★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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アバウト・ア・ボーイ

 ニック・ホーンビィの小説を、ポール&クリス・ウェイツ兄弟監督が映画化したドラマ作品。現代のシングル男性を題材にした物語で、全体的に良くできているものの、何かパンチが足りないと感じました。
 主人公ウィルが現状に満足しているような描かれ方なのに、その生活を邪魔する人間に対してことさら神経質にならないところが納得できなかったかなと。完全に引きこもってたら、こういうテーマの映画にはならないので仕方ないんですが。母子家庭とか印税生活といった要素から想定される”暗さ”が意図的に排除されているため、みんな優等生のようで面白くありません。人々の関係性もどこか予定調和的ですし……。シングル男性と冴えない少年の交流という着眼点や、エピソードの選び方はセンスを感じただけに残念。

 ただ、もともと凝ったドラマを期待していたわけではなく、単にヒュー・グラントの演技を観たかっただけなので十分楽しめました。共演者であり本来の主役であるニコラス・ホルトも可愛いし、その点では大満足です。一般受けはしたようだし、お気楽クリスマス・ムービーとしては当たり障りのない出来かと。

監督:クリス・ワイツ、ポール・ワイツ
原作:ニック・ホーンビィ
出演:ニコラス・ホルト、ヒュー・グラント、トニー・コレット、レイチェル・ワイズ
20051208 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ウェールズの山

 ウェールズ出身のクリストファー・マンガー監督が、出身地に伝わる逸話をもとに映画化したコメディ。”丘を登り、しかしながら山から降りてきた英国人”という意味の原題もユニークですが、内容もそれに負けないほど笑えて感動できる傑作でした。

 ひたすらブラックで渋い笑いが続く展開こそブリティッシュ・コメディの真骨頂で、これもそのうちの一つ。しかもウェールズの田舎臭い村が舞台となれば、それはもう巨大な笑いの渦が待ちかまえているのです。どうでもいいけど現地人にしてみれば大問題、を延々と回りくどく、しかし面白おかしくやれるのは、もはやこの国以上に無いでしょう。主演のヒュー・グラントは相変わらずのスっとぼけぶりですし、その他の登場人物の奇妙さもバランス良く決まっていて、とにかく随所で笑わせてくれる良質のコメディでした。
 公開当時の、ブリティッシュ・ポップ・ムービーの隆盛には逆らう流れですが、こういう伝統的な面白さを維持している作品も作り続けて欲しいところ。とにかく笑いたい人にはお薦めです。

監督:クリストファー・マンガー
出演:ヒュー・グラント、タラ・フィッツジェラルド、コルム・ミーニイ、イアン・ハート
20051205 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

いつか晴れた日に

 台湾出身のアン・リー監督が、イギリスを代表する作家ジェーン・オースティンの「分別と多感」を映画化したラブ・ストーリー。典型的なコスチューム劇ですが、その良さを満遍なく盛り込んだ秀逸な作品でした。

 定石ながらも楽しめる脚本は、原作を主演のエマ・トンプソンが脚色したものでアカデミー脚色賞に輝いています。イギリスならではの、機知に富み皮肉のきいた台詞まわしと特徴的な登場人物がかなりツボでした。そしてあまり出てこないのに、圧倒的ないい人ぶりを発揮しているヒュー・グラントはファンなら必見。はにかみ顔とどもり口調が全開で、好きな人にはたまりません。ケイト・ウィンスレットとアラン・リックマンのカップルも微笑ましくて見応えがあります。観る前はどうせ恋愛映画なんてと馬鹿にしていましたが、観始めたら二つのカップルの悲喜こもごもにいちいち感情移入してしまいました。
 原作も読もうとしたんですが、そちらは人々の描写が濃すぎて断念しました。逆に、原作を諦めた人でも楽しめる映画になっているということでしょう。原作のエッセンスは生きているので、深読みして家族のあり方とか人間の尊厳とかを考えることもできますが、単純に恋愛映画として突出した作品でした。

監督:アン・リー
原作:ジェーン・オースティン
出演:エマ・トンプソン、ケイト・ウィンスレット、ヒュー・グラント、アラン・リックマン
20051204 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

妹の恋人

 ジョニー・デップ主演の風変わりなラブ・ストーリー。デップを見ているだけでも良いのですが、そつのない展開とキャスティングの妙が楽しめる、良質の作品です。

 まずジョニー・デップ演じるサムが印象的、彼なしにこの映画は語れません。設定が奇抜なだけに演技力が要求される役柄を、見事に演じきっています。ビジュアルを見た時点では少し引きますが、映画を観たあとはそれすら可愛いと思えるのだから不思議です。M・S・マスターソンとA・クインも、ありがちなキャラクターを分かり易く演じていて好感が持てます。
 そして、俳優の演技以上にラブ・ストーリーとして魅力的なところが良かった。カメラワークも適度に凝っていて、トリッキーな演出がなくても物語に集中できました。こういう基本的な部分がきちんとできているからこそ、デップの演技にも説得力が出るのでしょう。

 ハリウッドの平均的なラブ・ストーリーと切って捨てることも出来ますが、アレンジ次第で楽しめるという良いお手本でもあるかと。安心して観られて、しかも後味の良い一本でした。

監督:ジェレマイア・チェチック
原作:バリー・バーマン
出演:ジョニー・デップ、メアリー・スチュアート・マスターソン、エイダン・クイン 、ジュリアン・ムーア、ダン・ヘダヤ、ウィリアム・H・メイシー
20051123 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

イン・ザ・スープ

 映画監督になりたい青年アルドルフォと、謎の老人ジョーの奇妙な友情を描いたドラマ。プロットだけなら単純な物語なんですが、キャラクターが魅力的なおかげでまったく飽きずに観ることが出来ます。と思ったら、どうやら監督の実体験に基づいた話だそうで、映画も老人ジョーに捧げられていました。なるほど。しかし、とても実話とは思えないほど魅力的な物語です。

 魅力の一つは、実話ベースであることを感じさせないほどまとめ上げられたシナリオにあると思います。エピソードの一つ一つに存在意義があるので、淡々と進むストーリーからも目を離せませんでした。主人公二人を演じるS・ブシェミとSカッセルも名演。カッセルは老人の魅力を細かい仕草で体現していて思わず唸ってしまうほどですし、ブシェミも珍しく「平凡でうぶな青年」を演じていて、この二人の軽妙なやりとりが物語を引き締めていました。

 全体に寓話的ですが教訓的な話というわけではなく、ほのかな余韻が心に残る映画です。しかも他では見られないほど素朴なブシェミを楽しめるので、ついつい評価が甘くなってしまいました。ファンなら要チェックですが、現在はビデオのみでDVDは未発売。残念。

監督:アレクサンダー・ロックウェル
出演:スティーヴ・ブシェミ、シーモア・カッセル、ジェニファー・ビールス、ジム・ジャームッシュ
20051122 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

エピデミック〜伝染病

 モノクロ・ハンディカメラで撮られた実験色の強い作品。トリアー監督をはじめ、実在の人物が多数「本人」として登場し、現実と空想の境目が不明瞭な中で物語が展開します。映画としてはひどく退屈かも知れませんが、相変わらず不快感をかき立てる映像など、トリアー監督らしい力強さのある作品でした。

 あまり真面目に語るとかえって馬鹿馬鹿しくなりますが、トリアー監督作の中では珍しく遊び心のある、ある意味で「楽しい」作品です。物語の中で蔓延する伝染病は、そのまま観客に対するあからさまな攻撃であり、ラストの唐突さと相まって非常にユニークな印象を持ちました。映画という表現方法を一から構築し直そうとする、トリアー監督の試行錯誤の結果なのかもしれません。
 個人的にはトリアー監督とニルス・ヴァセル(脚本家)の「プロット制作過程」が面白かった、というか非常に参考になりました。トリアー監督の奇人変人ぶりも良い。こういう映画を撮っちゃうあたりに、この監督のイマジネーションの源泉を見たような気がします。

監督:ラース・フォン・トリアー
出演:ラース・フォン・トリアー、ニルス・ヴァセル、ウド・キアー
20051120 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

エレメント・オブ・クライム

 デンマークの鬼才ラース・フォン・トリアー監督が、その壮絶なビジュアルで世界中から注目を浴びた、異色のサスペンス映画。鉄錆のように赤くくすんだトーンで全編が構成され、幻想的な中にどこか危うさを含んだまま進行するストーリーは圧巻。

 主人公の刑事が事件の持つ異常性に取り込まれていく顛末を、饒舌な映像表現によって描き出しています。刑事の視線と映像とを同調させることで、観客までも催眠術にかけてしまおうとする病的な演出が凄い。計算し尽くされたカメラワークからは、映像を完全にコントロールしようとする監督の意気込みが伝わってきます。あまりに映像の毒が強すぎて物語が疎かになるようなところもありますが、その本末転倒ぶりこそこの監督の魅力なのでしょう。
 黄金色の海の中で溺れるような、不思議な感覚が観たあとも数日間抜けませんでした。良くも悪くも、それだけのインパクトを備えた映画。トリアー監督にとっては初期の作品ですが、後の作品に負けない拘りが感じられます。

監督:ラース・フォン・トリアー
出演:マイケル・エルフィック、メ・メ・レイ、エスモンド・ナイト
20051119 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アメリ

 ジャン=ピエール・ジュネ監督の長編4作目。今回はマルク・キャロとのコンビを解消し、ひたすら自分の世界を追求しています。もう、こんな映画を待っていました、という気分。初めてジュネ作品を観たときから、いつかはこういった映画を撮ってくれるのではないかと期待していたのですが、これで夢が叶いました。

 一応恋愛映画なのですが、物語に占める恋愛の比重はひたすら低く、むしろアメリの無邪気な悪戯の方が強調されています。この悪戯が、またジュネ作品には恒例のバタフライ効果満載で笑えました。今回は更にギョーム・ローランによる知的な台詞も加わったおかげで、多弁でエスプリの効いたキャラクターが増え、画面は明るくなったのにブラックさは増しています。
 ジュネ監督にとって初めてのロケ撮影ですが、空をデジタルで描き替えたり、ポスターを全てオリジナルのものにしたりと、独特の世界観は損なわれていません(モンマルトルはこんなに美しくはない!)。また、ヤン・ティルセンによる音楽や、最後まで姿を現さないナレーターといった「新しい試み」も、まるで当然のように映画の中で市民権を得ています。何よりオドレイ・トトゥとマチュー・カソヴィッツのカップルが可愛らしくて、思わずにやけてしまいました。

 アメリの妄想を中心に話が進むので、その社会不適合者っぷりに拒絶反応を示す人も多いようですが、僕は気になりませんでした。むしろ、きちんとツッコミを入れながら力強く肯定しているのが嬉しいかったぐらい。そういう人にはそういう人なりの社会との付き方がある、という非常に前向きなメッセージです。ラストの小説家イポリト氏の態度に、そういった監督の姿勢が反映されている、と深読みしてみましたが、どうでしょう。
 でも、そんな事を考えずとも単純に楽しめるのがジュネ映画の良いところ。子供は無邪気に、大人はシニカルに楽しめる映画でした。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ、ドミニク・ピノン、イザベル・ナンティ、リュファス
20051108 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

エイリアン4

 J=P・ジュネ監督による、人気SFホラー(という呼称は本来不適切だけど)シリーズの第4作目。今回、盟友キャロは「繊細すぎるため」デザイン面のみの参加ということですが、相変わらずのダークでどこかユーモアのある世界観は健在。ただ「エイリアン」との食い合わせは微妙でした。

 ジョス・ウェドンによる脚本は、B級ホラーを好きな人なら大喜びな出来。過去のエイリアンシリーズを全て踏襲しつつ、違和感のない物語は見応えがありました。今までにないほど強烈なキャラクターを与えられたエイリアンは、ジュネ監督独自のカメラワークとダリウス・コンジによる明快な映像によって、絵画のように美しく、より人間的に描かれています。この映画にあるのはエイリアンというキャラクターに対する愛だけで、人間はそれを殺害しようとする敵に過ぎないのでしょう。ホラーでもサスペンスでもなく、エイリアン主役のスター映画。だから最後はスッキリしない感じですし、そもそもジュネ監督である必要も無いなあ、と。過去最高のグロテスクさには大満足なんですが。
 ウィノナ・ライダーの演じたコールが愛らしくて良かった。ロン・パールマンとドミニク・ピノンの二人がちゃっかり出演しちゃうのもファンとして嬉しいところ。それにしてもエイリアンシリーズは毎回全く違う作風で、そもそもシリーズにする必然性があるのか、という感じですね。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:シガニー・ウィーヴァー、ウィノナ・ライダー、ダン・ヘダヤ、ロン・パールマン、ドミニク・ピノン、マイケル・ウィンコット
20051107 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ヴィンセント

 ティム・バートンがディズニー在籍時に撮影した短編ストップモーション・アニメ。ヴィンセント・プライスに憧れる怪奇映画マニアの主人公ヴィンセントを描いた内容は、そのまま監督であるティム・バートンの姿と重なります。
 以降のティム・バートン作品に登場するモチーフちりばめられているのも驚きですが、妄想だらけの生活を送る主人公の姿にいちいち笑ってしまいました。それらがたった約5分間の本編の中に押し込められているという濃い内容で、ナレーションをヴィンセント・プライス本人が務めているというあたりも見どころの一本。バートン映画のファンなら要チェックです。

監督:ティム・バートン
出演:ヴィンセント・プライス
20051029 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -