★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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逆噴射家族

 小林よしのり原案、石井聰亙監督によるバイオレンス・コメディ。日本人的な笑いと石井聰亙の演出という、あまりにミスマッチな組み合わせが何もかも打ち砕く、非常にパワフルな秀作です。
 小林克也を家長とする見るからに平均的な家庭が、あっという間に崩壊していく様がとにかく気持ち悪くて楽しい。ナンセンス・コメディとしてはある意味スタンダードな脚本なんですが、そこを極端にデフォルメし、過剰すぎるほどの演出で印象づける石井聰亙監督の手腕は流石。それに俳優陣も良い演技をしています。日常生活と、ストレスが表面化した後の壊れっぷりとの対比が出来ているので、それぞれに鬼気迫るものがありました。

 それにしても小林克也のお父さんは、ハマり過で黙っていても笑えますね。現代の家族問題を皮肉った作品とも取れますが、そんな小難しいことは考えずとも楽しめる、良質のブラック・コメディでした。

監督:石井聰亙
原案:小林よしのり
出演:小林克也、倍賞美津子、植木等、工藤夕貴、有薗芳記
20060211 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

双生児 -GEMINI-

 塚本晋也監督による、江戸川乱歩小説の映画化作品。この二人の相性は抜群ですね。乱歩世界の持つ独特の懊悩感が、映像に見事に現れていました。

 塚本監督の毒々しい映像センスが、乱歩のエログロな世界観を得て力強さを増しただけでなく、不思議とポップな印象すら残します。テーマに合わせて二面性にこだわったカットが多用され、観ている内に現実すら覚束なくなるような感じでした。眉無しメイクや北村道子による衣装など、ビジュアル面でのアプローチも見事。豪華なキャストも手伝って、塚本作品の中では非常に取っつきやすい内容に仕上がっています。
 出演陣では、やはり主演の本木雅弘の静と動を演じ分ける表情が際立っています。りょうのどこかバランスが崩れた美しさや、カメオ出演的に顔を出す豪華共演陣も、それぞれに良い味を出していました。

 全体を通して、テーマもビジュアルも完成度の高い、それでいて日本的な美意識に満ちた秀作でした。こういうエログロの世界こそ日本人の本質なんだから、その代名詞たる乱歩小説はいくらでも映像化して欲しいところです。
 ちなみに、DVDの特典映像を何故か三池崇史監督が撮影していました。塚本監督と三池監督って、仲良さそうですね。

監督:塚本晋也
原作:江戸川乱歩
出演:本木雅弘、りょう、筒井康隆、藤村志保、浅野忠信、竹中直人、麿赤児、石橋蓮司
20060208 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

エイリアン3

 CF界で活躍していたデヴィッド・フィンチャー監督の長編映画デビュー作であり、今でもファンの間からはいろいろと非難され続けれいるシリーズ第三作。でもこれ、僕は好きです。
 脚本が何回も書き直されたとかラストを撮り直したとか、試行錯誤の末に出来上がった作品だけあって映画自体も混乱を極めているものの、フィンチャー監督の荒削りながら突出したセンスを感じられる秀作だと思います。確かに物語の焦点が定まらないという欠点はありますが、宗教的でレトロフューチャーな設定やビジュアル、グロテスクかつ精神性にこだわる残酷描写などは、シリーズ中でも抜群の完成度。設定やキャラクターを描き切れていない観はありますが、映像の端々に表れる作り込みからは、刑務所惑星という空間の広がりも感じられます。エイリアンとリプリーの関係も語りすぎないところが丁度良い。ラストも、あれこそ英断と言いたいんですが……。

 エンターテインメントを求めて観れば確かに突っぱねられますが、一作目の精神を生かしつつ付加価値を与えることが出来た、正統な続編だと考えています。二作目が好きな人には否定派の多い映画ですが、二作目を受け入れられなかった人にはむしろオススメのホラーかと。

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:シガニー・ウィーヴァー、チャールズ・S・ダットン、ランス・ヘンリクセン
20060204 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

エイリアン

 リドリー・スコット監督によるSFホラー映画。宇宙船という密閉された空間設定と、エイリアンというクリーチャーの組み合わせが絶妙な傑作です。
 ”登場しないことで危機感を煽る”という演出を、これほど忠実に見せたのはこの映画が初めてなのでは。それまでのチープなクリーチャーホラーと一線を画すアイデアは、”エイリアンもの”と呼ばれるジャンルを作り出すほど画期的でした。監督を務めたリドリー・スコットは、デビュー作の「デュエリスト」でもそうでしたが、シンプルすぎるほどのストーリーを緊張感たっぷりに演出する技量は流石です。H・R・ギーガーによるエイリアンのデザインを始め、世紀末感溢れる美術設定も秀逸。

 後に無数の模倣作を生み出した作品ですが、オリジナル故のシンプルさと力強さは、これ以上のクリーチャー映画はもう出ないだろうと思わせるほど。昔の作品だと高をくくって観ていない人は、とりあえず速攻で観ましょう。

監督:リドリー・スコット
出演:トム・スケリット、シガニー・ウィーヴァー、ジョン・ハート、イアン・ホルム
20060202 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

スリング・ブレイド

 ビリー・ボブ・ソーントンが監督・脚本・主演の三役を務め、その名を一躍ハリウッドに知らしめた秀作。寓話的な物語なのに、不思議と説教臭さはありません。

 主人公カールは知的障害者という設定ですが、非常に軽度で普通に会話もでき、彼の発言がときに真実を言い当てているというのが良い。言ってしまえば典型的な”聖なる愚者”なんですが、殺人というファクターが、その古くさいテーマにリアリティを持たせ、単純なお涙頂戴モノで終わらせていません。
 俳優では、とにかくビリー・ボブ・ソーントンの存在感が圧倒的。少年役のルーカス・ブラックも達観した演技が似合っています。ソーントンの友人ばかりで固めたという脇役陣も、それぞれに良い演技で違和感ありませんでした。

 DVD特典でカールというキャラクターが生まれた理由が語られていますが、それがなかなか見応えがありました。あくまで創作のためではなく、自然にソーントン自身の中から発生した人格なので、物語にも説得力が生まれるのでしょう。泣ける映画ではありませんが、心に残る作品でした。

監督:ビリー・ボブ・ソーントン
出演:ビリー・ボブ・ソーントン、ルーカス・ブラック、ドワイト・ヨアカム、J・T・ウォルシュ、ジョン・リッター、ロバート・デュヴァル
20060201 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

狼たちの午後

 1972年に起きた銀行強盗事件を下敷きに、シドニー・ルメット監督が制作したサスペンス映画。うだるような夏の暑さが、70年代の持つ熱狂した空気を感じさせる傑作です。

 単純な銀行強盗事件に留まらず、民衆を扇動しFBIすら登場させる犯人達のカリスマ性が良い。どこまで実話に基づいているのかは不明ですが、この映画によって描かれた当時のアメリカ社会に内在する問題には戦慄すら覚えました。回想シーンやモノローグを一切使用しない演出も、物語の重厚さを引き立てています。あくまで銀行強盗の顛末を時系列に沿って描くことで、混乱した現場の空気がひしひしと伝わってきました。
 まだ若々しいアル・パチーノが、銀行強盗役を鬼気迫る見事な演技でこなしています。相棒役のジョン・カザールや、出番は少ないんですがクリス・サランドンなど、出演陣も見物。

 劇中で何度も叫ばれる「アティカ!」は、事件直前の'71年に起き、多数の犠牲者を出したアティカ刑務所の暴動事件を指しているそうです。この言葉に野次馬が増長する場面など、忘れがたいシーンが多々ありました。70年代を代表する作品の一つでしょう。

監督:シドニー・ルメット
原作:P・F・クルージ、トマス・ムーア
出演:アル・パチーノ、ジョン・カザール、チャールズ・ダーニング、ジェームズ・ブロデリック、クリス・サランドン
20060126 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ブラッドシンプル ザ・スリラー

 ジョエル&イーサン・コーエン兄弟の監督デビュー作を、本人達が再編集したもの。初監督作品とは思えないほど練り込まれたシナリオに思わず唸らされる、サスペンス映画の傑作です。

 コーエン兄弟の作品といえば”勘違いで運命が狂っていく人々の滑稽なほどの悲劇”を常にテーマにしていますが、第一作目にあたるこの作品の時点で、その特徴は遺憾なく発揮されているのに驚かされました。シナリオ自体はシンプルなハードボイルド・ミステリなのに、”すれ違い”によって次々と事態が悪化する様はかつてないほど絶妙。画面の端々まで張り巡らされたドラマが、ラストに近づくにつれて収束していく様には思わず息を呑みました。何となく観るとただの三文小説のような物語なんですが、それをここまで面白く出来るのは、この兄弟監督にしか出来ない芸当でしょう。
 オリジナル版は未見ですが、冒頭の解説以外はそれほど変わっていない様子。しかしその解説が妙な味を出しています。この本気だか冗談だか分からないあたりも、コーエン作品らしくて興味をそそられました。

 M・エメット・ウォルシュが、探偵役を不気味に演じていて印象的。撮影監督バリー・ソネンフェルドによる映像も秀逸で、”何かが潜んでいそうな闇”を巧みに描き出していました。ハードボイルド小説に少しでも魅力を感じるなら、ぜひ一度観て欲しい映画です。

監督:ジョエル・コーエン
出演:フランシス・マクドーマンド、ジョン・ゲッツ、ダン・ヘダヤ、M・エメット・ウォルシュ
20060120 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ロード・オブ・ウォー

 「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督が戦争映画を撮ったらどうなるか、という期待に見事に答えた作品。強烈な衝撃こそ無いものの、その嫌みのなさにかえって考えさせられる内容でした。

 月並みな表現ですが、ボディーブローのようにジワジワと効いてくるテーマが見事。武器商人を扱った映画自体、おそらくこの作品が初めてなんでしょうが、そのショッキングな題材をあくまでウィットで包んで否定も肯定もせずに提示しているバランス感覚が凄い。押しつけがましい主張はせずに、普通の人なら誰もが抱くような感情に自然に訴えかけているので、非常に説得力があります。あまりにシンプルな物語で、結論も新鮮さはなく物足りないぐらいですが、それを物足りないと感じてしまうことが恥ずかしいと思えるほどでした。
 ニコラス・ケイジの演技は流石。ジャレッド・レトがその弟というのはビジュアル的に無理がありそうでしたが、イノセントな感じが良く出ていて好感が持てました。イーサン・ホークやイアン・ホルムといった演技派の活躍も必見。ちなみに、某大佐の声はドナルド・サザーランドだそうです。

 ケイジの最後の台詞は、静かな主張ながら印象的。過去の悲劇を利用して感傷に訴えかけようという態度がミエミエの戦争映画が多い中で、これは現在進行形の問題をとらえつつ前向きなメッセージを提示している希有な作品でした。多くの人に観て欲しい映画ですが、地味なせいか全く売れないまま上映終了してしまったのが残念な限りです。

監督:アンドリュー・ニコル
出演:ニコラス・ケイジ、ジャレッド・レト、イーサン・ホーク、イアン・ホルム、ブリジット・モイナハン
20060119 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

殺し屋1

 山本英夫によるカルト・コミックを、多作で知られる三池崇史監督で映画化。とにかく映画全体に溢れるエネルギーが凄い。残酷描写が多いのに、それらをギリギリのところで制御しつつ笑いに変えているので、気持ち悪いとは感じませんでした。

 まず俳優の演技に唸らされます。主演の二人ももちろん素晴らしいんですが、それ以外の俳優のハマりっぷりも最高で、突飛な話に絶妙なリアリティを与えていました。ヤクザ映画出身の三池監督ならではの人選もニヤリとさせられます。それに原作と異なりつつも、映画的なインパクトと寂寥感に溢れたラストが圧巻。原作に対する三池監督なりの解釈の仕方なのでしょうか。原作にあるような切実なドラマはこの映画からは端折られていますが、このラストがあることで、また違った深みを物語から感じることが出来ました。
 実は映画を観てから原作を読んだんですが、これはどっちが先でもイメージを崩されることはなさそう。映画のアレンジの仕方が上手いのでしょう。ここまで原作のイメージを尊重した映画化作品というのは、初めて見たように思います。

 浅野忠信のキレっぷりは流石。 北村道子の衣装も必見です。それと、原作者と撮影監督は同姓同名の別人だとか。珍しいこともあるものです。ともあれ、原作ファンだけでなく、バイオレンス映画ファンには必見の一作です。

監督:三池崇史
原作:山本英夫
出演:大森南朋、浅野忠信、エイリアン・サン、SABU、松尾スズキ、塚本晋也、KEE、國村隼、寺島進
20060118 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

処刑人

 新人監督トロイ・ダフィーによる痛快アクション。頭の悪い物語と、ただ銃を撃ちまくるだけのアクションは好き嫌いが分かれそうですが、アメコミ・ヒーロー的な単純明快さが楽しめる快作でした。

 主人公二人の絵に描いたような兄弟コンビっぷりも、それを追う刑事役ウィレム・デフォーのありえなさも、突き抜けていて笑えます。デフォーの解説がかぶるアクションシーンは、映像自体がありきたりなスローモーションなのについつい引き寄せられてしまいました。啖呵の切り方や最後の法廷シーンなども適度に軽く、ヒーローものらしいケレンが満載。何より映画の殆どが銃撃戦で構成されているので、見終わったあとの満足感が違います。深いことは考えずに楽しむには最適なアクション映画でした。
 俳優ではやはりウィレム・デフォーの不気味さが見物。出てくるたびに笑わせてくれるのに、頼りにできそうな雰囲気は流石です。あとは、イタリアン・マフィアのボスがTV版「ニキータ」などに出演していたカルロ・ロタで驚きました。この人のお茶目な感じも好きです。

 非常に痛快な映画なんですが、時を同じくして起きたコロンバイン高校銃乱射事件との類似性のため、米国でも日本でも限定公開という憂き目にあったそうです。監督と脚本を兼ねるというハリウッド・ドリームを体現しながら、それが一夜で水泡に帰したトロイ・ダフィー監督とこの映画の舞台裏については "Overnight" というドキュメンタリーも制作されていました。監督には映画制作に復帰してもらいたいところですが、ちょっと難しそうですね……。

監督:ウィレム・デフォー
出演:ショーン・パトリック・フラナリー、ノーマン・リーダス、ウィレム・デフォー、デヴィッド・デラ・ロッコ
20060117 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -