★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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スタンド・バイ・ミー

 スティーヴン・キングの非ホラー小説を、ロブ・ライナー監督が爽やかに映画化した名作ロード・ムービー。少年時代のある夏の思い出を、切ない空気とともに描き出している希有な作品です。
 ノスタルジィを前面に押し出した映画はあまり好きではないんですが、この映画は過去を美化することなく、他愛のない出来事をそのまま描いていて共感できました。主役四人の性格設定も良いし、随所に挿入されるヤンキー達の動向も良い対比になっています。そして、それらの些細なドラマが最後にきちんと生きてくる展開には脱帽。回想シーンの入れ方を含め、時間や場所の跳躍を編集一つで自然に見せる職人芸にも好感が持てます。こういった一つ一つの要素を丁寧に作り上げているのが感じられて、とても上質な映画体験になりました。

 リヴァー・フェニックスの、年齢からは想像できないほど含蓄のある演技も見どころの一つ。最初に見たときはラストの印象が弱かったんですが、ある程度年がいってから観ると余韻があって、また違った感想を持ちました。よく言われることですが、見るたびに発見がある映画ですね。

監督:ロブ・ライナー
原作:スティーヴン・キング
出演:ウィル・ウィートン、リヴァー・フェニックス、コリー・フェルドマン、ジェリー・オコンネル、キーファー・サザーランド、ジョン・キューザック、リチャード・ドレイファス
20110525 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

人狼 JIN-ROH

 押井守自身の創作による“ケルベロス・サーガ”の、初の劇場アニメ化作品。監督は高い作画力に定評のある沖浦啓之。

 架空の大戦後の日本を描いた作品ですが、実際は昭和30年代の安保闘争をかなり意識して描かれています。当時の不安定な情勢、政治的な策謀などを物語の背景として巧みに折り込みつつ、登場人物それぞれの立場ごとにドラマを用意するさりげなさは、もはや押井脚本の真骨頂と言えるでしょう。
 ただ一部のシナリオや演出がくどすぎるのが気になりました。僕が色恋沙汰に厳しいのもあるんですが、終盤でちょっと浪花節な雰囲気になるのが惜しい。また、あまりに地味で観客を置き去りにする物語は、特にこの世界観を未体験の人や、そもそも興味のない人が理解するのは難しいのでは。それでも押井監督以外の手で映画化されたことで極端な哲学性は薄まり、これまでのシリーズ作品に比べればエンタテイメント寄りの内容に思えました。

 影を描くことを極力排除した独特の画面作りは Production I.G の高い作画力があってこそ。制作中に『MEMORIES』が完成して優秀な原画家が流れてきたのも一因だとか。小倉宏昌によるドライで緻密な美術も映画の説得力を高めています。セルアニメ時代の最後を飾る、一つの到達点のような映画であることは間違いありません。

監督:沖浦啓之
原作:押井守
出演:藤木義勝、武藤寿美、木下浩之、廣田行生、吉田幸紘
20110421 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

カラフル

 森絵都による原作小説を、映画クレヨンしんちゃんシリーズで名を馳せた原恵一監督が再映画化。やりたいことは分からなくもないんですが、その手法を疑問視したくなる内容でした。

 観終わっての第一印象としては、とにかく全てがダサかった。特に主人公の家庭が抱える問題が物語の重要な要素なのに、その描き方が中途半端なものなので、登場人物の苦悩も他人事にしか思えませんでした。細かい描写を積み重ねて事実の大きさを実感させるのではなく、言葉で全て説明しようとしたのが一つの要因でしょう。
 同様に、アニメーションとしての気持ちよさも作品からは見られませんでした。映画全体を落ち着いたものにしようとしたのか、人々の動きやカット割りなどがとてもスローですが、登場人物がアニメーション的に描き分けられていないので、ただ退屈なだけになっています。唐突に入る音楽も場違いだし、玉電のくだりもテーマとの関係は薄い。全体に、センスに疑問を感じる作品でした。

 リアルさ重視のアニメほど「アニメでやる理由」が問われると思いますが、この映画はそれに対する回答が皆無でした。今時の中学生の感情を通して普遍的なテーマを描きたいのなら、やはり実写でやって欲しかった。
 あと、余談ですがTVCMでオチのネタバレをされたのも悪印象に一つ買っています。核心を言わなくても、その直前の台詞を言われたら普通わかりそうなものなのに。結果それ以上の何かがある、と期待してしまったので、最後の10分は白けてしまいました。そういうマーケティングも含めて、とても残念な作品です。

監督:原恵一
原作:森絵都
出演:冨澤風斗、宮崎あおい、南明奈、まいける、麻生久美子、高橋克実
20110415 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

イリュージョニスト

 ジャック・タチの遺した脚本を、『ベルヴィル・ランデブー』のシルヴァン・ショメ監督が映画化。良質なフランス映画のような、静かな感動がある秀作でした。

 前作の賑やかな雰囲気とは正反対の、静かで心にしみる物語に合わせて、映画のテンポもひたすらスロー。ほとんど台詞のない主人公二人をじっくりと描き、その一挙手一投足で感情を表現させています。大きなドラマがあるわけではないシンプルな物語なのに、何故か印象的なのはその演出が功を奏しているのでしょう。
 登場人物の可愛らしさや魅力的な街並みも見どころの一つ。細かい人物の動きや街の看板一つにもこだわりが感じられて、それらを眺めているだけでいい気持ちになれました。また、手書きのアニメーション作品にはあまり見られない、奥行きを強調した表現が多用されていたのに驚かされました。音楽も相変わらずノスタルジックで魅力的です。

 映画全体を通して、制作者自身がこの作品を大好きなんだという気持ちがひしひしと伝わってきました。少しもの悲しい物語も相まって、大人向けのアニメーションとしての新境地を拓いた作品と言えそうです。

監督:シルヴァン・ショメ
オリジナル脚本:ジャック・タチ
出演:ジャン=クロード・ドンダ、エイリー・ランキン
20110413 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ソーシャル・ネットワーク

 Facebookの創設者マーク・ザッカーバーグの半生を、奇才デヴィッド・フィンチャー監督が映画化。ハリウッド映画としては地味すぎる、難しい題材ですが緊迫感溢れる見事な映画に仕上げています。

 主人公であるマーク・ザッカーバーグは一見「嫌なヤツ」ですが、ネット社会においては彼の性格は欠点ではなく、むしろ本質をストレートに表現できることがメリットにすらなりうることを映画は冷静に描いています。彼が中心となって巻き起こる数々の騒動は、IT業界に近い人であれば既視感すら覚えるはずです。
 物語は「孤独」をテーマとしているように見えますが、実はそれは脚本的な部分だけであり、そんなザッカーバーグの感じている「リアル」が、ネット時代に生まれた現代の若者にも少なからず共通するものだ、ということが映画全体のテーマになっているように感じました。このザッカーバーグという才能と彼の成功する経緯を描写することで、「いまネット社会で何が起きているのか」をフィルムに定着させることが、監督の目的だったのではないでしょうか。

 映像は、『ゾディアック』であえて古いフィルム撮影を再現したのとは対照的に、あくまで最近のハリウッド映画風にクリアにまとめてあります。キャストも、80年代生まれの若い俳優を採用して同時代性を強調。しかも多くのテイクを重ねることで、膨大な台詞にも関わらずベテランに負けない良い演技を引き出しています。
 音楽の合わせ方も上手い。全編に渡って過剰な演出も、若者中心である今作の内容と合っていました。こういった演出意図の明確さが、フィンチャー作品の魅力ですね。

 観終わってしばらくは、不思議な感動に胸の高鳴りがなかなか止みませんでした。『ファイト・クラブ』がX世代の自己発見映画だったように、この作品はその後のネット世代の自己発見映画として素晴らしい出来だと思います。その二作が同じ監督によって撮られたということは、偶然ではないはず。必見です。

監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:ベン・メズリック
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ジャスティン・ティンバーレイク、アーミー・ハマー、マックス・ミンゲラ、ルーニー・マーラ
20110327 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

英国王のスピーチ

 英国王ジョージ6世にまつわる感動の逸話をトム・フーパー監督が映画化し、アカデミー作品賞ほか4冠を獲得した佳作。若い監督の意欲を感じる作品でした。

 中盤まではそれなりに楽しめますが、戴冠式前後で物語のリズムが崩れてしまうのが惜しい。主役であるジョージ6世のキャラクターは面白いのに、相手役ライオネルの性格付けが弱いため肝心なところで盛り上がりに欠ける印象です。どちらかの主観に物語を偏らせることで焦点を絞れば、メリハリのきいた作品になったかもしれません。
 俳優では、なんと言ってもコリン・ファースの演技が素晴らしい。吃音が自然すぎて演技に見えません。他の俳優もそれぞれ良い演技をしているんですが、チャーチル役にティモシー・スポールというのだけはちょっと……笑ってしまいました。

 台詞回しやカメラワークはイギリス映画らしく気が利いています。俳優も地味なようでいて豪華で、演技の良さも見所。ちょっと上品な、でもしっかり面白い映画を観たい方にはオススメです。

監督:トム・フーパー
出演:コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーター、ガイ・ピアース、ティモシー・スポール、マイケル・ガンボン
20110323 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

トゥルー・グリット

 ジョン・ウェイン主演「勇気ある追跡」として一度は映画化された同名小説を、『ノーカントリー』でアカデミー賞を獲得したコーエン兄弟監督の手で再映画化。シンプルながら力強い内容でしたが、どこか物足りなさも。

 見慣れた西部劇の世界観も、リアリズムに徹しながらどこか非現実を感じさせるコーエン兄弟らしい演出で描かれると圧巻で、冒頭から引き込まれました。保安官とテキサスレンジャーの人物描写も魅力的。しかし主役であるマティの感情の振れ幅が狭いため、どこか感情移入できずに終わってしまいました。少女の弱さを感じさせる演技がもう少しあったら良かったかも。そうしてみると、同行する二人の男もボケ役でしかなく、しっかり者のマティの前ではあまり役割が変わらないのも残念でした。
 全編をドライな映像でまとめたロジャー・ディーキンスの撮影は見事。また、コーエン映画にしては珍しくアクションシーンが多く、映画としての盛り上がりも充分でした。俳優ではジョシュ・ブローリンのキレた演技が良かった。地味なので今まで気付きませんでしたが、実はこれからもっと伸びる俳優さんではないでしょうか。

 掴みが良かっただけに、もうちょっとこの世界を深く長く堪能できたら評価は変わっていたかも。監督がもう一度西部劇を撮ってくれたら、また観に行きたいです。

監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
原作:チャールズ・ポーティス
出演:ヘイリー・スタインフェルド、ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、バリー・ペッパー
20110322 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

接吻

 現代日本の焦燥感を描ける数少ない監督として一部に人気の万田邦敏による、異色の恋愛映画。やりたいことは分かるんですが、脚本が分裂気味。

 細かい矛盾は映画の本筋とは関係ないので目を瞑るとしても、肝心の“接吻”の意味が分からない。解説やインタビューでは“理屈ではなく感情的なもの”と解説されていたので、感情で理解できなかった僕には評価しかねます。本編中には他にも良いシーンはあるものの、どこか型にはめようとして、映画自体の流れがおかしくなっている印象を覚えました。
 しばらく考えて出た結論は、この映画は仲村トオル視点で成り立っている話なんだということ。彼の主観であればある程度納得のいく話なんですが、カメラワークで小池栄子の主観を演出してしまったため、映画が空回りしているのではないかと。ここで食い違ってしまったので、理屈と感情がちぐはぐになってしまったのだと思います。

 冒頭の、殺人に至るまでのシーンは凄い。ここだけ巧いなーと思ったら、ここだけ監督自身の脚本なんですね。いっそ全部監督が脚本してくれれば良かったのに、と思ってしまいました。

監督:万田邦敏
出演:小池栄子、豊川悦司、仲村トオル、篠田三郎
20081015 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

落下の王国

 「ザ・セル」の鬼才・ターセム監督が、6年振りに撮り上げた意欲作。病人が少女に空想の話を物語るという設定と、ターセム監督の映像美にピンと来て劇場に足を運びましたが、これが想像以上の相性の良さでした。

 とにかく物語が良い。スタントマン・ロイと少女の、友情とも愛情とも取れる不思議な関係というとても繊細な物語を、壮大な空想物語を隠喩として丁寧に描き出すというのは、映像世代の監督ならではの発想で引き込まれました。少女やロイがそれぞれ抱える葛藤などもきちんと描き切ることによって、小さなドラマを大きなカタルシスに変えています。

 撮影当時5歳というカティンカ・ウンタルーの自然な演技も凄い。一つ一つの仕草がとても生き生きとしていて、何でもないシーンでも思わず微笑んでしまいました。また、彼女のアドリブを物語に反映させたためなのか、空想の物語がいかにも“子供に話したときのお話”の広がり方になっているのも興味深いところです。
 映像も、様々な世界遺産を巡る豪華な内容だけでも凄いのに、相変わらずの壮大な発想とセンスで、思わず見とれてしまいました。そのくせ、情緒のあるカメラワークで坦々としたドラマをさりげなく盛り上げるあたり、監督の確実な演出力が感じられます。

 小さな弟に絵本を読むときに「なんで?」を繰り返され、1ページ読むのに何十分もかけた身としてはとても共感したのとともに、物語というものが持つ可能性を再確認させられたました。まさに物語賛歌、映画賛歌という言葉が似合う作品です。

監督:ターセム
出演:リー・ペイス、カティンカ・ウンタルー、ジャスティン・ワデル、ダニエル・カルタジローン、レオ・ビル
20080921 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

バスケットボール・ダイアリーズ

 ジム・キャロルの原作を元に、ニューヨーク下町に住む少年の荒んだ日々を描いた青春映画。レオナルド・ディカプリオの演技力が見所。
 原作者の実体験を反映させたという物語は、かなりショッキングで重みがあります。あまり目立ちませんが凝った演出もあり、青春ドラマとして説得力を感じました。そして、物語を一層引き立てているのがディカプリオの存在。ちょっとクサい演技なんですが、ドラッグにはまるところとか独白のシーンなど、ついつい引き込まれる熱演です。あまりの力の入れように、他の登場人物との差が開きすぎてしまったのが残念と言えば残念。それだけにディカプリオのファンにはたまらない内容でしょう。

 ドラッグの恐怖と、そこからの克服を丁寧に描いているあたりは好感が持てました。今観るとさすがに古い映画だと感じるものの、ドラッグ映画として外せない一本なのでは。

監督:スコット・カルヴァート
原作:ジム・キャロル
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブルーノ・カービイ、ロレイン・ブラッコ、マーク・ウォルバーグ、ジュリエット・ルイス
20060417 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -