★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ブラザーズ・グリム

 「ラスベガスをやっつけろ」以来、実に7年ぶりとなるテリー・ギリアム監督の作品。「バロン」ばりのメルヘン超大作で、監督ならではの毒は控えめなものの、映画としては普通に楽しめる良作でした。

 製作会社側からかなり圧力を受けたようで、俳優のチョイスもストーリーも、それどころか広告展開までライトな大作映画のノリですが、細かいところにギリアムならではの皮肉が効いています。何しろ舞台からしてドイツとフランスのいがみ合いですから、モンティ・パイソンからのファンとしては始終笑わされっぱなしでした。グリム童話のオールスターといった節操のないフィーチャーの仕方も洒落が効いていて、ギリアムらしい凝りまくりの美術と衣装も、いかにもな雰囲気の森も、全てが監督の鬱憤をそのままぶつけたかのようなインパクトがあります。
 俳優も見所満載で、主演二人の配役の意外性、ジョナサン・プライスの手慣れた憎まれ役、ピーター・ストーメアのオーバーアクトと”イタリア訛りのフランス英語”などなど。モニカ・ベルッチも見事に女王になっていますし、子供達も可愛いし、相変わらずギリアム監督は俳優の魅力を引き出すのが巧みですね。

 どんなに隠そうとしても見えてしまう「ギリアム色」にファンとしては嬉しくなってしまいました。これだけの大作を、渋々ながらもソツなく撮り上げてしまうのは、ギリアム監督が映画に対する情熱を失っていない証拠です。ダークなオチや泥沼の精神描写は次回作以降に期待するとして、ここはギリアム監督の帰還を拍手で迎えたいところです。

監督:テリー・ギリアム
出演:マット・デイモン、ヒース・レジャー、レナ・ヘディ、モニカ・ベルッチ、ジョナサン・プライス、ピーター・ストーメア
公式サイト
20051127 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ドリヴン

 レニー・ハーリン監督がシルベスター・スタローンと組んで撮り上げたF1レース映画。単純バカレース映画を期待していたせいか、劇場で観たのが良かったのか、なかなかに楽しめました。

 何より、監督が苦手なセット撮影を一切行っていないのがミソ。撮っている題材自体の力強さも映像に負けていないので、観ていて騙されている感じがしませんでした。割り切りすぎの演出も、F1のスピード感を表現するためには必要かも、と思えてくるほどの勢い。ティル・シュヴァイガーの憎まれ役っぷりとスタローンの脇役っぷりも良いし、ドラマも単純で変に頭を使うことがありません。音楽がうるさいという噂でしたが、僕は気になりませんでした。
 難を言うなら、カット割りが激しくて何が起きているのか分からないのと、素人目には車を見ただけではチームの区別がつきにくいこと。でもそれは勢いで誤魔化して、ストーリーも適当にうっちゃって、全編をスピードとクラッシュで押し切るという監督の意図は充分表現できていると思います。「プロのレーサーがそんな無茶をやるかよ」というツッコミが必要かどうかは観た人の判断ですが、そこを我慢できるなら面白いのでは。

監督:レニー・ハーリン
出演:シルベスター・スタローン、キップ・パルデュー、エステラ・ウォーレン、バート・レイノルズ、ティル・シュヴァイガー
20051125 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

バロン

 鬼才テリー・ギリアム監督による、荒唐無稽さにかけては随一の傑作メルヘン。原作は、ドイツでは知らない人はいないほど著名な「ほら男爵」ミュンヒハウゼンの物語。僕もこの原作は大好きですが、その無茶な妄想世界を、ギリアム監督はこれ以上ないほど見事に再現しています。

 音より速く走る男や、首の取れる月の大王、ロープを下ろして月から降り、大砲の弾に捕まって自陣と敵陣を往復……とまあ、どんな絵になるのか聞いただけでは分からないようなものを片っ端から映像化し、どれもそれなりに説得力を持たせているところが凄い。また、断片的なエピソード群である原作を、一つの物語としてまとめるために付け足された物語も秀逸。劇中劇を否定するバロンの登場シーンから始まって、ほら話が現実を凌駕するラストは、ギリアムらしい皮肉とカタルシスに満ちています。

 実は豪華な俳優陣も見物。特にバロン役のジョン・ネヴィルは、原作の挿し絵にそっくりで驚きました。制作当時は予算オーバーなどで大変だったようですが、これだけの映画を後世に残せるのなら、それも仕方がないところでしょう。

監督:テリー・ギリアム
出演:ジョン・ネヴィル、サラ・ポーリー、エリック・アイドル、オリヴァー・リード、ユマ・サーマン、ロビン・ウィリアムズ、ジョナサン・プライス、スティング
20051117 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ロード・オブ・ザ・リング

 ピーター・ジャクソン監督が長年の「指輪物語」ファンの夢を結実させた超大作。3部作を最初に全て撮影してしまって、1年ごとに1作ずつ公開するという仕組みは、よくもやったりという大企画です。ただ原作を未読だったせいか、展開が突飛すぎて楽しめませんでした。

 確かに所々で魅せる場面もあるのですが、会話シーンとアクションシーンでメリハリが利いてなかったり、被写界深度も慣性の法則もそっちのけのCG風景がミニチュアみたいに見えたりと、的はずれなカメラワークのせいで損をしている場面が目立ちます。台詞回しも原作未読者が理解できないほど濃縮されていて、人物の魅力もいまいち分かりませんでしたし、映画の基本的なところが出来ていないという印象です。何より唐突に挿入されるB級ホラー的演出が笑えてしまって、深刻なシーンでも感情移入が出来ないのはちょっと……。
 大金を投入して作り上げた映像世界にはパワーがありますが、密度が高いだけで工夫は乏しいかと。原作に思い入れもないし、特に好きな俳優も出ていないので、せめてストーリーの不足分を補うような目の覚めるような演出があれば楽しめたのに、と残念です。

 あと、日本公開ではサブタイトルを省くなど3部作であることを伏せたような広告展開で困惑させたり、字幕が原作を尊重していなかったりと、原作ファンのみならず映画ファンも無視したような配給の仕方だったことを付記しておきます。内容も営業も、全てに不満点の多い映画でした。

監督:ピーター・ジャクソン
原作:J・R・R・トールキン
出演:イライジャ・ウッド、イアン・マッケラン、ヴィゴ・モーテンセン、オーランド・ブルーム
20051116 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

レジェンド/光と闇の伝説

 映像に定評のあるリドリー・スコット監督の手がけたファンタジー映画。こんな映画を撮れるのはこの監督だけでしょう。典型的なハイ・ファンタジーの世界を、見事に映像化しています。

 魔王に妖精にユニコーンという、コテコテのファンタジーを堪能できるのがこの映画最大の魅力。他には何もないのですが、その割り切り方が潔いと思いました。多数のクリーチャーが出てこようが無数の綿毛が森に舞っていようが、お構いなしで美しい映像にしてしまうのは流石。リドリー・スコットというと殺伐とした映像が印象的ですが、初期の映画ではむしろ幻想的なシーンの魅力が際立っていると思います。あまりに紋切り型の物語ですが、ヨーロッパ版にはかなりの追加シーンがあるそうで、それを観れば評価が変わるのかも。
 主演のトム・クルーズの、キレイな顔立ちが作品世界に見事にハマっています。ティム・カリーの演じる魔王も迫力があって、まさにファンタジー映画の教科書的作品でした。純粋にファンタジー世界を楽しみたいのであればオススメです。

監督:リドリー・スコット
原作・脚本:ウィリアム・ヒョーツバーグ
出演:トム・クルーズ、ミア・サラ、ティム・カリー
20051115 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ミミック

 メキシコ出身のギレルモ・デル・トロ監督による、異色のクリーチャー・ホラー。虫が苦手な人には悪夢のような映画ですが、映像が良いせいか宗教的な味付けのおかげか、同ジャンルの作品の中では突出している印象です。

 いわゆる「エイリアンもの」の流れに沿う作品。物語の発端が独特なうえ、キャラクターごとの動機付けも確かなので非常に新鮮でした。見た目より精神的にグロテスクな描写も良い。クリーチャーデザインとか、ニューヨーク地下の描写などにもセンスを感じます。ただ前半に期待させる要素が多いだけに、後半ありきたりな内容になってしまったのが残念。カメラワークなどは巧みで、なかなか怖がらせてくれるんですが……。
 地味に豪華なキャストも見物。ノーマン・リーダスとかF・マーレイ・エイブラハムとか、なんで出演してるんだろう。あとオトコノコも可愛いし、実はキャラ萌え映画として観ても楽しめるのかもしれません。それにしては怖すぎますが。

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ミラ・ソルヴィノ、ジェレミー・ノーサム、ジャンカルロ・ジャンニーニ、F・マーレイ・エイブラハム、ノーマン・リーダス
20051114 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ザ・グリード

 スティーヴン・ソマーズ監督による海洋クリーチャーもの映画。まさしくB級映画万歳! という出来で、とても楽しめました。
 俳優は安っぽく、クリーチャーの作り込みも甘く、セット自体もペラペラで予算が下りなかったのかなと思いましたが、それを覆すほど良くできた展開で、特にクリーチャーが登場してからはずっと盛り上がりっぱなしでした。ここまで緊張を持続できる演出力は珍しいのでは。過去の定番を踏襲しつつ新たな演出を絡めていたり、オチも一ひねりしてあるあたり、この手の映画のなかでは際立っています。ただどうもA級スリラーを狙おうとしているのか、いらないとこに力を注いでいるような節もありました。

 脚本が的外れながらもいいなー、と思っていたらこの監督さんが脚本も兼ねているようで。ああなるほど、そういうところを買われたんだな、と。若いころのジェームズ・キャメロンと似ているかも。キャメロンよりB級っぽさが強く、真面目なシナリオには似合わなさそうですが。

監督:スティーヴン・ソマーズ
出演:トリート・ウィリアムズ、ファムケ・ヤンセン、ケヴィン・J・オコナー、ジェイソン・フレミング
20051113 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ハリー・ポッターと炎のゴブレット

 イギリスの同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第4作。試写会にも行きましたが、面白かったので劇場でもう一度観てきました。今回はシリーズ初の英国人監督ということで、過去の作品よりもイギリスらしい空気感が見事。相変わらず端折られた物語も映画としての見どころは豊富で、原作ファンとしては大満足の内容でした。

 映画の冒頭、ロケ撮影の部分の瑞々しさが目を惹きます。望遠や広角を巧みに使い分け、随所に遠景からのダイナミックなシーンを挿入しているため、風景のみの描写が減ったにも関わらず、今までで一番「空間」を感じる映像になっていました。俳優の演技も良くなっていますし、原作にはないユーモラスな会話が散りばめられた秀逸な脚本もあって、本当に主人公たちがホグワーツ魔法学校の中で生活しているような現実感があります。この、現実を反映した説得力のある学校生活こそ原作最大の魅力なので、映画もきちんと「ハリー・ポッター世界」になっていて納得の仕上がりでした。
 それにしても「死喰い人」の描写など、今回も説明不足の感は否めません。そろそろ原作ファンか旧作からのファンぐらいしか観ていないので、3時間ぐらいに上映時間を延ばしてもいいのでは。今回は映画自体が良くできているだけに、そこに不満が集約してしまいました。

 ともあれ、シリーズの「山場」とも言える今作を見事に映像化したマイク・ニューウェルの手腕には脱帽。映画としても原作の再現としても、シリーズで一番の出来ではないでしょうか。試写会では終了後に拍手まで起こっていましたし。主演の3人を始め子供達も相応に成長していて(ネビルは伸びすぎですが)、次の映画が今から楽しみです。

監督:マイク・ニューウェル
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、マイケル・ガンボン、マギー・スミス、アラン・リックマン、イアン・ハート、ロビー・コルトレーン、デヴィッド・シューリス、ゲイリー・オールドマン、ブレンダン・グリーソン、レイフ・ファインズ
公式サイト
20051112 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターとアズカバンの囚人

 同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第3作。今回は監督が「天国の口、終わりの楽園」のアルフォンソ・キュアロンに交代して、前2作よりも凝った演出が目立つ作品に仕上がっています。

 上映時間が一気に短くなったため、相変わらず原作を読んでいるのが前提のような説明不足さが目立ちます。心情描写に時間を割いている点は良かったんですが、それも原作ファンじゃないと分かりにくいのでは。ただ今回はゲイリー・オールドマンがシリウス・ブラックを演じているというだけで、もう僕としては気絶するほど嬉しいのです。しかもルーピン先生がデヴィッド・シューリスだというのもツボ。主演の3人をはじめ子役達も相応に成長して、服装や髪型にも凝ってみたりと映像的にも新鮮でした。リチャード・ハリスの急逝でダンブルドア校長役はマイケル・ガンボンに交代しましたが、こちらもしっかりした演技で違和感ありません。
 先述した心情描写もそうですが、今回は原作にない演出があって、でも世界観を壊さずに映画的な味付けをしているという印象で好感が持てました。きちんと「映画」になっているという感じ。ただ映画の質が上がると、原作にあるような感動が半減しているのが余計残念に感じられます。ああああそこはもっとこう、こういうカタルシスがあるのに……と。

 ちなみに、この3作目は子供には不評のようです。あまり映画を見慣れていない子供にとっては、繊細で凝った演出は邪魔なだけなのかも。なかなか難しいですね。ともあれ、3作目までは及第点で来ているので、このまま続けて欲しいシリーズではあります。

監督:アルフォンソ・キュアロン
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、マイケル・ガンボン、マギー・スミス、アラン・リックマン、ロビー・コルトレーン、ゲイリー・オールドマン、デヴィッド・シューリス
20051111 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターと秘密の部屋

 同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第2弾。相変わらず原作に忠実なうえ、前作よりも分かりやすいお話なのでファンならずとも楽しめるのでは。スタッフはほぼ前作と同じで、撮影監督がロジャー・プラット(「未来世紀ブラジル」「バットマン」など)に変わったぐらい。大物キャストではケネス・ブラナーとジェイソン・アイザックスが新たに加わっています。

 少しホラー色の入った原作を反映した、ダークな画面や物語展開は見応え充分。ただ、前作より10分ほど上映時間を増やしたのにも関わらず、それ以上に原作もボリュームアップしているので、展開が駆け足の印象はぬぐえません。原作にあった精神的な描写も控えめで、何となく物足りない感じでした。それは原作を読んでいるから感じる不満なのかも知れませんが、例えばトム・リドルの素性に関することなど、所々で重要な台詞がカットされていた(DVD版の特典映像にはありました)のは、やはりストーリーに穴を作ることなので、ちょっと納得できません。
 でも相変わらず原作に忠実なビジュアルには大満足。イングランド俳優のオールスターとも言うべき豪華なキャストも前作と変わらず出演しているのが、何より嬉しいことです。

 ちなみにDVD版ですが、前回不満だった「ゲームをクリアしないといろいろ見られない」という構成は改まって、いきなりコンテンツが制覇出来ます。専門サイトでは、圧縮率の良さも話題にもなっていました(確かにディスク1枚で160分超の映像は、圧縮を考えないと不可能ですよね…)。特典映像は前回を凌駕する数と再現率で、これが劇場版でも加わっていれば……と残念しきり。というわけで、DVD版は文句なしの出来です。

監督:クリス・コロンバス
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、リチャード・ハリス、マギー・スミス、アラン・リックマン、ロビー・コルトレーン、ケネス・ブラナー
20051110 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -