★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ゾンビ

 ジョージ・A・ロメロ監督が『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に続いて撮り上げた、ゾンビもの映画の傑作。“ゾンビ=おぼつかない足取りで人を襲う生ける屍”という概念を世界中に植え付けた、まさに記念碑的な作品です。

 ショッピングモールの中で繰り広げられる終末感たっぷりのサバイバル生活は、それだけでも十分魅力的ですが、そこに“ゾンビ”という存在を放り込むことで類い希な魅力を持った物語に昇華させています。死者と生者の対比、生き残った人間同士の精神戦など、その後のゾンビ映画に共通する要素は、この映画の時点で既に完成されていたと言っても過言ではないでしょう。
 また、容赦のないスプラッタ描写もこの映画の魅力の一つ。ハイビジョンで観るとさすがに粗が目立ちますが、内臓を引きずり出し、頭をかち割り、手足をもぎ取るといった直接的な演出は、初めて観たときはとてもショックでした。これらをショッピングモールという日常的な閉鎖空間で描いたことも、強烈なリアリズムを感じさせる一因になっています。

 この映画以降“ゾンビ”という言葉が一気に普及したという事実が、この映画の完成度を如実に表しています。この作品を越えるゾンビもの映画というものに僕はまだ出会えていません。古い映画ですが、ホラー映画が好きなら必見の作品です。

監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:デヴィッド・エムゲ、ケン・フォリー、スコット・H・ライニガー、ゲイラン・ロス
20110517 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

シャイニング

 スティーヴン・キングの原作をスタンリー・キューブリックが独自のアレンジで映画化したホラー映画の金字塔。じわじわと侵蝕してくるような恐怖演出はトラウマになること間違いなしです。

 ジャック・ニコルソンの怪演がよく話題に上りますが、それ以上にキューブリックお得意のゆっくり動くカメラワークが映画の題材にとても合っていて、閉鎖空間で狂気にとらわれていく主人公たちの心理を巧く描き出しています。観客の不意をついて驚かすようなホラーが多い中で、内側から崩壊していくような静かな演出のこの映画は、まさにキューブリックならではのホラー作品と言えるでしょう。
 血のエレベータ、双子、三輪車など印象的なモチーフが多いのもこの映画の特徴で、後に多くのオマージュを生んでいます。ただ一つ一つのモチーフの持つ意味を考えても答えは出てきません。ラストの解釈も観客にゆだねられています。このあたりが納得できない人は、観終わってから消化不良な印象を受けるのかも。個人的にはそういう雰囲気作りもホラー映画の醍醐味という考えなので、この映画との相性はバッチリでした。ただホラー映画自体が苦手なので、何度も観たくはないですが……。

 公開当初は娯楽作品という枠組みでしたが、この映像美と演技は他の芸術系映画を寄せ付けない気迫すら感じます。ホラー映画といえばまずこの映画を思い浮かべる方も多いのでは。未見の方はぜひ。

監督:スタンリー・キューブリック
原作:スティーヴン・キング
出演:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、ダニー・ロイド、スキャットマン・クローザース、バリー・ネルソン
20110513 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1

 同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第7作。とうとう二部作になって原作の細部まできっちり映像化しているので、これまでのシリーズ作品の中では段違いに面白くなっています。

 同監督による前二作ではシナリオにアレンジを効かせていたのに対し、今回は充分な上映時間があるおかげでほぼ原作通りの物語を再現できていて、ドラマに安定感がありました。特に今作は主役三人の逃避行がメインなので、これまで本編では省略されがちだったこの三人の心情描写がきっちりできたことで、物語への没入度も高くなっています。
 脇役たちもそれぞれ活躍の場があり、映像もこれまで以上にリッチに仕上がっているので、シリーズを通して観てきた人には感慨深いものがあるのでは。後編に向けての伏線の張り方も十分で、二部作の前編として文句のない出来でしょう。

 また、今回は過去のシリーズ作品と比べても演出に余裕があるのがよく分かりました。特に空撮などで状況描写をするシーンが豊富なため、シーンとシーンの間で上手くメリハリを付けられています。一方アクションシーンでもカットバックに頼らず、長めのカットを随所に挟みつつ描いていて、リズムの付け方が様になっていると感じました。
 初登場の俳優では、まずリス・エヴァンスがさすがの怪演を見せてくれました。予告編でも大写しになるビル・ナイも、登場シーンは少ないながら印象的。レギュラー陣では、ヘレナ・ボナム=カーターが相変わらず憎まれ役を上手く演じきっています。あとはやっぱりアラン・リックマンが格好良くて、出てくるだけで嬉しくなってしまいました。

 ファンとしては、やっとハリー・ポッター本来の面白さが映画館で体験できて大満足。あの原作をそのまま映画化するだけで、ここまで面白くなるということが何より驚きでした。上下巻ある原作の、下巻の序盤まで消化して余裕はたっぷりあるので、あとはこの調子で後編をじっくり描いてもらえれば、史上最高のシリーズ作品になることはまず間違いないでしょう。

監督:デヴィッド・イェーツ
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、レイフ・ファインズ、アラン・リックマン、ブレンダン・グリーソン、ロビー・コルトレーン、マギー・スミス、デヴィッド・シューリス、ジョン・ハート、トム・フェルトン、ボニー・ライト、ティモシー・スポール、ジェイソン・アイザックス、ヘレナ・ボナム=カーター、イメルダ・スタウントン、ジョージ・ハリス、リス・エヴァンス、ビル・ナイ
20110511 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターと謎のプリンス

 同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第6作。前作から引き続きデヴィッド・イェーツ監督がメガホンを取ったおかげか、ドラマが生き生きとしていて想像以上に楽しめました。

 冒頭から原作にはない展開が連続し、台詞もかなりアレンジされていて驚きましたが、これが不思議と原作の雰囲気にマッチしています。エピソードを効果的に省略することで尺を確保しつつ、ユーモラスなシーンを適度に挿入して映画全体のリズムを取るなど、シリーズ二回目の監督ならではの慣れた演出が功奏したのではないでしょうか。最終章に向けていくつか説明しておかなければいけない伏線が抜けていたり、終盤の決戦が拍子抜けだったのが心残りですが、そのあたりは次回に期待ということなんでしょうか。
 今回、キャスト以外は次回作に向けての休養ということでスタッフの多くが入れ替わったそうですが、前作以上にクオリティの高いものが出来ていて安心しました。撮影がジュネ組のブリュノ・デルボネルなのが個人的にはポイント。俳優では、満を持して登場したジム・ブロードベントの存在感がさすがでした。

 これまでは原作に忠実であることにこだわりすぎて、映画としての面白さが置いてけぼりになりがちでしたが、今回は映画向けに分かりやすくアレンジされていると感じました。最終章はついに二部立て、さらにデヴィッド・イェーツ監督が続投ということなので、ますます楽しみになってきました。

監督:デヴィッド・イェーツ
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、マイケル・ガンボン、ジム・ブロードベント、アラン・リックマン、ロビー・コルトレーン、マギー・スミス、デヴィッド・シューリス、トム・フェルトン、ボニー・ライト、ティモシー・スポール、ヘレナ・ボナム=カーター
20110509 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ショーン・オブ・ザ・デッド

 本国イギリスで大ヒットを記録し、ホラー・コメディの新たな可能性を切り開いたカルト的作品。ブラッカイマー映画のような手法でゾンビ映画をパロディしまくる内容はインパクトがあります。

 素早いカットバックやスローモーションを用いた現代風の演出で、ひたすらしょーもないパロディを繰り出す作風は確かに新鮮。ただ、あまりに同じ演出と間抜けな展開が続くので、観ているこっちが息切れしてしまいます。そのせいか後半に出てくるシリアスな展開も、なんとなく上滑りしてしまって楽しめませんでした。こういう展開ならコメディの比重を少なくして、シリアスの中にコメディが混ざってるぐらいが丁度良かったかもしれません。
 僕でも分かるパロディがちょこちょこあったので、ホラー映画に詳しい人なら、それぞれのパロディ元が分かって一層笑えるのかも。ホラー映画好きを自負する人なら、一度は観ておくべき映画かもしれません。

監督:エドガー・ライト
出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、ケイト・アシュフィールド、ディラン・モーラン、ビル・ナイ
20110507 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ヘルボーイ

 マイク・ミニョーラによるアメコミのカルト的作品を、『ミミック』のギレルモ・デル・トロ監督が映画化。他のアメコミ映画とは一線を画した、独特の雰囲気が漂う作品に仕上がっています。

 妙なこだわりのある監督なのでどうなることかと観る前は心配しましたが、そのこだわりが今回はいい方向に発揮されていて、凡百のヒーローものに収まっていません。ただ、話の省略が唐突すぎたり、展開に時々ひっかかるところがあるのも相変わらず。最終的にただの肉弾戦で終わってしまうアクションも残念でした。
 演出や美術はさすがの一言。グロテスクな世界観はまさに監督の独壇場です。俳優では、とにかく主演のロン・パールマンがハマっています。確かにこの人以外にヘルボーイは演じられなさそう。また、ダグ・ジョーンズ演じるエイブも、主人公のサポート役にしては印象的でした。

 とにかく『ブレイド2』の二の舞にはならずに済んで一安心。続編制作も納得できる内容なので、ひと味違ったアメコミものが観たい方はぜひ。

監督:ギレルモ・デル・トロ
原作:マイク・ミニョーラ
出演:ロン・パールマン、セルマ・ブレア、ジョン・ハート、ルパート・エヴァンス、ダグ・ジョーンズ
20110505 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

宇宙戦争

 スティーヴン・スピルバーグがH・G・ウェルズの名作SF小説を現代風に映画化したスペクタクル作品。ドンパチやるだけの映画ならともかく、家族ドラマを前面に押し出したせいで妙なことになってしまいました。

 スピルバーグのドラマが苦手なのでいやな予感はしていましたが、やはり無駄に家族愛を強調されてしまったので、映画の内容とテーマが最後まで結びつきませんでした。原作に無いテーマなんだから原作のエピソードも無視してしまえばいいのに、それもしないため特に後半は不自然な展開になり、映画の軸がどこにあるのか最後まで分からずじまいでした。あとは原作でもオチが唐突すぎるので、いっそそこを上手く処理して本格SFにしてしまえば良かったのかも。
 この原作をこのキャストで撮りたい理由も分かりませんでした。そもそもトム・クルーズが主役というのが疑問。彼なら宇宙人でも何とかしてしまいそうなので、ただ逃げるばかりの展開に違和感を覚えました。ひたすら叫ぶだけのダコタ・ファニングも残念。スピルバーグ監督はリアリズムとエンタテイメントの融合ではなく、現実をほどよく無視した冒険ものの方が似合いそうです。

監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作:H・G・ウェルズ
出演:トム・クルーズ、ダコタ・ファニング、ティム・ロビンス、ジャスティン・チャットウィン、ミランダ・オットー
20110503 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

jackass number two the movie

 ジョニー・ノックスヴィル率いるおバカ集団によるMTVの大人気シリーズの映画化第二弾。前作以上にノリが良い、ひたすら笑える作品でした。

 今回も、「自宅の階段でスキー」「生尻で電気椅子」「目隠しのまま闘牛と対決」「○○を蛇に噛ませる」などなど、やる前から結果の分かっている悪ふざけをあえてやってみた映像が目白押し。また、老人の特殊メイクをして街に繰り出すシリーズも過激さを増しています。なんでこんな頭の悪いことを思いつけるのかと、ただただ感心しつつも大爆笑させられた90分でした。
 この映画に関してはもう何も言うことはありません。自宅でお酒でも呑みながら大笑いして観るのには最適な最低映画です。ちなみに、今回は汚物系のネタが殆どなかったので、そういうのが苦手な方でも安心。頭が悪くなりたいときに是非。

監督:ジェフ・トレメイン
出演:ジョニー・ノックスヴィル、スティーヴォー、バム・マージェラ、クリス・ポンティアス、ライアン・ダン、デイヴ・イングランド、ウィーマン
20110501 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師

 トニー賞を受賞したミュージカルをティム・バートン&ジョニー・デップのコンビで映画化。『スリーピー・ホロウ』とはまた違った雰囲気のホラーですが、どこか消化不良に終わってしまいました。

 設定自体は良いのですが、肝心の物語に入り込めませんでした。全編を通して主人公の目標が不明瞭なままで、復讐と言いつつかなり回りくどいことをやっているようにしか見えないので、物語がぼやけたまま。ミュージカルシーンも唐突で、かえって雰囲気を壊しています。話の収束のさせ方も、脇役達の扱いがあまりに中途半端。ただ中盤の容赦ないグロテスク演出は思い切っていて良かった。
 ジョニー・デップは今回もコミック・アクターとしての才能を見せつけていますが、オッサンぽさが見えてしまってもう一つ魅力を感じません。一方で、バートン作品初登場のアラン・リックマンの存在感はさすが。サシャ・バロン・コーエンのコミカルな演技も印象に残りました。

 リアルとコミカルのどちらかに焦点を絞れれば、もっと説得力のある映画になっていたのかも。人がどんどん殺されていく場面をミュージカル形式で、という発想自体は素晴らしかっただけに、悔いの残る作品です。

監督:ティム・バートン
原作:スティーヴン・ソンドハイム、ヒュー・ウィーラー
出演:ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アラン・リックマン、ティモシー・スポール、サシャ・バロン・コーエン、エド・サンダース
20110429 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

レッドクリフ Part II ―未来への最終決戦―

 「赤壁の戦い」を映画化した二部作の完結編。前作に引き続き、ジョン・ウー節が炸裂する痛快アクション大作でした。
 数万の軍勢がぶつかり合う合戦を再現しつつ、各武将に活躍の場を作るためには、やはりこの紋切り型で予定調和なジョン・ウーの作風がとても似合っています。一方で前回スパイスと思われたサッカーの演出が前面に出てきたり、最後はちょっと盛り上げすぎたりと映画独自の展開も多く、風格にこだわる人には楽しめないかも。一つ一つのアクションシーンが長いのも構わないんですが、北米版のように一本の映画として公開した方が良かったような。しかしお祭り映画だと割り切って見れば、なかなか楽しめる映画です。

 今回もトニー・レオンがひたすら格好良かった。ジョン・ウーは俳優の魅力を引き出すのが上手いですね。何よりアジアでもこういう大作映画が撮れるのだという良い証明になったので、今後もこういう作品がアジアから出ることを願いたいです。

監督:ジョン・ウー
出演:トニー・レオン、金城武、リン・チーリン、チャン・フォンイー、チャン・チェン、ヴィッキー・チャオ、フー・ジュン、中村獅童
20110427 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -