★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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プラネット・テラーinグラインドハウス

 タランティーノ&ロドリゲスがかつての“グラインドハウス”映画にオマージュを捧げた二本立て作品のうち、ロドリゲスの監督したスプラッタ映画を、独立した作品として再編集した完全版。いつにも増してやりたい放題の作品でした。
 監督・脚本・撮影・編集、ついでに制作まで担当したロドリゲスのセンスが爆発。とても105分という尺に収まりそうにない盛り沢山のプロットを無理矢理押し込め、VSFXもふんだんに使ってぐちゃぐちゃのスプラッタ世界をこれでもかと展開しています。ストーリーはいかにもB級映画らしいいいかげんさが再現されており、突っ込みどころ満載。格好つけすぎて格好悪くなるあたりも最高で、こういう悪ふざけ映画は大好きです。

 頑張り過ぎちゃってとてもB級映画には見えないところが残念。息切れしない程度に気の抜けた感じが欲しかった。しかし単純バカ映画としては的を射た内容でした。こういう映画が増えて欲しいと本気で思います。

監督:ロバート・ロドリゲス
出演:ローズ・マッゴーワン、フレディ・ロドリゲス、ブルース・ウィリス、ジョシュ・ブローリン、マーリー・シェルトン、マイケル・ビーン、クエンティン・タランティーノ
20081025 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

スキヤキ・ウェスタン・ジャンゴ

 三池崇史監督が満を持して制作した、全編英語、オールスターキャストによる“スキヤキ・ウェスタン”。マカロニ・ウェスタンへの愛がごった煮にされた、まさにスキヤキのような作品でした。
 実は西部劇というものに造詣がないのでいつも困るんですが、この作品は珍しくそこそこ楽しめました。ドラマが中盤でダレるあたりは過去の三池作品通り。しかし単純にアクションを楽しませる力強さは流石です。村ひとつをまるまる作り出した美術も良い。そして、ジャンルに無知な人間から見ても、マカロニ・ウェスタンへの愛はひしひしと感じられました。タランティーノ映画のような精神性ですね。この何でもアリの世界観が楽しめるかどうかで評価が大きく分かれそうです。

 伊勢谷友介と木村佳乃の英語が上手いなあと思っていたら、二人とも海外生活経験があるとのこと。逆に佐藤浩市や香川照之は焦点を絞れずに苦労していた感じ。あと、いつもこの監督の音楽は素晴らしいと思うんですが、今作の主題歌も最高でした。北島三郎は日本最高のソウル・シンガーですね。

監督:三池崇史
出演:伊藤英明、伊勢谷友介、佐藤浩市、安藤政信、堺雅人、石橋貴明、木村佳乃、桃井かおり、香川照之、小栗旬、クエンティン・タランティーノ
20081022 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

オーシャンズ13

 スティーヴン・ソダーバーグ監督による、大ヒットシリーズ第三弾。今回は、エンタテイメントに徹した一作目と、アイドル映画を目指した二作目のいいとこ取りを狙った内容でした。

 ご都合主義ながらも精巧に練られた脚本や、豪華キャストはそのまま。今回新たにアル・パチーノとエレン・バーキンを加えて賑やかさを増していますが、物語自体が中盤でもたついてしまいました。大オチに向けて伏線を張りまくった反面、その間に大きな事件がないのが一因。それをごまかすためのジョークも笑えるのですが、かえって物語を見失うことに。結局どっちつかずに終わってしまった印象です。
 でも、俳優が嬉々として演じているのは相変わらず良かった。特にエレン・バーキンのはっちゃけ方は凄いです。マット・デイモンは今回もやらかしてくれますし、アンディ・ガルシアもどんどん可愛くなるし、クルーニー&ピットはもう恋人みたいな仲の良さ。肝心のアル・パチーノがいつも通りで終わっちゃったのだけが残念です。

 余談ですが、相撲や日本酒といった日本文化がそこここで登場して、こそばゆい気分になりました。一作目でもアンディ・ガルシアが日本語で挨拶してたなー。ともあれ、売り上げ至上主義のハリウッドにあって、こういういかにも豪華な企画が成立するというのは映画ファンとしては素直に嬉しいところです。あとは映画の出来が良ければ最高なんですが…。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、アンディ・ガルシア、アル・パチーノ、エレン・バーキン、ドン・チードル
20081019 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

接吻

 現代日本の焦燥感を描ける数少ない監督として一部に人気の万田邦敏による、異色の恋愛映画。やりたいことは分かるんですが、脚本が分裂気味。

 細かい矛盾は映画の本筋とは関係ないので目を瞑るとしても、肝心の“接吻”の意味が分からない。解説やインタビューでは“理屈ではなく感情的なもの”と解説されていたので、感情で理解できなかった僕には評価しかねます。本編中には他にも良いシーンはあるものの、どこか型にはめようとして、映画自体の流れがおかしくなっている印象を覚えました。
 しばらく考えて出た結論は、この映画は仲村トオル視点で成り立っている話なんだということ。彼の主観であればある程度納得のいく話なんですが、カメラワークで小池栄子の主観を演出してしまったため、映画が空回りしているのではないかと。ここで食い違ってしまったので、理屈と感情がちぐはぐになってしまったのだと思います。

 冒頭の、殺人に至るまでのシーンは凄い。ここだけ巧いなーと思ったら、ここだけ監督自身の脚本なんですね。いっそ全部監督が脚本してくれれば良かったのに、と思ってしまいました。

監督:万田邦敏
出演:小池栄子、豊川悦司、仲村トオル、篠田三郎
20081015 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

モモ

 ドイツを代表する児童文学作家ミヒャエル・エンデによる原作を西ドイツ/イタリアの共同制作で映画化したファンタジー作品。原作の持つ雰囲気を丁寧に再現した映画になりました。

 子供時代に観たときは、とにかく「時間泥棒」たちの雰囲気が怖く、またモモとその周辺の人間関係の暖かさと独特のファンタジー表現にひたすら目を丸くして見入っていました。
 大人になって改めて観てみると、セット撮影の限界や原作のエピソードの省略など、小さくまとまってしまった点が気になりましたが、それでもファンタジー作品としては充分及第点の印象です。特に原作の哲学的な台詞回しを適度に抽出し、ストーリーに深みを持たせた脚本はいかにもドイツ映画らしく、今でも考えさせられる内容でした。

 何よりモモを演じたラドスト・ボーケルが非常にハマっていて、自分もモモの前に座って心を開いているような気持ちになれます。原作ファンならずとも心温まるファンタジーで、特に子供時代にこれを観られた自分は幸せだと思いました。

監督:ヨハネス・シャーフ
原作:ミヒャエル・エンデ
出演:ラドスト・ボーケル、ジョン・ヒューストン、ブルーノ・ストリ、レオポルド・トリエステ、マリオ・アドルフ
20081010 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

サンシャイン2057

 すっかりハリウッド色が強くなったダニー・ボイル監督によるSFサスペンス。ストーリーより映像に力が入っちゃうあたりも相変わらずでした。

 SFというのは科学的かつ哲学的な骨子が重要である点でファンタジーやホラーとは一線を画していると思うのですが、この映画は極限状態のみに焦点を絞っていて、科学的な意味でのカタルシスが脇役になっています。それを良しとするかどうかで評価が分かれそうですが、僕は不満でした。ラスト付近のアプローチは面白いものの、その背後に哲学性が感じられないのは、過去の名作をなぞることにに力を注ぎすぎたからかもしれません。
 俳優では、「28日後…」から続いて出演のキリアン・マーフィーが期待に違わずフェロモンをふりまいていましたが、映画としてはかみ合っていないような。唯一良かったのは映像。宇宙空間の広大さと崇高さをここまでリアルに描いた作品は、近年珍しいのではないでしょうか。

 7年前に消息を絶った宇宙船という設定から「クライシス2050」を連想する方も多いのでは。図らずもこの映画は、それと似た印象ばかり覚えました。

監督:ダニー・ボイル
出演:キリアン・マーフィ、ミシェル・ヨー、クリス・エヴァンス、真田広之
20081007 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

クロウ/飛翔伝説

 ジェームズ・オバーによるカルト・コミックを、エジプト出身・オーストラリア育ちというアレックス・プロヤス監督で映画化したダーク・ヒーローもの。主演のブランドン・リーが撮影中に死亡するという事故があったものの、未撮影分が数カットだったこともあって映画化にこぎ着けられたといういわくつきの作品です。
 カラスの目を通して描かれたかのような不安定な視点のカメラワーク、全編に流れるオルタナティヴ・ロックなどが、原作通りのダークな世界観とマッチしています。主演のブランドン・リーの狂気に満ちた演技もいい。ただ、元々のストーリーがロマンチシズムに沈みすぎて救いがないのが辛い。主人公の悲劇を描くには話が軽すぎ、そのわりに人だけがバタバタ死んでいくのはあまり情緒があるとは言えません。

 ブランドン・リーは、今後が期待できる俳優だっただけに非常に残念でした。たまたま原作を読む機会があったんですが、こちらもなかなか面白いので、映画を気に入った方は原作も是非。

監督:アレックス・プロヤス
原作:ジェームズ・オバー
出演:ブランドン・リー、アーニー・ハドソン、マイケル・ウィンコット
20081004 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

インディ・ジョーンズ/クリスタルスカルの王国

 大人気シリーズの、実に19年振りとなる続編。まるで時代を逆行するかのような古き良き映画作りと、最新のVSFXが融合したジェットコースター・ムービーとして、なかなか楽しめる内容でした。
 なにしろ、冒頭からたたみ掛けるアクションが凄い。銃撃戦にカーチェイスに秘境トラップと、ありとあらゆる要素を満載しつつ他の映画には出来ない安定感で楽しませてくれます。2時間の上映時間中、退屈する瞬間は皆無でした。映像がやたらきれいだと思ったら、やはり撮影はヤヌス・カミンスキー。ハリソン・フォードの老いてなお元気なアクションや、カレン・アレンの再登場などシリーズのファンにも嬉しい部分も多かった。あのオチはさすがにどうかと思いますが、これはもうルーカスの病気ぐらいに思って諦めるしかないですね。

 見終わった次の瞬間には全てのストーリーをものの見事に忘れていましたが、それこそまさに80年代のハリウッド映画! 些事に頓着せずやりたいことをやったルーカス&スピルバーグに感謝、です。

監督:スティーヴン・スピルバーグ
原案:ジョージ・ルーカス、ジェフ・ナサンソン
出演:ハリソン・フォード、シャイア・ラブーフ、ケイト・ブランシェット、レイ・ウィンストン、カレン・アレン、ジョン・ハート、ジム・ブロードベント
20081002 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

銀河ヒッチハイク・ガイド

 イギリスのカルトSFコメディ小説の映画化作品。いかにもイギリス的な皮肉が楽しめるものの、映画としては若干まとまりにかける印象でした。

 壮大なのにどこか生活臭の漂う設定や不条理ギャグは、イギリスのコメディ好きにはたまらない内容ですが、全体に駆け足のストーリー展開のせいでメリハリが効いていない印象。オチが用意されている脚本なのでそこまで辿り着きたかったんでしょうが、ドタバタ珍道中だけでも充分楽しめるので、いっそオチは次回作に持ち越しても良かったのでは。
 声だけ出演のアラン・リックマンをはじめ、モス・デフやビル・ナイなど良い演技をする俳優を集めたのは良かった。画面の作り方も巧みで、CGもそこそこ馴染んでいただけに、109分で終わらせるのは勿体ない感じでした。1981年にテレビシリーズ化されているそうですが、そちらも気になります。

 ともあれ、冒頭のイルカの歌などブリティッシュ・コメディならではのブラックな笑いはふんだんに用意されているので、そちらを期待している方は楽しめるのでは。個人的にはアラン・リックマンの声だけでノックアウトでした。この人、意外とSF似合いますよね…… 。

監督:ガース・ジェニングス
原作:ダグラス・アダムス
出演:マーティン・フリーマン、モス・デフ、サム・ロックウェル、ズーイー・デシャネル、ケリー・マクドナルド、ビル・ナイ、ジョン・マルコヴィッチ、アラン・リックマン
20080930 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!

 「ショーン・オブ・ザ・デッド」でゾンビ映画マニアをうならせた新鋭エドガー・ライト&サイモン・ペッグによる長編第二作。今度は刑事映画のパロディを中心にはっちゃけています。
 「バッドボーイズ2バッド」「ドミノ」といった比較的最近のハリウッド映画の演出を用いて、どうでもいいシーンを過剰に盛り上げる悪ノリは面白いものの、終盤に至るまでそれ以外に物語を引き締める要素がないというのが辛い。その分、ラストではきっちり楽しませてくれるし、複線の絡め方なども上手いんですが、逆に上手くまとめすぎてしまってパンチが足りない印象です。俳優もなかなか豪華に使っていますし、何より主演コンビは出てくるだけで面白いんですが、これらもあまり生かし切れていない感じ。期待値が高かったこともあってか、もう一つ消化不良な作品になってしまいました。

 それでもコメディ映画としては普通に楽しめます。何より90年代のハリウッド映画を、タランティーノ監督のようにコラージュさせた演出の巧みさは見所。次はもっとセンスを爆発させた映画に期待です。

監督:エドガー・ライト
出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、ジム・ブロードベント、パディ・コンシダイン、ティモシー・ダルトン、ビル・ナイ
20080928 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -