★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ハウルの動く城

 日本アニメ界の代表者になってしまった宮崎駿監督による、初の正統派ファンタジー作品。原作は気に入らなかったので(翻訳のせいかも)、このお話を監督がどう料理しているのかと期待して観ましたが、見事に肩すかしを喰った印象です。

 機関車が出てきた時点でおかしいなとは思ったんですが、ここまで原作を無視しているとは思いませんでした。登場人物や前半のプロットは一緒でも、後半の展開は映画オリジナル。そもそもハウルの素性が明かされないなんて……「はてしない物語」にバスチアンが出てこないようなものです。
 原作の物語としてのカタルシスは、絵に描いたような”お伽話の世界”という極端な世界設定が、ハウルの正体判明で一気に説得力を持つところであって、荒れ地の魔女の正体もソフィーの存在意義も「オズの魔法使」になぞらえたその他の登場人物たちも、そこに全てかかってきていたはずです。ところが映画ではその設定自体が消えたために凡庸なファンタジーになり、更に「戦争」という唐突で物語にそぐわないテーマまでが挿入されているので、原作の意図が全てうやむやになってしまいました。

 すげ替えられた物語が単純に面白ければ我慢のしようもありますが、そういうこともなく。映画としても、目的の分からないアクションシーン、無粋な台詞、細かいだけで表現力に乏しい背景美術など、納得のいかない部分ばかりでした。唯一良かったのは冒頭、羊飼いをナメて城が歩くカット(背景は男鹿和雄!)。これで原作の説明不足な点が一気に解消したんですが……。
 ちなみに映画自体で説明不足な点の殆どは、原作には初めから存在しない要素なので原作を読んでも解決されません。悪しからず。

 もともと某監督作品として制作が進められていたものの頓挫し、再開後もカツカツのスケジュールで制作されたという経緯もありますが、それにしてもこの破綻ぶりは酷い。試行錯誤をしているのは分かりますし、新しい試みも大事だと思いますが、宮崎監督には肩の力を抜いて90分ぐらいの小規模な作品を作ってほしい、というのが本心です。

監督:宮崎駿
原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
声の出演:倍賞千恵子、木村拓哉、美輪明宏、神木隆之介、我修院達也
20051121 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ロード・オブ・ザ・リング

 ピーター・ジャクソン監督が長年の「指輪物語」ファンの夢を結実させた超大作。3部作を最初に全て撮影してしまって、1年ごとに1作ずつ公開するという仕組みは、よくもやったりという大企画です。ただ原作を未読だったせいか、展開が突飛すぎて楽しめませんでした。

 確かに所々で魅せる場面もあるのですが、会話シーンとアクションシーンでメリハリが利いてなかったり、被写界深度も慣性の法則もそっちのけのCG風景がミニチュアみたいに見えたりと、的はずれなカメラワークのせいで損をしている場面が目立ちます。台詞回しも原作未読者が理解できないほど濃縮されていて、人物の魅力もいまいち分かりませんでしたし、映画の基本的なところが出来ていないという印象です。何より唐突に挿入されるB級ホラー的演出が笑えてしまって、深刻なシーンでも感情移入が出来ないのはちょっと……。
 大金を投入して作り上げた映像世界にはパワーがありますが、密度が高いだけで工夫は乏しいかと。原作に思い入れもないし、特に好きな俳優も出ていないので、せめてストーリーの不足分を補うような目の覚めるような演出があれば楽しめたのに、と残念です。

 あと、日本公開ではサブタイトルを省くなど3部作であることを伏せたような広告展開で困惑させたり、字幕が原作を尊重していなかったりと、原作ファンのみならず映画ファンも無視したような配給の仕方だったことを付記しておきます。内容も営業も、全てに不満点の多い映画でした。

監督:ピーター・ジャクソン
原作:J・R・R・トールキン
出演:イライジャ・ウッド、イアン・マッケラン、ヴィゴ・モーテンセン、オーランド・ブルーム
20051116 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

弾丸ランナー

 極道系OVに多数出演していた俳優サブの監督デビュー作。ひたすら走り続ける三人の主人公の姿を、日本映画らしい哀愁漂う視線で描いています。

 アイデアは面白いし、上映時間も82分しかありませんが、冗長だと感じました。田口トモロヲは流石に必死さが似合っていましたが、他の二人は意味不明で笑って良いのかどうかも分かりません。あまり語られていませんが、ストーリーがあまりに紋切り型なのも気になりました。
 サブ監督作品はこれ以降も何本か観ましたが、どれも同じような出来。「走り続ける」のがテーマなら、せめて肝心の走るシーンをもっとテンポ良く見せて欲しかったなあ、と。

監督:サブ
出演:田口トモロヲ、DIAMOND☆YUKAI、堤真一、麿赤兒、大杉漣

20051102 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

バッドボーイズ

 マイケル・ベイ監督の長編デビュー作。マーティン・ローレンス、ウィル・スミスが主演コンビを組んだのも話題ですが、全体に違和感を感じました。
 ハリウッドのコメディとはチャンネルが合わないと常々思っていましたが、特にこの映画でそれを実感しました。そういうのを楽しめる人には良いんでしょうが、ダメな人だと割と前半から喋りっぱなしのこの映画は辛いと思います。悪役のチェッキー・カリョとか、警部役のジョー・パントリアーノあたりは見どころですが、出番は少ないし。さすがに終盤付近でのアクションの連続は盛り上がりますが……。

 以降のベイ監督の作風を象徴するような内容で、なかなか興味深いかもしれません。観たあとにストーリーを忘れてしまうほどの軽い映画で、アクションシーンは良いけどストーリー無視の演出は辛い、という。

監督:マイケル・ベイ
出演:マーティン・ローレンス、ウィル・スミス、チェッキー・カリョ、ティア・レオーニ、ジョー・パントリアーノ
20051101 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

カリフォルニア

 ブラッド・ピットの演技が光る無軌道ロード・ムービー。映像のセンスやショッキングな内容など面白い要素は詰まっていますが、どこか物足りないと感じました。
 犯罪映画というジャンルがイマイチ理解できていないだけかもしれませんが、二組のカップルに全く感情移入できませんでした。ブラッド・ピットとジュリエット・ルイスのカップルは暴力的で巧いのですが、共感とはほど遠い存在なので見て楽しむだけ。主役であるはずのもう片方のカップルは地味すぎて不満。まんまモルダーだし。ラストも結局それで終わりなの? と聞き返したくなる内容で、もうちょっとカリスマ的な要素があれば良くなりそうな内容なだけに、惜しいところでした。

 監督は、デヴィッド・フィンチャーなどとプロパガンダ・フィルムスで名を馳せたドミニク・セナ。MTV出身なだけに映像は綺麗でした。因みに、ビデオタイトルは「カリフォルニア/狂気の銃弾」。うわあ。

監督:ドミニク・セナ
出演:ブラッド・ピット、ジュリエット・ルイス、デヴィッド・ドゥカヴニー、ミシェル・フォーブス
20051020 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

青い春

 松本大洋の同名コミックを映画化した青春映画。原作中の「しあわせなら手をたたこう」を中心に構成しつつも、他のエピソードをちりばめた内容になっています。原作のファンなので期待していたんですが、原作の趣旨を完全にはき違えている、と感じました。

 あくまで私感ですが、原作は若者達の行動をドラマチックに描きつつも、肝心の若者自身の思考はとことん無気力で無目的で無計画に描いているところが重要であり、第三者には無為としか見えない「未熟ゆえのエキセントリックさ」を描き出しているのが最大の魅力だと思うんですが、それが映画では「若者の衝動と苦悩」という立派なテーマに置き換えられ、悩める若者を情緒豊かに描いているのです。おかげで、今の若者が「自分はちゃんと考えて生きているんだ」と疑いもなく信じているような気がして怖くなりました。
 ただし全てが駄目というわけでもなく、面白い演出が多かったのも事実。学校の冷たい空気なんかは良く出ています。主演の松田龍平を始めとして、出演している若手俳優の質も良かった。

 普通の「青春感動エンタテイメント」を期待する人なら楽しめるのでは。ただ原作ファンには微妙。原作からシチュエーションだけ貰った、全く別の映画だと思わないとダメです。うーん。

監督:豊田利晃
原作:松本大洋
出演:松田龍平、新井浩文、高岡蒼佑、大柴裕介、山崎裕太、忍成修吾、KEE
20051013 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

シャドウ・オブ・ヴァンパイア

 F・W・ムルナウによる名作ホラー「吸血鬼ノスフェラトゥ」を豪快にパロディ化したナンセンス映画。あの映画の吸血鬼役の俳優が、実は本当に吸血鬼だったら……というアイデアと配役が良いので期待したんですが、期待したほどには楽しめませんでした。

 シリアスになりたいのか、コメディにしたいのかハッキリしない脚本が最大の不満点です。笑わせすぎで低俗になるのを恐れたのか、シナリオで笑いを取ろうとしている部分が数カ所しかありません。あとはオリジナルとその付近の人物たちに捧げたオマージュ(というか皮肉?)ばかりで、オリジナルに思い入れのない身としては引いてしまいました。
 ただ、ウィレム・デフォーの吸血鬼っぷりが良いので、それだけで笑えるのが救い。画面に出てくるだけで笑えるというのは、なかなか凄い業です。これで映画が面白かったら、と残念しきりの一本。

監督:E・エリアス・マーヒッジ
出演:ウィレム・デフォー、ジョン・マルコヴィッチ、ウド・キアー、キャサリン・マコーマック
公式サイト
20051009 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

アダプテーション

 「マルコヴィッチの穴」のスパイク・ジョーンズ&チャーリー・カウフマンのコンビによる、これまた風変わりな作品。原作小説の映画脚本化を頼まれるも「バートン・フィンク」ばりに悩んでしまうチャーリー・カウフマン自身の姿を、双子の弟を引き立て役として皮肉たっぷりに描いています。

 シニカルなテーマには唸らされました。延々とハリウッド批判をするものの、映画の展開自体はコテコテのハリウッド風、という試みも面白いと思います。ハリウッドの「嘘」を象徴するかのように嘘で固められた登場人物たち(カウフマンはデブでもハゲでもないし、本当は弟もいない、とか)も象徴的。ただ、それが面白いかというと微妙です。テンポも速く、内容を消化しきらないうちにどんどん話が進んでしまって、笑うに笑えないというのが正直なところ。こうなると、畳み掛けるような演出は内容が無いのをごまかしているだけなのでは? と疑ってしまいます。
 アカデミー助演男優賞を受賞したクリス・クーパーは、とても演技とは思えないほどのハマリ役。でもやっぱりニコラス・ケイジが…あの顔が2人出てきて会話をするというのは反則です。しかも太ってるし、画面に出てくるだけで笑ってしまいました。

 これを観ると「マルコヴィッチの穴」のテーマがより鮮明になる、言うなれば「”裏”マルコヴィッチの穴」といった作品。ただ、単体の映画としてはつまらない内容になってしまったのが残念でした。

監督:スパイク・ジョーンズ
脚本:チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン
出演:ニコラス・ケイジ、メリル・ストリープ、クリス・クーパー、ティルダ・スウィントン、ブライアン・コックス
公式サイト
20051006 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ザ・ロイヤル・テネンバウムズ

 ウェス・アンダーソン監督による、おかしな家族の寓話的作品。うーん、微妙。確かに独自の世界を構築していて興味深いし、演出力もあるし俳優の演技もいいし、シックで良くできた映画だと思うんですが、描かれる世界が何一つ心に響いてきませんでした。
 一つ思い当たるのは、すごくデフォルメされたキャラを配しておきながら、物語は一般性の範囲内で動いてしまうこと。おかげで、観ていても一歩引いた視点になってしまいます。かといってそこに深い考察や示唆があるわけでもなく、結果として淡々と映画が進行するだけ。監督はそれを狙った感じがありますが、じゃあどうしてそういう演出にしたのか、は不明。要するに世間の人々は幸せだったり不幸せだったりするけど、本質はこんなところじゃないの、という問題提起なんでしょうか。それともこういう絵本的な演出が好きなだけで、ストーリーとの関連性はないのか…。

 これまでのホームドラマから大きくかけ離れたキャラクタを主要人物にしたという点では目を引きます。ただ、その凝ったキャラクタに感情移入できないので、映画を楽しめなかったのかな、と。消化不良。

監督:ウェス・アンダーソン
出演:ジーン・ハックマン、アンジェリカ・ヒューストン、ベン・スティラー、グウィネス・パルトロー、ルーク・ウィルソン、オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ
公式サイト
20051002 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ヒューマンネイチュア

 「マルコヴィッチの穴」で一躍有名になった脚本家チャーリー・カウフマンと、ビョークのPVやGAPのCFなどで独特の映像を創り続けているミシェル・ゴンドリーが組んだ話題作。あのゴンドリーが初監督ということで期待したんですが、内容がちぐはぐで楽しめませんでした。

 設定の奇抜さ、そこから展開される物語の意外性とテーマの堅牢さは今回の脚本でも健在。しかし前半の分かりやすいコメディ的内容に対して、後半の雰囲気は空回り気味に見えます。ミシェル・ゴンドリーらしい映像も部分的で、映画全体となるとまとまりがありません。リス・エヴァンスやティム・ロビンスの演技も良いのですが、いまいち感情移入出来ない……と、どこをとっても「もうひと息」な感じ。
 最大の原因は、おそらく物語も映像も単調なこと。展開に緩急がないので映画にイマイチ入り込めず、カウフマン脚本の非現実性が強調されてしまって違和感を覚えたのだと思います。俳優の演技とカメラワークが微妙にずれているなあ、と感じることもしばしば。発想や、物語の提示しているテーマは興味深いので残念でした。

 コメディ部分と意味深長なオチは良かったと思います。特にリス・エヴァンスのなりきりぶりは一見の価値あり。

監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:チャーリー・カウフマン
出演:リス・エヴァンス、パトリシア・アークエット、ティム・ロビンス
20050930 | レビュー(評価別) > ★ | - | -