★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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風の谷のナウシカ

 宮崎駿が、自らの連載漫画を原作に制作したアニメ作品。この映画には言うことはありません。テーマ性もオリジナリティも一級品のエンタテイメントです。

 圧倒的な世界観と、その世界設定を充分に生かたナウシカのキャラクターが、特に魅力的。監督の中で世界観が充分に消化されているからこそ出てくる設定であり、ナウシカに限らず他のキャラクターやエピソードにしても、世界観と違和感ない絡み方で説得力があります。ラストに向けての盛り上がりやカタルシスも十分すぎるほど。何よりこれだけの作品をオリジナルで制作してしまった宮崎監督の才能に驚かされました。
 余談ですが、宮崎監督の軍事マニアっぷりが散見されるのもこの映画の見所の一つ。戦車や飛行機の操縦方法、武器の挙動や弾道などなど、細かいところですが執拗なこだわりが感じられます。また、“爆発マニア”庵野秀明が全カットを担当した巨神兵のシーンなども必見。

 原作漫画のような濃さはないものの、映画は映画でインパクトがあって好きです。これほど高い完成度でまとまった作品というのは、実写映画でも稀でしょう。まさに日本のアニメーションを代表する作品です。

監督・原作:宮崎駿
出演:島本須美、松田洋治、榊原良子、家弓家正、納谷悟朗、永井一郎、冨永みーな
20060405 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

GODZILLA ゴジラ

 お馴染みローランド・エメリッヒ&ディーン・デブリンのコンビによる、かの名作怪獣映画のハリウッド版リメイク作。ラジー賞では“ワースト・リメイク・続編賞”にも輝いた勘違いぶりで、どこがゴジラなんだと問いただしたくなりました。
 冒頭のゴジラ出現シーンの演出には、近年の日本版ゴジラが忘れていた凄みを感じるものの、その後の展開は相変わらずエメリッヒ節炸裂でお粗末な限り。ゴジラがただの恐竜程度の扱いで、オリジナルの威風堂々たる佇まいは欠片もありませんし、対する人間のドラマも緊迫感がなく、ダークなトーンで統一された映像とは噛み合っていません。ゴジラ映画かどうか以前に、怪獣映画として楽しめない、ただ大迫力のVSFXが連続するだけの映画になってしまって、ひたすら残念でした。まあ、それこそエメリッヒ監督の持ち味なんですが。

 ちなみに、ハリウッドでは続編を三作目まで予定してたものの、さすがにそれは無理だったのかアニメシリーズへと方針を切り替えています。典型的な失敗作だなあ…。

監督:ローランド・エメリッヒ
原作:本多猪四郎、香山滋
出演:マシュー・ブロデリック、ジャン・レノ、ハンク・アザリア
20060331 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

獄門島

 市川崑監督による、石坂金田一シリーズ第三弾。安心してみられる定番の構成ですが、返って新鮮さが薄れてしまったのがちょっと残念かも。
 前二作の良いところを合わせたような構成で、お家騒動も人情もきちんとこなしつつ、“呪われた島”での惨劇をショッキングに描写しています。市川監督のツボを心得た映像といい、相変わらずの石坂金田一といい、とても安定感のある内容でした。ただ、各要素に突出していた前二作に比べると精彩を欠く印象もあります。犯人が原作と違うというのも、とってつけたような感じで微妙。それでも十分インパクトのある内容なのは、やはり市川監督のセンスがそうさせているんでしょうか。

 加藤武、大滝秀治、坂口良子、三木のり平といった常連俳優の顔を拝むだけでも観る価値のある映画でした。池田秀一が出演していたというのも驚き。あと、犠牲者の殺され方がシリーズ中でも屈指の懲りようなので、そのあたりも注目です。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、司葉子、大原麗子、ピーター、東野英治郎、浅野ゆう子、上條恒彦、草笛光子、佐分利信、内藤武敏、池田秀一、加藤武、大滝秀治、坂口良子、三木のり平、小林昭二
20060322 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ゴッホ

 画家ゴッホの死の瞬間までを描き出した、ロバート・アルトマン監督による評伝映画。誇張はあるものの、生の人間としてのゴッホを感じられる作品です。

 ゴッホの弟ヴィンセントの視点を交えて描かれる物語からは、”狂気の画家ゴッホ”をあくまで理性的に捉えようという信念が感じられます。ゴッホ芸術の基礎となったオランダの自然がひたすら美しく、また当時の絵画界をかいま見られる数々のエピソードも説得力がありました。
 そして、ゴッホを演じたティム・ロスの演技がとにかく凄い。クセモノ俳優としての本領発揮で、カーク・ダグラス版よりよほどゴッホらしい風格があります。ただ、かえって狂気を強調しすぎた観も。現代の芸術家像である「芸術家=尋常でない人」という図式の走りでもあるんでしょうが、この作品では多少やり過ぎだったような。

 何はともあれ、ゴッホ映画の決定版と言える内容だと思います。ちなみに、ビデオタイトルは「ゴッホ/謎の生涯」。どこが謎なのかは不明。しかも原題は「ヴィンセント&テオ」。どうせサブタイトルを付けるなら、そっち方面で考えて欲しかった…。

監督:ロバート・アルトマン
出演:ティム・ロス、ポール・リス、アドリアン・ブリン、ハンス・ケスティング、ジャン=ピエール・カッセル
20060316 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

キャリントン

 女流画家ドーラ・キャリントンの半生を描いた評伝映画。男勝りの芸術家に扮したエマ・トンプソンの演技力が光る秀作です。
 同性愛者の男性を好きになってしまった女性の、行動とは裏腹に純粋でひたむきな想いが伝わってきて、恋愛以上に人生そのものについて、深く考えさせられました。気品や哲学性という精神的なテーマを前面に押し出した造りで、ラブシーンが多いのもそれほど気になりません。イギリスの自然や庭園を本当に美しく描き出しているのも効果的で、ついつい画面に見入ってしまいます。20世紀初頭の重苦しい時代背景なども手伝って、なかなか見応えのある評伝映画に仕上がっている、と感じました。

 主演のエマ・トンプソンがとにかく魅力的。気むずかしい人間が主人公なのに楽しく観られたのは、やはりこの人の演技が素晴らしいからでしょう。ジョナサン・プライス演じる作家リットンの、素朴ながら自信に満ちた佇まいも好きです。この二人に興味がある方は是非。

監督:クリストファー・ハンプトン
原作:マイケル・ホルロイド
出演:エマ・トンプソン、ジョナサン・プライス、スティーヴン・ウォデントン、サミュエル・ウェスト、ジェレミー・ノーサム、ルーファス・シーウェル
20060314 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ゴーストワールド

 ダニエル・クロウズの人気コミックを、「クラム」のテリー・ツワイゴフ監督で映画化。「ダメに生きる」というキャッチコピーからして僕のツボに響きまくりで、とても印象的な青春映画でした。

 主人公の、達観しているのかただの幼さなのか判別の付きにくい行動が、現代的でとても共感出来ます。登場人物の性格設定があまりにバラバラなのも妙にリアル。みんなどこかに実在していそうで、誰もが主役になりうるだけの重さがありました。しかし映画では、主人公イーニドの純粋で妥協しない性格に代表される”他人との距離”に絞ってエピソードが積み重ねられていて、そのさりげなさが絶妙でした。寓話的なラストも、作品のムードに合っています。
 とにかく、社会に出なきゃいけないのに、自分と社会との大きな溝を克服出来ずに悩んでしまう、その心境を痛々しいまでに描写していて、身につまされました。社会に溢れる「普通」という考え方を、子供の頃は嫌悪していたのに、どうしてそれに迎合してしまうんだろう、という問題提起があまりに切実。青いって良いなあ。

 主演のソーラ・バーチとスティーヴ・ブシェミの掛け合いが、楽しいのにもの悲しい。これぞまさにミニシアター系の醍醐味です。青春は美化されがちだけど、要するにアレはガキがはしゃいでるだけで、そのまま年だけ取るからバカな大人が増えるのよ(自分も含めて)、という映画です。そんなわけで、バカな大人必見。

監督:テリー・ツワイゴフ
原作:ダニエル・クロウズ
出演:ソーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンセン、スティーヴ・ブシェミ、ブラッド・レンフロ
20060303 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

奇人たちの晩餐会

 フランシス・ヴェベール監督による軽妙なコメディ。舞台劇のように一つの部屋で繰り広げられるドタバタ劇で、練り込まれたシナリオが秀逸な佳作です。
 「メルシィ!人生」のときにも感じたことですが、大きな波はないもののひたすら笑えるシナリオが凄い。バカを笑いものにする晩餐会というアイデアも皮肉タップリなうえ、その晩餐会に否応なく参加させたくなるほどのバカをきちんと表現出来ています。さるげなくホロリとさせるシーンや、気持ちの良い大オチまであるのには感服しました。コメディの基本が出来ています。スケールの大きい話ではないので劇場向けかというと疑問ですが、これだけのシナリオを見せられると文句は言えないですね。

 俳優ではジャック・ヴィルレ(ピニョン役)とダニエル・プレヴォー(査察官役)の二人が見事なコメディアンぶりを発揮していて、セザール賞の受賞も納得。それにティエリー・レルミットがまた格好いいんですが、今回は翻弄されっぱなしでオイシイ役回りでした。この人見たさに観た映画でもあったので、大満足です。

監督:フランシス・ヴェベール
出演:ジャック・ヴィルレ、ティエリー・レルミット、アレクサンドラ・ヴァンダヌート、カトリーヌ・フロ、ダニエル・プレヴォー、フランシス・ユステール
20060302 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

黒い十人の女

 '61年作品という古さを感じさせない、市川崑監督による傑作フィルム・ノワール。サスペンスとコメディという二つの要素を巧みに絡めた、軽妙なストーリーが秀逸です。

 まず船越英二の演じる浮気性のTVプロデューサーを、山本富士子や岸恵子といった十人の女性達が取り合う、という構図が面白い。ヤクザ社会が染みついている日本でノワールをやるとなんとも様にならないものですが、この”女性の陰謀”という題材は見事にハマっていました。TV局内の描写も説得力があって物語に深みを加えていますし、そこに佇む船越英二のいかにもな業界人っぷりは必見です。
 しかしこの映画の魅力は、やはり市川監督の映像センスに尽きるでしょう。カメラの置き方、光の当て方、音の乗せ方といったテクニックを駆使して画面の密度を上げ、場面に応じた緊張感をつくり上げる縦横無尽な演出は圧巻。余韻を残しつつバッサリ終わるラストといい、市川監督の独壇場と言える内容でした。

 総じて、洒落の効いたシナリオと市川監督の一流の演出が楽しめる、上質のサスペンスでした。それらを全てひっくり返すぐらいの個性に欠けるのが悲しいところですが、今でも全く色褪せないスタイリッシュな映像は必見です。

監督:市川崑
出演:船越英二、岸恵子、山本富士子、岸田今日子、宮城まり子、中村玉緒、ハナ肇とクレージーキャッツ
20060222 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

カタクリ家の幸福

  韓国のホラー映画「クワイエット・ファミリー」を三池崇史監督が大胆に翻案したブラック・コメディ。分かってやっているとは思うんですが、とてもそうは思えない頭の悪さが最高です。

 舞台を日本に変えただけならともかく、明らかに勘違いぶり爆発の”ミュージカル化”だというから、さすがは三池監督。目の付け所がかなりあさってです。しかも昭和臭がプンプンする豪華なキャストまでついて、これを21世紀になってしまった今になってやるというのは明らかに自殺行為。実際、映画館はガラガラだったんですが、映画自体はとんでもない掘り出し物でした。
 で、物語はあってないようなもの。とにかくバンバン人が死に、明らかに怪しいムードが映画に漂いますが、一番シリアスにならなければいけないところで突然ミュージカルになるのです。最悪の状況では笑うしかない、という心境の強烈な比喩でしょうか。さりげなく家族愛というテーマを組み込んでいますが、それも荒唐無稽な展開とか、脇役として登場する忌野清志郎や竹中直人のおかげでぶち壊し。終盤、暴走しすぎで観客がついていけなさそうな場面もあるんですが、綺麗に完結しているところが、やはり監督の手腕のなせる技なのでしょう。

 とにかく映画全編を通して館内に笑いがこだまする、粋なミュージカル・ホラーでした。三池監督のキツい演出は観る人を選びそうですが、それだけに映画としてのエネルギーは十分すぎるほど。近年の日本映画は理屈ばかりで面白くない、突き抜けたバカが見たい、という人は必見。数々の”迷曲”が一生頭から離れなくなることは保証します。

監督:三池崇史
出演:沢田研二、松坂慶子、武田真治、西田尚美、宮崎瑶希、忌野清志郎、竹中直人、丹波哲郎
20060214 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

逆噴射家族

 小林よしのり原案、石井聰亙監督によるバイオレンス・コメディ。日本人的な笑いと石井聰亙の演出という、あまりにミスマッチな組み合わせが何もかも打ち砕く、非常にパワフルな秀作です。
 小林克也を家長とする見るからに平均的な家庭が、あっという間に崩壊していく様がとにかく気持ち悪くて楽しい。ナンセンス・コメディとしてはある意味スタンダードな脚本なんですが、そこを極端にデフォルメし、過剰すぎるほどの演出で印象づける石井聰亙監督の手腕は流石。それに俳優陣も良い演技をしています。日常生活と、ストレスが表面化した後の壊れっぷりとの対比が出来ているので、それぞれに鬼気迫るものがありました。

 それにしても小林克也のお父さんは、ハマり過で黙っていても笑えますね。現代の家族問題を皮肉った作品とも取れますが、そんな小難しいことは考えずとも楽しめる、良質のブラック・コメディでした。

監督:石井聰亙
原案:小林よしのり
出演:小林克也、倍賞美津子、植木等、工藤夕貴、有薗芳記
20060211 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -