★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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処刑人II

 カルト的人気を博したアクション映画『処刑人』の続編が、度重なる延期の末にとうとう完成。前作ほどの勢いは感じられないものの、あのノリを再び映画で楽しむことができました。
 今回は前作のウィレム・デフォーに代わって、ジュリー・ベンツ演じる女捜査官が登場。彼女に追われつつも真の敵を探すという三つ巴の構図は前作と変わらず。妙なテンションのドラマや、捜査官がセイント達の犯行をプロファイリングする見せ場もそのまま。これだけ代わり映えしないと本来は不満なんですが、この映画に関してだけは不思議と嬉しくなるばかりでした。しかしデフォーの変態演技がないせいか、どことなく物足りなさを感じてしまった点だけは残念です。

 適度に軽い、しかしたっぷりのアクションで観終わったあとは満足という、こういったガンアクション映画には珍しい映画で、何より前作の雰囲気がもう一度楽しめたのが良かった。一作目と併せて観ておきたい作品です。

監督:トロイ・ダフィー
出演:ショーン・パトリック・フラナリー、ノーマン・リーダス、ビリー・コノリー、ジュリー・ベンツ、ジャド・ネルソン、クリフトン・コリンズ・Jr.、ピーター・フォンダ
20110403 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

Dr.パルナサスの鏡

 奇才テリー・ギリアム監督が、『バロン』『未来世紀ブラジル』の脚本家チャールズ・マッケオンと三度組んで作り上げた作品。主演のヒース・レジャーが撮影期間中に死亡するというアクシデントに見舞われながらも、なんとか完成にこぎ着けました。

 ギリアム監督といえば万華鏡のように展開する映像世界が魅力ですが、今作でもそのイマジネーションは健在。今回はモンティ・パイソン含め過去のギリアム作品の総集編とも言えそうなほど、ありとあらゆる方向性から空想の世界を描いています。現実世界は必要以上に暗く描かれていて、いいアクセントになっています。ストーリーは説明不足の感が否めませんが、勢いで押し切りつつもきちんと最後をまとめているところが、ギリアムも大人になったのかなと思ってしまいました。
 ヒース・レジャーの演技はとにかく素晴らしい。うさんくさい男をしっかり演じています。助っ人で演じた三人も良いんですが、やはりここは最後までヒースに全て演じてほしかった。あと、リリー・コールとアンドリュー・ガーフィールドの若手二人がそれぞれとても魅力的で印象に残りました。

 老いてもなお新たな世界へ観衆を誘うパルナサス博士の姿に、ギリアム自身が投影されていてまるで自画像のような映画でした。盛りだくさんの映像なので、そこが気になるのであれば観ても損はない作品です。

監督:テリー・ギリアム
出演:ヒース・レジャー、クリストファー・プラマー、リリー・コール、アンドリュー・ガーフィールド、ヴァーン・トロイヤー、トム・ウェイツ、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレル
20110401 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ミックマック

 『アメリ』『ロスト・チルドレン』のジャン=ピエール・ジュネ監督がダニー・ブーンを主演に迎えて撮った久々のコメディ作品。いかにもジュネ映画という既視感でいっぱいでした。

 今回も奇妙な主人公、奇妙なエピソード、奇妙な仕掛けが集まって、とにかく奇妙な物語が展開するジュネのファンにはお馴染みの内容。しかしどこか空回りしているように感じたのは、ダニー・ブーンに貫禄がありすぎたからかも。彼なら仲間の力に頼らずとも、一人で全て解決できそうなので、説得力に乏しくなってしまいました。あと、ヒロインがそっちなの!?というのも個人的には不満。うーん。
 イタズラは相変わらずの完成度。特に今回はテーマにもなっているので、思わず拍手したくなる仕掛けもいくつか。音楽もおもちゃ箱から飛び出したようで映画の雰囲気に合っています。撮影監督は『ハリー・ポッターと謎のプリンス』の撮影で急遽抜けたブリュノ・デルボネルに代わり永田鉄男が担当。色彩表現は素晴らしいものの、立体的なカメラワークが必要な場面で首をかしげるところがいくつかあったのが残念。

 細かいところでは、オープニング・クレジットがひねってあって最初から笑わされました。ジュネ映画には珍しく爽快な内容なので、気軽に楽しみたいという方もぜひ。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:ダニー・ブーン、ドミニク・ピノン、ジャン=ピエール・マリエール、ジュリー・フェリエ、マリー=ジュリー・ボー、アンドレ・デュソリエ、ニコラ・マリエ
20110328 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

英国王のスピーチ

 英国王ジョージ6世にまつわる感動の逸話をトム・フーパー監督が映画化し、アカデミー作品賞ほか4冠を獲得した佳作。若い監督の意欲を感じる作品でした。

 中盤まではそれなりに楽しめますが、戴冠式前後で物語のリズムが崩れてしまうのが惜しい。主役であるジョージ6世のキャラクターは面白いのに、相手役ライオネルの性格付けが弱いため肝心なところで盛り上がりに欠ける印象です。どちらかの主観に物語を偏らせることで焦点を絞れば、メリハリのきいた作品になったかもしれません。
 俳優では、なんと言ってもコリン・ファースの演技が素晴らしい。吃音が自然すぎて演技に見えません。他の俳優もそれぞれ良い演技をしているんですが、チャーチル役にティモシー・スポールというのだけはちょっと……笑ってしまいました。

 台詞回しやカメラワークはイギリス映画らしく気が利いています。俳優も地味なようでいて豪華で、演技の良さも見所。ちょっと上品な、でもしっかり面白い映画を観たい方にはオススメです。

監督:トム・フーパー
出演:コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーター、ガイ・ピアース、ティモシー・スポール、マイケル・ガンボン
20110323 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

トゥルー・グリット

 ジョン・ウェイン主演「勇気ある追跡」として一度は映画化された同名小説を、『ノーカントリー』でアカデミー賞を獲得したコーエン兄弟監督の手で再映画化。シンプルながら力強い内容でしたが、どこか物足りなさも。

 見慣れた西部劇の世界観も、リアリズムに徹しながらどこか非現実を感じさせるコーエン兄弟らしい演出で描かれると圧巻で、冒頭から引き込まれました。保安官とテキサスレンジャーの人物描写も魅力的。しかし主役であるマティの感情の振れ幅が狭いため、どこか感情移入できずに終わってしまいました。少女の弱さを感じさせる演技がもう少しあったら良かったかも。そうしてみると、同行する二人の男もボケ役でしかなく、しっかり者のマティの前ではあまり役割が変わらないのも残念でした。
 全編をドライな映像でまとめたロジャー・ディーキンスの撮影は見事。また、コーエン映画にしては珍しくアクションシーンが多く、映画としての盛り上がりも充分でした。俳優ではジョシュ・ブローリンのキレた演技が良かった。地味なので今まで気付きませんでしたが、実はこれからもっと伸びる俳優さんではないでしょうか。

 掴みが良かっただけに、もうちょっとこの世界を深く長く堪能できたら評価は変わっていたかも。監督がもう一度西部劇を撮ってくれたら、また観に行きたいです。

監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
原作:チャールズ・ポーティス
出演:ヘイリー・スタインフェルド、ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、バリー・ペッパー
20110322 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

デジモンアドベンチャー/ぼくらのウォーゲーム!

 細田守監督による同アニメシリーズの劇場版第2弾。主人公とデジモンたちの活躍を前面に出していますが、そのぶん大人には物足りない内容でした。

 超広角の固定カメラや長回しなど、普通のアニメで見られない実写的で凝った演出は健在。また2000年当時としては珍しかったネットワークの概念とデジモンを結びつけつつ、あくまで子供にも分かりやすいストーリーになっているのも良い。TVシリーズの内容を反映したため、登場人物(デジモン含む)が多すぎたりして40分という時間では設定を生かし切れていない点だけが残念です。
 結局、映画単体としては一長一短。しかし、同時上映された他の作品目当ての人も取り込んでしまうだけ、子供向けアニメの中では突出した作品なのは確か。前作「デジモンアドベンチャー」と併せて一度は見ておきたいアニメ作品です。

監督:細田守
出演:藤田淑子、坂本千夏、風間勇刀、山口眞弓
20081126 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スカイ・クロラ

 ベストセラー作家森博嗣による異色のSF空戦小説を、押井守監督で映画化。原作のファンなので押井守監督なのは嬉しい反面、不安もありましたが、それなりに面白く仕上がっていると感じました。

 原作の持つ独特の浮遊感やもどかしい空気を、あえて感情を廃し淡々と描くことで表現した演出はさすが。空戦での自由自在なカメラワークも、実写顔負けの迫力です。この空中と地上との対比や、台詞を減らして画面で語るあたりから、作品のテーマがにじみ出てくるところが良かった。実はラストは原作と全く違うんですが、テーマが一貫しているので不思議と違和感はありませんでした。むしろ原作のテーマをうまく補っていると感じたほどです。
 美術やアニメーションは、正直手を抜いているなという感じ。反面、空戦の演出やCGは、それがやりたかっただけなんじゃないか、というほど見応えがあります。声では、草薙水素を演じた菊地凛子が浮いていたのが気になったものの、あとは概ね合ってました。細かい所ながら、通信など英語でやりとりするところがとても自然な発音で、ちょっと感心。主題歌は思わず吹き出すほど下手な発音でしたが……。

 もともと掴み所のないテーマですしカタルシスもない物語なので、見終わって考え込むような映画なんですが、逆に言えば原作のそういうところを上手く映像化していたと思います。攻殻機動隊みたいに、OVAで残りの原作も映像化してくれたら文句なしなんだけどなあ。

監督:押井守
原作:森博嗣
出演:加瀬亮、菊地凛子、谷原章介、栗山千明、大塚芳忠、平川大輔、竹若拓磨、麦人、山口愛
20081118 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

めいとこねこバス

 三鷹の森 ジブリ美術館でのみ上映される、宮崎駿監督による14分の短編アニメ。「となりのトトロ」の後日談的な内容で、映像自体は生き生きとしているのに、心の底から楽しめる内容ではありませんでした。
 前半の“こねこバス”との邂逅までは良い。こねこバスのいかにも小動物な動きや、ふさふさした毛並みなどはさすがジブリと唸らされる作画もあって楽しめます。しかしそこから先、話が無駄に大きくなってしまい、暗示的になっていくところで興ざめ。これはトトロの世界観とも違うような気がするんですが、どうなんでしょう。

 近年の宮崎アニメは話を大きくしすぎて、小さな感動を忘れているような気がします。新しいことにチャレンジするのも良いんですが、もう昔のような宮崎アニメは作られないのかも、と思うと残念しきり。

監督:宮崎駿
出演:坂本千夏、宮崎駿
20081112 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

パンズ・ラビリンス

 ギレルモ・デル・トロ監督が、スペイン内戦を背景に描くダーク・ファンタジー。印象的なシーンは多いものの、今ひとつ消化不良でした。

 主人公オフェリアが、様々なストレスから空想の世界に囚われていくのが本題かと思ったら、むしろそのストレスの一因である内戦に重点を置いてしまったため、対比としての空想世界がおざなりになってしまいました。さらにオフェリアの心情描写も全て召使いのメルセデスの過去と重ね合わす演出で、まるでメルセデスが主役のよう。空想世界の異形たちはとても魅力的で、いろいろ曰くがありそうなだけに、まずオフェリア自身の描写に力を注いでほしかった。
 カメラワークや美術は凄い。あと、複数の異形を演じたダグ・ジョーンズの“らしさ”もこの映画の魅力の一つでしょう。メルセデス役のマリベル・ベルドゥは、どこかで見たと思ったら「天国の口、終りの楽園。」の女性なんですね。情熱を内に秘めた表情が良かった。

 多少ちぐはぐな内容ではありますが、昨今の子供向けファンタジーの隆盛に異を唱えた内容は、十分意義があると思います。映像的には見る点も多いので、ファンタジー好きの方なら是非。

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:イバナ・バケロ、マリベル・ベルドゥ、セルジ・ロペス、ダグ・ジョーンズ
20081106 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スキヤキ・ウェスタン・ジャンゴ

 三池崇史監督が満を持して制作した、全編英語、オールスターキャストによる“スキヤキ・ウェスタン”。マカロニ・ウェスタンへの愛がごった煮にされた、まさにスキヤキのような作品でした。
 実は西部劇というものに造詣がないのでいつも困るんですが、この作品は珍しくそこそこ楽しめました。ドラマが中盤でダレるあたりは過去の三池作品通り。しかし単純にアクションを楽しませる力強さは流石です。村ひとつをまるまる作り出した美術も良い。そして、ジャンルに無知な人間から見ても、マカロニ・ウェスタンへの愛はひしひしと感じられました。タランティーノ映画のような精神性ですね。この何でもアリの世界観が楽しめるかどうかで評価が大きく分かれそうです。

 伊勢谷友介と木村佳乃の英語が上手いなあと思っていたら、二人とも海外生活経験があるとのこと。逆に佐藤浩市や香川照之は焦点を絞れずに苦労していた感じ。あと、いつもこの監督の音楽は素晴らしいと思うんですが、今作の主題歌も最高でした。北島三郎は日本最高のソウル・シンガーですね。

監督:三池崇史
出演:伊藤英明、伊勢谷友介、佐藤浩市、安藤政信、堺雅人、石橋貴明、木村佳乃、桃井かおり、香川照之、小栗旬、クエンティン・タランティーノ
20081022 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -