★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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イノセンス

 押井守による「攻殻機動隊」の劇場版第2弾。重厚な映像と哲学的な対話は相変わらずながら、前作とは全く異なる雰囲気の、不思議な映画でした。

 今回は脚本が伊藤和典から押井監督本人に替わったせいか、厭世的で難解なロジックを多用したシナリオが印象的でした。ただ、台詞の殆どは何らかの書物の引用で、それほど深い意味はありません。ドラマの基本は主人公バトーのハードボイルド的な苦悩であり、台詞はそれに対する”格好いい言い訳”に過ぎないと感じました。
 3DCGを多用した映像は豪華ながら、過去の押井映画の雰囲気も充分に残しています。最初は、その映像や言葉の意味するものを探そうとしたんですが、おそらくその行為はナンセンスでしょう。贅をこらした映像や、複雑な台詞を無数に重ねることで、情報社会が持つ空虚さを浮き彫りにすることこそ、この映画のもう一つの目的なのかもしれません。

 色々考察してみましたが、置き去りにされた”男”が”女”の幻影を探し求める、というセンチメンタリズムの極致のようなお話がこの映画の基本ではないかと。ちょっとおふざけが過ぎますが、監督の表現力が成熟してきた証でしょう。といってもハードSFですし、前作を知らない人にはなおさら理解しにくい設定なので、見る際には注意が必要です。

監督:押井守
原作:士郎正宗
声の出演:大塚明夫、田中敦子、山寺宏一、大木民夫、竹中直人
20060105 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊

 押井守監督が士郎正宗の同名コミックを映画化し、世界中で話題となったSFアニメ作品。監督の世界観が存分に発揮された結果、哲学的で軍事要素の強い原作の雰囲気と同じベクトルながら、よりスリム化された毛色の違う作品に仕上がっています。

 原作の重厚な世界観をあえて大幅に手直しし、押井流にクリンナップされた映像やシナリオには原作ファンの間では賛否両論ありそうです。シナリオは原作のダイジェストに過ぎない内容で、台詞は殆ど原作ママですし。ただ、原作第1巻のラストにあたる部分に重点を置いたドラマ構成は、映像で観る価値はあると思わせる深みと説得力がありました。
 作り込みが激しい一方で、SFや兵器が苦手な人が混乱しそうなほど専門用語を連発したりと、明らかに観客を限定している作り。それでも初めてデジタルを本格的に取り入れた映像表現や、設定の緻密さ、そのストーリー上での昇華方法は見事。ハードSFが好きな人は必見です。

 ちなみに、この映画以降「ジャパニメーション」という言葉が日本国内で流行りましたが、あれは日本製アニメを蔑視して呼んだもので、あくまで誤用なので止めてほしいなあ、と。この作品のせいではないんですが。

監督:押井守
原作:士郎正宗
声の出演:田中敦子、大塚明夫、山寺宏一、大木民夫、千葉繁、家弓家正
20060105 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

機動警察パトレイバー2 The Movie

 カルト的な人気を誇るロボットアニメの劇場版第2弾。前作よりもアクションやギャグを極力削り、研ぎ澄まされた画面から描写される”消極的な平和”という現代日本に対する提言がショックでした。アニメ云々より、戦争映画として稀に見る傑作です。

 正直、観た当初はこの”消極的な平和”というテーマに実感が持てなかったんですが、公開2年後に映画を模倣したかのようなテロ事件が東京で起きたため、一気にそれがリアルなものとして感じられるようになりました。冒頭のベイブリッジ爆破は、9.11をも想起させます。この映画で描かれる”戦争状態”が、あえて殆どレイバー(ロボットの呼称)を用いずに作り上げられるのは、それが現実にすぐ起こりうるということを示唆したかったためでしょう。9.11の10年も前に、それを映画として世に出した制作陣の着眼点は、ただただ凄いとしか評しようがありません。
 前作とは打って変わって、昔の日本映画のような落ち着いたカメラワークと風景描写が印象的。登場人物も、今回はオヤジばかりが活躍するので渋すぎるぐらいですが、それだけに非常に重みのあるドラマになっています。その中で、ときに破壊的なギャグが炸裂するのもファンにとっては嬉しいところ。

 前作も今作も、直後の世相を見事に予言したかのようなシナリオで、その現実における再現率は怖くなるほど。アニメは子供向けだと軽視している人に、是非観て欲しい作品です。

監督:押井守
原作:ヘッドギア
出演:冨永みーな、古川登志夫、大森隆之介、池水通洋、二又一成、郷里大輔、榊原良子、千葉繁、阪脩、竹中直人、根津甚八
20060105 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

機動警察パトレイバー THE MOVIE

 まだOSという言葉すらマイナーだった時代に制作された、ハイテク犯罪映画の傑作。もともとは”サンマの香りがするロボットアニメ”をテーマに、漫画家ゆうきまさみや押井守、伊藤和典などによって企画・制作されたビデオアニメの映画化作品だったんですが、これが嬉しい誤算でした。

 今や世界的な名声を得たアニメ監督押井守と、後に日本アカデミー脚本賞を受賞する伊藤和典による、Windows時代を予言したかのような設定と周到な犯罪劇は、とても80年代のシナリオとは思えないほどリアルで今観ても唸ってしまうほど。同時に、これだけの秀逸なネタをコメディ仕立てのロボットアニメで消費しなければいけない日本映画の現状がつくづく悔やまれます。
 シリーズものですが、原作となったアニメや漫画の主人公達は脇役同然に描かれているので、オリジナルを知らない人でも楽しめます。もちろん、東京下町の民家を怪獣映画のように踏みつぶして歩くレイバー(ロボットの呼称)などアクション面でもツボを心得た出来ですし、コメディ部分でも大笑いさせられる、ファンにとっても十二分に楽しめる映画でした。

 ロボットアニメと侮る無かれ、当時はSFに過ぎなかったものが、今では現実的な犯罪映画として実感を持って観ることのできる見事な作品です。映画の前に制作されたビデオシリーズやコミック、後のTVシリーズにもシュールでリアルな世界観は健在ですので、気に入った方はそちらもぜひ。

監督:押井守
原作:ヘッドギア
声の出演:冨永みーな、古川登志夫、大森隆之介、池水通洋、二又一成、郷里大輔、榊原良子、千葉繁、阪脩、井上瑶
20060105 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

マイノリティ・リポート

 フィリップ・K・ディックのSF小説を、スティーヴン・スピルバーグが監督した話題作。SFアクション系大作映画の定番をわきまえた出来で、名前に期待しなければそれなりに楽しめる映画だと思います。
 無理矢理アクションを入れるような構成が目立つものの、もともとそれがメインなので割り切って観られました。サスペンス面でもきちんと引きがありますし、軽くなりすぎない演出のおかげでラストも好感が持てます。ディティールの描写が少ないのでSF的なトリック部分は台無しなんですが、撮影監督ヤヌス・カミンスキーによる暗い未来世界は雰囲気タップリで、SFサスペンスの気分は充分盛り上がりました。とてもスピルバーグとは思えないようなトリッキーなカメラワークも何度かあって目を惹きます。出番は少ないですがピーター・ストーメアも良い! もしかしたら彼の怪演こそ最大の収穫かも知れません。

 正直なところ、お気楽アクション映画にしては重いし、かといってサスペンス的には普通の出来で、どのあたりの層に希求したいのかいまいち不明な映画でしたが、そこそこ楽しめたのでまあいいか、という感じです。スピルバーグは何処へ行きたいんだろう……。

監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作:フィリップ・K・ディック
出演:トム・クルーズ、コリン・ファレル、サマンサ・モートン、マックス・フォン・シドー、ピーター・ストーメア
20060104 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

A.I.

 スタンリー・キューブリックが生前に温めていた企画を、スティーヴン・スピルバーグ監督が満を持して映画化したという話題作。あまり期待していかなかったので落胆はしませんでしたが、それにしても予想以上の破綻ぶりでした。

 話の内容は確かに濃いのです。ロボットに愛は存在するのか、人間はロボットを愛せるのか、といったタイムリーなテーマを見事に消化していて、特にラストの展開は唐突ながら示唆に富んでいるとは思います。しかし、大きく3つに分かれるパートが全く違う雰囲気で、テーマもすれ違いを起こしていて混乱してしまいました。スピルバーグ映画らしく愛は語っても毒を語らない脚本も、映画のシリアスなムードを上っ面だけのものに感じさせます。単純なエンタテイメントにするなら良いんですが、ここまで哲学的なテーマを語っておいて基本はお涙頂戴、という展開自体がおかしいのでは。
 ハーレイ・ジョエル・オスメントとジュード・ロウのロボットぶりは流石でした。テディを初めとする多種多様なロボット群、及び次々と登場する大規模な未来都市のVSFXも凄い。まさに現代のハリウッドでなければ実現できなかった映像です。そのためにドラマ不在がより引き立ってしまったのが、返す返す残念。

監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作:ブライアン・オールディス
出演:ハーレイ・ジョエル・オスメント、ジュード・ロウ、フランシス・オコナー、ウィリアム・ハート
20060103 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ギャラクシー・クエスト

 ドリーム・ワークスの設立初期に制作されたSFナンセンスコメディ。公開当時はあまりの地味さにノーマークでしたが、観てみたらかなり凄い、というか観ていなかったことを後悔しました。

 とにかく笑いのセンスが濃すぎなくて、そのくせ常にチクチクと細かいところを攻められるような気の利いた脚本がたまりません。登場人物全員が分かりやすいジレンマを抱えていて、それを観客に端的に伝えたあとは、あまり執着せずに人物の魅力と小ネタで畳み掛けているのが良かった。プロット自体はありきたりな正統派ドラマなんですが、そういった作りこみの良さと小ネタの楽しさで、ついつい感情移入してしまいました。
 役者では、何と言ってもアラン・リックマンの演じるドクター・ラザラスが最高! コメディも出来る人だとは知っていましたが、まさかここまで開き直るとは。ミッシー・パイル演じる女性エイリアンの不気味な笑顔も記憶に残ること請け合いです。

 惜しむらくは、この映画のパクり元である「スター・トレック」を僕が全く知らないこと。知らなくても十分楽しめる映画だとは思いますが、知っていればもっと楽しめたかなと。ともあれSF映画ファンなら必見の一本です。

監督:ディーン・パリソット
出演:ティム・アレン、シガニー・ウィーバー、アラン・リックマン、トニー・シャローブ、ダリル・ミッチェル
20060102 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

不思議惑星キン・ザ・ザ

 グルジア共和国出身のゲオルギー・ダネリア監督が撮った、シュールなSFファンタジー。一見するとただ冗長でくだらない内容ですが、その不思議な世界観がツボにはまると最高に楽しめます。

 まず絶対に飛びそうにない飛行物体に始まって、マッチが高級品だったり、変な挨拶や不思議な人種間差別が横行などなど、ツッコミどころ満載の設定が続出で笑えます。B級映画の雰囲気を漂わせつつ、しっかり独自の世界観を実現しているところも凄い。宇宙船や地下都市などのデザインも欧米の映画とはまた違った方向性で目を惹きました。ちょっとした風刺やSF映画としての後味の良さもあって、ただのチープなSF映画と捨て置くことのできない、実に奇妙な映画です。
 上映時間134分というのが最初は長く感じたのですが、二度目に観たときはあっという間に終わってしまって驚きました。退屈と思っていましたが、実はちょっとスローテンポなだけで無駄なシーンは一つもありません。シナリオ的なカタルシスは真面目なSF映画も顔負けの出来。何より物語から感じられる世界の広がりが、文字通り宇宙的規模の作り込みで圧倒されてしまいました。

 良くも悪くも、一度観たら忘れられない映画であることは確実。このセンスを面白いと思うかどうかで評価が一変すると思います。ミニシアター系映画を好き人なら必見。

監督:ゲオルギー・ダネリア
出演:スタニスラフ・リュブシン、エフゲニー・レオーノフ
20060101 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

バンカー・パレス・ホテル

 ヨーロッパで最も高い評価を得ているコミック作家エンキ・ビラルの映画監督デビュー作。高い映像性と退廃的なムードが秀逸で、カルト映画と呼ばれるのも納得です。

 頭で考えて論理的に理解するというよりは、見たままを感じる映画だと思いました。映画全編を通して出てくる自由な発想のモチーフが面白い。白い雨、機関車、出口のないホテル、旧式のアンドロイド、姿を見せない大統領、といった全てが、見たことがあるようなのに新鮮な印象で驚かされました。
 物語は一見荒唐無稽に見えて、実は根底に流れるテーマは一貫しています。戦争に対する半ば諦めにも似た感情と、未来への希望が同居する不思議な物語は、まさにエンキ・ビラルらしい物語といえるでしょう。このSFは政治批判と取ることも出来るでしょうが、それよりももっと根元的なものへの問いかけであるようにも思えました。

 ジャン=ルイ・トランティニャンが不気味な印象を残す政府高官を好演。ビラルの世界をそのまま映像化したような、青錆のような色味の映像は必見です。

監督:エンキ・ビラル
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、キャロル・ブーケ、ハンス・メイヤー、マリア・シュナイダー、ヤン・コレット
20051231 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ティコ・ムーン

 バンド・デシネの代表者エンキ・ビラルの監督したSF映画。その独特の世界観は映画になっても健在ですが、単調な物語が残念。それでも麻薬的な魅力を秘めた作品でした。

 ビラルのコミックが持つ独特の”間”を感じられるところがあるものの、全般に台詞を楽しむのがメインで、ドラマに波が少ないのが辛かった。原作の時点でそうなんですが、真剣に見入るというよりは全体の雰囲気と映像を楽しむ感じです。でもそれだけビジュアルの力は強いので、原作を知っている人にはなかなか興味深いのでは。そうでない人に受け入れられる映画かというとちょっと微妙ですが。
 それにしてもキャストが豪華。敷居は高いながらも、何とも言えない雰囲気は楽しめます。前作より色彩も豊かで、エンキ・ビラル的な世界観を期待するなら最適な一本かと。

監督:エンキ・ビラル
出演:ジュリー・デルピー、ヨハン・レイセン、リシャール・ボーランジェ、ジャン=ルイ・トランティニャン
20051230 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -