★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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人狼 JIN-ROH

 押井守自身の創作による“ケルベロス・サーガ”の、初の劇場アニメ化作品。監督は高い作画力に定評のある沖浦啓之。

 架空の大戦後の日本を描いた作品ですが、実際は昭和30年代の安保闘争をかなり意識して描かれています。当時の不安定な情勢、政治的な策謀などを物語の背景として巧みに折り込みつつ、登場人物それぞれの立場ごとにドラマを用意するさりげなさは、もはや押井脚本の真骨頂と言えるでしょう。
 ただ一部のシナリオや演出がくどすぎるのが気になりました。僕が色恋沙汰に厳しいのもあるんですが、終盤でちょっと浪花節な雰囲気になるのが惜しい。また、あまりに地味で観客を置き去りにする物語は、特にこの世界観を未体験の人や、そもそも興味のない人が理解するのは難しいのでは。それでも押井監督以外の手で映画化されたことで極端な哲学性は薄まり、これまでのシリーズ作品に比べればエンタテイメント寄りの内容に思えました。

 影を描くことを極力排除した独特の画面作りは Production I.G の高い作画力があってこそ。制作中に『MEMORIES』が完成して優秀な原画家が流れてきたのも一因だとか。小倉宏昌によるドライで緻密な美術も映画の説得力を高めています。セルアニメ時代の最後を飾る、一つの到達点のような映画であることは間違いありません。

監督:沖浦啓之
原作:押井守
出演:藤木義勝、武藤寿美、木下浩之、廣田行生、吉田幸紘
20110421 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

時をかける少女

 筒井康隆によるジュブナイルの名作を、「デジモンアドベンチャー」の細田監督が長編アニメ化し、アニメファンの間で高く評価された秀作。細田監督初見の人には新鮮かもですが、個人的には普通な印象。

 テンポが良く、青春時代のほろ苦い感傷を巧みに再現した脚本の着眼点は秀逸。しかし映画としての面白さはまた別です。主人公があまりに普通すぎて面白みがないので物語にもう一歩入り込めず。SFとしての軸はしっかりしていますが、ドラマとしての軸がブレてしまいました。
 マッドハウスによる作画は文句なしです。演出は良くも悪くもいつもの細田演出で、これをあざとすぎると感じるか否かは人それぞれでしょう。あと、背景の山本二三があまり好みじゃないのも辛かったな……。

 ジュブナイルやSFとして重要な点は押さえているので、中学時代に見ていたら感動したかも。個人的には、「ハウルの動く城」を巡るすったもんだがあったので、細田監督が無事に長編アニメを完成させられたことには一安心でした。ただ作風が一辺倒なので、そろそろ新しい何かを見つけてほしいところです。

監督:細田守
原作:筒井康隆
出演:仲里依紗、石田卓也、板倉光隆、原沙知絵
20110419 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

パプリカ

 筒井康隆の短編を、今敏監督が長編アニメ化した意欲作。単純に良くできていたんですが、どこか空虚な印象が残ります。
 マッドハウスの作画によるイメージの氾濫ぶりは一見の価値あり。ただ、それぐらいしか見所がないので、見終わった後に何も残らないのが残念。筒井原作パワーなのか、監督の癖であるシナリオの悪さは軽減していますが、台詞の一つ一つがどこかぎこちないままでした。90分と短めで気楽に見られる作品なので、台詞は印象的なものだけにしてあまり説明させない方が良かったんじゃないかと。

 止め絵で見ると魅力的なのに動かしてみるとそうでもないというのが今敏監督作品共通の弱点である気がします。せっかくアニメ作品なんだから、アニメならではのこだわりを今後の作品に期待したいところ。

監督:今敏
原作:筒井康隆
出演:林原めぐみ、古谷徹、江守徹、堀勝之祐、大塚明夫、山寺宏一
20110417 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

カラフル

 森絵都による原作小説を、映画クレヨンしんちゃんシリーズで名を馳せた原恵一監督が再映画化。やりたいことは分からなくもないんですが、その手法を疑問視したくなる内容でした。

 観終わっての第一印象としては、とにかく全てがダサかった。特に主人公の家庭が抱える問題が物語の重要な要素なのに、その描き方が中途半端なものなので、登場人物の苦悩も他人事にしか思えませんでした。細かい描写を積み重ねて事実の大きさを実感させるのではなく、言葉で全て説明しようとしたのが一つの要因でしょう。
 同様に、アニメーションとしての気持ちよさも作品からは見られませんでした。映画全体を落ち着いたものにしようとしたのか、人々の動きやカット割りなどがとてもスローですが、登場人物がアニメーション的に描き分けられていないので、ただ退屈なだけになっています。唐突に入る音楽も場違いだし、玉電のくだりもテーマとの関係は薄い。全体に、センスに疑問を感じる作品でした。

 リアルさ重視のアニメほど「アニメでやる理由」が問われると思いますが、この映画はそれに対する回答が皆無でした。今時の中学生の感情を通して普遍的なテーマを描きたいのなら、やはり実写でやって欲しかった。
 あと、余談ですがTVCMでオチのネタバレをされたのも悪印象に一つ買っています。核心を言わなくても、その直前の台詞を言われたら普通わかりそうなものなのに。結果それ以上の何かがある、と期待してしまったので、最後の10分は白けてしまいました。そういうマーケティングも含めて、とても残念な作品です。

監督:原恵一
原作:森絵都
出演:冨澤風斗、宮崎あおい、南明奈、まいける、麻生久美子、高橋克実
20110415 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

イリュージョニスト

 ジャック・タチの遺した脚本を、『ベルヴィル・ランデブー』のシルヴァン・ショメ監督が映画化。良質なフランス映画のような、静かな感動がある秀作でした。

 前作の賑やかな雰囲気とは正反対の、静かで心にしみる物語に合わせて、映画のテンポもひたすらスロー。ほとんど台詞のない主人公二人をじっくりと描き、その一挙手一投足で感情を表現させています。大きなドラマがあるわけではないシンプルな物語なのに、何故か印象的なのはその演出が功を奏しているのでしょう。
 登場人物の可愛らしさや魅力的な街並みも見どころの一つ。細かい人物の動きや街の看板一つにもこだわりが感じられて、それらを眺めているだけでいい気持ちになれました。また、手書きのアニメーション作品にはあまり見られない、奥行きを強調した表現が多用されていたのに驚かされました。音楽も相変わらずノスタルジックで魅力的です。

 映画全体を通して、制作者自身がこの作品を大好きなんだという気持ちがひしひしと伝わってきました。少しもの悲しい物語も相まって、大人向けのアニメーションとしての新境地を拓いた作品と言えそうです。

監督:シルヴァン・ショメ
オリジナル脚本:ジャック・タチ
出演:ジャン=クロード・ドンダ、エイリー・ランキン
20110413 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

コララインとボタンの魔女

 ニール・ゲイマンによる人気児童文学を、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』でお馴染みのヘンリー・セリック監督が映画化。同作に負けず劣らず素晴らしい作品に仕上がりました。

 カラフルでキッチュな世界観は予告編のときから楽しみでしたが、映画館で観るとまた格別です。登場人物も児童文学らしくとても分かりやすく、エピソードも平板ながらそれほど飽きさせずに進んでいきます。何より女の子の成長物語と異世界ものという定番に、ボタンの魔女という捻りを効かせたことで、久々に子供時代のワクワク感を思い出せました。
 原作がダークでも映画化となると急に健全になってしまうものが多い中で、この映画はカラフルながら毒々しくどこか倒錯性すら感じさせます。終盤にかけての盛り上がりもしっかりしていたので、中盤やや紋切り型になるのが残念です。

 上映している映画館は吹き替えばかりで、字幕版が楽しめなかったことが最大の心残り。しかし、『ナイトメア〜』のときはバートンの功績と感じられた作品性が、セリック監督の実力だったことがこれで証明されたのでは。次回作がとても楽しみです。

監督:ヘンリー・セリック
原作:ニール・ゲイマン
出演:ダコタ・ファニング、テリー・ハッチャー、ジョン・ホッジマン、イアン・マクシェーン、ドーン・フレンチ、ジェニファー・ソーンダース、キース・デヴィッド、ロバート・ベイリー・Jr
20110326 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

鉄コン筋クリート

 原作の大ファンだというマイケル・アリアス監督が、スタジオ4℃の協力を得て制作した劇場用アニメ作品。松本大洋の映像化作品の中では文句なしのトップですし、近年の劇場用アニメの中でも出色の作品です。

 舞台となる“宝町”をカラスの視点で俯瞰する冒頭のシーンだけでも、もう感動で涙してしまうほど「鉄コン筋クリート」そのものの映像。原作通りというより、原作のイマジネーションをそのまま映画にしたらこうなった、という感じ。主人公たちの感情の揺れ動きに共感できるかどうかが肝の作品ですが、あえて妥協せず各キャラクターに言いたいことを言わせているのも良かった。よく練られた脚本と映像の上に、松本大洋作品の持つたくましさや奔放さがしたたかに乗っかっていて、奇跡のような2時間でした。
 くるくるよく動くキャラクターたちや、極彩色で独特の美術など絵の出来はもちろん最高。特に、もう一つの主役である“宝町”を、CGと手描きの両方を駆使して描いた技量には驚かされます。声優も、俳優の中でも舞台経験者を中心に選んでいるのでとても自然でした。

 原作モノは原作ファンに受け入れられないのがセオリーですが、この映画は自信を持ってお薦めできます。行き詰まりを感じさせることが多かった近年の日本アニメですが、この映画のセンスには可能性を感じました。

監督:マイケル・アリアス
原作:松本大洋
出演:二宮和也、蒼井優、伊勢谷友介、宮藤官九郎、大森南朋、納谷六朗、岡田義徳、本木雅弘
20081122 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

スカイ・クロラ

 ベストセラー作家森博嗣による異色のSF空戦小説を、押井守監督で映画化。原作のファンなので押井守監督なのは嬉しい反面、不安もありましたが、それなりに面白く仕上がっていると感じました。

 原作の持つ独特の浮遊感やもどかしい空気を、あえて感情を廃し淡々と描くことで表現した演出はさすが。空戦での自由自在なカメラワークも、実写顔負けの迫力です。この空中と地上との対比や、台詞を減らして画面で語るあたりから、作品のテーマがにじみ出てくるところが良かった。実はラストは原作と全く違うんですが、テーマが一貫しているので不思議と違和感はありませんでした。むしろ原作のテーマをうまく補っていると感じたほどです。
 美術やアニメーションは、正直手を抜いているなという感じ。反面、空戦の演出やCGは、それがやりたかっただけなんじゃないか、というほど見応えがあります。声では、草薙水素を演じた菊地凛子が浮いていたのが気になったものの、あとは概ね合ってました。細かい所ながら、通信など英語でやりとりするところがとても自然な発音で、ちょっと感心。主題歌は思わず吹き出すほど下手な発音でしたが……。

 もともと掴み所のないテーマですしカタルシスもない物語なので、見終わって考え込むような映画なんですが、逆に言えば原作のそういうところを上手く映像化していたと思います。攻殻機動隊みたいに、OVAで残りの原作も映像化してくれたら文句なしなんだけどなあ。

監督:押井守
原作:森博嗣
出演:加瀬亮、菊地凛子、谷原章介、栗山千明、大塚芳忠、平川大輔、竹若拓磨、麦人、山口愛
20081118 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

めいとこねこバス

 三鷹の森 ジブリ美術館でのみ上映される、宮崎駿監督による14分の短編アニメ。「となりのトトロ」の後日談的な内容で、映像自体は生き生きとしているのに、心の底から楽しめる内容ではありませんでした。
 前半の“こねこバス”との邂逅までは良い。こねこバスのいかにも小動物な動きや、ふさふさした毛並みなどはさすがジブリと唸らされる作画もあって楽しめます。しかしそこから先、話が無駄に大きくなってしまい、暗示的になっていくところで興ざめ。これはトトロの世界観とも違うような気がするんですが、どうなんでしょう。

 近年の宮崎アニメは話を大きくしすぎて、小さな感動を忘れているような気がします。新しいことにチャレンジするのも良いんですが、もう昔のような宮崎アニメは作られないのかも、と思うと残念しきり。

監督:宮崎駿
出演:坂本千夏、宮崎駿
20081112 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

デジモンアドベンチャー

 今やすっかり人気を得た細田守監督の映画デビュー作。20分という短編ですが、子供向けアニメとは思えない高い完成度は必見です。

 何より演出センスが凄い。アニメ作品には珍しく実写的なカメラワークを取り入れ、望遠と広角、カットバックと長回しを効果的に使い分けた映像には迫力があります。画面に入れる要素の取捨選択も秀逸で、風景描写が人物の心情描写になるあたりは古典的な日本映画に通じるものもあり、アニメーションにおける演出もここまできたかと驚かされました。
 デジモンのタイトルを冠していますが、ストーリー的には単体の怪獣映画としても楽しめます。少年が未確認生物のタマゴを手に入れる導入部から、大友克洋の「童夢」を彷彿とさせる後半までの展開は、地味ながら心に響きました。

 あまりにストイックな内容で、公開当時の子供ウケは最悪だったようですが、そのあたりは同時上映の別の作品に任せてしまえば良いわけで。細田監督は、この後も演出した作品が軒並み高評価を受けるのですが、それも納得の秀作です。ぜひ。

監督:細田守
声の出演:藤田淑子、荒木香恵、坂本千夏
20061005 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -