★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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獄門島

 市川崑監督による、石坂金田一シリーズ第三弾。安心してみられる定番の構成ですが、返って新鮮さが薄れてしまったのがちょっと残念かも。
 前二作の良いところを合わせたような構成で、お家騒動も人情もきちんとこなしつつ、“呪われた島”での惨劇をショッキングに描写しています。市川監督のツボを心得た映像といい、相変わらずの石坂金田一といい、とても安定感のある内容でした。ただ、各要素に突出していた前二作に比べると精彩を欠く印象もあります。犯人が原作と違うというのも、とってつけたような感じで微妙。それでも十分インパクトのある内容なのは、やはり市川監督のセンスがそうさせているんでしょうか。

 加藤武、大滝秀治、坂口良子、三木のり平といった常連俳優の顔を拝むだけでも観る価値のある映画でした。池田秀一が出演していたというのも驚き。あと、犠牲者の殺され方がシリーズ中でも屈指の懲りようなので、そのあたりも注目です。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、司葉子、大原麗子、ピーター、東野英治郎、浅野ゆう子、上條恒彦、草笛光子、佐分利信、内藤武敏、池田秀一、加藤武、大滝秀治、坂口良子、三木のり平、小林昭二
20060322 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

アニマル・ファクトリー

 エドワード・バンカーによる自伝的小説を、クセもの俳優スティーヴ・ブシェミが監督もこなして映画化。豪華な俳優陣が圧巻な、身に染みるドラマでした。
 シナリオは刑務所の日常を淡々と描くだけで、映像や音楽も非常に素っ気ないので普通なら忘れ去られる作品なんでしょうが、逆にその淡々とした雰囲気が俳優の魅力を真正面から描き出していて惹きつけられました。無理矢理盛り上げようとしないだけ、刑務所内の人々の意見がダイレクトに伝わってきます。刑務所の中で力強く生きる彼らの日常は、人間社会を見つめ直すきっかけにもなりました。更に、エドワード・ファーロングとウィレム・デフォーの友情物語も印象的。ある意味こちらだけでも、観る価値はあります。

 まあ友情物語は措くとして、全体にひたすら渋い映画でした。分かりやすい感動ものではなく、見終わって少し考え込むような内容です。出演者に興味がある人にはオススメ。

監督:スティーヴ・ブシェミ
原作:エドワード・バンカー
出演:エドワード・ファーロング、ウィレム・デフォー、ダニー・トレホ、シーモア・カッセル、スティーヴ・ブシェミ、ミッキー・ローク
20060317 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ゴッホ

 画家ゴッホの死の瞬間までを描き出した、ロバート・アルトマン監督による評伝映画。誇張はあるものの、生の人間としてのゴッホを感じられる作品です。

 ゴッホの弟ヴィンセントの視点を交えて描かれる物語からは、”狂気の画家ゴッホ”をあくまで理性的に捉えようという信念が感じられます。ゴッホ芸術の基礎となったオランダの自然がひたすら美しく、また当時の絵画界をかいま見られる数々のエピソードも説得力がありました。
 そして、ゴッホを演じたティム・ロスの演技がとにかく凄い。クセモノ俳優としての本領発揮で、カーク・ダグラス版よりよほどゴッホらしい風格があります。ただ、かえって狂気を強調しすぎた観も。現代の芸術家像である「芸術家=尋常でない人」という図式の走りでもあるんでしょうが、この作品では多少やり過ぎだったような。

 何はともあれ、ゴッホ映画の決定版と言える内容だと思います。ちなみに、ビデオタイトルは「ゴッホ/謎の生涯」。どこが謎なのかは不明。しかも原題は「ヴィンセント&テオ」。どうせサブタイトルを付けるなら、そっち方面で考えて欲しかった…。

監督:ロバート・アルトマン
出演:ティム・ロス、ポール・リス、アドリアン・ブリン、ハンス・ケスティング、ジャン=ピエール・カッセル
20060316 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

サバイビング・ピカソ

 ジェームズ・アイヴォリー監督による、パブロ・ピカソの評伝映画。非常に良い内容に仕上がっているんですが、ピカソだったかというと疑問。
 現代における芸術家のステレオタイプそのもの(女好き、天才的、気まぐれ、高いカリスマ性などなど)であるピカソを映画化するにあたって、アイヴォリー監督は物語を上品にまとめました。それも良いんですが、やはりピカソという題材を考えると物足りなさが残ります。何よりアンソニー・ホプキンスのピカソが落ち着きすぎで、ただの色男にしか見えません。逆にピカソを取り巻く女性たちの方が生き生きしていると思えるほどです。ピカソの芸術観が本筋ではないものの、彼にとっては女性遍歴がそのまま芸術性と結びついている側面もあるので、女性観のみに絞って描かれるとどうしても片手落ちという印象が拭えません。

 フランソワーズを演じたナターシャ・マケルホーンが、飛び抜けて魅力的。役柄もありますが、凛とした女性という言葉が似合います。ピカソをかじったことがある人なら思わず喜びそうな再現シーンもいくつかあるので、興味がある人は是非。

監督:ジェームズ・アイヴォリー
出演:アンソニー・ホプキンス、ナターシャ・マケルホーン、ジュリアン・ムーア
20060315 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

キャリントン

 女流画家ドーラ・キャリントンの半生を描いた評伝映画。男勝りの芸術家に扮したエマ・トンプソンの演技力が光る秀作です。
 同性愛者の男性を好きになってしまった女性の、行動とは裏腹に純粋でひたむきな想いが伝わってきて、恋愛以上に人生そのものについて、深く考えさせられました。気品や哲学性という精神的なテーマを前面に押し出した造りで、ラブシーンが多いのもそれほど気になりません。イギリスの自然や庭園を本当に美しく描き出しているのも効果的で、ついつい画面に見入ってしまいます。20世紀初頭の重苦しい時代背景なども手伝って、なかなか見応えのある評伝映画に仕上がっている、と感じました。

 主演のエマ・トンプソンがとにかく魅力的。気むずかしい人間が主人公なのに楽しく観られたのは、やはりこの人の演技が素晴らしいからでしょう。ジョナサン・プライス演じる作家リットンの、素朴ながら自信に満ちた佇まいも好きです。この二人に興味がある方は是非。

監督:クリストファー・ハンプトン
原作:マイケル・ホルロイド
出演:エマ・トンプソン、ジョナサン・プライス、スティーヴン・ウォデントン、サミュエル・ウェスト、ジェレミー・ノーサム、ルーファス・シーウェル
20060314 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

永遠のマリア・カラス

 不世出の天才オペラ歌手マリア・カラスを、かつて彼女の友人であったフランコ・ゼフィレッリ監督が敢えて架空のストーリーで綴った作品。ゴシップを排し、歌手としての葛藤に絞った着眼点は良いものの、演技以上に心に響くテーマが無いのが残念でした。
 とにかくこの映画は、主演のファニー・アルダンの魅力に尽きます。「8人の女たち」でも異彩を放っていたものの、この映画での彼女の存在感はそれを上回るもので、伝説のオペラ歌手を余すところなく体現しています。カラスの葛藤などに関するドラマ的な掘り下げがあくまで通り一遍なのもあって、ただただアルダンの演技に見とれるばかりでした。カラスに思い入れがある人ならそれで十分楽しめるでしょうが、知らない人が観たら辛いところです。惜しい。

 劇中で流れる「カルメン」の出来が素晴らしく、もしそれだけで一つの映像作品になっているのなら発表してほしいぐらいでした。DVDには収録されていないみたいですが…。

監督:フランコ・ゼフィレッリ
出演:ファニー・アルダン、ジェレミー・アイアンズ、ジョーン・プロウライト
20060311 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

テルミン

 デジタル音源の黎明期に発明され、ホラーやSFといった映画に使われた楽器「テルミン」と、その製作者レフ・セルゲイヴィッチ・テルミン博士を巡るドキュメンタリー。歴史の彼方に忘れ去られようとしていたテルミンを再発見した、貴重な作品です。
 テルミンの音楽性や技術的な話題に終始すると思っていたら、発明者であるテルミン博士の人生の足跡をたどるような内容でした。しかもその博士のたどった人生というのが実に奇妙。ハリウッドで人気を博したと思ったら、スターリンの粛正に巻き込まれ……といった事実を、資料と調査であぶりだしていく丁寧な手法は、ドキュメンタリーとして良くできています。何より半世紀以上の時を経て、再び見いだされた人々と楽器の”再開”には感動させられました。

 世界初の電子楽器テルミンについて、少しでも興味のある方は必見。自らが作り出した楽器と同様、非常に数奇な運命をたどったテルミン博士の人生は、それ自体がファンタジーで驚かされました。なお博士自身は、まるでこの映画が作られるのを待っていたかのように、映画の完成直後に亡くなられています。合掌。

監督:スティーヴン・M・マーティン
出演:レオン・テルミン、ブライアン・ウィルソン、トッド・ラングレン
公式サイト
20060309 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

 ギタリストのライ・クーダーが、キューバ音楽に魅せられて製作した同名のアルバムをめぐるドキュメンタリー。キューバ音楽の、時を経ても色褪せない魅力がたっぷりと詰まった佳作です。
 僕はキューバ音楽に詳しいわけではないので、細かい解説は余所に譲ります。ただ、コンパイ・セグンドやエリアデス・オチョアといったキューバの老ミュージシャンたちの演奏は想像以上にパワフルで、しかも中には90を過ぎた人もいるのになおセクシーなのには驚かされました。音楽で人生を語れる彼らは純粋に魅力的ですし、その言葉の裏にはキューバの過酷な歴史が明確に存在しています。そういった厚みを観客に意識させた上で見せる、ラストのカーネギーでのコンサートは、これはもう反則。全てが美しくて、ただ惚れ惚れするばかりでした。

 もちろんアルバムも購入しました。どの曲も名曲ですね。もう随分聴き込んでいるので、今観ると多分映画の評価も上がってしまうだろうなあと思いつつ、一応初見の時の評価のままで。だって素材の良さが映像を上回ってるんだもの。

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ルベーン・ゴンザレス、イブライム・フェレール、ライ・クーダー、オマーラ・ポルトゥオンド、エリアデス・オチョア、コンパイ・セグンド、ヨアキム・クーダー
20060308 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

散歩する惑星

 カンヌ広告祭等で多くの賞を受賞しているロイ・アンダーソン監督による不条理芸術映画。ペルーの詩人セサル・バジェホの詩に影響されたという物語は、とにかく不条理で何が何だか、でした。
 壮大なるローテクで撮影された映像には独特の荒涼とした味わいがあり、頑張って生きている人々の姿は時に喜劇にすら見えてきます。そういう”普通の人々”に向けた”人生賛歌”のような映画、という点については理解出来るんですが、いかんせん僕のセンスには合いませんでした。きっちり決まった構図とか、漠々として虚無感だけが漂う風景とか、白塗りで計算された動きしかしない人々とか、表現的に惹かれる点は多いだけに残念。

 これを観て思ったのは、「最近人生を嘆かなくなったなあ」ということ。そのときの精神状態を映す鏡のような作品なのかもしれません。励まされたい人とか悩みたい人には打って付けの映画。

監督:ロイ・アンダーソン
出演:ラース・ノルド、シュテファン・ラーソン、ルチオ・ヴチーナ、ハッセ・ソーデルホルム、トルビョーン・ファルトロム
20060301 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

Shall We ダンス?

 周防正行監督による HOW TO もの映画第三弾にして、日本国内に社交ダンスブームを起こしたほどの大ヒット作品。相変わらずゆったりとしたテンポでそこはかとなく笑える映画のムードは最高なんですが、ちょっと豪華になりすぎてしまった感じでした。
 ”ズブの素人が慣れない環境で奮闘しつつ、地道な努力で着実に上達する”というスポ根の基本を丁寧に描写しつつ、その端々でほのぼのとした笑いを誘うところは相変わらず見事。ロマンチックな演出や深みを増したドラマのおかげで、前二作から一気に30分以上も延びた上映時間が気にならないほどでした。ただ、”感動”に比重が置かれてしまった物語は、ちょっと重くていまいち乗り切れません。いくら映画とはいえ、ラストダンスの展開もちょっと辛い。もしかしたら、それまで映画ひと筋だった周防監督が、草刈民代というダンサーに”浮気”した顛末を描いた作品なのかなあ、と邪推をしてしまいました。

 それでも純粋に笑えて感情移入できる立派なコメディなのは確か。何より役所広司の名演と、草刈民代の才能が見事に結実した、大人向けのラブコメに仕上がっているのは万人の認めるところでしょう。竹中直人、渡辺えり子、徳井優といった脇のキャラクターも秀逸。周防監督は、この作品以降沈黙を続けているんですが、ハリウッド版も無事に公開されたことだし、そろそろ新作の話題を聞きたいところです。

監督:周防正行
出演:役所広司、草刈民代、竹中直人、渡辺えり子、徳井優、田口浩正、草村礼子、宮坂ひろし、原日出子、柄本明、本木雅弘
20060227 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -