★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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鉄男 TETSUO

 映画作家・塚本晋也の名前を世界に知らしめた作品。監督・脚本・撮影・美術・編集・出演の六役をこなした塚本監督の、まだ荒削りながらも力強い、映像に対するアプローチが感じられる問題作です。
 塚本監督の共通するテーマである”肉体”への表現が、既にこの映画の時点で明確に志向されています。67分という短い上映時間ながらも、長編映画以上のボリュームを感じさせる濃密な映像が凄い。モノクロであるが故にかえって力強さが増幅され、叙情とか感傷といった生半可な表現は、ことごとく金属化した”肉体”の下に叩き伏せられるのみ。言葉やプロットでどうこう言うより、完全に感覚で捉える映画でした。

 明らかに商業映画ではないし、暴力描写が嫌いな人も絶対に観てはいけない部類のものですが、くだらない精神論をぶって悦に浸るような映画よりよほど実のある内容だと感じました。しかし、体力的に余裕がないときには遠慮した方が良いのは確実なので、観る前は体調に気を付けましょう…。

監督:塚本晋也
出演:田口トモロヲ、塚本晋也、藤原京、叶岡伸、石橋蓮司
20060216 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ゼブラーマン

 三池崇史監督、宮藤官九郎脚本、哀川翔主演というコテコテのスタッフが作り上げた異色のヒーロー映画。案の定、着眼点は良いのにそれを生かし切れていない脚本が泣き所でした。
 特撮ヒーローものではなく、あくまで色モノ映画だというのは三池監督という時点で分かっていたのでオッケー。豪華キャストもそれぞれハマり役で、主役級から脇役まで安直な扱いが無いのには大満足でした。ただ宮藤官九郎の脚本が辛い。一つ一つの台詞は気が利いているんですが、物語の全体を見通してのカタルシスが無く、伏線も皆無なので、見終わってからの感慨に欠けます。まあゼブラーマンとキメ台詞は格好いいし、見てくれと一発ギャグを楽しむだけの映画だと割り切って観るのが正解でしょう。

 哀川翔は良かった。渡部篤郎のケイゾクっぷりも最高。俳優には恵まれた映画ですね。あとTV版ゼブラーマンの渡洋史ってシャリバンですよ! びっくりしたー。「ゼブラーマンの歌」はもちろん唄・水木一郎なので、そちらも必聴。

監督:三池崇史
出演:哀川翔、鈴木京香、渡部篤郎、大杉漣、岩松了、市川由衣、近藤公園、柄本明、内村光良、渡洋史
20060215 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

カタクリ家の幸福

  韓国のホラー映画「クワイエット・ファミリー」を三池崇史監督が大胆に翻案したブラック・コメディ。分かってやっているとは思うんですが、とてもそうは思えない頭の悪さが最高です。

 舞台を日本に変えただけならともかく、明らかに勘違いぶり爆発の”ミュージカル化”だというから、さすがは三池監督。目の付け所がかなりあさってです。しかも昭和臭がプンプンする豪華なキャストまでついて、これを21世紀になってしまった今になってやるというのは明らかに自殺行為。実際、映画館はガラガラだったんですが、映画自体はとんでもない掘り出し物でした。
 で、物語はあってないようなもの。とにかくバンバン人が死に、明らかに怪しいムードが映画に漂いますが、一番シリアスにならなければいけないところで突然ミュージカルになるのです。最悪の状況では笑うしかない、という心境の強烈な比喩でしょうか。さりげなく家族愛というテーマを組み込んでいますが、それも荒唐無稽な展開とか、脇役として登場する忌野清志郎や竹中直人のおかげでぶち壊し。終盤、暴走しすぎで観客がついていけなさそうな場面もあるんですが、綺麗に完結しているところが、やはり監督の手腕のなせる技なのでしょう。

 とにかく映画全編を通して館内に笑いがこだまする、粋なミュージカル・ホラーでした。三池監督のキツい演出は観る人を選びそうですが、それだけに映画としてのエネルギーは十分すぎるほど。近年の日本映画は理屈ばかりで面白くない、突き抜けたバカが見たい、という人は必見。数々の”迷曲”が一生頭から離れなくなることは保証します。

監督:三池崇史
出演:沢田研二、松坂慶子、武田真治、西田尚美、宮崎瑶希、忌野清志郎、竹中直人、丹波哲郎
20060214 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

新幹線大爆破

 佐藤純弥監督による、日本パニック映画史上に残る大傑作。新幹線ひかり号に爆弾を仕掛け、時速80キロ以下になるとそれが爆発する、という発想を有効に活用した脚本が秀逸でした。
 とにかくそのアイデアが良い。実際に発生したときにどうなるか容易に想像できるので、新幹線に同乗してしまった人々のパニックぶりも頷けます。同時に、高倉健などが演じる犯人グループの切実なドラマと巧妙な手口も、いかにも70年代というケレンに溢れた設定で、かつ犯罪映画として単体で立てるほど。こういう一つ一つの作り込みがしっかりしているので、映像や端役の演技が多少チープでも気になりませんでした。

 ここまでアクションとサスペンスが両立できている日本映画というのは珍しいかも知れません。見るたびに手に汗握る、最高のパニック映画です。ちょっと昔の制作なうえに、当時の国鉄からロケ撮影を断られたという経緯もあって映像の迫力は若干落ちてしまうんですが、それを差し引いても必見の一本。

監督:佐藤純弥
出演:高倉健、山本圭、宇津井健、田中邦衛、織田あきら、千葉真一、小林稔侍、永井智雄、志村喬
20060213 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ピンポン

 曽利文彦監督による、松本大洋の同名コミックの映画化作品。ストレートなスポ根もので、それだけに単純で楽しめる映画に仕上がっています。

 曽利監督はCG畑出身の方だそうですが、専門分野をあえて前面に出さない題材選びが大正解。もともと原作自体、松本大洋の芸術性をスポ根の隠れ蓑に包んでいたおかげで大衆性を獲得していたので、そういう意味では漫画も映画も同じ方向性と言えるのでは。ほぼ原作通りながら、ところどころ映画独自の演出をからめた脚本も効果的でした。
 窪塚洋介のキャスティングには半信半疑でしたが、観てみればそれほど違和感はありません。ARATAも、ちょっと格好良すぎるけどそれはそれで。中村獅童と大倉孝二は原作と互角。竹中直人と夏木マリはお遊びの観はありますが、原作のイメージはきっちり引き継いでいます。原作未読者にも希求できる明快なキャラクター分けと物語が健在なので、映画単体でも楽しめる、良質なエンタテイメントに仕上がったのでしょう。

 突き抜けた面白さではないんですが、このところ誰でも楽しめる日本映画が少ないので、分かりやすい映画は大歓迎。こういう嫌味のない日本映画がもっと増えてほしいなー、と。あとは、原作に頼らないオリジナルの企画がほしいところですね。映画にすると、どうしても原作の内容が薄まってしまうので…。

監督:曽利文彦
原作:松本大洋
出演:窪塚洋介、ARATA、中村獅童、サム・リー、大倉孝二、夏木マリ、竹中直人
20060212 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

逆噴射家族

 小林よしのり原案、石井聰亙監督によるバイオレンス・コメディ。日本人的な笑いと石井聰亙の演出という、あまりにミスマッチな組み合わせが何もかも打ち砕く、非常にパワフルな秀作です。
 小林克也を家長とする見るからに平均的な家庭が、あっという間に崩壊していく様がとにかく気持ち悪くて楽しい。ナンセンス・コメディとしてはある意味スタンダードな脚本なんですが、そこを極端にデフォルメし、過剰すぎるほどの演出で印象づける石井聰亙監督の手腕は流石。それに俳優陣も良い演技をしています。日常生活と、ストレスが表面化した後の壊れっぷりとの対比が出来ているので、それぞれに鬼気迫るものがありました。

 それにしても小林克也のお父さんは、ハマり過で黙っていても笑えますね。現代の家族問題を皮肉った作品とも取れますが、そんな小難しいことは考えずとも楽しめる、良質のブラック・コメディでした。

監督:石井聰亙
原案:小林よしのり
出演:小林克也、倍賞美津子、植木等、工藤夕貴、有薗芳記
20060211 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

太陽を盗んだ男

  長谷川和彦監督、沢田研二主演による、日本犯罪映画史上に輝く金字塔。まさにカルト映画と呼ぶにふさわしい、強烈なメッセージを含んだ傑作です。

 あまりの評判の良さに観たら落胆するのではと危惧していましたが、実際は感動ばかりで頭の中がぐるぐる回っていました。原爆を作ってしまうという突拍子もない展開も面白いんですが、”その後”の主人公の行動が、現代の日本人の心境を巧みに反映していて背筋が震えました。荒削りな演出もあってか、大作映画的な作りなのにテーマが全く薄れていないのにも驚かされます。
 沢田研二の無軌道っぷりは、まさに時代の主人公として様になっています。刑事役の菅原文太がちょっと濃ゆくて困ったのですが、それがあの後半は自然に消化されていたのには驚きました。コミカルな人物描写で、作品の雰囲気を深刻にし過ぎないバランス感覚が絶妙。アクションシーンなんかに昔っぽさをひしひしと感じてしまうのも、ここまで作品の出来が良いと気になりません。ビルを押すシーンとか、わけが分からないけど印象的なシーンの作り方も巧いですね。

 とにかく、日本映画が好きな人にも嫌いな人にもお薦めの作品。これだけパワーのある映画を昔の日本は撮れていたのだ、という事実に何より感心させられるのは確実です。

監督:長谷川和彦
出演:沢田研二、菅原文太、池上季実子、北村和夫、風間杜夫、伊藤雄之助
20060210 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

鮫肌男と桃尻女

 望月峯太郎による同名コミックを、CF界出身でこれが長編デビューとなる石井克人監督が映画化。オフビートな演出は特徴的で楽しめますが、イマイチ吹っ切れていない印象です。

 ツカミは良い。次々登場するコミカルなキャラクターはしっかり描き分けられているので混乱しませんし、編集のテンポも良いので、まともなアクションシーンは殆どないのにダレません。そして、俳優陣の自己主張が凄い。浅野忠信はいきなりパンツ一丁で走ってるし、岸部一徳がヤクザだというのも笑えます。他にも我修院達也の”ドナドナ”とか、島田洋八の変態っぷりなどなど……ちょっと他では真似出来ない役者の使い方が目から鱗でした。
 ただ、最初にドカンと盛り上げた話が、それ以上加速しないままヒネリもなく終わってしまうのが残念でした。どうでもいい喋りを延々と描写するのも辛い。斬新なビジュアルもあって当時は新鮮だったんでしょうが、今観るとフツーに面白い”だけ”の映画ですね。

 ちなみに、原作はもっとネチネチしていてセクシーで、我修院達也演じる”殺し屋・山田”も登場しません。どちらが好きかは好みでしょうが、単行本1冊だけなので興味がある方はそちらも是非。

監督:石井克人
原作:望月峰太郎
出演:浅野忠信、小日向しえ、岸部一徳、我修院達也、島田洋八、鶴見辰吾、寺島進
20060209 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

双生児 -GEMINI-

 塚本晋也監督による、江戸川乱歩小説の映画化作品。この二人の相性は抜群ですね。乱歩世界の持つ独特の懊悩感が、映像に見事に現れていました。

 塚本監督の毒々しい映像センスが、乱歩のエログロな世界観を得て力強さを増しただけでなく、不思議とポップな印象すら残します。テーマに合わせて二面性にこだわったカットが多用され、観ている内に現実すら覚束なくなるような感じでした。眉無しメイクや北村道子による衣装など、ビジュアル面でのアプローチも見事。豪華なキャストも手伝って、塚本作品の中では非常に取っつきやすい内容に仕上がっています。
 出演陣では、やはり主演の本木雅弘の静と動を演じ分ける表情が際立っています。りょうのどこかバランスが崩れた美しさや、カメオ出演的に顔を出す豪華共演陣も、それぞれに良い味を出していました。

 全体を通して、テーマもビジュアルも完成度の高い、それでいて日本的な美意識に満ちた秀作でした。こういうエログロの世界こそ日本人の本質なんだから、その代名詞たる乱歩小説はいくらでも映像化して欲しいところです。
 ちなみに、DVDの特典映像を何故か三池崇史監督が撮影していました。塚本監督と三池監督って、仲良さそうですね。

監督:塚本晋也
原作:江戸川乱歩
出演:本木雅弘、りょう、筒井康隆、藤村志保、浅野忠信、竹中直人、麿赤児、石橋蓮司
20060208 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

姑獲鳥の夏

 京極夏彦による人気ミステリ小説を、奇才実相寺昭雄監督で映画化。原作既読者に向けた映画ではあるものの、オカルト的な長広舌や実相寺映像が好きな人には、なかなか楽しめる内容でした。

 長い原作の大半は京極堂の喋りだけなので、どう映像化するのかと危惧していましたが、さすが実相寺監督。あの長文をきっちり喋らせつつ、奇抜なカメラワークで巧みに場面を繋いでいて、飽きさせない構成になっています。展開が単調で盛り上がりに欠ける気もしますが、もともと原作がキャラ萌え中心のライトノベルのようなものなので、山場を期待するのは間違い。原作のキモはきっちり映像化しつつ、最後まで雰囲気を崩さないセンスは驚嘆ものでした。
 豪華なキャストも役の雰囲気に合っていて、かつ全体に漂う昭和臭さが堪りません。特に堤真一は想像以上にハマり役でした。もう少し脚本にまとまりがあれば最高だったんですが、それで変にお行儀良くなるのも嫌なので我慢します。

 あまりに凝りまくった映像は目が疲れそうですが、僕はこのぐらい凝ってくれた方が好みなので万々歳。ひたすら美学を追究した映像と、豪華なキャストに面白みを見いだせる人にはオススメです。次の「魍魎の匣」も、このメンバーで映像化してくれないかなあ。

監督:実相寺昭雄
原作:京極夏彦
出演:堤真一、永瀬正敏、原田知世、阿部寛、宮迫博之、田中麗奈、松尾スズキ、恵俊彰、荒川良々
公式サイト
20060207 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -