★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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スタンド・バイ・ミー

 スティーヴン・キングの非ホラー小説を、ロブ・ライナー監督が爽やかに映画化した名作ロード・ムービー。少年時代のある夏の思い出を、切ない空気とともに描き出している希有な作品です。
 ノスタルジィを前面に押し出した映画はあまり好きではないんですが、この映画は過去を美化することなく、他愛のない出来事をそのまま描いていて共感できました。主役四人の性格設定も良いし、随所に挿入されるヤンキー達の動向も良い対比になっています。そして、それらの些細なドラマが最後にきちんと生きてくる展開には脱帽。回想シーンの入れ方を含め、時間や場所の跳躍を編集一つで自然に見せる職人芸にも好感が持てます。こういった一つ一つの要素を丁寧に作り上げているのが感じられて、とても上質な映画体験になりました。

 リヴァー・フェニックスの、年齢からは想像できないほど含蓄のある演技も見どころの一つ。最初に見たときはラストの印象が弱かったんですが、ある程度年がいってから観ると余韻があって、また違った感想を持ちました。よく言われることですが、見るたびに発見がある映画ですね。

監督:ロブ・ライナー
原作:スティーヴン・キング
出演:ウィル・ウィートン、リヴァー・フェニックス、コリー・フェルドマン、ジェリー・オコンネル、キーファー・サザーランド、ジョン・キューザック、リチャード・ドレイファス
20110525 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ゾンビ

 ジョージ・A・ロメロ監督が『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に続いて撮り上げた、ゾンビもの映画の傑作。“ゾンビ=おぼつかない足取りで人を襲う生ける屍”という概念を世界中に植え付けた、まさに記念碑的な作品です。

 ショッピングモールの中で繰り広げられる終末感たっぷりのサバイバル生活は、それだけでも十分魅力的ですが、そこに“ゾンビ”という存在を放り込むことで類い希な魅力を持った物語に昇華させています。死者と生者の対比、生き残った人間同士の精神戦など、その後のゾンビ映画に共通する要素は、この映画の時点で既に完成されていたと言っても過言ではないでしょう。
 また、容赦のないスプラッタ描写もこの映画の魅力の一つ。ハイビジョンで観るとさすがに粗が目立ちますが、内臓を引きずり出し、頭をかち割り、手足をもぎ取るといった直接的な演出は、初めて観たときはとてもショックでした。これらをショッピングモールという日常的な閉鎖空間で描いたことも、強烈なリアリズムを感じさせる一因になっています。

 この映画以降“ゾンビ”という言葉が一気に普及したという事実が、この映画の完成度を如実に表しています。この作品を越えるゾンビもの映画というものに僕はまだ出会えていません。古い映画ですが、ホラー映画が好きなら必見の作品です。

監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:デヴィッド・エムゲ、ケン・フォリー、スコット・H・ライニガー、ゲイラン・ロス
20110517 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

シャイニング

 スティーヴン・キングの原作をスタンリー・キューブリックが独自のアレンジで映画化したホラー映画の金字塔。じわじわと侵蝕してくるような恐怖演出はトラウマになること間違いなしです。

 ジャック・ニコルソンの怪演がよく話題に上りますが、それ以上にキューブリックお得意のゆっくり動くカメラワークが映画の題材にとても合っていて、閉鎖空間で狂気にとらわれていく主人公たちの心理を巧く描き出しています。観客の不意をついて驚かすようなホラーが多い中で、内側から崩壊していくような静かな演出のこの映画は、まさにキューブリックならではのホラー作品と言えるでしょう。
 血のエレベータ、双子、三輪車など印象的なモチーフが多いのもこの映画の特徴で、後に多くのオマージュを生んでいます。ただ一つ一つのモチーフの持つ意味を考えても答えは出てきません。ラストの解釈も観客にゆだねられています。このあたりが納得できない人は、観終わってから消化不良な印象を受けるのかも。個人的にはそういう雰囲気作りもホラー映画の醍醐味という考えなので、この映画との相性はバッチリでした。ただホラー映画自体が苦手なので、何度も観たくはないですが……。

 公開当初は娯楽作品という枠組みでしたが、この映像美と演技は他の芸術系映画を寄せ付けない気迫すら感じます。ホラー映画といえばまずこの映画を思い浮かべる方も多いのでは。未見の方はぜひ。

監督:スタンリー・キューブリック
原作:スティーヴン・キング
出演:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、ダニー・ロイド、スキャットマン・クローザース、バリー・ネルソン
20110513 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1

 同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第7作。とうとう二部作になって原作の細部まできっちり映像化しているので、これまでのシリーズ作品の中では段違いに面白くなっています。

 同監督による前二作ではシナリオにアレンジを効かせていたのに対し、今回は充分な上映時間があるおかげでほぼ原作通りの物語を再現できていて、ドラマに安定感がありました。特に今作は主役三人の逃避行がメインなので、これまで本編では省略されがちだったこの三人の心情描写がきっちりできたことで、物語への没入度も高くなっています。
 脇役たちもそれぞれ活躍の場があり、映像もこれまで以上にリッチに仕上がっているので、シリーズを通して観てきた人には感慨深いものがあるのでは。後編に向けての伏線の張り方も十分で、二部作の前編として文句のない出来でしょう。

 また、今回は過去のシリーズ作品と比べても演出に余裕があるのがよく分かりました。特に空撮などで状況描写をするシーンが豊富なため、シーンとシーンの間で上手くメリハリを付けられています。一方アクションシーンでもカットバックに頼らず、長めのカットを随所に挟みつつ描いていて、リズムの付け方が様になっていると感じました。
 初登場の俳優では、まずリス・エヴァンスがさすがの怪演を見せてくれました。予告編でも大写しになるビル・ナイも、登場シーンは少ないながら印象的。レギュラー陣では、ヘレナ・ボナム=カーターが相変わらず憎まれ役を上手く演じきっています。あとはやっぱりアラン・リックマンが格好良くて、出てくるだけで嬉しくなってしまいました。

 ファンとしては、やっとハリー・ポッター本来の面白さが映画館で体験できて大満足。あの原作をそのまま映画化するだけで、ここまで面白くなるということが何より驚きでした。上下巻ある原作の、下巻の序盤まで消化して余裕はたっぷりあるので、あとはこの調子で後編をじっくり描いてもらえれば、史上最高のシリーズ作品になることはまず間違いないでしょう。

監督:デヴィッド・イェーツ
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、レイフ・ファインズ、アラン・リックマン、ブレンダン・グリーソン、ロビー・コルトレーン、マギー・スミス、デヴィッド・シューリス、ジョン・ハート、トム・フェルトン、ボニー・ライト、ティモシー・スポール、ジェイソン・アイザックス、ヘレナ・ボナム=カーター、イメルダ・スタウントン、ジョージ・ハリス、リス・エヴァンス、ビル・ナイ
20110511 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターと謎のプリンス

 同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第6作。前作から引き続きデヴィッド・イェーツ監督がメガホンを取ったおかげか、ドラマが生き生きとしていて想像以上に楽しめました。

 冒頭から原作にはない展開が連続し、台詞もかなりアレンジされていて驚きましたが、これが不思議と原作の雰囲気にマッチしています。エピソードを効果的に省略することで尺を確保しつつ、ユーモラスなシーンを適度に挿入して映画全体のリズムを取るなど、シリーズ二回目の監督ならではの慣れた演出が功奏したのではないでしょうか。最終章に向けていくつか説明しておかなければいけない伏線が抜けていたり、終盤の決戦が拍子抜けだったのが心残りですが、そのあたりは次回に期待ということなんでしょうか。
 今回、キャスト以外は次回作に向けての休養ということでスタッフの多くが入れ替わったそうですが、前作以上にクオリティの高いものが出来ていて安心しました。撮影がジュネ組のブリュノ・デルボネルなのが個人的にはポイント。俳優では、満を持して登場したジム・ブロードベントの存在感がさすがでした。

 これまでは原作に忠実であることにこだわりすぎて、映画としての面白さが置いてけぼりになりがちでしたが、今回は映画向けに分かりやすくアレンジされていると感じました。最終章はついに二部立て、さらにデヴィッド・イェーツ監督が続投ということなので、ますます楽しみになってきました。

監督:デヴィッド・イェーツ
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、マイケル・ガンボン、ジム・ブロードベント、アラン・リックマン、ロビー・コルトレーン、マギー・スミス、デヴィッド・シューリス、トム・フェルトン、ボニー・ライト、ティモシー・スポール、ヘレナ・ボナム=カーター
20110509 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

jackass number two the movie

 ジョニー・ノックスヴィル率いるおバカ集団によるMTVの大人気シリーズの映画化第二弾。前作以上にノリが良い、ひたすら笑える作品でした。

 今回も、「自宅の階段でスキー」「生尻で電気椅子」「目隠しのまま闘牛と対決」「○○を蛇に噛ませる」などなど、やる前から結果の分かっている悪ふざけをあえてやってみた映像が目白押し。また、老人の特殊メイクをして街に繰り出すシリーズも過激さを増しています。なんでこんな頭の悪いことを思いつけるのかと、ただただ感心しつつも大爆笑させられた90分でした。
 この映画に関してはもう何も言うことはありません。自宅でお酒でも呑みながら大笑いして観るのには最適な最低映画です。ちなみに、今回は汚物系のネタが殆どなかったので、そういうのが苦手な方でも安心。頭が悪くなりたいときに是非。

監督:ジェフ・トレメイン
出演:ジョニー・ノックスヴィル、スティーヴォー、バム・マージェラ、クリス・ポンティアス、ライアン・ダン、デイヴ・イングランド、ウィーマン
20110501 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

レッドクリフ Part II ―未来への最終決戦―

 「赤壁の戦い」を映画化した二部作の完結編。前作に引き続き、ジョン・ウー節が炸裂する痛快アクション大作でした。
 数万の軍勢がぶつかり合う合戦を再現しつつ、各武将に活躍の場を作るためには、やはりこの紋切り型で予定調和なジョン・ウーの作風がとても似合っています。一方で前回スパイスと思われたサッカーの演出が前面に出てきたり、最後はちょっと盛り上げすぎたりと映画独自の展開も多く、風格にこだわる人には楽しめないかも。一つ一つのアクションシーンが長いのも構わないんですが、北米版のように一本の映画として公開した方が良かったような。しかしお祭り映画だと割り切って見れば、なかなか楽しめる映画です。

 今回もトニー・レオンがひたすら格好良かった。ジョン・ウーは俳優の魅力を引き出すのが上手いですね。何よりアジアでもこういう大作映画が撮れるのだという良い証明になったので、今後もこういう作品がアジアから出ることを願いたいです。

監督:ジョン・ウー
出演:トニー・レオン、金城武、リン・チーリン、チャン・フォンイー、チャン・チェン、ヴィッキー・チャオ、フー・ジュン、中村獅童
20110427 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ゾディアック

 『セブン』『ファイト・クラブ』のデヴィッド・フィンチャー監督が、希に見る連続殺人事件の真相に迫ったクライム・サスペンス。監督の新たな可能性が伺える傑作でした。

 ひたすら犯罪の事実を追跡するような地味な内容なのに、最初から最後まで緊張感が持続する不思議な映画でした。これまでのフィンチャー作品らしくない、重厚さすら感じさせる演出で、肝心の殺人自体もそれほどエキセントリックに描かれていません。これは監督の角が取れたのではなく、あくまで原作の面白さをそのまま映画で見せようとした結果ではないかと。ゾディアックの不気味さをありのままに描くことで、当時の人々がその犯罪に取り憑かれた心理を再現し、それを観客に追体験させることこそが、この映画の目的なのでしょう。
 俳優では、ジェイク・ギレンホールとロバート・ダウニー・Jr.がとてもいい味を出しています。音楽の使い方も相変わらず上手い。ちなみに、この映画からフィンチャー監督は完全デジタル撮影に切り替えたとか。とてもそうとは信じられない、フィルム映画のような肌触りは監督のこだわりの賜物です。

 未解決事件なので終わり方もモヤモヤしますが、観終わったときの高揚感は他のフィンチャー作品に負けていません。考えさせるサスペンスを楽しみたい人にはぜひ見て欲しい映画です。

監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:ロバート・グレイスミス
出演:ジェイク・ギレンホール、マーク・ラファロ、ロバート・ダウニー・Jr.、ブライアン・コックス、アンソニー・エドワーズ、クロエ・セヴィニー
20110423 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

人狼 JIN-ROH

 押井守自身の創作による“ケルベロス・サーガ”の、初の劇場アニメ化作品。監督は高い作画力に定評のある沖浦啓之。

 架空の大戦後の日本を描いた作品ですが、実際は昭和30年代の安保闘争をかなり意識して描かれています。当時の不安定な情勢、政治的な策謀などを物語の背景として巧みに折り込みつつ、登場人物それぞれの立場ごとにドラマを用意するさりげなさは、もはや押井脚本の真骨頂と言えるでしょう。
 ただ一部のシナリオや演出がくどすぎるのが気になりました。僕が色恋沙汰に厳しいのもあるんですが、終盤でちょっと浪花節な雰囲気になるのが惜しい。また、あまりに地味で観客を置き去りにする物語は、特にこの世界観を未体験の人や、そもそも興味のない人が理解するのは難しいのでは。それでも押井監督以外の手で映画化されたことで極端な哲学性は薄まり、これまでのシリーズ作品に比べればエンタテイメント寄りの内容に思えました。

 影を描くことを極力排除した独特の画面作りは Production I.G の高い作画力があってこそ。制作中に『MEMORIES』が完成して優秀な原画家が流れてきたのも一因だとか。小倉宏昌によるドライで緻密な美術も映画の説得力を高めています。セルアニメ時代の最後を飾る、一つの到達点のような映画であることは間違いありません。

監督:沖浦啓之
原作:押井守
出演:藤木義勝、武藤寿美、木下浩之、廣田行生、吉田幸紘
20110421 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

イリュージョニスト

 ジャック・タチの遺した脚本を、『ベルヴィル・ランデブー』のシルヴァン・ショメ監督が映画化。良質なフランス映画のような、静かな感動がある秀作でした。

 前作の賑やかな雰囲気とは正反対の、静かで心にしみる物語に合わせて、映画のテンポもひたすらスロー。ほとんど台詞のない主人公二人をじっくりと描き、その一挙手一投足で感情を表現させています。大きなドラマがあるわけではないシンプルな物語なのに、何故か印象的なのはその演出が功を奏しているのでしょう。
 登場人物の可愛らしさや魅力的な街並みも見どころの一つ。細かい人物の動きや街の看板一つにもこだわりが感じられて、それらを眺めているだけでいい気持ちになれました。また、手書きのアニメーション作品にはあまり見られない、奥行きを強調した表現が多用されていたのに驚かされました。音楽も相変わらずノスタルジックで魅力的です。

 映画全体を通して、制作者自身がこの作品を大好きなんだという気持ちがひしひしと伝わってきました。少しもの悲しい物語も相まって、大人向けのアニメーションとしての新境地を拓いた作品と言えそうです。

監督:シルヴァン・ショメ
オリジナル脚本:ジャック・タチ
出演:ジャン=クロード・ドンダ、エイリー・ランキン
20110413 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -