★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ドーベルマン

 日本アニメのファンというヤン・クーネン監督による、バイオレンス・アクションの秀作。あまりに過激なアクションは好き嫌いが別れそうですが、映像的に非常にレベルの高い作品でした。

 コミックをそのまま映像化したような単純バイオレンス・アクションで、ストーリーなんて存在しないも同然。過去の映画に比べると言葉足らずとも思えるほど状況説明を欠き、キャラクターの魅力だけでひっぱるシナリオは強烈すぎます。しかも繰り広げられるアクションは、知らずに観た人なら途中退場してもおかしくないほど冷酷無比。銀行強盗の主人公もかなりの悪人ですが、対する刑事が輪をかけて極悪なので、その容赦の無さにクラクラしてしまいました。
 ただ、そこから生み出される映像が見事。冒頭の銃に関する演出など、観終わってから思わず人に話したくなるような映像の連続でした。粗の目立つ映像ではあるんですが、ここまでコミカルで斬新なカメラワークも珍しいのでは。映像の力が強すぎるせいか、物語の弱さが強調されてしまうのが惜しいんですが、それでも何度も観たくなるような魅力のある映画です。

 主演は「アパートメント」など多数の共演作があるヴァンサン・カッセルとモニカ・ベルッチ。”神父”ドミニク・ベテンフェルドや、刑事役のチェッキー・カリョの怪演も見所の一つ。過激な映像に堪える自信のある方はぜひ。

監督:ヤン・クーネン
原作:ジョエル・ホーサン
出演:ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチ、チェッキー・カリョ、ドミニク・ベテンフェルド
20060115 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ギャラクシー・クエスト

 ドリーム・ワークスの設立初期に制作されたSFナンセンスコメディ。公開当時はあまりの地味さにノーマークでしたが、観てみたらかなり凄い、というか観ていなかったことを後悔しました。

 とにかく笑いのセンスが濃すぎなくて、そのくせ常にチクチクと細かいところを攻められるような気の利いた脚本がたまりません。登場人物全員が分かりやすいジレンマを抱えていて、それを観客に端的に伝えたあとは、あまり執着せずに人物の魅力と小ネタで畳み掛けているのが良かった。プロット自体はありきたりな正統派ドラマなんですが、そういった作りこみの良さと小ネタの楽しさで、ついつい感情移入してしまいました。
 役者では、何と言ってもアラン・リックマンの演じるドクター・ラザラスが最高! コメディも出来る人だとは知っていましたが、まさかここまで開き直るとは。ミッシー・パイル演じる女性エイリアンの不気味な笑顔も記憶に残ること請け合いです。

 惜しむらくは、この映画のパクり元である「スター・トレック」を僕が全く知らないこと。知らなくても十分楽しめる映画だとは思いますが、知っていればもっと楽しめたかなと。ともあれSF映画ファンなら必見の一本です。

監督:ディーン・パリソット
出演:ティム・アレン、シガニー・ウィーバー、アラン・リックマン、トニー・シャローブ、ダリル・ミッチェル
20060102 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

コンタクト

 90年代のハリウッドSF映画の中では出色といえる、ロバート・ゼメキス監督のSF映画。原作は、NASA出身のカール・セーガンによるベストセラー小説。真摯なドラマが感動的で、現代SF映画のお手本のような作品です。

 自由自在に動き回るカメラや、情緒溢れるSFX描写もなかなかの見所ですが、むしろ”宇宙人”からのコンタクトに対する”地球人”の反応がリアルで怖いほどでした。ジョディ・フォスター演じる主人公の天文学者と、彼女の功績を横取りしようとする人々、政府機関の対応など、現実的な展開があるから終盤の展開にも重みが出てくるのだと思います。数々の名台詞や宇宙人からのメッセージの”らしさ”もSFとしての説得力を高めていました。
 役者としては、準主役を演じたマシュー・マコノヒーが性別を越えた魅力を発揮していたことと、主人公の父親役のデヴィッド・モースがこれまた包容力のある父親役をうまく演じていたのが良かった。特にマコノヒーは他の映画での役どころが陳腐なだけに、その変わりように驚かされました。フォスターと並んだときの絵面も良いですし。

 科学的なアプローチもさることながら、人間の描写にも長けた良質のSFでした。この明日にでも現実に起こりそうな設定を、軽くなりすぎない程度にドラマティックに演出したゼメキス監督の実力のほどが窺い知れます。原作者のカール・セーガン氏は完成を待つことなく亡くなってしまいましたが、代わりにこの作品が、新たなSFファンを多く生み出すことでしょう。

監督:ロバート・ゼメキス
監督:カール・セーガン
出演:ジョディ・フォスター、マシュー・マコノヒー、デヴィッド・モース、ジョン・ハート、ジェームズ・ウッズ
20051228 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

メトロポリス

 映画黎明期の巨匠フリッツ・ラングによる、SF映画の金字塔。無声映画時代の作品なので、現代のエンタテイメント作品に比べれば見劣りはするものの、未だに様々な模倣を生み出すほど魅力的なビジュアルと世界観は、映画好きなら避けては通れないものです。
 資本家と労働者の対比がそのまま場所の違いとして描かれた世界設定が秀逸。高架が何本も渡された未来都市の清潔さと、地下の巨大機械の悪魔的なデザインの対比は印象的です。ロボットというSF的な要素が反乱の動機付けになる、現代に通じる感覚も凄い。それだけに、物語が終盤で失速するのが残念でした。まあ当時ドイツではナチスが台頭しつつあったので、仕方のないところではあります。どのみち落としどころの難しい話ですし、SFの可能性を広げただけでも功績といえるのでしょう。

 84年には、音楽を乗せ、フィルムに着色を施したバージョンが公開されていますが、やはりオリジナルのモノクロ・サイレントの方が趣があります。まさにSF映画の原点と言える作品。

監督:フリッツ・ラング
出演:アルフレート・アーベル、ブリギッテ・ヘルム、グスタフ・フレーリッヒ
20051227 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

1984

 ジョージ・オーウェルによって1949年に書かれたSF小説を、表題の1984年に映画化したという作品。ビッグ・ブラザーというリーダーの下に統制の敷かれた未来像が衝撃的でした。原作のテーマは様々な映画で応用されていますし、この映画自体、多数のオマージュを生み出したSF映画の隠れた名作です。

 全体主義からの逃亡というのはSFにおける普遍的なテーマの一つですが、そのテーマが端的にまとめられていて、非常に骨太な印象でした。とことん暗く救いのない世界が綴られる中で、愛だけが唯一の救いとして描かれているのが感動的。都市の荒廃ぶりや支配者の絶対性を、説明的な描写を用いずに映像の端橋から感じさせる演出も、映画の格を引き上げています。小説を読んだ方がテーマをより理解できるのでしょうが、映画だけでもその趣旨は充分表現できている、と感じました。
 全体に暗澹としていて退屈な映画ですが、ハードSFが好きな人ならその重厚さを楽しめるはず。ビデオもDVDも国内では絶版なのが残念です。レンタル店では稀に見かけるので、気になる方は是非。

監督:マイケル・ラドフォード
原作:ジョージ・オーウェル
出演:ジョン・ハート、リチャード・バートン、スザンナ・ハミルトン、シリル・キューザック
20051224 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ブレードランナー

 リドリー・スコットの名声を確実なものにした、SFサスペンスの傑作。80年代SF映画の最高峰のひとつで、荒廃した世界観とハードボイルド的な物語の組み合わせが見事です。

 冒頭から、もの凄く広がりのある近未来空間に目を奪われました。空を飛ぶスピナーや広告塔のイメージは、これまでのどんなSF映画よりも説得力がありますし、廃墟のようなビルと酸性雨は「未来は光に満ちている」という妄想が終焉を迎えたことを端的に表現しています。この斬新なイメージが当時のSF映画に与えた影響は絶大で、以降の作品は全てこの映画を踏まえていると言っても過言ではないほどです。
 物語も、ハードSFらしく哲学的なテーマが強く存在していて、それを雄弁に語る主人公のモノローグが印象的でした。レプリカントを演じたルトガー・ハウアーの不気味さは必見。あくまで一つの目標に向かって突き進んでいるレプリカントに対して、追いかける主人公が悩み続けているという構図はそのまんまハードボイルドの定番ですが、そこにSF的な見せ場を絡めてくるところが秀逸でした。

 今観ると古い映画だと感じてしまうところも多々ありますが、記念碑的作品としてSF映画好きなら一度は見ておいて欲しい作品。ちなみに「公開版」、「完全版」、「最終版」と様々なバージョンがある映画ですが、個人的にはモノローグのある公開版が一番好みです。

監督:リドリー・スコット
原作:フィリップ・K・ディック
出演:ハリソン・フォード、ルトガー・ハウアー、ショーン・ヤング、ダリル・ハンナ
20051222 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

キカ

 変態映画を撮らせたら右に出るものはいないペドロ・アルモドバル監督による、何でも有りの恋愛群像劇。サスペンスの要素もありますが、そんな物語の細部なんか吹っ飛ばすセンスの良さが最大の魅力です。

 とにかく平凡な人間が一人も登場せず、人間関係も最悪に複雑になる一方なので、物語中盤まではぐちゃぐちゃぶりを楽しむ映画かと思いましたが、それを終盤で見事に収束させたうえ、とんでもないところに着地させる構成に唸らされます。悲壮なシーンで笑わせながら、きちんと緊張させる場面もあるし、粗いながらもメリハリがしっかりしている映画という印象でした。
 主役のキカにあえてオバサン俳優を配していて、これがいやに色っぽかった。スペイン映画らしい極彩色の内装や、J=P・ゴルチエによる衣装も見どころの一つ。特にヴィクトリア・アブリルの着る過激なファッションは一見の価値有りです。

 ともあれ、理屈でどうこう言うより感じて楽しむ映画かと。それほどネチネチした描写もありませんし、後味も明るい、健全な変態博覧会という感じ。深夜にワインを飲みながら観ましたが、そのノリにぴったりの映画でした。

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ヴェロニカ・フォルケ、ピーター・コヨーテ、アレックス・カサノヴァス、ヴィクトリア・アブリル
20051211 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード

 ロバート・ロドリゲス監督お得意のバイオレンスが満載の”エル・マリアッチ”シリーズ第三弾。今回は豪華キャストを揃え、アクションも多彩になって盛りだくさんの内容でした。

 バンデラスを始め、粋なラテンの男たちがギターを弾きながら華麗なガン・アクションを繰り広げる、というただそれだけの映画ですが、それが格好いいのです。クーデターやCIAや元FBIといった要素が凝縮された物語は、追いついていくのが大変なほどの密度。しかし後半乱戦になってからは立場よりも個人間の戦いになり、あとは粋なヤツしか生き残れないんだとばかりにバタバタと人が死んでいきます。その思い切り具合が最高!
 常連組のダニー・トレホが相変わらず不敵に活躍するのも嬉しいところですが、ミッキー・ロークやウィレム・デフォーといった新規参入組も嬉しい渋さ。そしてやっぱりジョニー・デップが凄かった。中盤までは「こんなもんか」というキャラクターでしたが、これが化ける化ける。もちろんバンデラスは撃っても弾いても嘘のような色っぽさ。とにかく見栄の切り方ひとつとっても画になる俳優ばかりで、ひたすら見とれているうちに映画が終わっていました。もっと観ていたかった〜。

 細かいところかもしれませんが、あくまで「メキシコ」に固執する台詞回しが印象的でした。子供に対する視線が優しかったり、タイトルに "Once upon a time in..." とあるあたりから察するに、これはロドリゲス流のヒーロー映画なのでしょう。こういう、愛のあるバイオレンスは好きです。

監督:ロバート・ロドリゲス
出演:アントニオ・バンデラス、サルマ・ハエック、ジョニー・デップ、ミッキー・ローク、ダニー・トレホ、ウィレム・デフォー
公式サイト
20051210 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ウェールズの山

 ウェールズ出身のクリストファー・マンガー監督が、出身地に伝わる逸話をもとに映画化したコメディ。”丘を登り、しかしながら山から降りてきた英国人”という意味の原題もユニークですが、内容もそれに負けないほど笑えて感動できる傑作でした。

 ひたすらブラックで渋い笑いが続く展開こそブリティッシュ・コメディの真骨頂で、これもそのうちの一つ。しかもウェールズの田舎臭い村が舞台となれば、それはもう巨大な笑いの渦が待ちかまえているのです。どうでもいいけど現地人にしてみれば大問題、を延々と回りくどく、しかし面白おかしくやれるのは、もはやこの国以上に無いでしょう。主演のヒュー・グラントは相変わらずのスっとぼけぶりですし、その他の登場人物の奇妙さもバランス良く決まっていて、とにかく随所で笑わせてくれる良質のコメディでした。
 公開当時の、ブリティッシュ・ポップ・ムービーの隆盛には逆らう流れですが、こういう伝統的な面白さを維持している作品も作り続けて欲しいところ。とにかく笑いたい人にはお薦めです。

監督:クリストファー・マンガー
出演:ヒュー・グラント、タラ・フィッツジェラルド、コルム・ミーニイ、イアン・ハート
20051205 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

いつか晴れた日に

 台湾出身のアン・リー監督が、イギリスを代表する作家ジェーン・オースティンの「分別と多感」を映画化したラブ・ストーリー。典型的なコスチューム劇ですが、その良さを満遍なく盛り込んだ秀逸な作品でした。

 定石ながらも楽しめる脚本は、原作を主演のエマ・トンプソンが脚色したものでアカデミー脚色賞に輝いています。イギリスならではの、機知に富み皮肉のきいた台詞まわしと特徴的な登場人物がかなりツボでした。そしてあまり出てこないのに、圧倒的ないい人ぶりを発揮しているヒュー・グラントはファンなら必見。はにかみ顔とどもり口調が全開で、好きな人にはたまりません。ケイト・ウィンスレットとアラン・リックマンのカップルも微笑ましくて見応えがあります。観る前はどうせ恋愛映画なんてと馬鹿にしていましたが、観始めたら二つのカップルの悲喜こもごもにいちいち感情移入してしまいました。
 原作も読もうとしたんですが、そちらは人々の描写が濃すぎて断念しました。逆に、原作を諦めた人でも楽しめる映画になっているということでしょう。原作のエッセンスは生きているので、深読みして家族のあり方とか人間の尊厳とかを考えることもできますが、単純に恋愛映画として突出した作品でした。

監督:アン・リー
原作:ジェーン・オースティン
出演:エマ・トンプソン、ケイト・ウィンスレット、ヒュー・グラント、アラン・リックマン
20051204 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -