★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
詳細な評価基準についてはこちら

バスケットボール・ダイアリーズ

 ジム・キャロルの原作を元に、ニューヨーク下町に住む少年の荒んだ日々を描いた青春映画。レオナルド・ディカプリオの演技力が見所。
 原作者の実体験を反映させたという物語は、かなりショッキングで重みがあります。あまり目立ちませんが凝った演出もあり、青春ドラマとして説得力を感じました。そして、物語を一層引き立てているのがディカプリオの存在。ちょっとクサい演技なんですが、ドラッグにはまるところとか独白のシーンなど、ついつい引き込まれる熱演です。あまりの力の入れように、他の登場人物との差が開きすぎてしまったのが残念と言えば残念。それだけにディカプリオのファンにはたまらない内容でしょう。

 ドラッグの恐怖と、そこからの克服を丁寧に描いているあたりは好感が持てました。今観るとさすがに古い映画だと感じるものの、ドラッグ映画として外せない一本なのでは。

監督:スコット・カルヴァート
原作:ジム・キャロル
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブルーノ・カービイ、ロレイン・ブラッコ、マーク・ウォルバーグ、ジュリエット・ルイス
20060417 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

トラフィック

 スティーヴン・ソダバーグ監督がアカデミー監督賞を受賞するなど、デビュー以来久々に話題を振りまいた犯罪ドラマ。これだけの密度をよく詰め込んだなーとは思いますが、ちょっと詰め込みすぎ。
 麻薬組織の暗躍や、それに対する政府の対策、一般人の反応、担当警官の苦悩など、かなり多くの要素が映画の中に閉じこめられていているものの、それらが現実をスナップしたかのように断片的に描かれるため、映画にはまとまりがありません。彼らの直面する現実が複雑なことは分かりますが、それらが映画の中で効果的に描かれているとは思えませんでした。リアリズムと言われれば頷くしかないんですが、問題提起を目的とする映画としては突き放し過ぎなのでは。結局、分かり易いベニチオ・デル・トロ演じるメキシコの警官の格好良さや、マイケル・ダグラスの相変わらずのお父さん振りに目が行ってしまいました。

 設定された背景の精密さや俳優の演技は、どれをとっても一級品。ソダバーグ自身の手によるカメラワークも、地域ごとに画質を変えるといった努力の甲斐あってか、効果的な画面が作れていると感じました。あとは、どうせフィクションなんだから大胆な映画的翻案があればなあ、と。

監督:スティーヴン・ソダバーグ
原作:サイモン・ムーア
出演:マイケル・ダグラス、ベニチオ・デル・トロ、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ、ドン・チードル、ルイス・ガスマン、デニス・クエイド、ジェイコブ・ヴァーガス
20060416 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

バウンド

 「暗殺者」の脚本家であるウォシャウスキー兄弟の、衝撃的な監督デビュー作。ジャンル自体はありきたりなフィルム・ノワールなんですが、そう言い切ってしまうのが惜しいぐらい斬新な作品でした。
 相棒モノの主人公を女性に置き換えただけで、ここまで手に汗握る展開になるとは思いませんでした。相手がいつ裏切るか分からない緊迫感や、男性に対する体力的な弱さという女性ならではの要素を巧みに組み込んだシナリオが絶妙。かなりトリッキーなカメラワークも当を得た使われ方で、場面を盛り上げるのに一役買っています。特に“白ペンキ”の描き方は、よくぞそこにカメラを置いたと唸ってしまいました。主演二人の艶っぽい演技や、ジョー・パントリアーノのダメなマフィアっぷりなどもケレンたっぷり。あまりに各要素の出来が良いので、服のセンスが悪いのなんて気になりませんでした。

 スパッと切り上げるラストも鮮やかで、見終わってからの爽快感は極上です。エンディング以降を色々想像したくなる、典型的な良い映画ですね。サスペンス映画が好きなら、是非。

監督:アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー
出演:ジーナ・ガーション、ジェニファー・ティリー、ジョー・パントリアーノ
20060415 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

天国の日々

 テレンス・マリック監督による、今世紀初頭のアメリカ農村地帯が舞台のドラマ。映画全体としては時代を感じさせるものですが、撮影がひたすら見事。
 演出も俳優もそれほどではなく、アメリカの原風景を活写するだけのこの映画が高い評価を得られたのは、やはり撮影監督ネストール・アルメンドロスに依るところが大きいでしょう。殆どのシーンを、わざわざ早朝と夕方の赤く焼けた光線だけを選んで撮影したという、前代未聞の映像に対するこだわりが映画全体の完成度を底上げしていて、何でもないシーンですら印象派の絵画のような美しさでした。ましてや四季折々の農場が見せる表情は、どんな脚本よりも感動的で説得力があります。「20世紀最高の映像」と評されるのも納得。

 リチャード・ギアのステレオタイプなダメ男っぷりが気に入らなかったので、夕陽とサム・シェパードばかり見ていました。すぐカッとなって相手に掴みかかっていくことが格好いいことだとでも思っているんだろうか…。ただ映像のためだけにでも、観る価値のある作品です。

監督:テレンス・マリック
出演:リチャード・ギア、リンダ・マンズ、サム・シェパード、ブルック・アダムス
20060414 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

月のひつじ

 小さな田舎町の大きなパラボラアンテナに関する実話を元にした、ロブ・シッチ監督によるオーストラリア映画。じっくり観せるタイプの、そつのない良作でした。

 独特の空気を持ったオーストラリア映画の中では、これは比較的控えめな作品。全体にありがちなプロットですが、人物を絞るなど脚色の仕方がなかなか秀逸で、地味ながら最後まで飽きさせません。大使が来ちゃってるのに次々起こる騒動などにはハラハラさせられるものの、宇宙開発とローカル精神という組み合わせがほのぼのしていて、そこはかとなく笑えます。これもオーストラリアならではの雰囲気なのでしょう。文部省推薦という言葉が良い意味で似合いそうな“いい話”でした。
 警備員役のテイラー・ケインが格好良かったなー。サム・ニールのオジサンぶりも安定感がありますね。良い映画。

監督:ロブ・シッチ
出演:サム・ニール、ケヴィン・ハリントン、トム・ロング、パトリック・ウォーバートン、テイラー・ケイン
20060413 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

 僅か18歳の大学生による原作小説を映画化した、ニック・ハム監督によるサスペンス・ホラー。見終わった当初はラストに納得できずに困惑したのですが、考えるうちに侮れない物語なのだと思い直しました。

 とにかく主人公リズの屈折した思考が面白く、その微妙な心の動きを演じきるソーラ・バーチに驚かされます。シナリオはかなりブラックで、その中で最後まで現実感を持とうとしない主人公の“浮きっぷり”がやけにリアル。事件をショッキングに扱うことなく、それが起きてしまった状況を当事者の視点で綿密に描いているのも、リズが決して“異常者”ではなく、一般人である観客も何かのきっかけでリズのような行動を起こすかもしれない(もしくは、そういう行動を起こしてもリズのように平然としていられる)という主張なのでしょう。
 部分部分でおかしな演出があるので、そこまで監督が考えていたのかどうかは疑問ですが、少なくともリズを演じたソーラ・バーチからはそういう主張が汲み取れて、見終わってからゾッとしました。あのリズの笑顔が、今でも記憶の奥底にこびりついています。

 状況に応じてセットを作り替えるなど、美術もなかなかの凝りよう。映像的に格好付けすぎの印象もありますが、適度に刺激的で、映画の質には合ってるかと。特に最後の方の、闇を感じさせる「怖い」演出は絶妙。サスペンスとしてよりは、ダークな青春映画として楽しめるかと。

監督:ニック・ハム
原作:ガイ・バート
出演:ソーラ・バーチ、デズモンド・ハリントン、ダニエル・ブロックルバンク、エンベス・デイヴィッツ、キーラ・ナイトレイ
20060412 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

デカローグ

 ポーランドの巨匠クシシュトフ・キェシロフスキによる、「愛」に関する十編のドラマ。静かな演出ながら感情を強く揺さぶられる、文句なしの傑作です。

 それぞれ一時間という短さながら、現代の十戒とも言うべき荘厳で奥深い物語の数々に、観ていて何度も泣けてしまいました。シナリオはどれも単純で、演出も単調すぎるぐらいなのにここまで感動できてしまうのは、とにかく監督の視点の正直さにあると思います。なんでもないドラマだって、実際に自分の身に降りかかってみれば一大事なわけで、それを俳優の微妙な表情と、長尺でたゆたうようなカメラワークだけで表現してしまうセンスには、ただただ感服の一言しかありません。
 どれも最高の作品なんですが、その中でも「第1話:ある運命に関する物語」「第5話:ある殺人に関する物語」は特にお気に入り。各話の登場人物が他の物語にちょっとずつ顔を出したり、ほぼ全ての物語に顔を出す謎の男(おそらくは“神の存在”の暗喩)など、細かい部分の作り込みも秀逸。ちなみに、第5話と第6話はそれぞれ再編集され「殺人に関する短いフィルム」「愛に関する短いフィルム」として劇場公開されています。

 「これさえ観なければ、他の映画がもっと楽しめたのに」という映画は誰しも何本かはあると思いますが、僕にとってはまさにその筆頭ともいうべき映画。どんなエキセントリックな物語よりも心に突き刺さる”平凡なドラマ”です。必見。

監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
出演:アレクサンデル・バルディーニ、クリスティナ・ヤンダ、ダニエル・オルブリフスキ、アドリアンナ・ビェジェインスカ
20060411 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

千と千尋の神隠し

 宮崎駿監督による長編アニメ。画面いっぱいにお伽話の世界が展開されるものの、心の底から楽しめるわけではない、微妙な作品でした。

 ファンタジーとしてのギミックはそれぞれ面白い。純和風のアニミズム的神話世界を背景に、次々飛び出す異様なキャラクターはどれも愛嬌があって笑わせてくれます。ただ、その個々のキャラクターから監督の主張が滲み出ているのに気を取られて、物語に入り込めませんでした。実写のように余計なノイズが混ざる場合は構わないんでしょうが、アニメのしかも長編でやられると遊びが無くて疲れるだけ。テーマが伝わってくるかどうかより、それが映画を面白くしているかどうか大事だと思うので、この作品に関してはやっぱり「つまらない」の一言で片付けたいと思います。
 今作から本格導入されたデジタルペイントは、ムラが無いせいで深みもありません。背景美術も、男鹿和雄が手がけた冒頭と最後のパート以外は、どうしても見劣りがします。でも声は良かった。特に湯婆婆役の夏木マリは貫禄です。

 どうも、近年の宮崎アニメは子供ではなく「子供を連れて観に来ている親(監督にとっては“子供”世代)」を相手にしているようで、その辺がクドクドした語り口の原因なのでは。小言はなるべく堪えて小出しにしないと、伝わるものも伝わりません。

監督:宮崎駿
出演:柊瑠美、入野自由、夏木マリ、内藤剛志、沢口靖子、上條恒彦、小野武彦、我修院達也、菅原文太、神木隆之介
20060410 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

もののけ姫

 「紅の豚」以来5年ぶりとなる宮崎駿の監督作。アニメーションのレベルは上がったのもの、考えすぎで尻切れトンボに見えました。
 相変わらずアニメの質は高く、特に自然物中心の背景はため息もの。試験的に導入されたデジタル処理もそれほど違和感はありません。そして物語はいつになく重厚。過去の作品で自然を賛美しすぎたことへの反省があるせいで、この作品では特に真摯な問題提起を行っています。これらが上手くハマっていればよかったんでしょうが、監督の自問自答はあくまで現実的な結論に落ち着いてしまって、ここまで壮大なファンタジーを媒介させる必要は感じられませんでした。

 「ジブリ映画の観客」にこういう映画を見せたかったんだろうとは思いますが、こんな複雑なテーマの作品は他の映画に任せて、ジブリにはジブリにしか出来ない作品を撮って欲しいと思うだけに納得できません。少なくとも、子供が観て楽しむ作品じゃないよなあ、と。

監督:宮崎駿
出演:松田洋治、石田ゆり子、田中裕子、小林薫、西村雅彦、上條恒彦、島本須美、美輪明宏、森繁久彌、森光子
20060409 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

魔女の宅急便

 角野栄子による人気児童文学を、宮崎駿率いるスタジオジブリがアニメ映画化。これまでの宮崎作品に比べると対象年齢が高めの、おっとりとしたファンタジーに仕上がっています。
 最初に観たときは良さが分からなかったんですが、大学生のころだかに観て、なかなか深いドラマに驚かされました。多感な年頃の少女の葛藤と、魔女の修行とが巧みに絡められたドラマはなかなか説得力があります。ウジウジ悩む話は嫌いなんですが、画家ウルスラのエピソードなどで方向性を示す分かりやすい展開でむしろウィットを感じました。アニメとしての作画なども秀逸で、主にストックホルムをモデルにした街のデザインはジブリ作品のなかでも屈指の美しさ。あと、ユーミンの曲を主題歌に使ったのも印象的です。

 最後の飛行船のシーンだけは無理矢理エンタテイメントさせた観がありますが、それでも宮崎作品らしい飛行シーンが楽しめるのは嬉しいところ。胸躍る冒険譚というより、じわりと心に染みるドラマです。

監督:宮崎駿
原作:角野栄子
出演:高山みなみ、佐久間レイ、戸田恵子、山口勝平、加藤治子、関弘子、井上喜久子、山寺宏一、西村知道
20060408 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -