ならでは。
 特に感動する話でもないし、全体に悪趣味な映画ではありますが、ソーントンの色気を堪能したい人にはお勧めです。ちなみに、制作はジョエル&イーサン・コーエン兄弟。そういえばどことなくコーエン映画の雰囲気もありました。

監督:テリー・ツワイゴフ
出演:ビリー・ボブ・ソーントン、トニー・コックス、バーニー・マック、ローレン・グレアム、ジョン・リッター
公式サイト
20050921 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ジャッカス・ザ・ムービー 日本特別版

 番組中のアクションを一般人が真似て大怪我をするなど色々と物議を醸した、MTVの人気番組の映画化。日本公開は絶望視していたんですが、なんとか実現したので狂喜乱舞して観てきました。

 もう、とにかく「頭悪いなあ」という感想しかありません。映画になってもやっている事はテレビ版と殆ど同じで、ただスケールが若干大きくなっているだけ。「レンタカーで激突レース」「スポーツ用品店でボクシング」「大雨の街中でサーフィン」「どこでも棒高跳び」のように、意味がない、やる前から結果が分かっているからこそ誰もやらない痛いアクションをひたすら繰り返すわけです。あと平気で嘔吐脱糞したり、わざと怪我して笑うネタがあるので、覚悟してから観てください。
 洗練された笑いではないんですが、モーニングスターで釘を打つような豪快さがたまりません。これぞアメリカ。テレビ版の総集編的なDVDが出てるので、そちらも併せてどうぞ。

監督:ジェフ・トレメイン
出演:ジョニー・ノックスヴィル、スティーヴォー、バム・マージェラ、クリス・ポンティアス、ライアン・ダン、デイヴ・イングランド
公式サイト
20050920 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

オーシャンズ12

 スティーヴン・ソダーバーグ監督による、大ヒット映画の続編。前作が典型的なハリウッド映画のスタイルだったので今回もそれほど期待していなかったんですが、おかげで見事にハマってしまいました。ここ数年のハリウッド大作映画系ではベスト。

 何が面白かったのかと聞かれて明確にコレと答えられるものはないんですが、強いて言うなら映画全体が「良い雰囲気」だったことでしょうか。キャストだけならスター映画なのに、どう見てもインディーズ映画みたいなノリで、シナリオは適度にご都合主義でも決して浮き足立たず、テンポが駆け足でも喰らい付いていけば最後まで楽しめるという、全てのさじ加減が絶妙にブレンドされて、前作とは比較できないほど粋で笑えて痛快な映画になっています。そして何より、人も風景も全てが華やか! でも、楽屋ネタも前作への皮肉もたっぷりなので、そういうので「雰囲気が台無し!」と怒ってしまう人向きではないですね。
 前作から共通の俳優は言わずもがなですが、中でもマット・デイモンはオイシイ役どころでした。この人はオトボケ役が一番似合うと思います。初登場組では、やはりヴァンサン・カッセルの貴族っぷりが目を惹きます。サウンドトラックも秀逸で、単体の音楽CDとしても充分楽しめるほどでした。なお、今回も前作と同じ8500万ドルという、このキャストからしたら破格の低予算で撮り上げているのも注目すべき点でしょう。

 とにかく全体のユルさが最高でした。全力で映画史に残る傑作を作ろうとして空回りしている大作映画が多い中で、肩の力を抜いて観られる最高のエンタテインメントに仕上がっています。俳優の表情が他のどんな映画より生き生きしているのが、その何よりの証拠ですね。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、アンディ・ガルシア、マット・デイモン、ヴァンサン・カッセル、ドン・チードル
20050919 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -