★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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 僅か18歳の大学生による原作小説を映画化した、ニック・ハム監督によるサスペンス・ホラー。見終わった当初はラストに納得できずに困惑したのですが、考えるうちに侮れない物語なのだと思い直しました。

 とにかく主人公リズの屈折した思考が面白く、その微妙な心の動きを演じきるソーラ・バーチに驚かされます。シナリオはかなりブラックで、その中で最後まで現実感を持とうとしない主人公の“浮きっぷり”がやけにリアル。事件をショッキングに扱うことなく、それが起きてしまった状況を当事者の視点で綿密に描いているのも、リズが決して“異常者”ではなく、一般人である観客も何かのきっかけでリズのような行動を起こすかもしれない(もしくは、そういう行動を起こしてもリズのように平然としていられる)という主張なのでしょう。
 部分部分でおかしな演出があるので、そこまで監督が考えていたのかどうかは疑問ですが、少なくともリズを演じたソーラ・バーチからはそういう主張が汲み取れて、見終わってからゾッとしました。あのリズの笑顔が、今でも記憶の奥底にこびりついています。

 状況に応じてセットを作り替えるなど、美術もなかなかの凝りよう。映像的に格好付けすぎの印象もありますが、適度に刺激的で、映画の質には合ってるかと。特に最後の方の、闇を感じさせる「怖い」演出は絶妙。サスペンスとしてよりは、ダークな青春映画として楽しめるかと。

監督:ニック・ハム
原作:ガイ・バート
出演:ソーラ・バーチ、デズモンド・ハリントン、ダニエル・ブロックルバンク、エンベス・デイヴィッツ、キーラ・ナイトレイ
20060412 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

インデペンデンス・デイ

 「スターゲイト」のローランド・エメリッヒ監督によるSFスペクタクル映画。相変わらず紋切り型の展開ながら、大迫力の映像を楽しめる娯楽大作です。

 冒頭から終盤まで、いわゆる「宇宙戦争もの」の定番そのままなお気楽ストーリーですが、ここまで新機軸が無いと逆に安心して観ることが出来ます。その代わり、あらゆる特殊効果を駆使して繰り広げられる爆発やドッグファイトは見事な出来映え。想像を上回る大迫力の映像は、映画館で映画を観る醍醐味を実感できること請け合いです。
 ウィル・スミス、ジェフ・ゴールドブラム、ビル・プルマンという三人の主演俳優が、それぞれ対等に活躍するのがまた大作映画っぽくてツボ。ビル・プルマンは大統領が本当によく似合いますね。妙に感傷に訴えようとする物語が気になりますが、彼らのコミカルな演技のおかげでカバー出来ているのでは。

 例の演説に拒絶感を覚える人もいたようですが、僕はあそこはギャグだと思いました。実はアメリカ中心主義に対する皮肉なのかも。ともあれ、こういう中身ゼロの娯楽大作をきっちり撮れるエメリッヒ監督の手腕には脱帽です。

監督:ローランド・エメリッヒ
出演:ウィル・スミス、ビル・プルマン、ジェフ・ゴールドブラム、メアリー・マクドネル、ジャド・ハーシュ、アダム・ボールドウィン
20060330 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

悪魔の手毬唄

 市川崑監督による、石坂金田一シリーズ第二弾。前作と好対照を成す落ち着いた構成と、岡山の土俗的な空気が非常にマッチして、なんともいえない味のある暗さを作り出した、シリーズ中でも出色の作品です。

 エキセントリックさの目立つ前作に対して、今回はあくまでミステリの基本に忠実。犯人当てらしいギミックを盛り込みつつ、最後は横溝小説らしくお涙頂戴に持っていく定番の構成が効いています。手毬唄の不気味さや、犠牲者の陰惨な殺され方はトラウマものの怖さ。それでも落ち着いたトーンを保ち続ける映像と音楽が、映画全編を一つのカラーで貫く完成度の高い内容でした。
 俳優では、ひたすら岸恵子がキレイ! この人が出てくると画面が一気に華やかになります。ラストの展開などは説明的で辛いところもあるんですが、その華やかさのおかげで苦になりませんでした。相変わらずの石坂浩二や加藤武は安心して観られますし、大滝秀治、三木のり平、小林昭二といった常連組の出演も嬉しくなります。

 個人的には、僕の父親の地元である岡山の地名や言葉が多々出てくるので、こればかりはひいき目に見てしまいました。それでなくても、金田一ミステリの代名詞とも言えるもの悲しい空気が映画全編から感じられる、非常にオススメの一本です。ミステリファンならずとも、ぜひ。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、岸恵子、若山富三郎、仁科明子、北公次、渡辺美佐子、辰巳柳太郎、草笛光子、原ひさ子、川口節子、中村伸郎、加藤武、常田富士男、大滝秀治、三木のり平、小林昭二
20060321 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

犬神家の一族

 角川書店の映画進出第一作目。市川監督の独特のタッチが見事であり、探偵金田一耕助のキャラクタも人気を博すなどしてヒットを記録したミステリの秀作。

 横溝正史原作の金田一耕助シリーズは、日本ならではの因習とドロドロとした人間関係が魅力で、犯人当てよりドラマとしての面白さが強いのですが、市川監督はそこに可能な限りエキセントリックな演出を施し、キャラクターも分かり易く造形することで映画向きに仕立て上げています。76年の映画とは思えないほどキレのある編集や、後に数々の模倣を生み出す極太明朝体によるタイポグラフィなど、映画らしい手応えのある映像がとにかく見事。大野雄二の伸びのある音楽も手伝って、大衆性と作家性を兼ね備えた希有な作品になりました。
 金田一を演じた石坂浩二を始め、出演陣もかなり豪華。高峰三枝子の熱演は、一度この映画を見た人なら忘れ難いものです。後にシリーズ常連となる加藤武、地井武男、大滝秀治、草笛光子、三木のり平などの演技も、それぞれにツボを心得ていて平坦なシーンも飽きさせません。あと個人的に好きな岸田今日子の演じたお琴の先生が、やはり抜群の存在感で凄いと思いました。

 最初に観たときは、ここまでエネルギッシュな作品が日本にも作れることに驚かされました。傍観者としての探偵に歯がゆさを覚える人には向きませんが、ともかく記憶に残る作品なのは確かでしょう。日本映画史に残るミステリとして、未見の方はぜひ。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、高峰三枝子、三条美紀、草笛光子、あおい輝彦、島田陽子、地井武男、加藤武、大滝秀治、三木のり平、坂口良子、岸田今日子、角川春樹、横溝正史、三国連太郎
20060320 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アニマル・ファクトリー

 エドワード・バンカーによる自伝的小説を、クセもの俳優スティーヴ・ブシェミが監督もこなして映画化。豪華な俳優陣が圧巻な、身に染みるドラマでした。
 シナリオは刑務所の日常を淡々と描くだけで、映像や音楽も非常に素っ気ないので普通なら忘れ去られる作品なんでしょうが、逆にその淡々とした雰囲気が俳優の魅力を真正面から描き出していて惹きつけられました。無理矢理盛り上げようとしないだけ、刑務所内の人々の意見がダイレクトに伝わってきます。刑務所の中で力強く生きる彼らの日常は、人間社会を見つめ直すきっかけにもなりました。更に、エドワード・ファーロングとウィレム・デフォーの友情物語も印象的。ある意味こちらだけでも、観る価値はあります。

 まあ友情物語は措くとして、全体にひたすら渋い映画でした。分かりやすい感動ものではなく、見終わって少し考え込むような内容です。出演者に興味がある人にはオススメ。

監督:スティーヴ・ブシェミ
原作:エドワード・バンカー
出演:エドワード・ファーロング、ウィレム・デフォー、ダニー・トレホ、シーモア・カッセル、スティーヴ・ブシェミ、ミッキー・ローク
20060317 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

永遠のマリア・カラス

 不世出の天才オペラ歌手マリア・カラスを、かつて彼女の友人であったフランコ・ゼフィレッリ監督が敢えて架空のストーリーで綴った作品。ゴシップを排し、歌手としての葛藤に絞った着眼点は良いものの、演技以上に心に響くテーマが無いのが残念でした。
 とにかくこの映画は、主演のファニー・アルダンの魅力に尽きます。「8人の女たち」でも異彩を放っていたものの、この映画での彼女の存在感はそれを上回るもので、伝説のオペラ歌手を余すところなく体現しています。カラスの葛藤などに関するドラマ的な掘り下げがあくまで通り一遍なのもあって、ただただアルダンの演技に見とれるばかりでした。カラスに思い入れがある人ならそれで十分楽しめるでしょうが、知らない人が観たら辛いところです。惜しい。

 劇中で流れる「カルメン」の出来が素晴らしく、もしそれだけで一つの映像作品になっているのなら発表してほしいぐらいでした。DVDには収録されていないみたいですが…。

監督:フランコ・ゼフィレッリ
出演:ファニー・アルダン、ジェレミー・アイアンズ、ジョーン・プロウライト
20060311 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

アイデン&ティティ

 みうらじゅんの同名コミックを、氏の盟友田口トモロヲが監督した青春バンド・ムービー。主演の峯田和伸の説得力ある演技のおかげで楽しめました。

 この手のジャンル映画としては非常に典型的な内容なものの、ボブ・ディラン風の”ロックの神様”がアクセントになっていて飽きさせません。反則くさいんですがディランの詞を引用したりして、ロックファンは堪らないのでは。そして主演の峯田和伸を始め、バンド経験者中心に選ばれた出演陣も良い。商業主義とポリシーとの板挟みになって悩むなんてあまりに定番な話であっても、実際にバンドやってる連中が演じるんだから説得力あるわけです。
 ストーリーがあまりに直球なのと、僕自身バンド経験者じゃないのもあってそれほど心には響かなかったんですが、バンドやってたらまた感想も違ったかも知れません。しかし宮藤官九郎の脚本は、相変わらず何か足りない感じがします。キレイに収まりすぎで。

 ちょっとずつ顔を出す(おそらく音楽関係の)有名人も見物。浅野忠信は相変わらずですが、ボカスカジャンの扱いはハラハラさせられました。とりあえず、青臭いロックに共感できる人と、ディランで無条件に泣ける人なら観て損はないかと。

監督:田口トモロヲ
原作:みうらじゅん
出演:峯田和伸、麻生久美子、中村獅童、大森南朋、マギー、コタニキンヤ、岸部四郎、大杉漣、あき竹城、塩見三省
20060223 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

アカルイミライ

 黒沢清監督・脚本による、真摯なテーマを孕んだドラマ作品。共感を持てる人には面白いんでしょうが、僕はこの映画のテーマには全く共感出来ませんでした。

 主人公・仁村の無目的ぶりが、まずダメ。自分を制御出来ない、しかもそれに不満を覚えつつ何もしない人間には興味がないので、彼がどんなに右往左往しても全く心に響きません。クラゲの存在も、無駄にファンタジーで軽薄に感じましたし、イギリス映画みたいな、彩度が低く粒子の粗い映像もイマイチでした。安直に解決させないのは評価しますが、それにしてもラストのシークエンスは不要。もしくは、そのシークエンスだけで映画のテーマは表現できていたと思います。
 現実と向き合えない現代の若者がテーマなのでしょうが、その弱さなどに共感出来ない、敷かれたレールを踏み外すのに慣れている人間には全く価値が分からない映画だと思います。こういう映画が出てきてしまう事自体、日本がまだ文化的に成熟していない証拠ではないか、と考えたり。早熟かつ未熟な、東京らしい映画とも言えます。

 浅野忠信演じる有田のキャラクターは良い。こういう人には「ついていきたい!」と思えます。北村道子の衣装も相変わらず良かった。でも、それ以外には見るものはなかったなあ、と。オダギリジョーが好きな人は、割と共感出来るかもしれませんが。

監督:黒沢清
出演:オダギリジョー、浅野忠信、藤竜也、りょう、はなわ
公式サイト
20060219 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

姑獲鳥の夏

 京極夏彦による人気ミステリ小説を、奇才実相寺昭雄監督で映画化。原作既読者に向けた映画ではあるものの、オカルト的な長広舌や実相寺映像が好きな人には、なかなか楽しめる内容でした。

 長い原作の大半は京極堂の喋りだけなので、どう映像化するのかと危惧していましたが、さすが実相寺監督。あの長文をきっちり喋らせつつ、奇抜なカメラワークで巧みに場面を繋いでいて、飽きさせない構成になっています。展開が単調で盛り上がりに欠ける気もしますが、もともと原作がキャラ萌え中心のライトノベルのようなものなので、山場を期待するのは間違い。原作のキモはきっちり映像化しつつ、最後まで雰囲気を崩さないセンスは驚嘆ものでした。
 豪華なキャストも役の雰囲気に合っていて、かつ全体に漂う昭和臭さが堪りません。特に堤真一は想像以上にハマり役でした。もう少し脚本にまとまりがあれば最高だったんですが、それで変にお行儀良くなるのも嫌なので我慢します。

 あまりに凝りまくった映像は目が疲れそうですが、僕はこのぐらい凝ってくれた方が好みなので万々歳。ひたすら美学を追究した映像と、豪華なキャストに面白みを見いだせる人にはオススメです。次の「魍魎の匣」も、このメンバーで映像化してくれないかなあ。

監督:実相寺昭雄
原作:京極夏彦
出演:堤真一、永瀬正敏、原田知世、阿部寛、宮迫博之、田中麗奈、松尾スズキ、恵俊彰、荒川良々
公式サイト
20060207 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

エイリアン3

 CF界で活躍していたデヴィッド・フィンチャー監督の長編映画デビュー作であり、今でもファンの間からはいろいろと非難され続けれいるシリーズ第三作。でもこれ、僕は好きです。
 脚本が何回も書き直されたとかラストを撮り直したとか、試行錯誤の末に出来上がった作品だけあって映画自体も混乱を極めているものの、フィンチャー監督の荒削りながら突出したセンスを感じられる秀作だと思います。確かに物語の焦点が定まらないという欠点はありますが、宗教的でレトロフューチャーな設定やビジュアル、グロテスクかつ精神性にこだわる残酷描写などは、シリーズ中でも抜群の完成度。設定やキャラクターを描き切れていない観はありますが、映像の端々に表れる作り込みからは、刑務所惑星という空間の広がりも感じられます。エイリアンとリプリーの関係も語りすぎないところが丁度良い。ラストも、あれこそ英断と言いたいんですが……。

 エンターテインメントを求めて観れば確かに突っぱねられますが、一作目の精神を生かしつつ付加価値を与えることが出来た、正統な続編だと考えています。二作目が好きな人には否定派の多い映画ですが、二作目を受け入れられなかった人にはむしろオススメのホラーかと。

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:シガニー・ウィーヴァー、チャールズ・S・ダットン、ランス・ヘンリクセン
20060204 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -