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人狼 JIN-ROH

 押井守自身の創作による“ケルベロス・サーガ”の、初の劇場アニメ化作品。監督は高い作画力に定評のある沖浦啓之。

 架空の大戦後の日本を描いた作品ですが、実際は昭和30年代の安保闘争をかなり意識して描かれています。当時の不安定な情勢、政治的な策謀などを物語の背景として巧みに折り込みつつ、登場人物それぞれの立場ごとにドラマを用意するさりげなさは、もはや押井脚本の真骨頂と言えるでしょう。
 ただ一部のシナリオや演出がくどすぎるのが気になりました。僕が色恋沙汰に厳しいのもあるんですが、終盤でちょっと浪花節な雰囲気になるのが惜しい。また、あまりに地味で観客を置き去りにする物語は、特にこの世界観を未体験の人や、そもそも興味のない人が理解するのは難しいのでは。それでも押井監督以外の手で映画化されたことで極端な哲学性は薄まり、これまでのシリーズ作品に比べればエンタテイメント寄りの内容に思えました。

 影を描くことを極力排除した独特の画面作りは Production I.G の高い作画力があってこそ。制作中に『MEMORIES』が完成して優秀な原画家が流れてきたのも一因だとか。小倉宏昌によるドライで緻密な美術も映画の説得力を高めています。セルアニメ時代の最後を飾る、一つの到達点のような映画であることは間違いありません。

監督:沖浦啓之
原作:押井守
出演:藤木義勝、武藤寿美、木下浩之、廣田行生、吉田幸紘
20110421 | レビュー(評価別) > ★★★ | comments (0) | trackbacks (0)
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