★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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Shall We ダンス?

 周防正行監督による HOW TO もの映画第三弾にして、日本国内に社交ダンスブームを起こしたほどの大ヒット作品。相変わらずゆったりとしたテンポでそこはかとなく笑える映画のムードは最高なんですが、ちょっと豪華になりすぎてしまった感じでした。
 ”ズブの素人が慣れない環境で奮闘しつつ、地道な努力で着実に上達する”というスポ根の基本を丁寧に描写しつつ、その端々でほのぼのとした笑いを誘うところは相変わらず見事。ロマンチックな演出や深みを増したドラマのおかげで、前二作から一気に30分以上も延びた上映時間が気にならないほどでした。ただ、”感動”に比重が置かれてしまった物語は、ちょっと重くていまいち乗り切れません。いくら映画とはいえ、ラストダンスの展開もちょっと辛い。もしかしたら、それまで映画ひと筋だった周防監督が、草刈民代というダンサーに”浮気”した顛末を描いた作品なのかなあ、と邪推をしてしまいました。

 それでも純粋に笑えて感情移入できる立派なコメディなのは確か。何より役所広司の名演と、草刈民代の才能が見事に結実した、大人向けのラブコメに仕上がっているのは万人の認めるところでしょう。竹中直人、渡辺えり子、徳井優といった脇のキャラクターも秀逸。周防監督は、この作品以降沈黙を続けているんですが、ハリウッド版も無事に公開されたことだし、そろそろ新作の話題を聞きたいところです。

監督:周防正行
出演:役所広司、草刈民代、竹中直人、渡辺えり子、徳井優、田口浩正、草村礼子、宮坂ひろし、原日出子、柄本明、本木雅弘
20060227 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

シコふんじゃった。

 「ファンシイダンス」で見事なコメディセンスを発揮した周防正行監督の、メジャー第二弾作品。前作と構造的にも俳優的にもほとんど一緒なんですが、それでもいい!と思えてしまう面白さに脱帽。
 HOW TO ものという題材の類似に始まり、主人公・秋平ちゃんの動機、竹中直人や田口浩正や宝井誠明の役柄、モノローグの入れ方などなど、前作を観た人には既視感たっぷりの要素が連続します。でも、そんな予定調和ぶりすら堂に入っているあたり、小津マニアの周防監督らしいというか。映画のテンポは非常に緩やかなんですが、慣れない環境に四苦八苦する主人公たちの姿を素直に描いていて、気持ちよく笑えました。学生相撲という聞き慣れないジャンルに戸惑いつつ、次第にハマっていく主人公の心情を巧みにとらえたシナリオは絶妙。見ているうちに自然と主人公に同調してしまって、映画の最後には一緒にシコを踏みたくなってしまうこと請け合いです。

 俳優では、まわし一丁が似合いすぎの本木雅弘がアイドル出身とは思えない名演。もちろん竹中直人の怪演も見物なんですが、モッくんには惚れました。きっちり笑えて最後はちょっと感動もできる、コメディ映画の名作です。必見。

監督:周防正行
出演:本木雅弘、清水美砂、竹中直人、宝井誠明、田口浩正、水島かおり、宮坂ひろし、柄本明
20060226 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ゼブラーマン

 三池崇史監督、宮藤官九郎脚本、哀川翔主演というコテコテのスタッフが作り上げた異色のヒーロー映画。案の定、着眼点は良いのにそれを生かし切れていない脚本が泣き所でした。
 特撮ヒーローものではなく、あくまで色モノ映画だというのは三池監督という時点で分かっていたのでオッケー。豪華キャストもそれぞれハマり役で、主役級から脇役まで安直な扱いが無いのには大満足でした。ただ宮藤官九郎の脚本が辛い。一つ一つの台詞は気が利いているんですが、物語の全体を見通してのカタルシスが無く、伏線も皆無なので、見終わってからの感慨に欠けます。まあゼブラーマンとキメ台詞は格好いいし、見てくれと一発ギャグを楽しむだけの映画だと割り切って観るのが正解でしょう。

 哀川翔は良かった。渡部篤郎のケイゾクっぷりも最高。俳優には恵まれた映画ですね。あとTV版ゼブラーマンの渡洋史ってシャリバンですよ! びっくりしたー。「ゼブラーマンの歌」はもちろん唄・水木一郎なので、そちらも必聴。

監督:三池崇史
出演:哀川翔、鈴木京香、渡部篤郎、大杉漣、岩松了、市川由衣、近藤公園、柄本明、内村光良、渡洋史
20060215 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

新幹線大爆破

 佐藤純弥監督による、日本パニック映画史上に残る大傑作。新幹線ひかり号に爆弾を仕掛け、時速80キロ以下になるとそれが爆発する、という発想を有効に活用した脚本が秀逸でした。
 とにかくそのアイデアが良い。実際に発生したときにどうなるか容易に想像できるので、新幹線に同乗してしまった人々のパニックぶりも頷けます。同時に、高倉健などが演じる犯人グループの切実なドラマと巧妙な手口も、いかにも70年代というケレンに溢れた設定で、かつ犯罪映画として単体で立てるほど。こういう一つ一つの作り込みがしっかりしているので、映像や端役の演技が多少チープでも気になりませんでした。

 ここまでアクションとサスペンスが両立できている日本映画というのは珍しいかも知れません。見るたびに手に汗握る、最高のパニック映画です。ちょっと昔の制作なうえに、当時の国鉄からロケ撮影を断られたという経緯もあって映像の迫力は若干落ちてしまうんですが、それを差し引いても必見の一本。

監督:佐藤純弥
出演:高倉健、山本圭、宇津井健、田中邦衛、織田あきら、千葉真一、小林稔侍、永井智雄、志村喬
20060213 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

鮫肌男と桃尻女

 望月峯太郎による同名コミックを、CF界出身でこれが長編デビューとなる石井克人監督が映画化。オフビートな演出は特徴的で楽しめますが、イマイチ吹っ切れていない印象です。

 ツカミは良い。次々登場するコミカルなキャラクターはしっかり描き分けられているので混乱しませんし、編集のテンポも良いので、まともなアクションシーンは殆どないのにダレません。そして、俳優陣の自己主張が凄い。浅野忠信はいきなりパンツ一丁で走ってるし、岸部一徳がヤクザだというのも笑えます。他にも我修院達也の”ドナドナ”とか、島田洋八の変態っぷりなどなど……ちょっと他では真似出来ない役者の使い方が目から鱗でした。
 ただ、最初にドカンと盛り上げた話が、それ以上加速しないままヒネリもなく終わってしまうのが残念でした。どうでもいい喋りを延々と描写するのも辛い。斬新なビジュアルもあって当時は新鮮だったんでしょうが、今観るとフツーに面白い”だけ”の映画ですね。

 ちなみに、原作はもっとネチネチしていてセクシーで、我修院達也演じる”殺し屋・山田”も登場しません。どちらが好きかは好みでしょうが、単行本1冊だけなので興味がある方はそちらも是非。

監督:石井克人
原作:望月峰太郎
出演:浅野忠信、小日向しえ、岸部一徳、我修院達也、島田洋八、鶴見辰吾、寺島進
20060209 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

双生児 -GEMINI-

 塚本晋也監督による、江戸川乱歩小説の映画化作品。この二人の相性は抜群ですね。乱歩世界の持つ独特の懊悩感が、映像に見事に現れていました。

 塚本監督の毒々しい映像センスが、乱歩のエログロな世界観を得て力強さを増しただけでなく、不思議とポップな印象すら残します。テーマに合わせて二面性にこだわったカットが多用され、観ている内に現実すら覚束なくなるような感じでした。眉無しメイクや北村道子による衣装など、ビジュアル面でのアプローチも見事。豪華なキャストも手伝って、塚本作品の中では非常に取っつきやすい内容に仕上がっています。
 出演陣では、やはり主演の本木雅弘の静と動を演じ分ける表情が際立っています。りょうのどこかバランスが崩れた美しさや、カメオ出演的に顔を出す豪華共演陣も、それぞれに良い味を出していました。

 全体を通して、テーマもビジュアルも完成度の高い、それでいて日本的な美意識に満ちた秀作でした。こういうエログロの世界こそ日本人の本質なんだから、その代名詞たる乱歩小説はいくらでも映像化して欲しいところです。
 ちなみに、DVDの特典映像を何故か三池崇史監督が撮影していました。塚本監督と三池監督って、仲良さそうですね。

監督:塚本晋也
原作:江戸川乱歩
出演:本木雅弘、りょう、筒井康隆、藤村志保、浅野忠信、竹中直人、麿赤児、石橋蓮司
20060208 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

スリング・ブレイド

 ビリー・ボブ・ソーントンが監督・脚本・主演の三役を務め、その名を一躍ハリウッドに知らしめた秀作。寓話的な物語なのに、不思議と説教臭さはありません。

 主人公カールは知的障害者という設定ですが、非常に軽度で普通に会話もでき、彼の発言がときに真実を言い当てているというのが良い。言ってしまえば典型的な”聖なる愚者”なんですが、殺人というファクターが、その古くさいテーマにリアリティを持たせ、単純なお涙頂戴モノで終わらせていません。
 俳優では、とにかくビリー・ボブ・ソーントンの存在感が圧倒的。少年役のルーカス・ブラックも達観した演技が似合っています。ソーントンの友人ばかりで固めたという脇役陣も、それぞれに良い演技で違和感ありませんでした。

 DVD特典でカールというキャラクターが生まれた理由が語られていますが、それがなかなか見応えがありました。あくまで創作のためではなく、自然にソーントン自身の中から発生した人格なので、物語にも説得力が生まれるのでしょう。泣ける映画ではありませんが、心に残る作品でした。

監督:ビリー・ボブ・ソーントン
出演:ビリー・ボブ・ソーントン、ルーカス・ブラック、ドワイト・ヨアカム、J・T・ウォルシュ、ジョン・リッター、ロバート・デュヴァル
20060201 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

シモーヌ

 「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督によるSF作品。ヴァーチャルアイドルに対する真摯な考察かと思いきや、実際はハリウッド楽屋オチ的な皮肉に満ちたコメディ作品でした。

 前作で見せたSF的イマジネーションそのままに、実在する”夢の都”ハリウッドを描き出す着眼点は流石。倉庫が建ち並ぶ撮影所の風景すらメリハリをつけて描ける映像センスもあって、最後まできっちり惹きつけられる物語に仕上がっています。ただ、どこか物足りなさが残るのはイマイチ暴走できていない脚本のせいでしょうか。パチーノがPCを操って”微調整”するシーンなんか最高なんですが、誰かを傷つけてまで笑おうという思い切りが無いために、”お上品”から一歩踏み出せていない印象でした。
 SF的なツッッコミどころは多々ありますが、それを犠牲にしても一般人に分かりやすい展開にしているのには好感が持てます。SFが苦手な方のほうが楽しめるかもしれません。何より、パチーノが冒頭でぶちあげる”映画論”が最高なので、日頃からハリウッド映画に不満を募らせている方は是非。

監督:アンドリュー・ニコル
出演:アル・パチーノ、レイチェル・ロバーツ、ウィノナ・ライダー、キャサリン・キーナー
20060125 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

シンプル・プラン

 B級ホラーのヒットメイカーであるサム・ライミ監督が、ベストセラー小説の映画化に挑んだ意欲作。これまでの作風からはとても想像出来ない落ち着いたトーンに驚かされる、サスペンス映画の佳作です。

 大金を手にした人々の動揺と、そのために引き起こされるトラブルが非常に自然に描かれていて、思わず引き込まれました。日常に潜在している不満が、現金を前にしたときに顕在化する様はゾクゾクします。定番とは言え、落とし方も心に迫るものがありました。それだけに途中でチープなミステリのような展開になってしまったのが残念。あと、折角の雪景色を映像的に活用し切れていないところも物足りないところです。
 それにしても、ビル・パクストンは”冴えないアメリカの小市民”を演じると説得力がありますね。共演のビリー・ボブ・ソーントンが、珍しく色気ゼロの冴えない中年をきっちり演じているのも凄い。最初本人かと疑うようなビジュアルなんですが、彼がいなければここまでの映画にはならなかっただろう、というほどの名演でした。

監督:サム・ライミ
原作:スコット・B・スミス
出演:ビル・パクストン、ブリジット・フォンダ、ビリー・ボブ・ソーントン
20060124 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

処刑人

 新人監督トロイ・ダフィーによる痛快アクション。頭の悪い物語と、ただ銃を撃ちまくるだけのアクションは好き嫌いが分かれそうですが、アメコミ・ヒーロー的な単純明快さが楽しめる快作でした。

 主人公二人の絵に描いたような兄弟コンビっぷりも、それを追う刑事役ウィレム・デフォーのありえなさも、突き抜けていて笑えます。デフォーの解説がかぶるアクションシーンは、映像自体がありきたりなスローモーションなのについつい引き寄せられてしまいました。啖呵の切り方や最後の法廷シーンなども適度に軽く、ヒーローものらしいケレンが満載。何より映画の殆どが銃撃戦で構成されているので、見終わったあとの満足感が違います。深いことは考えずに楽しむには最適なアクション映画でした。
 俳優ではやはりウィレム・デフォーの不気味さが見物。出てくるたびに笑わせてくれるのに、頼りにできそうな雰囲気は流石です。あとは、イタリアン・マフィアのボスがTV版「ニキータ」などに出演していたカルロ・ロタで驚きました。この人のお茶目な感じも好きです。

 非常に痛快な映画なんですが、時を同じくして起きたコロンバイン高校銃乱射事件との類似性のため、米国でも日本でも限定公開という憂き目にあったそうです。監督と脚本を兼ねるというハリウッド・ドリームを体現しながら、それが一夜で水泡に帰したトロイ・ダフィー監督とこの映画の舞台裏については "Overnight" というドキュメンタリーも制作されていました。監督には映画制作に復帰してもらいたいところですが、ちょっと難しそうですね……。

監督:ウィレム・デフォー
出演:ショーン・パトリック・フラナリー、ノーマン・リーダス、ウィレム・デフォー、デヴィッド・デラ・ロッコ
20060117 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -