★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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シン・シティ

 R・ロドリゲス監督がデビュー当時から映画化したかったというグラフィック・ノベルのカルト的作品を、その原作者を共同監督に迎えて制作した話題作。これでもかというバイオレンス映画を期待していたので大満足でした。

 これはパルプ・フィクション的な理想郷である「シン・シティ」で繰り広げられる、ある種のファンタジーですね。ハードボイルドの定番をふんだんに盛り込みつつ、映画的なケレンに溢れたストーリーが秀逸。出てくる男はロクデナシかサイコ野郎で、女はビッチ限定という世界観は、ハマれる人はとことん楽しめるのでは。コミックそのままの、コントラストの強いモノクロ映像も見事。バイオレンス描写もどこかユーモアがあって、言われているほど激しいとは思いませんでした。デートには向かないという感想をたまに読みますが、chako氏は大喜びだったので女性だからダメということはないと思います。
 そしてミッキー・ロークほか俳優陣が良い! 個人的にはクライヴ・オーウェンが期待以上の色気を振りまいていたのがツボでした。デル・トロやイライジャ・ウッドは、相変わらず気持ち悪い役が似合います。女性陣ではゲイル役のロザリオ・ドーソンがビジュアルも役回りも格好良かったかなと。

 ところで、ロドリゲスはタイトルロールにある通り"SHOOT AND CUT"がメインで、実質の監督はフランク・ミラー本人だったようですね。そのためか、他のロドリゲス作品とは一線を画す仕上がりでした。台詞も構図も原作そのままのようなので、これは「スクリーンで観るコミック」なのでしょう。コミックとか映画とかいう枠組みを無視して、こういう試みを実現してしまう才能は大事だと思います。というわけで続編にも期待。

監督:ロバート・ロドリゲス、フランク・ミラー
出演:ミッキー・ローク、ブルース・ウィリス、クライヴ・オーウェン、ジェシカ・アルバ、ベニチオ・デル・トロ、イライジャ・ウッド、デヴォン青木、ロザリオ・ドーソン、ジョシュ・ハートネット
公式サイト
20051030 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

フランケンウィニー

 ティム・バートンが初めてプロの俳優を起用して撮影した短編ファンタジー映画。非常に高い完成度ながら、ディズニー映画としてはあまりにダークすぎるためか「バットマン リターンズ」の公開直前までお蔵入りにされていたという、いわくつきの作品です。

 物語自体は「シザーハンズ」を彷彿とさせますが、モノクロで撮られているのとストレートなフランケンシュタインものということで、より怪奇映画に近い印象を受けました。ツギハギになって復活する愛犬スパーキーはグロテスクな外見ですが、不思議と愛らしさすら感じます。さらに墓地やゴルフ場のなどのセットに対するこだわり、郊外に暮らす排他的な人々など、後のバートン作品を彩る要素が既に登場していて、彼の才能を感じられる内容でした。
 主演の男の子は「ネバーエンディング・ストーリー」のバスチアン、さらにお母さんは「シャイニング」の奥さんと、キャストもなかなか面白い人を起用しています。30分足らずの短編ですが、バートン映画が好きな人なら、ぜひ。

監督:ティム・バートン
出演:バレット・オリヴァー、ダニエル・スターン、シェリー・デュヴァル
20051029 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ヴィンセント

 ティム・バートンがディズニー在籍時に撮影した短編ストップモーション・アニメ。ヴィンセント・プライスに憧れる怪奇映画マニアの主人公ヴィンセントを描いた内容は、そのまま監督であるティム・バートンの姿と重なります。
 以降のティム・バートン作品に登場するモチーフちりばめられているのも驚きですが、妄想だらけの生活を送る主人公の姿にいちいち笑ってしまいました。それらがたった約5分間の本編の中に押し込められているという濃い内容で、ナレーションをヴィンセント・プライス本人が務めているというあたりも見どころの一本。バートン映画のファンなら要チェックです。

監督:ティム・バートン
出演:ヴィンセント・プライス
20051029 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ティム・バートンのコープスブライド

 ティム・バートンによるストップモーション・アニメの3作目(監督としてのクレジットは初)。ロシアの民話を原案にしているようで、ストーリーは独特で楽しめますが「それ以上の何か」が感じられなかったかなと。

 ストップモーション・アニメとしては非常に完成度が高く、キャラクターの動きは滑らかで、特に豊かな表情は驚嘆モノ。実写ならではの質感が映像に温かみを加えていて、ダークな物語もバートン作品らしい空気をよく醸し出しています。でも、観た印象としては「無理に面白くしようとしている」感じでした。最大の不満点は、主人公ビクターの心情が説明不足な点。そのため物語に対して客観的になってしまい、二人の花嫁の間を右往左往するのに少し腹が立ってしまったり。
 ハリーハウゼンを始めとした過去のホラー映画やストップモーション・アニメに対するオマージュがそこここにあるようです。それが分かれば面白いのかも知れませんが……うーん。過去のバートン映画は、それが分からなくても有無をいわせぬ雰囲気で押し切っているのが楽しかったんですが、今回は置いてけぼりを喰った感じでした。

 ともあれ過去のストップモーション・アニメのレベルを遙かに超越しているのは事実。デジタル加工を可能な限り無くした映像は、奇跡的なほどの完成度なのです。それと、観ていて気付いたのは、ディズニー映画風のキャラクターや演出が好意的に扱われていたこと。この映画の根底にあるのは、現在のバートン流ディズニー論なのかもしれません。

監督:ティム・バートン、マイク・ジョンソン
出演:ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、エミリー・ワトソン、クリストファー・リー、ダニー・エルフマン
公式サイト
20051028 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ファイト・クラブ

 デヴィッド・フィンチャー監督によるサスペンス映画の超問題作。テーマ自体は使い古されたものかもしれませんが、その提示方法があまりに暴力的で斬新でした。フィンチャー監督作品の中では、この作品が一番好きです。

 これはアメリカのX世代に対して向けられた映画で、その世代が持つ不満やストレスを直接的な物語にしたところが斬新だったのだと思います。だから感情移入の対象である主人公は名前を名乗らないし、地名すらこの映画からは極力排除されています。その中で「自分にも何か出来る」と勘違いさせるシナリオのパワーはかなりのもので、実際に世界各地でファイトクラブが設立されて問題になったことを見ても、そのメッセージ性の強さが分かります。
 とまあ語りたいこともありますが、単純にサスペンス映画として楽しめたのが高く評価する最大の理由です。二人の主人公が共に魅力的で、特にE・ノートンが優柔不断なダメ青年を巧みに演じているので物語の説得力が増していると感じました。フィンチャー監督作の「遊び」もこの作品では極まっていて、しかもストーリーと直結した演出は他で見られない快感です。

 生きる目標を失っている若い世代に向けた、フィンチャー流のメルヘン、というのがこの映画の本質ではないでしょうか。映画全編が暴力にまみれていますが、この映画をバイオレンス映画だと評する人はそもそも観客として想定されていないので、黙って立ち去るのが無難でしょう。

監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:チャック・ポーラニック
出演:エドワード・ノートン、ブラッド・ピット、ヘレナ・ボナム・カーター、ジャレッド・レト、ミート・ローフ・アディ
20051027 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

オーシャンズ11

 1960年の話題作「オーシャンと十一人の仲間」をスティーヴン・ソダーバーグ監督がリメイク。オリジナルに負けず劣らずの豪華キャストで制作された中身ゼロのスター映画で、そこそこ楽しめました。

 ラスベガスでお祭り騒ぎ的に撮られたこの映画では、ソダーバーグもいつもの作家性を廃してエンタテイメントに徹しているので、映画自体は取り立てて論じるべき内容はありません。豪華なキャストが出てきて粋なドラマを繰り広げ、ラストにきっちりどんでん返しがある、非常にありきたりな「スター映画」という印象です。
 ただその程度の「スター映画」を目指しているというのが随所から感じられるのが、この映画の面白いところ。なにしろ近年のハリウッド映画は「スター映画」すらまともに撮れていないのが現状なので、ハリウッドの映画オタク筆頭であるソダーバーグとしては「このぐらいのことは簡単にやってくれよ」と言いたいのでしょう。実際ラスベガスで毎日酒浸りになって、二日酔いに苦しみながら演技してるとは思えないほどキャストはきちんと仕事をしています。誉められたことではないですし、監督自身は寝食を削って編集していたようですが…。

 そういう意図を汲めば充分意義のある映画ですが、出来上がった映画自体を愛せるかというとそれは別問題なわけで。やっぱり平凡な「スター映画」は今の時代にはそぐわないのかなあ、と思っていたら「オーシャンズ12」で挽回してくれたので、さすがソダーバーグと感心したことを付記しておきます。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、マット・デイモン、ドン・チードル、アンディ・ガルシア
20051026 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スナッチ

 処女作「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」が評価され、一躍イギリス映画界の寵児となったガイ・リッチー監督の第2作。ストーリーは支離滅裂、登場人物はアクが強すぎるというのに、それらをセンス溢れる音楽と編集で包装して観客の前にこれでもかと並べる手法が冴えています。

 映画全体のリズムは最近ハリウッドで流行のMTV風ですが、最大の違いは作り込みではなくセンスで一発勝負をかけているところ。特にアクションシーンに流行のスローモーションを殆ど使わず、コマ落としと止め絵で盛り上げる疾走感は最高でした。1コマ単位で練られたであろう編集など、観ているだけで気持ちの良い映画に仕上がっています。
 ワン・パンチ・ミッキー役のブラッド・ピットが流石のキャラクターで活躍していますが、それ以外の俳優も良かった。ヴィニー・ジョーンズやレイド・セルベッジアの無敵振り、ベネチオ・デル・トロの放蕩っぷり、デニス・ファリーナのしたたか振りなど、見所は沢山です。シナリオも、前作が一発ネタだったのに対し、今回は色々ネタを仕込む余裕があるぐらい。その分前作のような切れ味は欠けますが、娯楽作としてはこのぐらいのさじ加減が丁度良いのではないかな、と。

 スナック片手に観るのが最適な軽い映画ですが、何度観ても楽しいので未見の方はぜひ!

監督:ガイ・リッチー
出演:ジェイソン・ステイサム、ブラッド・ピット、ヴィニー・ジョーンズ、ベニチオ・デル・トロ、デニス・ファリーナ、レイド・セルベッジア、ユエン・ブレムナー
20051025 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア

 トム・クルーズ、ブラッド・ピット、アントニオ・バンデラスという若手人気俳優(当時の)が共演した超お耽美映画。とにかく美しい映像と、物悲しい雰囲気に包まれたストーリーが魅力です。
 この映画を観て、美形のヴァンパイアって海外でも需要があるのだなあ、と正直感心してしまいました。格好いいヴァンパイアを何の迷いもなく描き続けるだけで映画が終わるというのは新鮮でしたが、こういうのもアリですね。終わり方も最高に格好いいし。ひたすら美しい世界観を堪能するだけで、何も考えずに観られる良質の映画です。ビジュアルで気になった人は、まず観て損はないでしょう。

 原作者のアン・ライスが当初トム・クルーズの配役に反対していたものの、完成試写会後にその意見を180度転換して絶賛したとか。確かに、このトムはハマリ役。スタン・ウィンストンによるメイクも必見です。

監督:ニール・ジョーダン
出演:トム・クルーズ、ブラッド・ピット、スティーヴン・レイ、アントニオ・バンデラス、クリスチャン・スレイター
20051024 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

セブン

 デヴィッド・フィンチャーが新人らしからぬところを見せつけたサイコ・サスペンス映画の傑作。これは問答無用で惚れました。

 宗教的なテーゼに基づいて犯行が繰り返される様が、非情とも言える客観性と共に描かれています。それを傍観するしかない主人公達の無力感が、土壇場でいきなり観客自身にまで襲いかかってくるときの恐怖は、他のどの映画においても感じたことのないものでした。見終わって映画館から出てくるときにまだ身体が震えていたのを覚えています。
 降り続く雨の向こうに霞んでいる現実感のない町並み、精神を逆なでするノイズ混じりの音と映像、「人を殺したくなる」ほどエキセントリックな犯行、それを楽しんでいる自分に気付いたときの倒錯感、そういう全てを実現したフィンチャー監督の演出と、ダリウス・コンジによる撮影にただ圧倒されるばかりの映画でした。

 あまりの後味の悪さに、最初は「二度と観たくない」と思いましたが、時間が経つにつれてその魅力に身体が蝕まれていく心地よさを感じられた希有な作品です。カイル・クーパーによるタイトルバックが、それを端的に表現していて秀逸。なお、犯人役の俳優は映画の予告ではクレジットされていなかったので、ここでも敢えて書きませんでした。そのあたりは観てのお楽しみということで。

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、グウィネス・パルトロウ
20051023 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

スリーパーズ

 ハリウッドの大御所、バリー・レヴィンソンによるメガヒット作品。ブラッド・ピットやロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマンと豪華キャストを配しつつ、いかにもアメリカらしい年代記に仕上げています。
 冒頭から雰囲気のある映像で引っ張りつつ、4人の男の少年時代からジワジワと進行していくストーリーは見応えがありました。ノン・フィクション小説を原作としている割にはエンタテイメントな展開ですが、「血よりも濃い友情」を感じさせるには分かりやすくて良いのかも。アメリカ裏社会の雰囲気を垣間見られるのが個人的に好みです。とはいっても、「それ以上の何か」が無いのは如何ともしがたいところ。豪華な出演陣と、ケレンのあるストーリーを楽しんだら、あとのことは余り深く考えないというのが一番でしょう。

 良くも悪くもハリウッドらしい作品でした。初共演のロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマンも注目ですが、やっぱり見どころはケヴィン・ベーコンの憎まれ役っぷり。主演陣も豪華ですが、脇役も豪華ですよ。

監督:バリー・レヴィンソン
出演:ジェイソン・パトリック、ブラッド・ピット、ミニー・ドライヴァー、ロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマン、ケヴィン・ベーコン
20051022 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -