★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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殺し屋1

 山本英夫によるカルト・コミックを、多作で知られる三池崇史監督で映画化。とにかく映画全体に溢れるエネルギーが凄い。残酷描写が多いのに、それらをギリギリのところで制御しつつ笑いに変えているので、気持ち悪いとは感じませんでした。

 まず俳優の演技に唸らされます。主演の二人ももちろん素晴らしいんですが、それ以外の俳優のハマりっぷりも最高で、突飛な話に絶妙なリアリティを与えていました。ヤクザ映画出身の三池監督ならではの人選もニヤリとさせられます。それに原作と異なりつつも、映画的なインパクトと寂寥感に溢れたラストが圧巻。原作に対する三池監督なりの解釈の仕方なのでしょうか。原作にあるような切実なドラマはこの映画からは端折られていますが、このラストがあることで、また違った深みを物語から感じることが出来ました。
 実は映画を観てから原作を読んだんですが、これはどっちが先でもイメージを崩されることはなさそう。映画のアレンジの仕方が上手いのでしょう。ここまで原作のイメージを尊重した映画化作品というのは、初めて見たように思います。

 浅野忠信のキレっぷりは流石。 北村道子の衣装も必見です。それと、原作者と撮影監督は同姓同名の別人だとか。珍しいこともあるものです。ともあれ、原作ファンだけでなく、バイオレンス映画ファンには必見の一作です。

監督:三池崇史
原作:山本英夫
出演:大森南朋、浅野忠信、エイリアン・サン、SABU、松尾スズキ、塚本晋也、KEE、國村隼、寺島進
20060118 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

処刑人

 新人監督トロイ・ダフィーによる痛快アクション。頭の悪い物語と、ただ銃を撃ちまくるだけのアクションは好き嫌いが分かれそうですが、アメコミ・ヒーロー的な単純明快さが楽しめる快作でした。

 主人公二人の絵に描いたような兄弟コンビっぷりも、それを追う刑事役ウィレム・デフォーのありえなさも、突き抜けていて笑えます。デフォーの解説がかぶるアクションシーンは、映像自体がありきたりなスローモーションなのについつい引き寄せられてしまいました。啖呵の切り方や最後の法廷シーンなども適度に軽く、ヒーローものらしいケレンが満載。何より映画の殆どが銃撃戦で構成されているので、見終わったあとの満足感が違います。深いことは考えずに楽しむには最適なアクション映画でした。
 俳優ではやはりウィレム・デフォーの不気味さが見物。出てくるたびに笑わせてくれるのに、頼りにできそうな雰囲気は流石です。あとは、イタリアン・マフィアのボスがTV版「ニキータ」などに出演していたカルロ・ロタで驚きました。この人のお茶目な感じも好きです。

 非常に痛快な映画なんですが、時を同じくして起きたコロンバイン高校銃乱射事件との類似性のため、米国でも日本でも限定公開という憂き目にあったそうです。監督と脚本を兼ねるというハリウッド・ドリームを体現しながら、それが一夜で水泡に帰したトロイ・ダフィー監督とこの映画の舞台裏については "Overnight" というドキュメンタリーも制作されていました。監督には映画制作に復帰してもらいたいところですが、ちょっと難しそうですね……。

監督:ウィレム・デフォー
出演:ショーン・パトリック・フラナリー、ノーマン・リーダス、ウィレム・デフォー、デヴィッド・デラ・ロッコ
20060117 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

セイント

 ヴァル・キルマーの主演作としては珍しく破綻していないアクション映画。気になる点は多々あるものの、90年代のスパイ映画ブームに乗って作られた一作の中では、きっちり盛り上がって楽しめる内容でした。
 キルマーの変装メイクはバレバレですが、人物ごとの演じ分けはきちんと出来ていたような。「パトリオット・ゲーム」「今そこにある危機」で名を馳せたフィリップ・ノイス監督による映像は重厚で見応えがあり、軽すぎのB級アクションになりがちなところをうまくごまかしています。さすがに敵がロシアだったり、争うものが低温核融合の方程式だったりと、思わずツッこみたくなる設定の古さは辛いところがありますが、締めるべきところをきっちり締めた演出には好感が持てました。あと、この「聖人の名前をとった人物に変装する」という設定は、陳腐かも知れませんが映画向きで面白いな、と。

 レイド・セルベッジアが、悪玉の石油王役でふてぶてしい演技を披露しているのも見物の一つ。かなりご都合主義映画のような気もしますが、ヒーロー映画寄りのスパイものとして観るなら損はしないと思います。

監督:フィリップ・ノイス
原作:レスリー・チャータリス
出演:ヴァル・キルマー、エリザベス・シュー、ヴァレリー・ニコラエフ、レイド・セルベッジア
20060116 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ドーベルマン

 日本アニメのファンというヤン・クーネン監督による、バイオレンス・アクションの秀作。あまりに過激なアクションは好き嫌いが別れそうですが、映像的に非常にレベルの高い作品でした。

 コミックをそのまま映像化したような単純バイオレンス・アクションで、ストーリーなんて存在しないも同然。過去の映画に比べると言葉足らずとも思えるほど状況説明を欠き、キャラクターの魅力だけでひっぱるシナリオは強烈すぎます。しかも繰り広げられるアクションは、知らずに観た人なら途中退場してもおかしくないほど冷酷無比。銀行強盗の主人公もかなりの悪人ですが、対する刑事が輪をかけて極悪なので、その容赦の無さにクラクラしてしまいました。
 ただ、そこから生み出される映像が見事。冒頭の銃に関する演出など、観終わってから思わず人に話したくなるような映像の連続でした。粗の目立つ映像ではあるんですが、ここまでコミカルで斬新なカメラワークも珍しいのでは。映像の力が強すぎるせいか、物語の弱さが強調されてしまうのが惜しいんですが、それでも何度も観たくなるような魅力のある映画です。

 主演は「アパートメント」など多数の共演作があるヴァンサン・カッセルとモニカ・ベルッチ。”神父”ドミニク・ベテンフェルドや、刑事役のチェッキー・カリョの怪演も見所の一つ。過激な映像に堪える自信のある方はぜひ。

監督:ヤン・クーネン
原作:ジョエル・ホーサン
出演:ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチ、チェッキー・カリョ、ドミニク・ベテンフェルド
20060115 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル

 McG監督による人気リメイクシリーズ第2段。基本的な要素は維持しつつもスピード感は前作以上で、続編として期待通りの出来でした。

 ストーリーの煩雑さと荒唐無稽さは相変わらず。今回はギャグにも磨きがかかっています。生身にこだわったアクションは、前作の無重力アクションに比べるとよりカンフーらしくなり、見応えがありました。個人的にお気に入りの”痩せ男”クリスピン・グローヴァーも再登場しますし、前作を楽しめた人なら十分満足出来る内容でしょう。
 しかし今回の見所はマニアックに車関係でした。俳優以上に懲りに凝ったラインナップは監督の趣味のようですが、本当にどこから集めてきたんだと思うようなものもあって、カーマニアは堪らないのでは。中でも見所はMcG監督が「一度でいいからやりたかった」というモトクロスのアクション。バイク映画に決して負けないスタントは必見です。

 こういうパワフルなお気楽アクション映画は、観ているだけで楽しくなってくるので大歓迎。実はビジュアルもお色気も女性向けの健全さなので、そっち方面を期待した男性諸氏は納得いかないかもしれませんが、個人的にはこのぐらいのバランスで突っ走ってもらえると最高です。

監督:McG
出演:キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リュー、デミ・ムーア、バーニー・マック、クリスピン・グローヴァー、ジョン・フォーサイス
20060114 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

チャーリーズ・エンジェル

 同名の人気TVシリーズを映画化して人気を博したアクション大作。監督は、GAPのCFなど映像業界で活躍するMcG(マックジー)。とにかくテンポのいいアクションが連続するお気楽っぷりが最高です。
 エンジェル達の健全なお色気も良いけれど、その敵役である”痩せ男”クリスピン・グローヴァーが格好良い。彼の活躍で映画全体が引き締まっているので、単純なアクション大作に留まっていません。ドラマとドラマの間にアクションを効率よくサンドイッチする構成は定番なんですが、それを逆手にとってこの映画ならではのリズムを生み出しています。どこかで見たようなスローモーション多用のアクションも、センスの良いカメラワークでカバー。重厚さのかけらもない演出なんですが、そのノリが映画のノーテンキな雰囲気に合っていました。

 総じて、「マトリックス」の登場を受けたハリウッド映画の、一つの回答のような映画だと感じました。CGやワイヤーアクションを多用しつつ、お笑いもお色気も適度に混ぜ込んで、誰もが楽しめる作品に仕上げています。例によって観たあとには何も残らないんですが、アクション映画でもちょっと見たいなあというときに最適な一本かと。

監督:McG
出演:キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リュー、ビル・マーレー、クリスピン・グローヴァー、ジョン・フォーサイス
20060113 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スポーン

 アメコミ界の人気作家トッド・マクファーレンによる原作コミックを、いわゆるアニメ世代出身のマーク・ディッペ監督で映画化。アメコミそのままな展開は短絡的でしたが、主人公スポーンの再現率は良かった。

 アクションだけなら楽しめるものの、観たあとに何も残らないのが宿命というか何というか。ストーリーのひねり具合もそこそこ良いんですが、世界の命運がかかってる割に話のスケールが小さくなったりして興ざめな部分もありました。予算の関係なのでしょうが、俳優に特徴ある人物がいないというのも辛い。明確なテーマもないので、暗いムードを貫こうとしているのに、どこか軽く感じてしまいました。
 それでもアクションは迫力があって楽しめますし、アメコミ世界の再現性という点では良く出来ていたと思います。何よりジョン・レグイザモが特殊メイクで演じるクラウンの存在感が良かった。ここまで印象的な悪役は、数多のアメコミものでも貴重なのでは。さらにCGで再現されたスポーンのマントも、躍動感に不気味さが加わって唸らされます。古いCGなのでテクスチャなどに粗さが残るのと、最後の見せ場で急に手抜き演出になるのが惜しいところですが、それを補う演出だったと思います。

 何だかんだで原作ファンには一見の価値はあるかと。映像の重さと主人公のキャラクターなど、もっと良くなる要素はあっただけに残念です。

監督:マーク・A・Z・ディッペ
原作:トッド・マクファーレン
出演:マイケル・ジェイ・ホワイト、ジョン・レグイザモ、マーティン・シーン
20060112 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ブレイド2

 ウェズリー・スナイプス主演の大ヒット作の続編が、「ミミック」のギレルモ・デル・トロ監督だと聞いたときはかなり期待したのですが、出来た映画はそこそこ、という印象でした。

 前作のトンデモ世界観はそのままに、さらに王道を行く第三勢力「リーパーズ」を加えて物語も深みを増すはずなのに、結果として人間世界と全くかけ離れた現実感のない話に終始するので、観ている内にどうでもよくなってしまいます。スカッド役のノーマン・リーダスも頑張ってるんですが、あまり報われていない感じでした。
 しかしこの映画の真骨頂はシナリオより美学にあります。わざわざ装着するサングラス、前作以上に動き回るカメラ、よりグロテスクになった造形など秀逸な要素も多く、こういう映画だと割り切ってしまえば楽しめる内容になっています。相変わらずツッコミどころは満載、さらに畳みかけるようなアクションは前作以上のボリュームなので、映画館で観る意味はあったかなー、と。

 ただ、次回作があるのなら、イメージチェンジのためにも脚本家は他の人にお願いしたいなあ……と思っていたら3作目では脚本家が監督まで担当してしまったので、一気にどうでも良くなってしまいました。残念。

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ウェズリー・スナイプス、クリス・クリストファーソン、ロン・パールマン、ノーマン・リーダス、ドニー・イェン
20060111 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ブレイド

 氾濫するアメコミ映画化モノの中では、地味ながらも成功したアクション作品。公開当時は迷って結局見に行かず、続編が公開されてから急いでDVDで観たんですが、これは劇場に行かなかったことを後悔しました。
 とにかく単純ヒーロー映画としては盛りだくさん、つっこみどころ満載の脚本もテンポは良く、大味ながらも魅せるアクションシーンで間を締めるという定番路線が突き詰められていて、それにカッコつけすぎの主演二人が見事にハマっているのです。映像やCGも粗が目立つものの、大胆なカメラワークは思わず息を呑むほどで、なかなか見応えがあります。何よりジワジワと盛り上がって、最後まで息切れしない物語が秀逸。アメコミらしくデフォルメされた世界観ですが、あまり深く考えずに楽しむことの出来るB級娯楽作品でした。

 ウェズリー・スナイプスとスティーヴン・ドーフは、どちらもダーク・ヒーローになりきっていて見応えがあります。スナイプス演じるブレイドというヴァンパイア・ハーフが黒人なのが、不思議と説得力がありました。ひたすらカッコイイ映画を期待する方にはオススメです。

監督:スティーヴン・ノリントン
原作:マーヴ・ウォルフマン、ジーン・コーラン
出演:ウェズリー・スナイプス、スティーヴン・ドーフ、クリス・クリストファーソン、ウド・キアー
20060110 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ダークシティ

 「クロウ/飛翔伝説」のアレックス・プロヤス監督によるSFスリラー。記憶喪失モノと管理社会モノのミックスという、いかにもB級映画なプロットですが、アレンジと世界観が不思議と魅力的でした。

 物語的にもビジュアル的にも、監督がやりたかったんだろうなーという要素がふんだんに盛り込まれていて、見応えは十分。デヴィッド・S・ゴイヤー脚本のコミック的な発想が不思議な世界観とマッチして、独特の魅力を放っていました。
 ただオーストラリア映画界出身の監督らしい大味な出来で(といっても監督はエジプト出身のギリシャ系ですが)、盛り込みすぎで全体感を失っていたり、セットの造りがひたすら薄っぺらかったり、なにより最後のサイキック合戦はどうなのよと色々ツッコみどころ満載。当たって砕けろ的なチャレンジ精神は評価できるものの、もうちょっと完成度が高ければと残念でした。役者では、心理学者役のキーファー・サザーランドの熱演は必見。ちょっと見ただけでは分からないほど、特殊な役になりきっていました。

 ともあれ、90年代のSF映画としては異色の一本。特に「ロスト・チルドレン」あたりの影響が如実ですが(台詞にも出てきますし)、そうと割り切って観るとなかなか楽しめます。SF的なトリックや説得力より、映像や雰囲気を楽しみたい方は、一度は観てみるのも良いのでは。

監督:アレックス・プロヤス
出演:ルーファス・シーウェル、キーファー・サザーランド、ジェニファー・コネリー、ウィリアム・ハート
20060109 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -