★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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12モンキーズ

 鬼才という言葉がいやに似合うテリー・ギリアム監督が、クリス・マルケルの「ラ・ジュテ」に触発されて撮ったというSFサスペンス。よく作り込まれていますが、不満点の多い内容でした。

 物語の根幹はオリジナルそのままで、それを膨らまして長編に仕立てています。ただ、その「変わった部分」が皮肉たっぷり過ぎてダメでした。サスペンス的な盛り上がりはあるし、やりたいことは分かるんですが、物語の進展と共に方向性が不明瞭になっていって、オチも釈然としません。
 例によってセットや俳優の使い方は巧みでした。こんなにブルース・ウィリスを渋かっこ良く感じたのは初めてです。マデリーン・ストウも綺麗。ブラッド・ピットは、ちょっとやり過ぎな感はありますがエキセントリックで好きです。また、冒頭の荒廃したニューヨークのシーンに代表される世紀末感あふれるSF描写も見事。というか、映画が始まってしばらくは、そういったギミックのせいで興奮しっぱなしでした。

 各要素や前半の展開は気に入っているので、テレビなどで放送しているとついつい観てしまいます。むしろ一度経験しているので寛容になれるのかも。あと悪夢のようなメインテーマも秀逸。ともあれ、ギリアム好きとしては捨て置けない作品ではありますね。

監督:テリー・ギリアム
出演:ブルース・ウィリス、マデリーン・ストウ、ブラッド・ピット
20051021 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

カリフォルニア

 ブラッド・ピットの演技が光る無軌道ロード・ムービー。映像のセンスやショッキングな内容など面白い要素は詰まっていますが、どこか物足りないと感じました。
 犯罪映画というジャンルがイマイチ理解できていないだけかもしれませんが、二組のカップルに全く感情移入できませんでした。ブラッド・ピットとジュリエット・ルイスのカップルは暴力的で巧いのですが、共感とはほど遠い存在なので見て楽しむだけ。主役であるはずのもう片方のカップルは地味すぎて不満。まんまモルダーだし。ラストも結局それで終わりなの? と聞き返したくなる内容で、もうちょっとカリスマ的な要素があれば良くなりそうな内容なだけに、惜しいところでした。

 監督は、デヴィッド・フィンチャーなどとプロパガンダ・フィルムスで名を馳せたドミニク・セナ。MTV出身なだけに映像は綺麗でした。因みに、ビデオタイトルは「カリフォルニア/狂気の銃弾」。うわあ。

監督:ドミニク・セナ
出演:ブラッド・ピット、ジュリエット・ルイス、デヴィッド・ドゥカヴニー、ミシェル・フォーブス
20051020 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

テルマ&ルイーズ

 リドリー・スコット監督による、女性二人が主役のロードムービー。まんまアメリカン・ニューシネマな脚本は、アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞共に脚本賞を受賞しています。

 主役二人の暴走ぶりは開き直りが感じられて良いのですが、痛快と言い切れないシナリオなのが腑に落ちませんでした。リアリティなのかもしれませんが、だとするとこの展開は悲しすぎます。良くも悪くもアメリカらしい、焦燥感溢れる映画でした。
 主演のスーザン・サランドン、ジーナ・デイヴィスに加え、ハーヴェイ・カイテル、マイケル・マドセン、ブラッド・ピットなど、スター性の高い俳優を揃えていて、まず見応えがあります。それでいて、映画全体の世界観を見失わないあたりはさすがスコット監督と言うべきでしょう。撮影も、相変わらず90年代初頭の作品とは思えないほど美しく仕上がっています。

 128分とちょっと長めなのが気になりますが、それを我慢して観るのもまた一興かと。個人的にはこの映画でマイケル・マドセンに惚れました。ブラッド・ピットのヤンキーぶりも必見。

監督:リドリー・スコット
出演:スーザン・サランドン、ジーナ・デイヴィス、ハーヴェイ・カイテル、マイケル・マドセン、ブラッド・ピット
20051019 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ラ・ジュテ

 未だに揺るぎない評価を得ている実験的SF映画の傑作。学生時代に観まくった実験映画の中でも、特に印象に残っているものの一本です。

 ほぼ全編がモノクロのスチル写真とモノローグのみで構成されていて、およそ映画というものとはかけ離れていますが、実際に観てみるとあまり違和感を感じないのが不思議。逆に画面に動きが少ないだけ、観客の感情が主人公の内面に接近できるわけです。そのため、SFとしても、ある男女の物語としても魅力的なストーリーが、より効果的に表現されているのでしょう。30分に満たない上映時間といい、とても濃密で完成された作品だと感じました。
 あらゆる映画において大事な要素の一つは「観ている瞬間が心地良いこと」だというのが僕の持論ですが、この映画は突飛なアプローチながらそれを実現しているのに感動しました。こういうスタンスの映画に弱いんです。

 普通の映画とは全く違うジャンルのものなので注意が必要ですが、そんなに難解な作品ではありません。むしろ別種のエンタテイメントという感じ。物語が良いのは勿論ですが、ひたすら美しいカットの連続も、一見の価値有りです。

監督:クリス・マルケル
出演:エレーヌ・シャトラン、ジャック・ルドー、ダフォ・アニシ
20051018 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ノー・マンズ・ランド

 ボスニア紛争時にボスニア軍でドキュメンタリーを撮影していたダニス・タノヴィッチの長編デビュー作。やはりボスニア紛争を題材とし、軍やマスコミを巻き込んんだドタバタ劇を確実なタッチで描いている。リアリティに裏打ちされた演出と、その中で見せるブラックな、ときに笑うことのはばかられるセンスは凄い。

 明快なシナリオの中に、現地の勢力図を縮図として組み込むしたたかさがあり、各国語を話すキャストにきちんと演じさせているおかげで嫌味がありません。今までにない戦争映画、特に国連PKO関連の映画の中では決定打と言える作品かも。政治問題に興味がない人には辛いかもしれませんが、ちょっと興味がある人なら勉強のために見ても十分意味のある映画だと思います。
 凄いのは、これだけの現状をきちんと一つのシナリオにまとめ上げて、ところどころ笑いすら取ろうとすることです。ただE・クストリッツァのような狂気と情熱ではなく、ドキュメンタリー経験者らしく冷静に事態を描写していくスタンスが特徴的でした。

 後味の悪い映画で、この結末を作り出したのは他でもない西側諸国だ、という監督の叫びが痛いほど伝わってきます。ラストに至るころには情けなさで押しつぶされそうになりましたが、それだけ考えさせられる映画です。

監督:ダニス・タノヴィッチ
出演:ブランコ・ジュリッチ、レネ・ビトラヤツ
20051017 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ナイトメアー・ビフォア・クリスマス

 ティム・バートン制作・原案による人形アニメーション。微笑ましくも毒のある世界観やストーリーで、未だに根強い人気のある作品。子供が絵本を読み聞かせてもらって、終わったら「ねえ、それでどうなったの?」と聞くような、そんな気分になれる映画でした。

 過去のメルヘンの傑作にも匹敵する物語性は見事。ホリデータウンという設定から始まって、その特殊な世界で繰り広げられる物語にはただただ息をのむばかりで、何度観ても76分という上映時間は短かすぎると嘆かされます。本来なら怖いはずの怪物たちも、ハロウィンということもあってどこか愛らしく、かつ少し倒錯気味。フィンケルシュタイン博士の脳みそや、メイヤー町長の切り替わる顔など、おもちゃみたいなギミックも良い。その他画面に殆ど登場しないキャラクターにまで、クセのあるデザインが施されています。
 更に人形アニメとして見ても、過去にないほど高い完成度でした。特にその動きのなめらかさは、本当に人形たちが生きて演技しているかのよう。ミュージカルとしても魅力的なナンバーが揃っていますし、ここまで非の打ち所のない映画も珍しいのではないでしょうか。

 評価とはあまり関係ありませんが、先日TOHOシネマズの企画で上映されていたので慌てて観てきました。やはりスクリーンで観られるというのは良いですね。むしろ、この映画は毎年恒例で上映してほしいぐらいです。

制作・原案:ティム・バートン
監督:ヘンリー・セリック
声の出演:ダニー・エルフマン、クリス・サランドン、キャサリン・オハラ、ウィリアム・ヒッキー、ポール・ルーベンス
20051016 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

エスケープ・フロム・L.A.

 あの傑作B級SF「ニューヨーク1997」の続編。例によってジョン・カーペンター監督のどこか外れた演出と、カート・ラッセルのとてもアクションヒーローに見えない体型が炸裂する、久々の正統派B級アクションSF映画でした。
 大真面目で作っているのに笑えるシーンの連続になるあたりが最高。あまりに常軌を逸したシチュエーションと、某マクレーン刑事も顔負けのスネークの無敵ぶりを思う存分楽しめます。現在のハリウッドでは珍しいバレバレのマット画や、ドットの見えているCGなども、この作品では許せてしまうのが不思議。前作のラストほどの盛り上がりがなかったことが残念ですが、あの世界観をもう一度楽しめただけでも大満足でした。

 未見の方は、前作と併せて是非。寛容な方なら、B旧映画の魅力に目覚めること請け合いの名作です。

監督:ジョン・カーペンター
出演:カート・ラッセル、ステイシー・キーチ、スティーヴ・ブシェミ、ピーター・フォンダ、ブルース・キャンベル、パム・グリア
20051015 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ニューヨーク1997

 ジョン・カーペンター監督、カート・ラッセル主演の知る人ぞ知るB級SFアクション映画の傑作。いや、つまらないのですが、でもこれほど楽しめる映画は少ないでしょう。
 たしかにストーリーは読めないのですが、こんな破天荒なストーリーを思いつく方が神業というもの。とにかくカート・ラッセルの格好悪さから始まる一連のどうしようもないB級ぶりを見てほしいところです。安っぽいオプチカル合成とか、どう見ても模型にしか見えないセットを走り回るミニカーみたいな車とか、普通は色々文句を言いたくなるようなシーンが連続するのに、あまりに堂々としているので全く気になりません。しかも最後はきちんと盛り上がったうえにシメもしっかりしているという、エンタテイメントを心得た作品でした。

 こういう映画は、開き直って大笑いしながら見ると最高ですね。チープな外見をバカにしないで、というかそれも味だと思えれば確実に楽しめます。B級映画は敬遠しがち、という人にぜひ観て貰いたい一本。

監督:ジョン・カーペンター
出演:カート・ラッセル、リー・ヴァン・クリーフ、アイザック・ヘイズ、ドナルド・プレザンス、アーネスト・ボーグナイン
20051014 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

青い春

 松本大洋の同名コミックを映画化した青春映画。原作中の「しあわせなら手をたたこう」を中心に構成しつつも、他のエピソードをちりばめた内容になっています。原作のファンなので期待していたんですが、原作の趣旨を完全にはき違えている、と感じました。

 あくまで私感ですが、原作は若者達の行動をドラマチックに描きつつも、肝心の若者自身の思考はとことん無気力で無目的で無計画に描いているところが重要であり、第三者には無為としか見えない「未熟ゆえのエキセントリックさ」を描き出しているのが最大の魅力だと思うんですが、それが映画では「若者の衝動と苦悩」という立派なテーマに置き換えられ、悩める若者を情緒豊かに描いているのです。おかげで、今の若者が「自分はちゃんと考えて生きているんだ」と疑いもなく信じているような気がして怖くなりました。
 ただし全てが駄目というわけでもなく、面白い演出が多かったのも事実。学校の冷たい空気なんかは良く出ています。主演の松田龍平を始めとして、出演している若手俳優の質も良かった。

 普通の「青春感動エンタテイメント」を期待する人なら楽しめるのでは。ただ原作ファンには微妙。原作からシチュエーションだけ貰った、全く別の映画だと思わないとダメです。うーん。

監督:豊田利晃
原作:松本大洋
出演:松田龍平、新井浩文、高岡蒼佑、大柴裕介、山崎裕太、忍成修吾、KEE
20051013 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ラスベガスをやっつけろ

 原作者ハンター・S・トンプソンの実体験を元にした小説を、鬼才テリー・ギリアム監督が映画化。他のドラッグ系映画の追随を許さない、とことん下品で不条理で滅茶苦茶な作品でした。

 「トレインスポッティング」がドラッグ文化をあくまでスタイリッシュに描写していたのに対して、こちらは主観的に描写しているのが最大の特徴。つまりは麻薬でラリってる主人公2人の「見えているもの」を中心に物語が進むので、カメラは斜めに漂いっぱなし、何が現実に起こっているのかも判らない状態で、最後まで真実は明かされません。そういった主人公の、現実からの取り残され具合をテーマにした作品なので、それは必然でしょう。ヒッピーが70年代に入って終わりを告げ、ただの社会不適合者になった主人公たちがどういう価値観を持って生きているのか、それがこの映画の語りたいことであり、それは上手く表現できていると思いました。
 しかしそういう理論をぶつ以前に、映像としてこの映画は楽しめます。何よりナンセンスな演出にかけては当代一のギリアムですから、次から次へと繰り出される意表をついた映像に驚かされているだけで2時間が過ぎてしまいました。主演のジョニー・デップは、今までの出演作では決して見せなかったようなオヤジっぷり全開でキめてくれますし、この撮影のために(つまり無駄に)20kg増量したベニチオ・デル・トロも迫真の演技でした。T・マグワイヤ、C・ディアス、C・リッチは本当にチョイ役ですが、特にC・リッチの存在感は抜群。こういう勢いだけで良い映画って、そうそうありません。

 観終わって得られるものはゼロ、物語は何処にもない、ただただバッド・トリップの連続で焦燥感ばかりが募る映画です。でも、それこそ最重要テーマじゃないか、という吹っ切り方こそギリアム映画の最大の魅力ではないでしょうか。

監督:テリー・ギリアム
原作:ハンター・S・トンプソン
出演:ジョニー・デップ、ベニチオ・デル・トロ、トビー・マグワイア、キャメロン・ディアス、クリスティナ・リッチ
20051012 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -