★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち

 ゴア・ヴァービンスキー監督の名前をヒットメーカーとして印象付けた海賊モノのアクション大作。オリジナルは、ディズニーランドで人気のあのアトラクション。ディズニーなので平凡な作品になるかと思いきや、ジョニー・デップ扮するスパロウ船長のおかげで、ひとクセある内容に仕上がっています。

 ジョニー・デップという(すっかりハリウッドの第一線から退いた感のある)俳優をビッグ・バジェット映画に連れ戻したというのが、この映画の第一の功績でしょう。ジェフリー・ラッシュの真っ当な名演が霞むほどの存在感は流石。オーランド・ブルームやキーラ・ナイトレイのような若手は鼻先であしらって、143分という長い上映時間のほとんど全てでその魅力を振りまいています。あまりにデップの前評判が良かったので、観た直後は正直「こんなもんか」と思いましたが、それでも他の俳優には真似の出来ない名演でした。
 演出や編集はヴァービンスキー監督らしくソツのない出来。海賊たちの設定が狙いすぎで辛いところですが、映像的な見栄えは抜群でした。マンガのような紋切り型の展開もディズニー映画ならと諦められるレベルで、とにかく深く考えずスケールの大きいアクションを楽しむのが正解ですね。

 海賊アクション映画というのは不毛なジャンルでしたが、これは万人向けでアクションも悪くない出来でした。デップのファンにはもちろんオススメ。彼がいる限りこのシリーズは安泰でしょう。

監督:ゴア・ヴァービンスキー
出演:ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ、ジェフリー・ラッシュ、ジョナサン・プライス
20051219 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ロスト・イン・ラ・マンチャ

 鬼才テリー・ギリアム監督による映画"The Man Who Killed Don Quixote"がいかにして制作中止に陥ったかを、「12モンキーズ」でもドキュメンタリーを手がけたキース・フルトンとルイス・ペペのコンビが撮影したドキュメンタリー。まさにドン・キホーテそのものを思わせるギリアム監督の勇姿は必見。

 ギリアム監督が最高のヒーローだと語るドン・キホーテを題材にしたブラックコメディ映画は、ファンならずとも見たいと思わせるような夢にあふれた企画で、これは所々で挿入される”撮影済みのシーン”からもひしひしと伝わってきます。しかし様々なアクシデントが襲い掛かり、映画は製作中止。これが絵に描いたようにひどい話で、ひどすぎるあまり笑ってしまうほど。奇しくもこのギリアム監督の無謀とも思える行動自体がドン・キホーテという英雄の姿と重なって見えるところが、最高に悲しいところです。
 映画の評価とは全く関係ないんですが、ジョニー・デップの普段着が格好良かった! 映画の完成を願っていますが、キャストは集め直すことになるのかなあ……。でも監督自身も諦めたわけではないようなので、辛抱強く待ちましょう。

監督:キース・フルトン、ルイス・ペペ
出演:テリー・ギリアム、ジョニー・デップ、ジャン・ロシュフォール
20051218 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

フロム・ヘル

 アメリカでヒットしたグラフィック・ノベルを、新鋭ヒューズ兄弟の監督で映画化。”切り裂きジャック”に関する推論を網羅したような物語は興味深いんですが、映画としては中途半端な印象。

 魅力的な主人公を作り上げておきながら彼の内面に迫ることはせず、ロンドンの暗いセットや事件自体は重厚に再現しつつもカメラワークは派手で……結果、フィクションにもノン・フィクションにもなりきれていません。娼婦達には切実さが欠けていて、階級制度や貧富の差などの社会情勢も真に迫って来ません。犯人もすぐ分かってしまうし……。元がグラフィック・ノベルなのでこの軽さは仕方がないのかもしれませんが、サイコホラーにもヒーローものにもなることのできた題材だけに残念。
 でも、一番残念だったのは”切り裂きジャック”の正体かも。いや、期待しちゃいけない方向なのは分かってるんですが…。

 はっとするような画面効果が所々に使われていて、そこは目を惹きました。願わくば、映画全体に同じレベルで気を利かせて欲しかった。残酷描写に対する積極性も好感が持てます。それに、ジョニー・デップが魅力的でした。こんな映画でも彼を観ていれば楽しめるというのは強みでしょう。

監督:アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ
原作:アラン・ムーア、エディ・キャンベル
出演:ジョニー・デップ、ヘザー・グレアム、ロビー・コルトレーン、ジェイソン・フレミング、イアン・ホルム
20051217 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ショコラ

 感動的な語り口で評価が高いラッセ・ハルストレム監督による、ファンタジックな、それでいて重いテーマのドラマ。全体としては綺麗にまとめていますし、表現したいことも分かるんですが、うまく騙されたような気分。
 古い因習に支配された街が、僕にはそれほど不幸と思えなかったので、それを打ち壊す主人公の行動が自分勝手な”悪”に見えました。お伽噺なので教訓的なのは良いとしても、”ルール”に対案を立てて反論するのではなく、異質な文化の流入で”ルール”をうやむやにするというのは、今の文明が犯している罪そのものなのではないでしょうか。それを美談にしてしまっている時点で、自由という名の暴力を正当化しているようで馴染めませんでした。オチの付け方はファンタジーらしくて秀逸なので、世界観を受け入れられる人なら充分楽しめる映画だとは思います。

 ところで、ジョニー・デップは全然活躍しません。ファンとしては寂しいところですが、これ以上出てこられると違う話になってしまうので我慢です。ピーター・ストーメアも、役柄は良いんですが劇中での役割は微妙。全体に、スッキリしない映画でした。

監督:ラッセ・ハルストレム
出演: ジュリエット・ビノシュ、ヴィクトワール・ティヴィソル、ジョニー・デップ、ピーター・ストーメア
20051216 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

フェイク

 イギリス出身のマイク・ニューウェル監督による、実話を元にしたサスペンス、というより二人の男の友情ドラマ。主演のジョニー・デップとアル・パチーノの演技も見事なものの、全体的に緊張感が足りない印象です。
 物語の引きにである主役二人の友情はきちんと描けているものの、イマイチなのは映画的な余裕のなさからでしょうか。実話ベースなのは分かりますが、展開が平板すぎました。登場するマフィアが情けない人物ばかりなのもガッカリ。あと、ラストの最も重要な場面をWOWOWか何かのCMで流していたせいで、せっかくの感動が薄れてしまったというのもあるかもしれません。一瞬ならまだしも、どういう意図のシーンか分かってしまうほど流しておいて、映画もそこで終わりというのは酷いなあ、と。でも、それがなくてもラストの演出はチープすぎたと思います。

 丁寧に作り込んであるせいか、最後まで飽きずに見られるのは評価したいところ。家族というものについて結構考えさせられるあたり、テーマ性も強く出ていました。ただ、ハリウッドの方程式にはまった内容で、せいぜい「良くできたドラマ」止まりなのが残念。パチーノとデップを見たい人にはオススメです。

監督:マイク・ニューウェル
出演:アル・パチーノ、ジョニー・デップ、マイケル・マドセン
20051215 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

アタメ

 特殊な愛の形を描いた、ペドロ・アルモドバルらしいラブストーリー。アントニオ・バンデラスの一途な変態ぶりが楽しめる異色作です。
 ストーカーに監禁された女性が、いつしかそのストーカーに心を寄せてしまう……という筋書きはありがちですが、それを細やかな心理描写で綴るのではなく、突飛な登場人物とユーモラスな映像感覚でねじ伏せていて、不思議と説得力がありました。まだ20代後半のバンデラスも、暴力的に描かれているものの、どこか子供っぽくて愛嬌すら感じるほど。エンニオ・モリコーネによる音楽もムーディーなんですが、逆に上品すぎたかもしれません。

 もっと刺激的な内容を想像していましたが、比較的落ち着いて観られるもので安心しました。強烈なインセンスの香りのような、まったりとした高揚感があります。ただのエロスではなく、突き抜けたエロスという感じ。このアクの強さがアルモドバル監督作品の魅力なのでしょう。

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ヴィクトリア・アブリル、アントニオ・バンデラス、ロレス・レオン
20051214 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

シティ・オブ・ゴッド

 ブラジル、リオデジャネイロ郊外の通称”Cidade de Deus(神の街)”を舞台に繰り広げられる、実話を元にした犯罪ドラマ。130分という上映時間に少しの無駄もない、むしろそれ以上の時間が凝縮された、爆弾のように強烈な映画でした。

 南米のスラム街が舞台で、少年と麻薬とギャングがテーマと聞いて暗澹としたムードを想像していましたが、映画は見事なまでにエンタテイメント。トリッキーな構図やカット割りも、きちんと脚本の意図を反映した演出になっているので、テンポが良くても軽薄になりすぎていません。しかし、何より驚かされたのは少年達の演技の凄まじさ。実際にスラムに暮らし、ドラッグや強盗や殺人と隣り合わせの世界に生きている少年達が演じているので、演技にも説得力がありました。
 ”神の街”の少年達は、今でも日常的に銃を持ち歩いているそうです。その現実を踏まえながらも、映画はその事態を断罪したりせずに、あくまでエンタテイメントに徹しているというのがショックでした。誇張して撮らなくても画面の端から滲み出るような暴力性がこの街には現存していて、だからこそ同情を惹くような演出はしないというのが潔い。実際、ドキュメンタリーにした方が良さそうな映画が氾濫する中で、この映画は「映画である価値」を確信できる傑作です。

監督:フェルナンド・メイレレス
原作:パウロ・リンス
出演:アレクサンドル・ロドリゲス、レアンドロ・フィルミノ・ダ・オラ、セウ・ジョルジ
20051213 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

28日後...

 ダニー・ボイル監督ならではのスタイリッシュな映像で描かれたゾンビ映画(厳密にはゾンビとは違いますが)。この手の映画としては定番のストーリーですが、しっかり楽しめる現代風のホラーになっています。

 ダニー・ボイル監督の強みは、ワンカットごとの説得力が尋常じゃないことでしょう。映像の強みを良く理解している人で、無人のロンドンや封鎖されたハイウェイを少ないカットで臨場感たっぷりに描き出し、チープになりそうな物語を巧く引き締めています。ロメロ版のゾンビを観た人なら既視感が伴う要素ばかりで、テーマらしいテーマもありませんが、その映像のおかげで最後まできっちり楽しめました。
 しかし主演のキリアン・マーフィーが格好良かった。弱々しい演技も狂気に満ちた暴走ぶりも様になっています。久々にダニー・ボイルらしい映像も楽しめましたし、収穫の多い映画でした。

監督:ダニー・ボイル
出演:キリアン・マーフィ、ナオミ・ハリス、クリストファー・エクルストン、ミーガン・バーンズ、ブレンダン・グリーソン
20051212 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

キカ

 変態映画を撮らせたら右に出るものはいないペドロ・アルモドバル監督による、何でも有りの恋愛群像劇。サスペンスの要素もありますが、そんな物語の細部なんか吹っ飛ばすセンスの良さが最大の魅力です。

 とにかく平凡な人間が一人も登場せず、人間関係も最悪に複雑になる一方なので、物語中盤まではぐちゃぐちゃぶりを楽しむ映画かと思いましたが、それを終盤で見事に収束させたうえ、とんでもないところに着地させる構成に唸らされます。悲壮なシーンで笑わせながら、きちんと緊張させる場面もあるし、粗いながらもメリハリがしっかりしている映画という印象でした。
 主役のキカにあえてオバサン俳優を配していて、これがいやに色っぽかった。スペイン映画らしい極彩色の内装や、J=P・ゴルチエによる衣装も見どころの一つ。特にヴィクトリア・アブリルの着る過激なファッションは一見の価値有りです。

 ともあれ、理屈でどうこう言うより感じて楽しむ映画かと。それほどネチネチした描写もありませんし、後味も明るい、健全な変態博覧会という感じ。深夜にワインを飲みながら観ましたが、そのノリにぴったりの映画でした。

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ヴェロニカ・フォルケ、ピーター・コヨーテ、アレックス・カサノヴァス、ヴィクトリア・アブリル
20051211 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード

 ロバート・ロドリゲス監督お得意のバイオレンスが満載の”エル・マリアッチ”シリーズ第三弾。今回は豪華キャストを揃え、アクションも多彩になって盛りだくさんの内容でした。

 バンデラスを始め、粋なラテンの男たちがギターを弾きながら華麗なガン・アクションを繰り広げる、というただそれだけの映画ですが、それが格好いいのです。クーデターやCIAや元FBIといった要素が凝縮された物語は、追いついていくのが大変なほどの密度。しかし後半乱戦になってからは立場よりも個人間の戦いになり、あとは粋なヤツしか生き残れないんだとばかりにバタバタと人が死んでいきます。その思い切り具合が最高!
 常連組のダニー・トレホが相変わらず不敵に活躍するのも嬉しいところですが、ミッキー・ロークやウィレム・デフォーといった新規参入組も嬉しい渋さ。そしてやっぱりジョニー・デップが凄かった。中盤までは「こんなもんか」というキャラクターでしたが、これが化ける化ける。もちろんバンデラスは撃っても弾いても嘘のような色っぽさ。とにかく見栄の切り方ひとつとっても画になる俳優ばかりで、ひたすら見とれているうちに映画が終わっていました。もっと観ていたかった〜。

 細かいところかもしれませんが、あくまで「メキシコ」に固執する台詞回しが印象的でした。子供に対する視線が優しかったり、タイトルに "Once upon a time in..." とあるあたりから察するに、これはロドリゲス流のヒーロー映画なのでしょう。こういう、愛のあるバイオレンスは好きです。

監督:ロバート・ロドリゲス
出演:アントニオ・バンデラス、サルマ・ハエック、ジョニー・デップ、ミッキー・ローク、ダニー・トレホ、ウィレム・デフォー
公式サイト
20051210 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -