★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ガタカ

 脚本家としても活躍するアンドリュー・ニコルの監督デビュー作にして、SF映画史に残る傑作と誰もが口を揃える名作中の名作。遺伝子工学というSF的なフィーチャーを物語に巧みに盛り込みつつ、あくまで感動的なドラマに仕上げています。

 ここまでSFっぽいSF作品は映画界では珍しいほどなのに、ある青年の友情を描いた青春映画という爽やかさまで兼ね備えた物語が最高。映像や音楽も綺麗ですが、それすらこの映画を構成する要素の一つに過ぎない、と思えるほど。脚本が良く、そして演出も落ち着いていて物語をじっくり楽しめる、というだけで十分です。事実だけをさりげなく画面の一部に覗かせて、観客に推理させる画面作りにはただ驚嘆させられました。デザイン面でも、アルマーニの衣装やバルセロナチェアといった有名どころを採用しつつ、全体にモダンな雰囲気でまとめられていて好感が持てます。
 ちなみに、宇宙センターのロケ現場となった建築は建築家フランク・ロイド・ライトの作品 "Marine County Civic Center" です。流線型が印象的な吹き抜けから見える宇宙船の船影が、どんな台詞よりもこの物語の本質を上手く表現していると思いました。

 イーサン・ホークやジュード・ロウといったインディーズ系の人気俳優が主演なので敬遠しがちですが、騙されたと思ってまずは観て下さい。もちろん二人のファンには絶対にお薦めの作品です。

監督:アンドリュー・ニコル
出演:イーサン・ホーク、ユマ・サーマン、ジュード・ロウ、アラン・アーキン、アーネスト・ボーグナイン
20051229 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

コンタクト

 90年代のハリウッドSF映画の中では出色といえる、ロバート・ゼメキス監督のSF映画。原作は、NASA出身のカール・セーガンによるベストセラー小説。真摯なドラマが感動的で、現代SF映画のお手本のような作品です。

 自由自在に動き回るカメラや、情緒溢れるSFX描写もなかなかの見所ですが、むしろ”宇宙人”からのコンタクトに対する”地球人”の反応がリアルで怖いほどでした。ジョディ・フォスター演じる主人公の天文学者と、彼女の功績を横取りしようとする人々、政府機関の対応など、現実的な展開があるから終盤の展開にも重みが出てくるのだと思います。数々の名台詞や宇宙人からのメッセージの”らしさ”もSFとしての説得力を高めていました。
 役者としては、準主役を演じたマシュー・マコノヒーが性別を越えた魅力を発揮していたことと、主人公の父親役のデヴィッド・モースがこれまた包容力のある父親役をうまく演じていたのが良かった。特にマコノヒーは他の映画での役どころが陳腐なだけに、その変わりように驚かされました。フォスターと並んだときの絵面も良いですし。

 科学的なアプローチもさることながら、人間の描写にも長けた良質のSFでした。この明日にでも現実に起こりそうな設定を、軽くなりすぎない程度にドラマティックに演出したゼメキス監督の実力のほどが窺い知れます。原作者のカール・セーガン氏は完成を待つことなく亡くなってしまいましたが、代わりにこの作品が、新たなSFファンを多く生み出すことでしょう。

監督:ロバート・ゼメキス
監督:カール・セーガン
出演:ジョディ・フォスター、マシュー・マコノヒー、デヴィッド・モース、ジョン・ハート、ジェームズ・ウッズ
20051228 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

メトロポリス

 映画黎明期の巨匠フリッツ・ラングによる、SF映画の金字塔。無声映画時代の作品なので、現代のエンタテイメント作品に比べれば見劣りはするものの、未だに様々な模倣を生み出すほど魅力的なビジュアルと世界観は、映画好きなら避けては通れないものです。
 資本家と労働者の対比がそのまま場所の違いとして描かれた世界設定が秀逸。高架が何本も渡された未来都市の清潔さと、地下の巨大機械の悪魔的なデザインの対比は印象的です。ロボットというSF的な要素が反乱の動機付けになる、現代に通じる感覚も凄い。それだけに、物語が終盤で失速するのが残念でした。まあ当時ドイツではナチスが台頭しつつあったので、仕方のないところではあります。どのみち落としどころの難しい話ですし、SFの可能性を広げただけでも功績といえるのでしょう。

 84年には、音楽を乗せ、フィルムに着色を施したバージョンが公開されていますが、やはりオリジナルのモノクロ・サイレントの方が趣があります。まさにSF映画の原点と言える作品。

監督:フリッツ・ラング
出演:アルフレート・アーベル、ブリギッテ・ヘルム、グスタフ・フレーリッヒ
20051227 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ストーカー

 旧ソ連の巨匠、アンドレイ・タルコフスキーの代表作の一つ。突如出現した”ゾーン”と呼ばれる空間と、そこに忍び込む人々を描いたSFサスペンスの傑作です。

 プロット自体はシンプルですが、160分という時間をかけてじっくりと描き出されているために、物語はこれ以上ないほど厚みがあります。宗教的であったり観念的であったりする登場人物の思想も、最後には一つのテーマへと昇華していて、非常に手応えのある物語でした。モノクロとカラーの映像を場面によって切り替えたり、ゾーンの驚異を具体的な何かでなく自然現象の一つになぞらえて描くなど、表現技法にも独特の説得力があります。
 SFやファンタジーなど非現実を舞台にした物語は、その舞台設定に対する必然性がないと興ざめしがちです。この映画も、あらすじを聞いた時点では”ゾーン”という舞台設定からしてチープに思えましたが、観終わるころにはその哲学性に惚れ込んでしまいました。象徴主義や観念論などを駆使し、映像と台詞でテーマをこねくり回す様は圧巻です。

 極力エンタテイメント性を廃した作品なので注意。全力で映画の表現したいことを考えながら観ないと取り残されてしまいますが、それだけ哲学的SF映画の懐しみに満ちた名作でした。

監督:アンドレイ・タルコフスキー
原作:アルカージー・ストルガツキー、ボリス・ストルガツキー
出演:アレクサンドル・カイダノフスキー、アナトリー・ソロニーツィン、アリーサ・フレインドリフ
20051226 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

THX-1138

 ジョージ・ルーカス監督の長編デビュー作。学生時代に撮った短編映画を評価されて劇場用に作り直したもので、映画としての構成は単調で分かりにくいのですが、そのストイックな設定や物語はSF好きのツボを心得ています。

 第一に登場人物が男性も女性もスキンヘッドという、全く映画向きじゃないビジュアルを貫いているのに驚きました。そのだけで近未来的管理社会の性質がストレートに観客に伝わってきます。ルーカス監督なので掘り下げの足りなさには泣きが入りますが、それでも印象的なカットや台詞が散見されました。何よりラストのカットは、SF映画史上に残る名シーンなのではないでしょうか。
 近年大量生産されている、SFという名を冠しただけのアクション映画に比べれば、充分SFとして観賞に堪える作品。「メトロポリス」や「アルファヴィル」のような過去の名作SFに着想を得ながら、独自のイメージを構築出来ている点だけでも凄い。それに”管理社会SF”を多数目にしてきた人にとっては、そのいいとこ取り的なこの映画は一見の価値アリなのです。

 因みに、最近発売されたDVD版では多数の追加、修正が行われているようです。うーん、それも観てみたいかも。

監督:ジョージ・ルーカス
出演:ロバート・デュヴァル、マギー・マコーミー、ドナルド・プレザンス、イアン・ウルフ
20051225 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

1984

 ジョージ・オーウェルによって1949年に書かれたSF小説を、表題の1984年に映画化したという作品。ビッグ・ブラザーというリーダーの下に統制の敷かれた未来像が衝撃的でした。原作のテーマは様々な映画で応用されていますし、この映画自体、多数のオマージュを生み出したSF映画の隠れた名作です。

 全体主義からの逃亡というのはSFにおける普遍的なテーマの一つですが、そのテーマが端的にまとめられていて、非常に骨太な印象でした。とことん暗く救いのない世界が綴られる中で、愛だけが唯一の救いとして描かれているのが感動的。都市の荒廃ぶりや支配者の絶対性を、説明的な描写を用いずに映像の端橋から感じさせる演出も、映画の格を引き上げています。小説を読んだ方がテーマをより理解できるのでしょうが、映画だけでもその趣旨は充分表現できている、と感じました。
 全体に暗澹としていて退屈な映画ですが、ハードSFが好きな人ならその重厚さを楽しめるはず。ビデオもDVDも国内では絶版なのが残念です。レンタル店では稀に見かけるので、気になる方は是非。

監督:マイケル・ラドフォード
原作:ジョージ・オーウェル
出演:ジョン・ハート、リチャード・バートン、スザンナ・ハミルトン、シリル・キューザック
20051224 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

未来世紀ブラジル

 テリー・ギリアム監督によるSF映画の傑作。ギリアム監督のシニカルな面が存分に発揮された物語で、夢と現実の交錯する構成が見事な、カルト映画の代名詞のような作品です。

 何処が良いかと聞かれても、あまりに荒唐無稽な内容なので、とにかく一度観てくれと言うしかありません。物語そのものも非常に魅力的ですが、それが映像を伴ったときに発揮される焦燥感はギリアム作品の中でもダントツ。随所に挿入されるブラックユーモアや、無機的で白が基調の都市と有機的で猥雑な夢の対比、あまりに衝撃的で救いのないラストも良い。
 それにしても豪華な映像には参りました。近未来の巨大なビルや、主人公の見る悪夢の世界を完璧に映像化したセンスには脱帽。どれも存在感があって、かつ「ありえない」感じが良く出ていました。中でも拷問室のセットは無言の圧迫感があり、映画の不気味さを引き立てています。物語がダークで混沌にまみれている中で、音楽だけが明るくポップなのも皮肉が効いていて良かった。

 シナリオを真面目に追って考え込むより、そこに秘められたブラックさに笑いつつ、カラフルな映像を楽しむのが目的でしょう。SFという世界観のファンタジーであり、チャンネルが合う人には最高のトリップ・ムービーかと。こういう映画を観てしまうと、普通の映画ではもう物足りなくなってしまいますね。

監督:テリー・ギリアム
出演:ジョナサン・プライス、キム・グライスト、ロバート・デ・ニーロ、イアン・ホルム、キャサリン・ヘルモンド、ボブ・ホスキンス
20051223 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ブレードランナー

 リドリー・スコットの名声を確実なものにした、SFサスペンスの傑作。80年代SF映画の最高峰のひとつで、荒廃した世界観とハードボイルド的な物語の組み合わせが見事です。

 冒頭から、もの凄く広がりのある近未来空間に目を奪われました。空を飛ぶスピナーや広告塔のイメージは、これまでのどんなSF映画よりも説得力がありますし、廃墟のようなビルと酸性雨は「未来は光に満ちている」という妄想が終焉を迎えたことを端的に表現しています。この斬新なイメージが当時のSF映画に与えた影響は絶大で、以降の作品は全てこの映画を踏まえていると言っても過言ではないほどです。
 物語も、ハードSFらしく哲学的なテーマが強く存在していて、それを雄弁に語る主人公のモノローグが印象的でした。レプリカントを演じたルトガー・ハウアーの不気味さは必見。あくまで一つの目標に向かって突き進んでいるレプリカントに対して、追いかける主人公が悩み続けているという構図はそのまんまハードボイルドの定番ですが、そこにSF的な見せ場を絡めてくるところが秀逸でした。

 今観ると古い映画だと感じてしまうところも多々ありますが、記念碑的作品としてSF映画好きなら一度は見ておいて欲しい作品。ちなみに「公開版」、「完全版」、「最終版」と様々なバージョンがある映画ですが、個人的にはモノローグのある公開版が一番好みです。

監督:リドリー・スコット
原作:フィリップ・K・ディック
出演:ハリソン・フォード、ルトガー・ハウアー、ショーン・ヤング、ダリル・ハンナ
20051222 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

イディオッツ

 ラース・フォン・トリアー監督による「黄金の心」三部作のうちの一つ。強烈な映画体験が出来るという意味では、非常にトリアー監督らしい実験作でした。

 トリアー監督の作品には「視点を変える」という共通するテーゼを感じるのですが、この映画では特にそれを意識させられました。障害者のふりをすることで、現実の不条理を見いだしつつ、見いだしてしまったがために現実に戻れない人々の”馬鹿騒ぎ”には、泣きたくなるほどの無力感があります。 ドグマ95にほぼ準じる形式で制作されたため、そのテーマが更に現実味を帯びて、現実に起こっている事件のような切実さが伝わってきました。
 ただ、やはり完成度が低いのが問題の一つ。ドラマに焦点を絞ったのだから映像の完成度は二の次と言えばそれまでですが、あくまで”次の傑作”へ向けた”実験”の役割の方が強い映画だと思いました。

監督:ラース・フォン・トリアー
出演:ボディル・ヨルゲンセン、イェンス・アルビヌス、アンヌ・ルイーセ・ハシング、トレルス・リュビュー
20051221 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

アリゾナ・ドリーム

 サラエボ出身のエミール・クストリッツァ監督による、奇妙な味わいのドラマ作品。演出などに独特の空気感がありますが、いまいち入り込めませんでした。
 監督の後の作品に見られる、白昼夢を見ているような映像感覚はこの映画でも健在です。普通のドラマの中に突如として挿入されるシュールレアリズム映画のような演出は、一度経験する価値はあります。そんな現実と非現実の境界が曖昧な世界で繰り広げられる、意外とシリアスな努力と挫折の物語に、この監督ならではの諦観のムードがありありと滲んでいました。しかし、それにしても脚本や編集のセンスが繊細すぎ。僕は夢を早々に諦めてしまった世代の人間なので、そこに感傷を覚えること自体が滑稽に思えてしまいます。

 ちなみに、制作国はフランスですが、劇中使われている言語は主に英語。ジョニー・デップとヴィンセント・ギャロが、どちらも得体の知れない可愛らしさを振りまいていて目を惹きます。この監督の作品を観たことがないか、もしくは他の作品にお気に入りがあるのなら、一度は観てみるのも良いかと。もちろん監督のファンなら必見でしょう。

監督:エミール・クストリッツァ
出演:ジョニー・デップ、ヴィンセント・ギャロ、ジェリー・ルイス、フェイ・ダナウェイ、リリ・テイラー
20051220 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -