★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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シコふんじゃった。

 「ファンシイダンス」で見事なコメディセンスを発揮した周防正行監督の、メジャー第二弾作品。前作と構造的にも俳優的にもほとんど一緒なんですが、それでもいい!と思えてしまう面白さに脱帽。
 HOW TO ものという題材の類似に始まり、主人公・秋平ちゃんの動機、竹中直人や田口浩正や宝井誠明の役柄、モノローグの入れ方などなど、前作を観た人には既視感たっぷりの要素が連続します。でも、そんな予定調和ぶりすら堂に入っているあたり、小津マニアの周防監督らしいというか。映画のテンポは非常に緩やかなんですが、慣れない環境に四苦八苦する主人公たちの姿を素直に描いていて、気持ちよく笑えました。学生相撲という聞き慣れないジャンルに戸惑いつつ、次第にハマっていく主人公の心情を巧みにとらえたシナリオは絶妙。見ているうちに自然と主人公に同調してしまって、映画の最後には一緒にシコを踏みたくなってしまうこと請け合いです。

 俳優では、まわし一丁が似合いすぎの本木雅弘がアイドル出身とは思えない名演。もちろん竹中直人の怪演も見物なんですが、モッくんには惚れました。きっちり笑えて最後はちょっと感動もできる、コメディ映画の名作です。必見。

監督:周防正行
出演:本木雅弘、清水美砂、竹中直人、宝井誠明、田口浩正、水島かおり、宮坂ひろし、柄本明
20060226 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ファンシイダンス

 小津映画をパクりまくった異色のピンク映画「変態家族 兄貴の嫁さん」で一部の話題をさらった周防正行監督のメジャーデビュー作品。日本映画ならではの緩やかな演出と、トボけた笑いがたまらない秀作コメディです。
 それまで馬鹿にしていた”お坊さんライフ”に、典型的なパンクロッカーだったはずの主人公が着々とハマっていく様は、それだけで笑えます。と同時に、一挙手一投足が洗練されていくのを見せつけられると、観ている者まで”お坊さんってカッコイイかも…”と思えてくるあたりが侮れません。また主演の本木雅弘のなりきりっぷりも最高で、小津の影響がそこら中から香る周防監督の演出との相性も抜群。竹中直人の中途半端な破戒僧ぶりなど、登場する他の僧もそれぞれに個性があって印象的でした。

 挿入歌「若者たち」の使い方も絶妙。あっさりした演出の中に、さりげなく青春の香りを漂わせるあたりも周防監督の好ましい点ですね。映画文法自体は古い日本映画のそれなので、よりテンポの良い姉妹作「シコふんじゃった。」を先に観てからの方が楽しめるかと。ともあれ、邦画コメディと言われて真っ先に思い浮かぶのがこの映画なので、未見の方は是非。

監督:周防正行
原作:岡野玲子
出演:本木雅弘、鈴木保奈美、大沢健、田口浩正、竹中直人、甲田益也子、彦摩呂、宮坂ひろし、宮琢磨
20060225 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

座頭市

 子母沢寛原作の人気時代劇を新たな解釈で映画化した、北野武監督によるアクション大作。エンタテイメントに徹した作りながら、現代性も兼ね備えたなかなかの良作です。
 あまり深いことは考えず殺陣と人情で引っ張る、いかにも時代劇な作りはソツがありません。逆に言うと新しい要素も少ないんですが、見事な歌や踊り、それに寒いコントといった引きの要素が気持ち良いので単純に楽しめます。これが軽薄に思える人にはダメなんでしょうが、僕は映画自体を”楽しんでやろう”という監督の姿勢が感じ取れたので満足。たまにはこういう脳天気な映画だっていいじゃないか、と。金髪に朱塗りの仕込み杖というビジュアルも違和感ありませんし、肝心の殺陣の出来も上々。タケシの早技も見事ですが、浅野忠信のしっかりとした太刀筋もかなりのものです。

 まさに大衆向けの娯楽映画といったノリの、気軽に楽しめる作品でした。「七人の侍」などの黒沢映画へ強烈なオマージュを捧げつつ、それを笑い飛ばせるだけの余裕を見せた北野武は、やはり現代日本を代表する監督なのだなあ、と納得。

監督:北野武
原作:子母沢寛
出演:ビートたけし、浅野忠信、夏川結衣、ガダルカナル・タカ、大楠道代、橘大五郎、大家由祐子、岸部一徳、柄本明、樋浦勉
20060224 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アイデン&ティティ

 みうらじゅんの同名コミックを、氏の盟友田口トモロヲが監督した青春バンド・ムービー。主演の峯田和伸の説得力ある演技のおかげで楽しめました。

 この手のジャンル映画としては非常に典型的な内容なものの、ボブ・ディラン風の”ロックの神様”がアクセントになっていて飽きさせません。反則くさいんですがディランの詞を引用したりして、ロックファンは堪らないのでは。そして主演の峯田和伸を始め、バンド経験者中心に選ばれた出演陣も良い。商業主義とポリシーとの板挟みになって悩むなんてあまりに定番な話であっても、実際にバンドやってる連中が演じるんだから説得力あるわけです。
 ストーリーがあまりに直球なのと、僕自身バンド経験者じゃないのもあってそれほど心には響かなかったんですが、バンドやってたらまた感想も違ったかも知れません。しかし宮藤官九郎の脚本は、相変わらず何か足りない感じがします。キレイに収まりすぎで。

 ちょっとずつ顔を出す(おそらく音楽関係の)有名人も見物。浅野忠信は相変わらずですが、ボカスカジャンの扱いはハラハラさせられました。とりあえず、青臭いロックに共感できる人と、ディランで無条件に泣ける人なら観て損はないかと。

監督:田口トモロヲ
原作:みうらじゅん
出演:峯田和伸、麻生久美子、中村獅童、大森南朋、マギー、コタニキンヤ、岸部四郎、大杉漣、あき竹城、塩見三省
20060223 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

黒い十人の女

 '61年作品という古さを感じさせない、市川崑監督による傑作フィルム・ノワール。サスペンスとコメディという二つの要素を巧みに絡めた、軽妙なストーリーが秀逸です。

 まず船越英二の演じる浮気性のTVプロデューサーを、山本富士子や岸恵子といった十人の女性達が取り合う、という構図が面白い。ヤクザ社会が染みついている日本でノワールをやるとなんとも様にならないものですが、この”女性の陰謀”という題材は見事にハマっていました。TV局内の描写も説得力があって物語に深みを加えていますし、そこに佇む船越英二のいかにもな業界人っぷりは必見です。
 しかしこの映画の魅力は、やはり市川監督の映像センスに尽きるでしょう。カメラの置き方、光の当て方、音の乗せ方といったテクニックを駆使して画面の密度を上げ、場面に応じた緊張感をつくり上げる縦横無尽な演出は圧巻。余韻を残しつつバッサリ終わるラストといい、市川監督の独壇場と言える内容でした。

 総じて、洒落の効いたシナリオと市川監督の一流の演出が楽しめる、上質のサスペンスでした。それらを全てひっくり返すぐらいの個性に欠けるのが悲しいところですが、今でも全く色褪せないスタイリッシュな映像は必見です。

監督:市川崑
出演:船越英二、岸恵子、山本富士子、岸田今日子、宮城まり子、中村玉緒、ハナ肇とクレージーキャッツ
20060222 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ホワイトアウト

 大作映画のヒットに恵まれていなかった日本映画界に一石を投じるはずだったアクション大作。「踊る大ハード」という下馬評通りで既視感たっぷりなものの、それなりに楽しめる映画でした。

 原作はかなり良くできたサスペンスで、ドラマもアクションも盛りだくさんなんですが、この映画はそれを最大限に再現していて好感が持てました。親友の死とか犯人グループの確執など、分かり易いドラマではあるものの、定番だからこそ安心して楽しめます。原作はそこに様々なドラマが絡み合い、かつダムという認知度の低い空間を最大限に生かした展開が見物だったんですが、映画でそのスケール感が損なわれてしまったのだけは残念でした。特にセット撮影の場面が辛い。ロケ部分の映像が良くできているだけにもったいないなあ、と。
 俳優では吹越満が良かった。原作では彼の動機がきっちり描写されているので、映画で物足りないと思われた方はぜひ原作を。佐藤浩市も、映画らしく脚色されたキャラクターを思いっきりふてぶてしく演じていて見応えがありました。松嶋菜々子が全然出てこないのも良いですね。

 確かに所々で詰めの甘さが目立つ、あまり褒められた作品じゃないんですが、これをパクリなどと言って一概に非難するのは疑問。というか、それなら最近の日本製大作映画なんか全部パクリじゃないのかと。下手にクセがなく後味も悪くないだけ、この映画はまだ救いがあります。

監督:若松節朗
原作:真保裕一
出演:織田裕二、松嶋菜々子、佐藤浩市、石黒賢、吹越満、中村嘉葎雄、平田満
20060221 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

漂流街 THE HAZARD CITY

 馳星周のバイオレンス小説を、日本映画界で最もパワフルな作風を誇る三池崇史監督で映画化した問題作。ブッ飛んだアレンジは流石ですが、ちょっと暴走しすぎかも。
 まず、どうみても国内には見えない(おそらくテキサス州あたりの)荒野を「埼玉県与野市」と言い切る勢いの良さに冒頭から笑わされました。それが本気なのか冗談なのか判断するヒマもなく、その後もマトリックス風の闘鶏や殺人卓球と、およそ平凡とはかけ離れた、しかも原作にない要素を絡めまくり。というか原作と大枠で同じ話なのに、ここまで印象が違うというのに驚かされました。それでも新宿歌舞伎町を中心としたトーキョーの混沌っぷりを、誇張しつつも実感たっぷりに描写しているあたりは三池監督のセンスを感じずにはいられないんですが、でも映画としては破綻しすぎかなあ、と。少なくとも、原作のようにシリアスなバイオレンスを期待すると大変なことになります。

 俳優では、チャイニーズ・マフィアのボスを演じた及川光博がピカイチ。とても日本人には見えません。吉川晃司もさすがの色気でした。そのあたりの遊び心を楽しみつつ、とんでもない展開にゲラゲラ笑える骨の髄からの三池ファンなら、観る価値はあると思います。

監督:三池崇史
原作:馳星周
出演:THEA、ミッシェル・リー、及川光博、吉川晃司、柄本明、テレンス・イン、野村祐人、麿赤兒
20060220 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

アカルイミライ

 黒沢清監督・脚本による、真摯なテーマを孕んだドラマ作品。共感を持てる人には面白いんでしょうが、僕はこの映画のテーマには全く共感出来ませんでした。

 主人公・仁村の無目的ぶりが、まずダメ。自分を制御出来ない、しかもそれに不満を覚えつつ何もしない人間には興味がないので、彼がどんなに右往左往しても全く心に響きません。クラゲの存在も、無駄にファンタジーで軽薄に感じましたし、イギリス映画みたいな、彩度が低く粒子の粗い映像もイマイチでした。安直に解決させないのは評価しますが、それにしてもラストのシークエンスは不要。もしくは、そのシークエンスだけで映画のテーマは表現できていたと思います。
 現実と向き合えない現代の若者がテーマなのでしょうが、その弱さなどに共感出来ない、敷かれたレールを踏み外すのに慣れている人間には全く価値が分からない映画だと思います。こういう映画が出てきてしまう事自体、日本がまだ文化的に成熟していない証拠ではないか、と考えたり。早熟かつ未熟な、東京らしい映画とも言えます。

 浅野忠信演じる有田のキャラクターは良い。こういう人には「ついていきたい!」と思えます。北村道子の衣装も相変わらず良かった。でも、それ以外には見るものはなかったなあ、と。オダギリジョーが好きな人は、割と共感出来るかもしれませんが。

監督:黒沢清
出演:オダギリジョー、浅野忠信、藤竜也、りょう、はなわ
公式サイト
20060219 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

鉄男 II BODY HAMMER

 塚本晋也監督の出世作である”鉄男”シリーズ第二弾。前作「鉄男 TETSUO」よりトーンダウンした観は否めませんが、相変わらずパワフルな映像は一見の価値あり。
 塚本監督は、今回も脚本・美術・撮影・編集をこなしたうえ、自らも出演するという力の入れよう。しかしカラーになり、映画としての体裁も整ってしまったためか、映像的な迫力ばかりが目について、映画本来のテーマが疎かになってしまったような。アクションシーンのスピード感は流石に見物ですが、前作のような”荒削りながらも強烈な映画体験”には、何かが足りない感じでした。

 前作に続いて主演を勤める田口トモロヲが、前作以上にバリバリのアクションをこなしているのは見所。映像や造形など、明らかに普通の日本映画とは一線を画す作品であることは確実です。

監督:塚本晋也
出演:田口トモロヲ、塚本晋也、叶岡伸、金守珍
20060218 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ヒルコ 妖怪ハンター

 諸星大二郎のカルト伝奇漫画「妖怪ハンター」を、当時まだ新進気鋭の塚本晋也監督が映画化したホラー作品。原作のイメージとはかなり乖離した内容ですが、これはこれで楽しめました。
 映画の内容は、同シリーズの単行本「海竜祭の夜」に収録された「黒い探究者」をメインにしつつ、そこに「赤い唇」が絡むといった感じです。ただ原作の持つおどろおどろしさは無く、非常に標準的なホラーといった印象。伝奇的なカタルシスは分かりやすく翻案されていますし、沢田研二も落ち着きが無くて稗田礼二郎という感じではありません。ただその沢田研二と、まさお少年役の工藤正貴の掛け合いがなかなか巧みで、”少年のひと夏の体験”といった爽やかさすら感じました。室田日出男の強面も、物語を引き締めるのに一役買っています。最後の演出は、さすがにどうかと思いましたが…。

 全体にちぐはぐな印象の映画ではあるんですが、パワフルな映像と俳優に助けられて、後味は悪くなかったような。でも、これは諸星大二郎原作である必要はないかもなあ、と。

監督:塚本晋也
原作:諸星大二郎
出演:沢田研二、工藤正貴、上野めぐみ、竹中直人、室田日出男
20060217 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -