★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ラスベガスをやっつけろ

 原作者ハンター・S・トンプソンの実体験を元にした小説を、鬼才テリー・ギリアム監督が映画化。他のドラッグ系映画の追随を許さない、とことん下品で不条理で滅茶苦茶な作品でした。

 「トレインスポッティング」がドラッグ文化をあくまでスタイリッシュに描写していたのに対して、こちらは主観的に描写しているのが最大の特徴。つまりは麻薬でラリってる主人公2人の「見えているもの」を中心に物語が進むので、カメラは斜めに漂いっぱなし、何が現実に起こっているのかも判らない状態で、最後まで真実は明かされません。そういった主人公の、現実からの取り残され具合をテーマにした作品なので、それは必然でしょう。ヒッピーが70年代に入って終わりを告げ、ただの社会不適合者になった主人公たちがどういう価値観を持って生きているのか、それがこの映画の語りたいことであり、それは上手く表現できていると思いました。
 しかしそういう理論をぶつ以前に、映像としてこの映画は楽しめます。何よりナンセンスな演出にかけては当代一のギリアムですから、次から次へと繰り出される意表をついた映像に驚かされているだけで2時間が過ぎてしまいました。主演のジョニー・デップは、今までの出演作では決して見せなかったようなオヤジっぷり全開でキめてくれますし、この撮影のために(つまり無駄に)20kg増量したベニチオ・デル・トロも迫真の演技でした。T・マグワイヤ、C・ディアス、C・リッチは本当にチョイ役ですが、特にC・リッチの存在感は抜群。こういう勢いだけで良い映画って、そうそうありません。

 観終わって得られるものはゼロ、物語は何処にもない、ただただバッド・トリップの連続で焦燥感ばかりが募る映画です。でも、それこそ最重要テーマじゃないか、という吹っ切り方こそギリアム映画の最大の魅力ではないでしょうか。

監督:テリー・ギリアム
原作:ハンター・S・トンプソン
出演:ジョニー・デップ、ベニチオ・デル・トロ、トビー・マグワイア、キャメロン・ディアス、クリスティナ・リッチ
20051012 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

アダプテーション

 「マルコヴィッチの穴」のスパイク・ジョーンズ&チャーリー・カウフマンのコンビによる、これまた風変わりな作品。原作小説の映画脚本化を頼まれるも「バートン・フィンク」ばりに悩んでしまうチャーリー・カウフマン自身の姿を、双子の弟を引き立て役として皮肉たっぷりに描いています。

 シニカルなテーマには唸らされました。延々とハリウッド批判をするものの、映画の展開自体はコテコテのハリウッド風、という試みも面白いと思います。ハリウッドの「嘘」を象徴するかのように嘘で固められた登場人物たち(カウフマンはデブでもハゲでもないし、本当は弟もいない、とか)も象徴的。ただ、それが面白いかというと微妙です。テンポも速く、内容を消化しきらないうちにどんどん話が進んでしまって、笑うに笑えないというのが正直なところ。こうなると、畳み掛けるような演出は内容が無いのをごまかしているだけなのでは? と疑ってしまいます。
 アカデミー助演男優賞を受賞したクリス・クーパーは、とても演技とは思えないほどのハマリ役。でもやっぱりニコラス・ケイジが…あの顔が2人出てきて会話をするというのは反則です。しかも太ってるし、画面に出てくるだけで笑ってしまいました。

 これを観ると「マルコヴィッチの穴」のテーマがより鮮明になる、言うなれば「”裏”マルコヴィッチの穴」といった作品。ただ、単体の映画としてはつまらない内容になってしまったのが残念でした。

監督:スパイク・ジョーンズ
脚本:チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン
出演:ニコラス・ケイジ、メリル・ストリープ、クリス・クーパー、ティルダ・スウィントン、ブライアン・コックス
公式サイト
20051006 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

愛のエチュード

 ウラジミール・ナボコフによる原作小説を「ダロウェイ夫人」のマルレーン・ゴリス監督で映画化。主演のジョン・タトゥーロとエミリー・ワトソンが、どちらも強い個性を発揮していて見応えがありますが、何か物足りない印象でした。
 おそらくは、演技力のある主演二人の演技が映像にいまいち反映されていないからでしょう。「いいお話」で終わってしまって、心に深く響くという感じではありません。映像は綺麗。ただ、同じようなシーンが続く割にカメラワークが一辺倒だったので、ストーリーに応じてメリハリがあればなあ、と思ってしまいました。

 ジョン・タトゥーロは、こういう役をやらせると栄えますね。饒舌な彼も好きですが、今回は天才と狂気の狭間を揺れ動く人物の危うさを巧みに演じていました。

監督:マルレーン・ゴリス
出演:ジョン・タトゥーロ、エミリー・ワトソン
20051005 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ヒューマンネイチュア

 「マルコヴィッチの穴」で一躍有名になった脚本家チャーリー・カウフマンと、ビョークのPVやGAPのCFなどで独特の映像を創り続けているミシェル・ゴンドリーが組んだ話題作。あのゴンドリーが初監督ということで期待したんですが、内容がちぐはぐで楽しめませんでした。

 設定の奇抜さ、そこから展開される物語の意外性とテーマの堅牢さは今回の脚本でも健在。しかし前半の分かりやすいコメディ的内容に対して、後半の雰囲気は空回り気味に見えます。ミシェル・ゴンドリーらしい映像も部分的で、映画全体となるとまとまりがありません。リス・エヴァンスやティム・ロビンスの演技も良いのですが、いまいち感情移入出来ない……と、どこをとっても「もうひと息」な感じ。
 最大の原因は、おそらく物語も映像も単調なこと。展開に緩急がないので映画にイマイチ入り込めず、カウフマン脚本の非現実性が強調されてしまって違和感を覚えたのだと思います。俳優の演技とカメラワークが微妙にずれているなあ、と感じることもしばしば。発想や、物語の提示しているテーマは興味深いので残念でした。

 コメディ部分と意味深長なオチは良かったと思います。特にリス・エヴァンスのなりきりぶりは一見の価値あり。

監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:チャーリー・カウフマン
出演:リス・エヴァンス、パトリシア・アークエット、ティム・ロビンス
20050930 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

デュエリスト/決闘者

 コンラッドの小説「決闘」を原作にした、風変わりな騎士道映画。リドリー・スコット監督はこれがデビュー作ですが、既に映像に対するだわりが見て取れます。70年代の映画の中でも間違いなくトップクラスの映像は必見。モノトーンに沈みがちなイングランドの風景を、朝焼けなどの微妙な光を利用して色彩豊かに描き出しています。
 ストーリーは二人の騎士の人生を追い続け、しかもそのほとんどが決闘シーンというのが妙ですが不思議と飽きさせません。決闘でしか通じ合えない頑なな主人公達の関係が、ナポレオン戦争前後という激動の時代と対比されて、とても印象的でした。

 77年作品で、しかも低予算なので大作映画のような派手なアクションはありませんが、落ち着いた味わいのある”決闘映画”でした。最近のリドリー・スコット作品しか知らない人は、ぜひ。

監督:リドリー・スコット
出演:キース・キャラダイン、ハーヴェイ・カイテル
20050925 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ビッグ・フィッシュ

 ダニエル・ウォレスによるファンタジー小説を、メルヘンの名手ティム・バートン監督が映画化。独特の悪趣味な世界こそ出てこないものの、おかげで非常に真っ当な感動作になりました。

 ティム・バートンの映画は、その童話的な語り口を良しとするかどうかで評価が分かれると思いますが、この作品は特にそう。とにかく冒頭から現実離れしたお伽噺の連続でメルヘン好きには堪りませんが、辛い人には辛いかも。でも、おそらくバートンの目にも(程度の差はあると思いますが)世界はこう見えているに違いないと思わせるほど「現実感のある非現実」が画面に溢れるのは圧巻で……しかし、それだけかと思っていたら、ラストのドラマでやられました。いい話です。
 ユアン・マクレガーの、絵本の世界を体現したような演技が素晴らしい。この人あっての、この作品でしょう。アルバート・フィニーのふてぶてしい演技も物語に説得力を持たせています。あとは例によってブシェミのかわいそうな役どころと、”サーミアン”ミッシー・パイルが登場していたことに笑わされました。映像もバートン映画の中では最高級。でも、全てがあまりに綺麗すぎて、ファンには少し物足りないかもしれません。

 今でも最後のカットを思い出すと泣けてきます。でも悲しい涙ではなくて、嬉しい涙なのが良い。夢物語は現実から逃げる手段かもしれないけど、それを全力で肯定する人生は、なんて素敵なんだろう、と実感できる作品でした。

監督:ティム・バートン
出演:ユアン・マクレガー、アルバート・フィニー、ビリー・クラダップ、ジェシカ・ラング、ヘレナ・ボナム=カーター、スティーヴ・ブシェミ、ダニー・デヴィート
公式サイト
20050924 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

モーターサイクル・ダイアリーズ

 革命家チェ・ゲバラの、その活動とは全く趣の異なる青年時代の旅を描いたロードムービー。ゲバラ本人の著作と、一緒に旅をした友人アルベルト・グラナードの著作を下敷きに、実際に南米を旅しながら撮影された映像は、説得力があって色々と考えさせられます。

 主演のガエル・ガルシア・ベルナルが、一層大人になった演技で主人公を熱演しています。何かを見つめるときの視線が凄い。その他の登場人物にも存在感があり、市民一人一人の言葉には演技と思えない重さがありました。感情豊かな南米の景色も魅力の一つ。この国々は、50年の間になにも変わっていないのかもしれません…。
 それにしても最後のカットはずるい。ああいうことをされると、さすがにジーンときてしまいます。でも純粋にロードムービーとしても良くできていたのでは。観る前にゲバラの映画であるということは一回忘れて、観終わってから思い出すと映画の価値が一段と上がると思います。

監督:ウォルター・サレス
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ロドリゴ・デ・ラ・セルナ
公式サイト
20050916 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ネバーランド

 「ピーター・パン」の原作者ジェームズ・バリと、物語のモデルになった少年一家の交流を描いた、半分実話、半分創作の映画。監督は「チョコレート」のマーク・フォスター。
 ハリウッドでも顔の知られた俳優が何人も出演しているので、ジョニー・デップが良ければいいやと割り切って観たんですが、これがなかなか良い話で、ついつい泣かされてしまいました。創作にまつわるテーマにそもそも弱いというのもあるんですが、無理に感動させようとしない落ち着いた描写で、逆に感情移入させるあたりは嫌みが無くて好感が持てます。思わず見とれてしまう美しい映像も見物。

 主演3人(ジョニー・デップ、フレディ・ハイモア、ケイト・ウィンスレット)の演技が抜群に良くて、この映画の見どころの一つになっています。中でもフレディ・ハイモアは、台詞も動きも多いのにとても演技とは思えないぐらい。デップが「チャーリーとチョコレート工場」に推薦したというのも頷けます。
 それにしてもイアン・ハートがコナン・ドイル役で出演していたのは全く気付きませんでした。あと舞台でピーターを演じているのが、「トレインスポッティング」のケリー・マクドナルドというのも驚き。もう一度観るときは気をつけよう……。

監督:マーク・フォースター
出演:ジョニー・デップ、フレディ・ハイモア、ケイト・ウィンスレット
公式サイト
20050915 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

サイドウェイ

 ワイナリー巡りをしながら、図らずも人生を見つめ直すことになってしまった二人の男のロードムービー。なかなかの秀作で、特に丁寧なストーリー運びに共感が持てました。主演の二人も、良い味を出しています。

 難を言えば、後半の展開が実はありきたりで、特にオチには僕は納得できません。男性二人がきちんと描かれているせいか、女性陣の行動理由に説得力がなく、どうしても男性中心の展開に感じられるというか。語られているテーマも全く心に響きません。
 ロードムービーとしては充分面白いと思います。大笑いさせられるシーンもちらほらありました。カリフォルニア・ワインに対する興味も沸いたし。でもそれ以上の何かが足りないなあ、と感じた作品。惜しい。

監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ポール・ジアマッティ、トーマス・ヘイデン・チャーチ
公式サイト
20050914 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

コーヒー&シガレッツ

 「コーヒーと煙草」をテーマにジム・ジャームッシュが撮った短編集。もともとサタデー・ナイト・ライブの企画から派生したもののようですが、とにかくコーヒーと煙草をテーマに、登場人物たちのセンスの良い会話を楽しむ「だけ」というのが新鮮でした。それ以上の展開は無いので、知らないで観た人はかなり驚くんじゃないでしょうか。

 それでも100分近い上映時間が短く感じられるのは、出演陣のセンスの良さあってのことでしょう。特にイギー・ポップとトム・ウェイツのシークエンスは最高でした。会話を楽しむならカメラなんて止めたままで、音楽も邪魔にならない程度が丁度良いんだ、というジム・ジャームッシュの声が聞こえるようです。

監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:ロベルト・ベニーニ、スティーヴ・ブシェミ、イギー・ポップ、トム・ウェイツ、スティーヴ・クーガン、アルフレッド・モリーナ、ビル・マーレイ
公式サイト
20050913 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -